分かってしまった
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渡部君からカラオケに誘われた時は咄嗟に断ったのだけれどもその時はなんで断ったのか自分でも分からなかた。
恐らく仲の良い女友達ならば普通にカラオケへ行っていたのだろうと思う。
でも、あの時なぜ渡部君を断ったのか自分でも分からなかった。
渡部君が性格が悪いとか、裏の噂が良くないとかではない。 寧ろそんな悪事をするような人じゃないって事はちゃんと分かっている。
二人でカラオケに行ったところで何もされないだろう。
ただ、違いがあるとすれば渡部君が男性だからという事である。
別に男女差別をするつもりもないし、そういうつもりで断ったわけでもない。
自分でも何で男性だからという理由で断ったのか上手く言葉にできない自分がいた事に戸惑う。
そんなヤキモキとした気持ちを抱えながらアパートに戻り、そして「おかえりなさい」と新谷さんい言われ「ただいま」と返して返し新谷さんを見た時、私は何であの時渡部君が男性だからという理由で断ったのか分かってしまった。
もし渡部君と一緒にカラオケへ行っている所を誰かに見られたら?
別に見られた所で隠すような事じゃないと思っていたし、少し前までの私ならば実際そうであったろうし、今もそうだ。
二人でカラオケに行ったから何だというのだ。
友達だから別にやましい事など何もないと言えば終わりである。
でも、それを私は新谷さんに言いたくないのだ。
言いたくないし、それを隠したくもないし、隠すために嘘をつくなど更に嫌だと、新谷さんの顔を見て始めて分かったのと同時に、何故渡部君からのカラオケのお誘いを断ったのかも分かった。
そう、分かってしまったのだ。
私はいつの間にか新谷さんの事が好きになりかけているのだと、いやもう自分で自分の気持ちに嘘をつくのもやめよう。
私は新谷さんの事が好きなのだ。
この好きという感情は、はまだ小さな蕾みたいな感情なのかもしれないけれども、確かに私の胸の中にあるのが分かる。
「そっか……」
「どうしたのですか? 具合が悪いのならば今日のご飯は俺が作りますよ」
「いや、だ、だだだだだっ、大丈夫ですからっ!! 何ともありませんっ! ほらこの通り元気ですよっ!!」
「それなら良いのですが……無理だけはしないでくださいね」
「も、もちろんよっ!!」
そして、一度気づいてしまったら、今まで以上に新谷さんの事を意識してしまう自分がいる。
いや、ちょっと待ってほしい。
私、今誰と同棲をしているのか。 新谷さんと同棲しているのではないか?




