証拠
頼る友達も、相談できる人も、お金も何もないのだ。
唯一救いなのは機嫌がいい時の元嫁くらいなもので、その時だけは心が安らげたのと同時に、余計に嫁の機嫌が損なうような事はしないようにと行動をし始め、常に機嫌を窺い始めていた。
たまに、コンビニのお菓子をくれると、本当に嬉しいと思えたし、その時は『元嫁は本当は優しいのだ』『だから元嫁がこうなってしまったのはきっと俺のせいなんだ』『だから今俺はこんなにも辛い思いをしているんだ』『だけどそれと同じように元嫁も苦しんでいるんだ』と本気で思っていた。
だから俺は少ない小遣いをなんとかやりくりして、元嫁の為に餃子を作ってあげようと思い、材料を買い、棚の奥に眠っているホットプレートを出し、下準備を終えるとそれらを隠して、嫁が帰宅してシャワー(元嫁は帰宅すると必ず先ず「外の埃を落とす為」とシャワーを浴びる)を浴びている間に全てをセットして、シャワーから出てくる時間に合わせて餃子が出来上がるように餃子を焼き始めたのだが、その結果は冒頭の通り怒り狂い、ヒステリックに周りの物を投げつけ、ホットプレートはひっくり返し、餃子と調味料は床に散乱する始末。
ヒステリックに叫ぶ嫁の言葉とも言えないような言葉を要約すると、焼いた餃子の匂いがバッグや衣服に染みつくかららしい。
その時は、俺が気が利かないのが悪いんだと思ったのだが、よくよく考えてみれば考えてみるほど意味がわからなかった。
そのバックは誰が稼いできた金で買ったやつだ? 衣服は誰が稼いできた金で買ったやつだ? 昼の高いランチは? 一回三万はする美容室代は? エステ代は? アクセサリー代は? そのた嫁の趣味嗜好や美容代は?
全て俺が稼いできた金である。
そしてその俺の仕事環境はどうだ? 誰のせいで同僚と外食にも行けず、カップ麺すら買えない昼ごはん代をやりくりして、それでも嫁の為、コレから増えるであろう家族の為にと頑張って働いてきた俺の金じゃないのか?
そう思うと俺は一気に洗脳か冷め、俺の働いてきて稼いだ金で豪遊する嫁、そして義理実家に激しい怒りを覚え、頭の中が真っ白になった。
しかしここで怒りに任せて行動に移せば前回の二の舞になる事は分かりきっている為、この日から俺は表向きは従順な夫のフリをして約一年間に渡って水面下でコツコツと証拠を集め始めた。
まずは日記は当然として、何かあった時はバレないように先ず録音、嫁が捨てたレシートは全て保存、そして俺の生活環境と一日に使った金額がわかるように俺の分のレシートの保存、その他、武器になりうる全ての証拠を集め、そしてそうしていると今まで見えて来なかったものが自ずと見えてくるものである。




