示談の内容
「か、書きました。 これで俺は帰れるのでしょうか?」
そんなこんなで間男は示談書と、請求書などにサインを書き終えたようで弁護士にその事を告げるのだが、その様はまさに『牙を抜かれた』という表現が似合うほど、当初の勢いは無くなっていた。
「何を言っているんですか。 まだまだやるべき事はいっぱいあるんですから帰れる訳が無いでしょう」
「へ……?」
「今回の浮気による被害者は新谷さんだけでは無いですよね?」
「え? いや、どういう……事でしょうか……?」
そう。
俺の分が終わったからといって、これで終わらせるほど俺は優しくない。
まだ俺以外に被害者がいるのだから、せっかく役者が揃っているこの場で一緒に終わらせてしまうのが良いだろう。
「ここまで言ってまだ分からないのですか? 間男さん、貴方の奥さんと子供さんですよ」
「……はぁっ!? つ、妻は関係ないでしょうっ!!」
「この状況を見てなぜ貴方の奥さんは関係ないと言えるんですか?」
「そ、それは……っ!」
「そもそもですね、他人の家庭を壊しておいて自分の家庭は関係ないというのは、あまりにも自分勝手な話だとは思いませんか?」
「いや、それとこれとは話が別と言ウカ、こ、これは家庭の事情なので他人が挟んでいい問題ではないかと……」
しかしながらこの間男は人の家庭を怖いておいて自分の家庭が壊れるかもしれないとなると尻込みする、そんな態度には怒りしか湧かない。
「ああ、それならば大丈夫ですので安心してください」
そして、弁護士さんはそう言うとスマホを取り出してどこかへと電話をする。
すると隣の部屋にて待機していた間男の奥さんと、奥さんが雇っている弁護士が入って来る。
ちなみに奥さんの弁護士は俺が雇っている弁護士さんの紹介された弁護士さんだったりする。
今回の件で間男に隠れて間男の奥さんと今回の件で連絡を取った際、間男の奥さんは離婚を決意し慰謝料と養育費の請求を望んでいたので、そのまま紹介したという流れである。
「なっ!? おいっ!! 話が違うだろっ!! 示談っ! 示談は成立しただろっ!! なんで俺の嫁がここにいるんだよっ!?」
「示談の内容、ちゃんと確認しましたか?」
「……じ、示談の内容……?」
そして間男の奥さんが現れた事により間男は「話が違うっ!」と喚き始めるので弁護士さんが示談の内容を今一度確認するようにと間男に促し、間男が先程サインした書類を血走った目で読み始める。
「ここに書いているのは、裁判をしない、警察にも言わないという内容であり、奥さんには伝えないとは一言も書いてないですよね?」




