視線
結局その日は一日中暇で、結局勤務時間中で来た客は高校生と中学生のグループが四組のみで終わった。
学生はドリンクや料理を頼まないので、退室後は部屋清掃を少しして、残りの時間は先輩と裏でだべって終わりである。
先輩は何だかんだで最後まで心配してくれたのだが、今日くらい暇ならば家にいてもバイトしても同じであろう。
むしろ話し相手がいない家の方が深く考えてしまってヤバかったかもしれない。
そもそも、俺は今まで朝霧さんに好かれるような努力はしたのかと聞かれれば、何一つそういった事はしていないわけで。
それは即ち、俺はある意味で高井よりも出遅れているということでもある。
にも関わらず自分が選ばれなかっただけでこんなにメンタルが病んでいるのはおかしな話ではないか。
そう思うと少しだけ元気が出てきた気がする。
もともとかなり出遅れている時点で玉砕覚悟で攻めないでどうする。
そして俺は腹を括り、決意も新たに家へと帰るのであった。
◆
ここ最近朝霧さんによく見つめられているような気がする。
今日は休日でお互いに、朝霧さんが録画したテレビドラマを見ているのだが、何故だか五分おきに右隣で座っている朝霧さんから視線を感んじるのだ。
まさかと思い振り返ってみると、朝霧さんは視線を俺から外してテレビを観ている風を装っているのだが、あれほどガン見しておいてバレていないとでも思っているのだろうか?
これではドラマの内容が頭の中に入っているのかも怪しい。
しかし俺は何か、朝霧さんに睨まれるような事をしたのだろうか?
いやしたかしていないかで言えば、家賃、光熱費を払わずに居候している時点で睨まれるような事をしまくしなのだが、何故だか分からないのだが朝霧さんの視線はそういう金銭的な事ではない、更に言えば怒っているとかではない気がする。
これはあくまでも俺の推測なので外れている可能性があるのだが、意外と当たっているのでは? と俺は思う。
そもそも視線に殺気や苛立ちという感情を感じてこない時点で違うのだろう。
そうなると、なんで睨まれているのか余計に分からなくなってくる。
「あ、成る程」
「ど、どうしました? 新谷さんっ!?」
「朝霧さんがさっきからドラマをそっちのけで俺の方を見てくる理由が分かりましたよ」
「へ? み、見てないよ?」
「……目がこれ程泳いでいる人、俺初めて見ましたよ。 ほんと、顔によく出るので助かります」
「え? 嘘っ!? そんなに分かりやすいのっ!? 私って!! そりゃ、よく友達からも言われるのですが……」




