新谷さんが良い
その瞬間、母性本能とでも言うのだろうか?新谷さんを守って上げたいという気持ちが膨れ上がり、そして少しずつで良いから女性不信や女性に対する恐怖心を治して上げれればと強く思ってのである。
はっきり言って他人から見れば私の考えは異常なのかもしれない。
そんな事は理解している。
けれども、恐らく今ある新谷さんに向ける感情が恋心であるとするのならば、きっと今の私はこの恋心の扱い方が分からず暴走している状態なのかも知れないし、その結果新谷さんに酷い事をされるかも知れないし、騙されるかも知れない。
でも、それでも良いと思ったし、これから先様々な男性とお付き合いして行く過程でもしかしたらそういう酷い男性と当たってしまうかも知れない。
そう思った時、私は『どうせなら最初に騙されたりするのは新谷さんが良い』と、そう思えた。
思えてしまった。
だからこそ私は新谷さんの前で裸になれるのだって嫌じゃない。
しかしながら、やはりというかなんというか新谷さんは恐怖で震える手でブラジャーのホックに手をかけた私の肩に手を置き、少し怯えながらも真剣に説教をしてくれた。
本当は近づくのも怖いのに、自分の事よりも私の事を考えてくれた。
それが堪らなく嬉しいと思ってしまうのと、もう少しアプローチを弱めて、少しずつ新谷さんが異性へのトラウマを克服出来るように、新谷さんリハビリプログラムを考えようと思った。
きっと、そういう新谷だからこそ漬け込まれたのかも知れない。
不倫だとすれば『どうせバレても許してくれる』などと軽い気持ちだったのかも知れない。
だからこそ私は顔も名前も知らない新谷さんの元妻のことが許せないのと同時に、新谷さんを私の所に来るきっかけを作ってくれて感謝もしている複雑な感情を抱いている。
そして、そんな新谷さんが、半ば強引ではあるものの私に初めて自分の気持ちを口にしてくれたのである。
それが例え晩御飯に食べたい料理だったとしても、私にとってはその初めてが堪らなく嬉しいと思えてくるのである。
そして私は鼻歌混じりで行きつけのスーパーへ学校帰りに向かうと、オーダーのあった料理の材料で足りない物を買って行く。
因みに新谷さんの要望は豚バラで作った生姜焼きである。
なんだかこういう食べ物を要望するあたり男性らしさを感じて何故だかキュンとしてしまう。
まさか、私の日常に男性らしさが加わるとは、一人暮らしを始めた時の私も、私の両親も思いもよらなかった事であろう。




