捨てた夢
さて、俺は朝霧さんの為に何が出来るのか、と考えたところで外に一歩も出れない時点で俺に何が出来ると言うのだろうか。
手元にあるのはスマホに財布、財布には現金三万円にクレジットカードに免許証と銀行のカード、そして前の職場の仕事道具が入っている手提げカバン。
これで何が出来るのか。
いっそ一か八かでスマホを使ってユアチューバーでも目指すかとも一瞬思ったのだが、お金を稼げれるだけの登録者を増やすだけで一体どれだけの時間がかかるのか。
下手をすれば数年経っても泣かず飛ばずと言う場合だってある。
「はぁ、こんな自分が本当に嫌になる」
外に出る、コンビニでもスーパーのレジでも何でもいいからアルバイトをする。
ただそれだけの事ができない自分が心底腹が立つ。
「小銭稼ぎしか出来ないけれど、稼がないよりかはマシだろう。 久しぶりにウェブ小説でも書くか」
本当はやりたくなかったのだが背に腹はかえられ無い。
俺の黒歴史で、捨てた夢で、未来への希望が詰まったアカウントへと社会人になってから初めてログインする。
この頃の俺は世間知らずで、夢だけは大きくて、何にでもなれると思っていたし、上のランカーや書籍化したもの達を見下しては持論を毎日語っては成果の出ない毎日に、日々悶々としていた。
けれどもやる気とプライドだけは人一倍で、あんな奴らでも書籍化しているんだから俺が書籍化できない筈がないと根拠のない自信に溢れていた。
しかし、それも一年、また一年と続けて、次第にやる気もプライドも根拠もない自身も擦り減って行き、大学を卒業し就職するときには何も無くなっていた。
やる気もプライドも根拠のない自信も無くなった時にあったのは、このアカウントにある、今読み返すと本当に酷い作品だけである。
これで良くあれだけの大口を叩けたものだと今更ながら思う。
けれども、それでも広告料を初めて貰えるようになった時は本当に嬉しかったし、俺の青春であった事も確かである。
「捨てた物を拾って、再度それに縋る。縋る理由は違うが、今の俺にはピッタリだな」
そう思いながらアカウントへと入る。
そこにはあの頃の宝物が、当たり前なのだがあの頃のままそこにあった。
そして俺はカバンに入っているブルートゥースのキーボードとマウスを取り出してスマホに接続する。
「久しぶりだな、この感覚。 こうしてみると、自分でもビックリするくらい早く書きたくて仕方がない自分がいることにビックリだ」
押して俺はゆっくりとこの感情を噛み締めると「ただいま」と呟くのであった。




