表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒幕幼女の異世界ゲーム  作者: バッド
8章 戦略コマンドも増えたんだぜ
90/311

90話 冬の到来を感じる黒幕幼女

 タイタン王国にて、幼女はいつもどおり忙しくしていた。忙しくて忙しくて大変だよと、せっせと働いている。幼女虐待をしていると、中のおっさんは捕まえられても良いだろう。


 なにを忙しく働いているのかというと、自宅のお庭で稲をせっせと刈っていた。


「あたちの分だけでも、お米を確保しないといけないでつ」


 呟きながら、ちっこいおててを掲げる。ふわりと光の粒子が漂い、畑一面に育っていた稲穂が消えていく。なんだか自分の存在が一番ふぁんたじ〜だと思うのは気のせいだろうか。


 幼女の中におっさんが潜んでいるので、ふぁんたじ〜よりホラー映画だと思うのだが。


「取り敢えず、また種を植えてと」


 んしょんしょと、再び種籾を植える。畑に植える前に苗にしないと育ちにくい? それはきっと気のせいだ。幼女には稲は優しいのだ。


 すばやさ50というステータスを活かして、田植え機よりも速く植えていくアイ。その素早い動きは幼女であっても少し不気味で、やっぱりホラーなのかもしれない。おっさんなら確実にホラー映画確定。あまりにも売れなかったホラーB級映画として、映画界に燦然と金字塔を打ち立てるのは確実だ。


「作物の手〜」


 種を植え終えて、ペカリンと手を光らせると畑から苗がニョキニョキ生えてくる。明日も同じようにすれば稲穂になるねと、一息つこうと、ぽてんと座り込む。


「全部米を配るとは思わなかったぜ。自分の分だけでも確保してると思ったのにな」


 フヨフヨと浮いている妖精が、感心したぜとうんうんと頷き褒めてくる。


「そうでしょー、そうでしょー。もっと褒めても良いんでつよ」


 ふふふと幼女は平坦なる胸を張っちゃう。


「久しぶりにパン食にもしたかった気分だったんでつ」


「その一言はいらなかったぜ」


 苦笑いをするマコトであるが、本心は飢餓に近い領民をアイが放置することができなかったのは、わかっているので下手くそな照れ隠しだなと思うのだった。


「民忠が爆上げしたとも思うんでつ。少ない人口の領地は施しで簡単に民忠が上がるから見逃せません」


「その一言はもっといらなかったぜ」


 やっぱりアイはアイであった。名前負けしている幼女であった。


 ふぃ〜と、一休みして食糧倉庫からオレンジジュースを取り出す。木のコップも取り出して、その中に注いでクピクピと飲んでグッタリとする。少しお疲れかも。幼女にはお昼寝時間が必要なのだ。やけに寒いから、家に戻って寝ようかな。


 ぴょいんと立ち上がり、てこてことおうちに帰る。周りから見えないように見張りのダツが立つ横を通り過ぎながら、歩いていく中でマコトが再び尋ねてくる。


「なぁ、あんな小領地ばっかり取ってどうするんだ? 全部で4万に届かない人口だぜ? 中規模都市国家なら5万人を超えるらしいから、そこを奪った方が良いんじゃね?」


 屋敷のドアをウンセとアイは開きながら、マコトへと自身の考えを伝える。


「たしかにマコトの言うとおりでつ。でも、あたちたちは領地経営はしたことがないのでつ。ブンカンもセージスキルに合わせた一般的な経営をするだけ。実経験がまったく足りません」


 机上だけで学んだ知識だけでは、領地経営は難しいと思う。暗黙の了解や、思わぬイベント、法律までその全てを領地でやらなければならない。スラム街を支配するのとは、かなり意味合いが変わるのだ。


「はぁ〜、なるほどなんだぜ。相変わらず社長は頭良いなぁ」


「幸いあたちにはドローンがいまつ。裏切らないブンカンたちはみるみるうちに経営手腕を高めるでしょー。それが小領地を支配する理由のひとつでつ。失敗してもリカバリーがいくらでも可能でつからね」


 屋敷内からメイドさんたちが、あらあら土遊びは終わりかしらとタオルとお湯の入ったタライを持ってやってくる。土遊びは楽しかったでつと満面の笑顔でばんざーい。


「土遊びなのかなぁ、本当に?」


 小柄なメイドのララが疑問の表情で濡れタオルで、幼女の土で汚れたちっこいおててや、可愛らしい顔を優しく拭いてくれる。


「ララおねーちゃん、ありがとーでつ」


 ニコニコ笑顔で土遊びなのと答えるが、ダツが見張る庭で密かに行う土遊びって何だろうね。おっさんならば確実に怪しげなる儀式だろうと勇者が退治に来ちゃうだろう。そしておっさんに殺られて、おぉ、勇者ガイよ、殺られるとは情けない、所持金を半分貰うぜと、強欲神父に獲られるまでがテンプレである。


「ホットコーヒーで良いかな? おやつに蜂蜜たっぷりのパンケーキも作るよ?」


「あーい。それでお願いしまつ、メイドさんたちの分も合わせて作ってくださいね」


 おやつタイムだよと、忠実なるメイドのララはよだれを垂らしそうにして問いかけるので、ふふっと微笑んで了解する。屋敷内限定でコーヒーと角砂糖は解禁したのだ。


 それとベーキングパウダー入りのパンケーキの素を渡してあるが、あれだけふわふわのパンケーキなのに、誰も気づいていないのかしらん。天然酵母の出回っていない世界なのに。


 幼女の疑問どおり、もちろんメイドたちはあり得ないふわふわな柔らかさと膨らみを見せるパンケーキに疑問は持っていたが口に出さない賢明さも持っていた。


「キャー、アイ様ありがとー」

「この屋敷に奉公にきて良かったわ」

「もう絶対にフロンテ商会には帰らないわ」

「私は辞めたくなくて、結婚を延期しちゃった」


 周りを取り巻くメイドさんたちが、アイの言葉に顔を喜びで綻ばす。ハードな異世界だから、甘味が貴重だものね。それと最後の発言者は相手が可哀想でしょ。


 ポテポテと自室に戻ると、ランカとリンがソファでゴロゴロしていた。同じ狐人ということもあり姉妹みたいな二人である。リンは皇帝なんだけど……。仕方ないなぁ、姿を表さない皇帝というのも良いか。そんな皇帝の裏に幼女がいるというのも黒幕ぽくて良いし。


 アホな考えをして、ふふふとほくそ笑む幼女に、妖精が再び尋ねてくる。


「で、このまま小領地を経営するのか? ディーアに備える戦力はどーすんだ? どっかの領地を要塞化するのか?」


「ん? あぁ、マコトは勘違いしてまつね。ディーアと戦うために要塞なんか作らないでつよ。今は武具を作り、人素材を貯めるだけでつ。さらなる侵略を行わないと、これみよがしな戦力は集めないとアピールアピールでつね」


 小領地をいくつか支配したことで満足したと思わせる。兵力を即座に用意できるのが、俺のチート能力なのだ。一夜にして数千の騎士が現れたら、敵は仰天するに違いない。


 ちまちまと作っては格納して、ストックしておくぜ。格納中はキャラは冷凍睡眠みたいに寝ていると頭が理解しているので、格納はキャラにとって問題ないし。


「それじゃ、領地は適当に経営するだけ?」


「もちろんそんなことはありません。そんな勿体ない。せっかく領地が手に入ったのだから、色々作りまつ。最初に手を付けるのは炭作りでつね。これは王都では炭焼き小屋を作れなかったので、是非にやってもらいたいでつ」


 それにチーズ作りも始めたい。木材も安く手に入れたい。できればワイン作りも。あとは綿花の布地作りかな? 王都の配下だけだと絶対に綿布が足りなくなる。なにしろ各地に売り捌く予定だし。ラングからは大量の綿花を受け取っているのだ。


 あれもこれもやりたいのだ。領地ってサイコー。


「なんだか、今までとやることが同じなんだぜ。結局は金稼ぎか?」


「どこまでいっても、そこは変わらないでつ。それでも、月光とは別会計にしまつよ。連結決算にもしません。他社扱いで、うちはメインバンク。国と商会では扱う金額が違いまつからね」


「税務署があったら、速攻脱税扱いされそ〜だな。帝国株式会社の持ち株の全てを月光が持ってるわけだし」


「マコトにしては、気の利いたセリフでつね。この世界では、あたちが税務署長なので、大丈夫でつよ」


 クフフと可愛らしく悪戯そうに笑う幼女である。

 

「でも、森林沿いに交易するのか? 危険じゃね?」


「自国内の道を使うのに変更はありません。宿屋から酒場、様々な業種にも街道沿いの街には金が落ちます。なので、そこは考えてありまつ。ラングを500体、新たに作りまちた。いくつかの小拠点を森林内に作成。今は狼を狩りまくり中でつ」


「狼?」


「機動性に優れて、そこそこ強い。森で見かけても怪しまれないのがウォードウルフでつから、ラングを指揮官として、オウゴ一族として大量に作成。街道に現れる魔物の数を減らしまつ。狼の餌にもなって良いでしょー。ちなみに念の為に雑食性にしておきまつ」


 それでも魔物を完全には減らせないに違いない。この世界の魔物たちは雑魚であればあるほど大量に生まれるからだ。分裂するんだから当たり前ではあるけれども、ゲームみたいに一定数が減ったら、数を合わせるために分裂しまくる感じがするんだよな。悪辣な仕様だぜ。


 なにしろ、あれだけ狩ったのに、王都周りにゴブリンが現れたとダツからは報告を受けている。ゴブリンじゃなくて、黒い虫かな? 名前の変更を求めちゃうよ。


「なんかなぁ〜。凄い戦いが始まったり、びっくりするような革新的な領地改革をしていくと思ったぜ」


 つまんね〜、と後ろ手にしながら、空を仰向けに飛ぶマコト。たしかに小説とかだと、そういうの多いよな。テンプレで学校を作ったり、銃を作ったりとか。


 でもこの世界は仕様なのか、硝石ができないんだよな。火薬ができないんだよ。作物の手を使っても火薬系は作れない。実は密かに試したのだ。恐らくは意図的に世界の理で抑えられている。火薬系が必要なら魔法を使えということなのだろう。


 銃は戦争に悲惨さを与えるからなぁ。魔物に対しては有効だけど、確実に魔物に殺される人数より、銃で撃ち殺される人間の方が多くなるのは目に見えている。だから、世界ツクールでは禁じたに違いない。


 学校はなぁ……。字を書けるぐらいなら良いけど、知識を詰め込んでもこのハードな異世界じゃ平民は辛いだけだ。なんといってもステータス差があるからな。革命をやるのはインテリだけなんだよ。そして、この世界では脳筋の貴族にあっさりと殺されちゃうのだよ。


「まぁ、地道にいきましょ。地道に。目立たずにこっそりと力を蓄えていくんでつ。領地をひとまとめに考えれば4万人近いのでつから」


 領地を豊かにしていくのだ。産業値を上げていこう。領民が飢えなく、そこそこ幸せに暮らせる程度には豊かにしたい。


「動く時は大胆なのになぁ。社長らしいんだぜ」


 肩を竦めて、マコトは撮れ高はなさそうだなと呟く。実際に経営するとこんなもんだよ。シムなゲームだと、酷いと一年飛ばすでしょ。時間が必要なのだ。


「できたよ〜! 蜂蜜たっぷりバターたっぷりのパンケーキ! コーヒーも!」


 元気よく扉を開けて、ララがトレイを持って入ってくる。パンケーキの甘い匂いにランカとリンが目を覚ます。食いしん坊なニートたちめ。


「それと聞いてよ、アイちゃん。もう雪が降ってきたんだ! 滅多に雪なんか降らないのに! 今年は早いなぁ。今年は雪遊びができる余裕があるし積もらないかなぁ」


 テーブルにトレイを置きながら、ララが嬉しそうに言う。それだけ珍しいのだろう。そういえばかなり寒かったや。


 窓から外を見ると、チラチラといつの間にか雪が降っていた。


「ふ〜ん、僕は雪は嫌いだな。崩壊したあとはドカ雪が降って大変だった思い出しかないし」


「ん、そういえば昔は全然雪なんて降らなかったと聞いたことがある」


 歳の差ですねと、言外に言うリンにランカが怒ってパンケーキを奪おうとするバトルが始まったが好きにしてくれ。俺は熱々パンケーキを頬張るぜ。


 ランカとリンがパンケーキを奪い合いながら話すのをなんとなく聞きながら、嫌な予感がした。そういやそうだ。俺も雪は嫌いだった。崩壊前は珍しさもあり好きだったが……。


「ララ、雪はそんなに珍しいんでつか?」


「うん、だいたい年末あたりに少し降るぐらいだったよ」


 真剣な表情の幼女の問いかけに、ララは不思議そうに首を傾げて答える。特になんとも思わないのだろう。


 俺も事前情報がなければ珍しいの一言で終わっていたに違いない。


 ……この世界、たしか神は女神様が退治したんだよな? 最低限の維持に務めるとも言っていた。と言う事は、だ。ある意味世界が崩壊したといっても良いんじゃね? 人間のために気候を抑えていたとしたら……。


「会議をしまつ。万一のために用意だけはしておきましょー」


 まずいことになる前に準備だけはしておくかと、黒幕幼女はパンケーキに食らいつくのであった。幼女にはおやつタイムも重要なのだからして。パンケーキウマー。



「相変わらず鋭いんだぜ。でも、これがまさしく自然が戻ってきたということなんだぜ」


 ポツリと妖精が呟き苦笑をするが、パンケーキに頭を突っ込んでいたので、その呟きは誰にも聞こえなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 敵を知り己を知れば百戦殆うからずですね でもなかなかできないんですよね なぜなら己をしっても 行動変えるのは至難の業なので 己知ったぐらいでどうにかなるなら 自分は今頃は億万長者ですわw …
[良い点] この世界で作れる銃…空気圧式の水鉄砲にポーションを詰めてピューピューするとか?ステータスに任せて瓶ごと投げたほうが遠くまで届くなぁ。魔法銃でモンハンのガンランスとかボウガン系ならワンチャン…
[一言] どこかのおっさんは祭りで民忠上げてましたね。 おっさんたちが民忠上げたがるのはコー〇ーの影響でしょうか。 シンパシーを感じる…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ