義理もありません
「なっ……は、話が違うっ! そういう事ならば初めからこれにサインなんかしていなかったっ!」
「話していませんからね。 だって間男さん、その事について一切聞かれませんでしよね? それに今回の契約内容については全て書かせていただいておりますので、どちらかというと読まずにサインした間男さんの責任であって我々サイドがあれやこれやと文句言われる筋合いはございません」
そして弁護士さんは相変わらず淡々と間男に言われた事を、悪いのは書類を確認せずにサインをした間男であってこちらではないと答えていく。
「ふ、ふふふ、巫山戯るなっ!! こんな事がまかり通っていい筈がないっ!!」
「巫山戯ているのは貴方の方よ。 当たり前ですが一応サインして頂いた書類は公正証書として通用するものですのでサインと母印を押した時点でどうにもなりません」
そう、子供でも分かりやすいように説明してもらったのにも関わらず間男はなおも納得できていないようで、尚も食ってかかろうとするのだが、その間男の勢いは後ろから声を変えられた者を見た瞬間に一気に無くなり、絶望の表情を浮かべている。
声のした方向には弁護士さんが呼んできた間男の嫁、そして間男の嫁が雇った弁護士と間男嫁の両親がそこにいた。
テンションが上がったり下がったりと間男は忙しそうだ。
「はい……? な、なんでお前がここに……っ!?」
「全て聞かせてもらったもの。 だからここにいるのよ」
さっき電話で呼んでいたのをみていただろうと思ったのだが、当の間男はそれどころでないようである。
俺も間男の立場ならば気が動転したり軽くパニックになってしまうだろうと思うので、仕方がないとは思うものの同情は一切感じない。
「ち違うんだっ!」
「何が違うって言うのかしら?」
「これは何かの間違いなんだよっ!」
「そうね、貴方を信じて結婚した私が馬鹿だったわ」
「なっ!?」
「離婚させていただきます。 慰謝料と養育費の話をする為に今日はここへきました。 慰謝料については財産分与とは別に五百万円、養育費は月々7万円を要求します」
「は? いや、ちょっと待ってくれっ! 離婚だなんてそんな急に言われても困るんだがっ!?」
「急ではないでしょう? 貴方が不倫をす初めて何日経っていると思っているんですか? 不倫すると言うことは離婚についても視野に入れて当然の行為であり、離婚について何も考えて来なかった貴方が原因でしょう? それを「今更」などと言われても、貴方の不倫が分かってから前もて準備をしてきた私からすれば「ようやっと離婚できる」でしかありません。 そして、貴方が何も考えて来なかったのを私が尻拭いをしてやる義理もありません」




