それもダメ。 許しません
「どうした? そんな所で蹲って。 具合が悪いのなら保健室まで付き合おうか?」
「へ? 渡部昌弘……くん?」
あまりの恥ずかしさに人気の無い場所まで走って逃げ、階段下で蹲っていると後ろから声を掛けられた為振り向くとクラスメイトである渡部昌弘が心配そうに私を見ている姿があった。
「……だ」
「だ?」
「大丈夫だけど大丈夫じゃない」
「いや、どっちだよ」
そう言いながら笑ってくれるのは正直言って今の私からすれば有難かった。
クラスメイトに見つかった時点であの事を追求されるのでは? と身構えてしまった事を心の中で謝る。
「で、何があったんだよ。 俺で良ければ聞いてやるからさ」
「え? お昼休みに何があったか知らないの?」
「いや、俺昼休みは理科委員の仕事で次の授業で使う道具をクラスの人数分揃える手伝いをしていたからな。 ちなみに今もその途中だったりする」
「そ、そうなんだ……」
そして私は渡部くんの話を聞いてあからさまに安堵のため息を吐いてしまう。
「俺が何も知らないと言う事がそんなに安心する程の事となると逆に気になってくるな。 ちょっと何があったか友達に聞いて見てもいか?」
「ダ、ダメダメダメッ!! 絶っっっっっっっ対にダメッ!!」
「ははっ、必死すぎだっての。 聞きやしないよ」
そんな私を見た渡部君が意地悪そうな表情をして友達に何があったか聞くと言うので思わず必死になって止めようとしたのだが、どうやら嘘であったようで、その当の本人は悪戯が成功した子供のような無邪気な笑顔で笑っていた。
「もうっ! そういう冗談は心臓に悪いからやめてよねっ!」
「ごめんごめん。 でもそれだけの事となると俺が教室に戻ればどのみち耳に入って来そうなんだが、それは良いのか?」
「それもダメ。 許しません」
「そんな無茶な……」
「……ふふっ」
「……ぷっ」
「「あはははははははっ!!」」
そしてどちらから共なく笑い出す。
「まぁ、元気そうで良かった。 その感じだとそこまで深刻な事ではなさそうだしな」
「し、深刻だよぉーっ!!」
「あー、はいはい。 深刻、深刻ね。 それじゃあ俺はまだ仕事があるからここらでズラかるよ」
「うん」
そう言うと渡部君は理科の授業で使うだろう道具を抱えて去っていく。
「渡部君っ!!」
「……」
「えっと、そのっ、ありがとうっ!!」
そして私は、なんだかんだで心が軽くなった事に気づき離れていく渡部君の背中に向けて「ありがとう」と告げると、渡部君は背中越しに手を振って答えるのであった。




