88話 支配地域を広げる黒幕幼女
そろそろ秋も深まり、人々は冬支度をしないとなぁと井戸端会議をしている今日この頃。タイタン王都の幼女の自宅にて、ソファに寝っ転がりながら、黒幕幼女は各地から齎される報告を聞いていた。綿をつめたソファは柔らかくてサイコー。
ふわふわソファの心地よさに眠そうになりながらも、周りを頑張って目を開いて眺める。
椅子に座り眠りこけているガイ。戦になると真面目に話を聞くギュンター。空中に浮きながら完全に眠りこけているランカ。絨毯の上でゴロゴロと転がる、新たなるというか、地球からやってきた刀使いの侍少女リン。そしてお茶請けのチョコクッキーに幸せそうな顔で齧り付く妖精のマコト。
半分以上、会議に参加していないので、幼女が頑張るしかないのだ。
皆の前には近未来的なモニターが映し出されて、遠方からの報告がなされていた。
「とりあえず辺境の11国は制圧できまちたね。というか、制圧したのは全部5000人以下の村レベルでちた。それなのに都市国家だったんでつか……」
センジンの里周辺。森林沿いにある都市国家は制圧。その少し先にある都市国家も攻略できたのだが……。人口5000人とかの、センジンの里と同じ程度の国が多すぎ。だからこそ、個人の武力で制圧できたのだが、村で良くない?
「南部都市国家72の内、39はそんな感じです。残り都市国家は10万以上の人口を誇っています。これはある思惑からですね」
新たに作ったダツブンカンが、モニター越しに紙を手に教えてくれる。新たに文官として作った者たちだ。遂に文官を作り出せることに成功したのである。
セージスキル2レベルがあれば、一般的な文官となるキャラが作れたのだ。どうもスキル2は一人前となるレベルだと思う。セージスキル2は一般的な知識を持っている模様。
一般的な文官なので、革新的な提案はできないだろうけど、経理やらを普通にやってくれるだけで大助かりなのだ。
そんな新たなるダツはこんな感じ。
ダツブンカン 特性 量産 文官適性
格闘術2、雷魔法3、回復魔法2、セージ2、気配察知2、オールステータス10
とりあえず150人作りました。作りすぎると、一般人の文官への道を閉ざしちゃうので、あまり作らない予定。
ラングからの毎日の素材補給のために、だいぶ楽に素材を使えるようになったのだ。
そんなお役立ちのブンカンが南部地域を説明するに
「ディーアなどは複数の万単位の街も領地にあります。なにゆえに辺境が独立都市国家として扱われていたかと言いますと、魔物の発生率のせいです」
ブンカンの言葉にピンとくる。利益が関わると察しが良い幼女である。そんな幼女は嫌だと、世界の紳士諸君がおっさん封印の旅に出るかもしれない。
「なるほど。魔物を退治するにもお金がかかる。儲かりもしないどころか、支配地域にすると赤字確定の村は誰も欲しがらないと。自費で賄わせるために都市国家としていまちたか」
酷いなぁと思うが、それが都市国家の限界となるのだろう。都市国家連合は仲良しの集まりではない、ということだ。
「そのとおりです。現在は我が軍に対して、ディーア連合は様子見のようですね」
「ん、とーぜん。小国をいくら集めても、魔物から身を守るのに精一杯な国だから、そこから戦力は抽出できない。異世界の長所にして短所。徴兵が意味を為さない世界」
汚れることもあるのに、ゴロゴロと絨毯の上で寝っ転がっていたリンが言う。そのとおりだ。一般人は騎士たちに敵わない被支配階級だ。その代わりに戦争には参加しなくても良いので、まさしく支配者同士のみの戦争となるのが、この世界の理なのだから。
「それも、既にディーアがセンジンを攻めるために集めた後でつからね。もはや余剰人員は小国にはなく、いつでも勝てると思っているのでしょー」
小国をいくら手にしても、すぐに取り返せると考えているのだ。ディーアはこれまで何度も統一戦争をしているのだが、負けた途端に支配した街が解放されていることからわかる。要は戦争に負けたから、赤字部門はいらないということだ。
「そのとおりです、アイ様。以上でこちらの報告は終わります」
「お疲れ様。本拠地はそのままセンジンで。ルーラ隊には敵の監視をお願いしまつ。もしも、兵を揃える様子が見えたら報告を」
映るモニターのひとつにいたルーラへと命じると、喜びの表情でピシリと敬礼してくる。
「お任せ下さい、閣下。もしも敵が兵を揃え始めたら、案山子団長を要請します。魔法で大打撃を与えたいと思いますので」
軍人らしい行動と会話ができて、心底嬉しそうに狐耳をピコピコと揺らしながらルーラは通信を終了する。
魔法ねぇ〜。たしかに実を言うと、リンよりもランカの方が使い勝手が良い。やはり戦術兵器が戦争では最強なのだ。まぁ、今のところは使うつもりはないけど。
これからの指針を考えて、多少うんざりする。
「領地の半分はクズ王がいまちたからね。なんだよ、8割の税って。まったくもー」
ついつい愚痴が出ちゃう。ガリガリの領民を見た時、支配者がクズの場合の酷さを思い知ったぜ。
「初夜税などと……本当にあるとは……。あのような輩は排除して当然ですぞ、姫」
クズな都市国家を訪れた際の酷さを思い出して、ギュンター爺さんが顔を険しくする。騎士から王まで酷いところがあったのだ。思わずゾンビの国かと思った程の都市。しかも一つではなく三つあったのだ。
「ん、高潔にして慈悲深い聖騎士ギュンター将軍。リンが皇帝だぞ〜って、挨拶に言ったら、領民たちが是非領主はギュンター様にと、こぞってお願いしてきた。リンより有名になってない?」
「姫が大量の米を置いていったのだ。儂の身体を操作してな。腹を空かせた領民たちは……まぁ、わかるだろう?」
ため息をついて、アイを見てくるギュンター。なんのことかな? 幼女は難しいお話はわかりません。
惚ける幼女に爺さんは苦笑をするのみに留めてくれる。
「だんちょーは、リンでもっと戦うべき。それかリンが戦う」
「駄目でつよ。リンはまったく戦いに顔を出さないで良いでつ。あの逃げた将軍はリンの強さを必ず報告していまつ。だけどリンは戦わない。リンがあまりにも顔を出さないことから、スー将軍の言葉は負けたから嘘の話を作ったのではと、相手に疑いを持たせたままにしまつ」
「そうすれば、敵は侮り、こちらへと兵を向ける可能性が低くなるのですな」
そのとおり。そしてリンが皇帝ができない時は、他のキャラを創る予定。リンには秘密だけど。秘密にしなくても、それを聞いたら喜びそうな予感がするけどね。
「ギュンター将軍が活躍しているから、それはビミョーな効果になるとリンは思う」
プクッと頬を膨らませて、不満げな侍少女が銀髪をかきあげる。活躍したいのだろう。
たしかになぁ。少しやりすぎたか? でも、未だに少数の軍だと思っているはず。しばらく様子を見ていてほしいのだ。
でないと、ガイが過労死するかも。
さすがに気の毒になりながら、眠りこけているガイを眺めちゃう。いつもなら寝るなと起こすけど……。
「リョウサンのための武具作りで徹夜だからなぁ。あたしから見ても働きすぎだぜ」
同情しながら、マコトが言う。そうなのだ。リョウサンは武具を持たず、布の服のみで現れる。なので、武具を用意しないといけないのだが、ダツスミスとガイしか、敵から奪った武具を直せない。ならばスミスを増やせばと言われると、炉を増やすと怪しさ爆発なので、王都では増やせないのだ。センジンの里に作るかなぁ。
なので、毎日毎日、鎚を振るっている勇者ガイである。竜退治のゲームで鍛冶をするミニイベントがあるけど、500回以上も繰り返したら、俺は鎚を捨てて転職します。
「ガイには後で差し入れをしまつ。それよりもリン。一体全体、異世界にどうやって入り込んだんでつか?」
今更ながら質問する。この間からゴダゴタしていて、聞きそびれていたのであるからして。
リンはゴロゴロと転がりながら得意げな表情になる。なにか嫌な予感がしちゃうぜ。
「異世界お別れパーティーをしたあとに思った。何日か考えて、答えに辿り着いた。だんちょーとこれからも一緒にいたいと。パパからも侍は忠を尽くすものと応援された。ママは職業は私の跡を継いで、サマナーでと言ってきたけど、反対しなかった」
「リンの両親は変わり者でつからね。リンも含めて」
リンを自分の団に入れる時に挨拶に言ったのだ。死ぬ可能性が高い職業だから、止めて欲しいという遠回しのお願いも兼ねて。
そうしたら、リンの両親はもっと危険なダンジョンギルドの連中だったでござる。銃を使わずに刀で化物を倒す父親に、悪魔を使役する母親。ウォーカーの方が、よっぽど安全な仕事であった。ちなみにドイツで殿をした時は先行して先の街に行っていたのでいなかった。いたら、殿に加わっていたのは間違いない。
「それから師匠たちに相談しに行った。剣聖の師匠は私は手伝えないなと、断られたけど、姉神様は一緒に女神様に頼み込んでくれた。二人で土下座した」
「あぁ〜、碌なことをしない姉神様でつね……」
ため息をついて、椅子に凭れかかる。そんなことをしたら、身内に優しい女神様がどうするか……。
「身体の転移はなし。身体は封印して、魂のみでの移動。姉神様は一週間に一回、編集した異世界実況動画を女神様に見せることでOKでた」
「さよけ」
予想以上に酷い内容だった。ゲーム感覚かな? ゲーム実況を見ている感覚か、な……。んん? 待てよ?
「マコトももしかして実況動画を」
「あぁ〜。きーこーえーなーい。聞こえなーい。それは禁則事項だぜ」
耳を塞ぎ、身体を縮こませて妖精が焦ったように叫ぶ。なるほどね……。まぁ、いっか。女神様が見ていることは知ってたし。
「別にいいでつよ。それよりもリンは強くしすぎまちたかね?」
新たに表の世界を支配する皇帝として創ったリンはこんな感じ。本当は渋いおっさんを作ったのだが、おっさんでは美少女に勝てなかったらしい。作ったキャラは消えていました。
リン 狐人
職業︰侍+
体力︰500
魔力︰400
ちから︰90
ぼうぎょ︰70
すばやさ︰100
特性︰呪い、精神攻撃、寄生無効、風は捉えられず、浮遊、身軽、刀攻撃大強化、魔法威力小強化、適刀流使い手、姉神の加護 (姉神と口調が同じになる。厨二病力がアップ。高速思考)、だんちょーの幼妻 (見かけの幼さ大幅アップ)
スキル︰格闘術3、剣術6、刀術6、弓術3、槍術3、火魔法2、雷魔法4、水魔法4、回復魔法2、影術1、気配察知3、気配潜伏3、騎乗術3、鍛冶3、セージ2、無詠唱
装備︰霧氷刀ちから+150属性氷、氷技使用可能、下位竜の衣ぼうぎょ+120全小耐性アップ、ポニー、魔法の弓矢、魔法の槍、魔法の杖、魔法の鎚、自動修復、自動帰還
素材の人を100使い+に。同じく素材の人を198使いステータスアップ。特性風は捉えられず、浮遊、身軽をつけました。武具として、ミスリル、下位竜骨2、吹雪のサファイアを使いました。中盤辺りになって色々と装備が強力になってきた感じ。
さすがは侍。中級職なだけはある。ゲームによっては上級職かな? 魔法も使えて万能な職業だ。
適刀流は地球で有名なハーレムおっさんが使っていた刀の流派だ。流派の名称が適当なことから、元々弟子はとらない主義のおっさん、ちなみに物凄く偉い立場の人。そんな人に土下座して弟子にしてくれと頼み込んだらしい。初対面だと、その幼さと懸命さに心を打たれちゃうんだよなぁ。渋々おっさんは弟子にしたとか。付き合いが長いので、空気よりもリンの土下座は軽いと、今の俺は知っている。
「姉神の加護……なんで高速思考だけじゃないんでつかね?」
「仕様だぜ。それよりも幼妻ってなんだよ?」
「マコト……地球で女遊びができなくなった原因なので、言わないで欲しいでつよ……」
リンを仲間に入れた時の当時を思い出して切なくなる。リンは見かけどおりの歳なのだ。なぜだか物凄く懐かれたのだ。異世界出立パーティーの時はおとなしかったのに……。さては既に動いていたな、こんにゃろー。
頭が良いリンは出立パーティーで駄々をこねても無駄だと、そして優しい娘なので、俺の夢を妨害したくないとも考えたのだろう。ちくせう。そんな良い娘だから邪険にできないのだ。
「妻は常にそばにいるべし。だんちょー、幼女の姿でも愛は変わらないから。アイだけに」
「あ〜! アイたんは僕のだから! なんだか変なことを言ってるけど、僕にはカメラの神器もあるから! 最近ではカメラドローンに進化したから!」
タイミング悪くランカが目を覚まして、ブーブーと文句をつける。うん、女神様たちって、本当に碌なことをしないな。
「こちらは姉神様がTPS視点で録画している。負けない」
「それって、自分視点でしょ? 僕のは違うもんね。寝室にもお風呂にも忍び放題なんだから!」
「くっ! 変態がここに!」
倒さないといけないですねと、リンが身構えて、ランカが杖を持つ。仲良くしてくれ、変態どもめ。今は俺は幼女だぞ! プニプニ幼女だからね? お巡りさんがいない異世界はハードだなぁ。
はぁ〜、と嘆息しつつ、争いを始めた二人を尻目に、とりあえずお昼寝しようと、ソファの上で現実逃避して寝る黒幕幼女であった。