心の殺人
そう申し訳なさそうにいう新谷さんなのだが、彼の顔に脂汗が浮いている所を見ても嘘を言っているようには見えない。
「あれ? 何でだろう……おかしいな。 嘘じゃ無くて本当なんだ──」
「大丈夫、大丈夫ですから落ち着いてください。 ちゃんと信じてますし、新谷さんが嘘を言う人じゃ無いって分かってますから」
そして、私は気が付いたら新谷さんを抱きしめていた。
表面上の彼は健常者と変わりないように見えるのだが、内面部分は思っている以上にズタボロなのだろう。
死を覚悟するような事があったのだ。
何があったかは聞いていないので詳しくは分からないのだが、会話の節々で何となく女性関係である事は察する事は出来る。
左手に見える指輪の跡から恐らく不倫関係かなと思う。
私はまだ彼氏とかできた事ないから想像する事しかできないけれども、浮気不倫は心の殺人と言われている事くらいは知っている。
そして新谷さんの反応からして鬱病ないし| PTSD 《 心的外傷後ストレス障害 》にかかっている可能性が高いのであろう。
もしかしたら、女性である私の事も本当は怖いのかもしれない。
それでも、新谷さんを見たら抱きしめずにはいられなかった。
その後、新谷さんは何とか落ち着いてきたので、足りない食材と買ってきて欲しい食材を聞き出して私一人でスーパーまで買いに行く事にした。
新谷さんは今辛い状況なのは重々承知しているのだが、彼が部屋で待ってくれている、そう思うだけでただの買い物も何だかウキウキしてしまう。
そんな事を思うと少しだけの罪悪感と、それ以上の幸福感で買い物を続けるのであった。
◆
「それ、本当に友達のペットの話? 妙に生々しいんだけれど?」
「そ、そうだよ? ほ、他に何があるの? 友達が飼ってる友達のワンちゃんの話だよ……?」
今現在、学校で新谷さんの話をしたくて、でもそのまま言う訳にもいかず友達の飼っている犬という程で話していたのだけれども、真緒の目は『絶対嘘じゃん』という目で優しく追及してくる。
おかしな箇所がないように慎重に話したつもりなのだけれども、どこで分かったのだろうか?
「あんた今、どこで嘘がバレたんだろうって顔してるわよ?」
「え? 嘘っ!? 何で分かったのっ!? って違う違う。本当の事だもん」
あ、危なかった。
思わず嘘がバレるところであった。
千秋め、鎌をかけてくるなど侮れないわね。
「どうせ来ないだ言ってた気になるには男性の話でしょう? バレバレよあんた」
「ち、ちちちちちちちがいますぅーっ!!」




