後の祭り
「早まってはダメぇぇえええっ!!!」
その男性の姿を見た私は理屈がどうこうでは無く、気が付いたら身体が勝手に動いてしまっていた。
そして私は人生史上恐らく一番のキレを見せた動きで男性まで走ると、男性の腰を抱き抱えそのまま橋の方へ勢いそのままに背中から倒れる。
まるで自分ではないかの様な動きに『コレが火事場の馬鹿力という奴か』と一瞬だけ思った後その考えをかぶりを振って振り払うと、男性へと叫ぶ様に問いかける。
「何をやってるんですか貴方はっ!?」
「…………」
しかし男性からの返答は無く、気が付けば私の出した叫び声によりチラホラと人が集まり始める。
そして私は気付く。
橋の手すりに立っていた男性の腰を抱き抱え、そのまま背中から倒れるとどうなるかを。
恐らく、いや間違い無く男性は頭を強打しているのではないかと。その為気絶してしまったのではないか?そして、客観的に見た私の行動と男性が倒れているという状況からどう思われるのかを。
男性の腰を抱き抱え、そのまま重力に任せて背中から叩き落とす。
もしかしたらもしかしなくても暴行をしたと思われるのではないか?と。
そこまで考えた所で背中から嫌な汗が滝の様に流れ出す。
「あ、あははは、お騒がせしました。単なる痴話喧嘩ですのでお気になさらずっ。家も近くなのでこの浮気した馬鹿を回収して帰りますのでー。あは、あははははー………」
そして私は本日二度目である火事場の馬鹿力を発揮して男性を背負い、男性の足を引き摺りながら何とかアパートまで帰り着く。
橋からアパートまで徒歩二分、されど二分。
人、それも大人の男性を運びながら進んでいい距離では無いと『ヒュー、ヒュー』という呼吸音からもみても明らかであろう。
しかし、コレで証拠は隠せたので一旦は安心である。
「って何処が安心なんですかっ!?何なのっ!?馬鹿なの私っ!?認めたくないけど、馬鹿でしたぁぁぁあああっ!!!」
隠してどうするっ!?そもそも部屋へと入れてどうするっ!?っというかそれ以前にこの場合は救急車でしょうがっ!!
と思うも既に後の祭りである。
「と、とととと、兎に角救急車をよ、よよよよ呼ばないといけ───」
「痛っ………、あーーー頭痛てぇ………ってここ何処だよ。ってか誰ですか?貴女がふっ!?」
「お、思わず花瓶で殴っちゃった………も、どうしよ………」
拝啓お母様。万が一を想定して先に謝っておきます。
◆
「成る程、俺が橋の手すりに登ったまでは良いけど足を滑らせてそのまま橋の方へ転けてしまったと。えーと、わざわざ助けて頂いて申し訳ございません。それとありがとうございます」