スーツフェチなのかもしれない
しかしながら今この時は幸せであるという事は分かると同時になんだか体温が少しだけ上がった気がする。
まだ出会ったばかりでお互いの事を余り知らないのに、こんなにも男性である新谷さんを信用して良いのか?という不満も少なからずあるものの、それ以上に何故かか知らないのだけれども一緒にいたいと思ってしまう。
不思議だ。
しかし、いくら考えたところで答えなんか出るわけもなく、答えが出ないのならば下手な考え休むに似たるともいうし、私はこれ以上考えるのを辞める。
そして私は新谷さんが料理の仕込みをしてる間に学校の宿題と授業の予習復習を終わらしミーチューブで動物物の動画を観る。
ゆっくりと流れる時間に可愛らしい動物達の動画、そして聞こえてくる料理をしている音。
あぁ、今私は自分史上一番幸せなのかもしれない。
そう思える程には満たされまくっていた。
「ねぇ、動画楽しんでいるところ悪いんだけどさ」
「なんでしょうか?」
「卵って無い感じ?」
「卵……あっ、切らしてたの忘れてた。まだ時間も早く外も明るいですし日が暮れる前に買って来ますね」
「なら一緒に行こうか。 何かあってからじゃ遅いし荷物くらい持つよ。 今の俺はこれくらいの事しかできないからね」
「は、はいっ! ……よ、よろしくお願いします」
そう言いながら微笑んでくる新谷さんに思わず目が眩んでしまい、一緒に買い物ができるという嬉しさで思わず勢いそのままに答えてしまったのだが、次の瞬間はしたない女だと思われていないか不安になり徐々に私の声が尻すぼみになっていくと共に気付く。
一緒に買い物をしている所を誰かにみられてしまったらどうしよう、と。
えぇいっままよっ!
お母さんもよく『女は度胸』と言っていたじゃないっ!!
バレたらバレたで、その時考えればいい。
そしてエプロンをしまい、スーツ姿の新谷さんと一緒に外へ出ようとする。
ワイシャツ姿は夏服の男共と余り変わりない為そこまで意識する事も無かったにだ が、よそ行きを意識してスーツを着こなしネクタイを締めた新谷さんの姿はグッと来るものがある。
もしかしたら私はスーツフェチなのかもしれない。
そう思いなが外で待っているのだが、待てど暮らせど新谷さんが扉を開けたまま外に出てこないではないか。
流石にこれはおかしいと思い私は心持ち優しく新谷さんに声をかける。
「どうしたの? 新谷さん」
「いや、自分でもどうしてなのか分からないのだけれども、外に出ようとすれば何故か足が動かないんだ」




