少しだけ傷つく
それでも、散財をやめて、持っている時計のコレクションと車、そしてブランド物で売れる物は全て売り、散財をやめて今の会社で働き続ければ簡単に返すことができるだろう。
だからこそ、間男の頭の中で『返せない額ではない』と計算してそう思えたからこそ、奴はまだ俺に対して怒る事ができるほどには心に余裕があるのだろう。
実に分かりやすい男である。
そして、この事から、どうやらまだ間男は仕事を続けられると思っているのだろう。
今考えているのは『俺に慰謝料の支払いやや使い込みの返金をしたくない。 その為にはどうすればいい? とりあえず今は支払う意思を示して弁護士と作戦を練り直すか?』『最悪慰謝料の支払いと使い込みの返金を支払わねければならないとして、その場合は時計や車、その他ブランド物や価値のある物を売らなければならなくなってしまうのだが、その際どうやって妻に今回の件がバレずに隠し通す事ができるか。 隠し通すことができればそらく次のボーナスで全て払い切る事ができるかもしれない』などとでも思っているのが丸わかりである。
「わ、わかった。 て、提示された慰謝料と返済金の合計二千三百万円を、支払う……っ。 分割でいいか?」
そして案の定、想像通り一度支払う『フリ』を間男は選んだみたいである。
しかし今回の浮気調査のお陰で、この間男がどういう人間であるか、俺は既に知っている。
だからこそ、今間男がどういう風に考えているのかが丸分かりなのだが、間男はここまで追い詰められている状況に、俺によってされているにも関わらず、どうやらまだ俺の事を見下しているのだろう。
それと同時にここまで見下されていた事に俺は少しだけ傷つく。
「分割? 分かりました。 因みに分割の場合は二千六百万円とさせていただきますがよろしいでしょうか?」
「はぁっ? なんで三百万も金額が増えてんだよっ!!」
「一括よりも分割の方が支払額が増えるのは世間的には一般的な常識であると思うのですが、まさか間男さんはその世間一般で言うところの常識というものがお分かりでないという事でしょうか?」
「ちっ! わかったわっ! じゃあ二千六百万円っ! 分割でっ! 月々の支払いは後日相談で良いだろうっ。 じゃあ俺は一旦帰らせてもらうからなっ!」
「はい? 今日この場で決める為に弁護士である私がいるのですが? 勝手に帰らないでいただきたい。 もし勝手に帰った場合は支払う意思はなかったとみなしてこの後警察へ被害と退けを提出するか、裁判で訴えさせていただきますので」




