何も考えられない
そして、俺の小説を見せる見せないと言う内容で少しだけ戯れあっていたその時、朝霧さんが脚を滑らせて俺へダイブするようにバランスを崩し、周囲には掴みかかる物も無いため自然と俺へ抱きつくような形で勢いそのままに押し倒されてしまう。
思考が真っ白になり何も考えられない。
「ご、ごめんなさいっ!!」
「あ、ああ」
その俺の表情を見たのだろう。
直接彼女に聞いた訳では無いので確かでは無いものの、彼女の雰囲気から何となく俺が今現在女性の事を苦手であるという事を察してたであろ朝霧さんは、血相を変えて俺から飛び退く。
俺は今女性が苦手であるし、コンビニのレジも女性店員であったら恐らく何も買えないまま帰っていたかもしれない程で、先程俺は朝霧さんと事故ではあるものの抱き着くような形で密着してしまったのだけれども、確かに抱き抱き着かれたその一瞬は恐怖が勝っていたのだが、今抱き着いているのが朝霧さんであると理解した時、何故だかわからないのだが恐怖よりも安心感の方を強く感じている自分が確かにいたのである。
そんな事を思っていると、急に朝霧さんが目から涙を流し始めるではないか。
「ど、どうしたの?」
もしかして、先程俺が女性が苦手であるにもかかわらず事故とはいえ抱き着いてしまった事に罪悪感を感じてしまったのではないか?
そう思うと、無性に申し訳ない気持ちになってくる。
どう考えても彼女は何も悪くはない。
悪いのは、女性が苦手だという俺の方なのだから。
「わたっ、わたっ、私のせいで、新谷さんの努力を台無しに、プリンをっ、ごめんなさいっ、折角っ」
そして、わざとではない分、俺がテンパってしまったように、朝霧さんもまたテンパってしまっているようで、喋る言葉はしどろもどろであったのだが、何となく彼女が言いたい事が分かった。
恐らく朝霧さんは、俺が頑張ってプリンを買ってきた事を自分の事のように喜んでくレテ、そして二人で楽しく食べたかったのだろうという事が伝わってくる。
そして、それを自分自身で壊した上に、女性が苦手だという俺へ抱き着いてしまったという罪悪感を感じてしまっているのだろう。
「あぁ、成る程。 俺は大丈夫だからさ。 確かにびっくりしたけれども朝霧さん程の美人ならむしろ役得だよ。 ほら、プリン。 食べよ?」
「うん食べる……っ」
俺は怒ってもないし、ただびっくりしただけだから大丈夫である事を告げると、彼女も落ち着いてきたのか、ぎこちないもののやっとテレ笑いを見せてくれた。
そんな朝霧さんの気持ちが何だかとても嬉しくて、確かに当初思い描いていたような感じでは無いもののなんだかんだでプリンは二人仲良く食べる事ができたのであった。




