心の中で付け加える
「どうします? 慰謝料の二千三百万円、払います? それとも跳ね除けて裁判しますか?」
「い、いくらなんでも た、高すぎる……減額を──」
「自分で撒いた種でしょうが。 そもそも他人の金を勝手に使っておいて減額ってなんですかっ? 使った分とやった行いのツケくらい払えないのならば初めからしなければ良かったではないのですか? 子供じゃあるまいあるまいし、自分の行動の代償も理解できずに理性だけで目先の欲望に忠実に動くのはただの動物と何が違うんですか? 私は今、あなたに『人間ですか? 動物ですか?』と聞いているんです」
これ、絶対弁護士さんキレてるよね? 口調こそ柔らかく丁寧なのだが、隠し切れていない怒りが漏れ出ているのを感じてしまい、聞いているだけの俺ですら正直言って普通に怖すぎて漏れてはいけないものが下から漏れ出てしまいそうだ。
しかしながら、俺の代わりに弁護士さんが怒ってくれているお陰で、間男の態度でキレかけそうになった俺は幾分冷静でいられた。
もしかしたら俺が爆発してしまわないようにと、弁護士さんが狙ってあえて怒ってくれているのかもしれないのだが、それでも俺の代わりに怒ってくれる人がいるというのは、とても心強く、そして嬉しいものだ、と思うのと同時に、今回この弁護士さんに依頼して良かったと思う。
「減額などするはずがないでしょう。 鐚一文たりともまけるつもりは、こちらにはありません。 全額払うか、裁判するかです。 どうしますか?」
「ぐぅぅう……っ!」
そして間男は俺の方を怒りに満ちた目で睨み付けてくる。
見下していた相手に、逆にやられ、今こうして見下されている立場を受け入れられないのだろう。
そしてそのプライドが、俺に慰謝料を払いたくないという思考となり、それがそのまま怒りと変化しているのが丸わかりである。
だが、今この状況では実質多額の返済金額を払って示談しか選択肢はなく、示談に応じない場合は間男の人生は文字通り終わる。
いや、たとえ示談を選んだとしても、慰謝料と使い込み分の多額の返済金額によって人生が終わりかねないのだが、俺と同じ、しかも上司であるのならば、普通に生活して毎月貯金に回していたのならば返せない金額ではないはずだ。
むしろ返済金額のほとんどが俺の貯金を無断で使った分に当たるため、俺よりも給料の高いはずの上司に返せない筈がない。
散財せず貯金をいていればの話なのだが。
金曜日になれば高級クラブ、車は数年で高級車から高級車へ買い替える、ブランド物で全身を着飾り、時計も当然数百万以上するものをコレクションしている上司にはとてもではないが返せる額とは思えないのだが、と心の中で付け加える。




