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黒幕幼女の異世界ゲーム  作者: バッド
7章 貴族に食い込むんだぜ
77/311

77話 森林にてアラクネと戦う黒幕幼女

 陽も差さない鬱蒼と木々が聳え立つ森林にて、アラクネが蠢いていた。老齢の上半身と蜘蛛の下半身を持つ魔物。森林内ではその特性もあり、倒すのは容易ではなく、上位騎士でも苦戦をする相手である。


「シュー」


 人の上半身を持ちながら、人の知性は持たないアラクネは、息とも鳴き声とも聞こえる声を発して、木の幹にしがみつき隠れ潜んでいた。


 常ならば、狩人の立場である森林の強者は、されど今は緊張状態にあり、周囲をキョロキョロと落ち着きなく見渡している。


 と、ガサリとすぐそばの枝が揺れる音がしたので、素早くその杭のような前脚を繰り出す。木の葉に視界を隠されて見えないが、それでも何者かがいると確信して。


 しかし、その攻撃は木の枝を折る感触しか返ってこず、木の葉の間から小さな存在が飛び出てきた。


 まるで砲弾のように勢いよく飛び出してきた相手はその手に持つ短剣を煌めかせて、強い殺意を感じさせながら。


 自分を獲物と見る共人の幼女が狩人の目をしながら。



 目の前のアラクネがその複数の脚を動かして、身軽に幹を移動しながらも前脚を繰り出してくる。


「複数の脚って、便利でつよね。攻撃回数も多いし」


 アイは呟きながら、身体を僅かに動かして、敵の攻撃軌道から逃れる。自身の側をスレスレで通り過ぎていく繊毛がびっしりと生えた槍のような前脚を横目で見ながら動揺なく、アラクネに迫る。


「シュー」


 まるでタイヤから抜ける空気のような鳴き声をあげて、身体を持ち上げて、三本の脚をアイへと向けてくるアラクネ。多脚と身軽があるために、それだけの脚を繰り出してきても、アラクネは幹からたった2本の後脚でしがみついているにもかかわらず落ちることはない。


 空中を跳んできた幼女にはその繰り出される連撃は躱しきれないと思いきや、空中に見えざる床があるようにトントンと足を踏み出し、その軌道をアイは変える。


 三本の脚の攻撃は鋭くそして死角をつくように上手い攻撃であったが、高速思考を使えるアイには欠伸が出るような遅さであった。


 軽やかにその複数の攻撃をまるで木の葉が舞うようにスレスレで躱していき、懐に入り込む。


 自らの攻撃がすべて回避されたことにより、驚愕の表情をするアラクネはその老婆の口を大きく開き、念糸を吐き出そうとする。


「特技! 妖精あたっーく!」


 ていっ、と肩に乗るマコトをその口に投擲する。


「あたしの最後の一撃だー!」


 ノリノリで両手を掲げてマコトがその口に入り込む。口を慌てて閉じようとするアラクネであったが、ガチンと硬い感触が返ってきて蒼い障壁に阻まれて閉じることができない。


「剣技 ソードスラッシュ!」


 手に持つ短剣に魔力を纏わせて、その剣身を伸ばしてアイはアラクネの首を斬り落とすのであった。


 ぐらりと身体から力が抜けてアラクネが地上に落ちていくのを見ながら、アイもフヨフヨとゆっくり降りる。


「浮遊と身軽。オンオフ可能な特性もあって、この組み合わせは強すぎでつね」


 修復と念じて、短剣の血脂を消しながら呟く。特性身軽をアイは取得しておいたのだ。そして浮遊による空中の足場確保と、身軽による実質上のすばやさアップは凄い能力を発揮していた。


「スキルや特性が増えると、ステータスはますます頼りにならなくなるぜ」


 アラクネの口から何事もなかったように出てきたマコトの言葉に肩を竦める。幼女が肩をすくめると相変わらず背伸び感がして可愛らしい。


「今更でつね。強い敵は特性が凄い、そして装備も凄いから、全くステータスは頼りにならない……いや、指針程度にはできまつか」


「ま、その程度に考えていた方が良いぜ」


 ウンウンとマコトも同意する。ステータスアップの装備もあるだろうしなぁ。対人はますます気をつけないと。


 ゲームならば新章に入って、戦法も考えないといけないレベルだなと、アイは苦笑をした。


「なんにせよ、あたしとのコンビネーションは最強だよな! タンクをやりたがるゲームプレイヤーの気分がわかるぜ」


 フフフと楽しそうに微笑むマコトだが、タンクって攻撃を防げるだけじゃないんだよ? 敵からヘイトをとったり、戦況を見たり……。まぁ、絶対無敵の盾だから、それだけで充分か。


 というか、扱いが酷いような感じがするが、マコト的にはOKらしい。体を張るお笑い芸人の鏡である妖精だな。


 マコトとしては自身は無敵であると知っている。ゲームでチートコマンドを発行して敵の攻撃が効かなくなるやつだ。なので、どんなに危なそうに見えても、ゲーム目線で楽しんでいた。ただ、攻撃方法がないので、不満だった。


 そのためにアイとのコンビネーションは自分が倒した感じがして気に入っており、酷い目にあっているとは思わなかったのだ。


 無敵すぎてつまらないと、チートコマンドを使いながら文句をつけるマナーの悪いプレイヤーみたいな妖精である。


「蜘蛛人がじゃんじゃんドロップしているな。どうやら味方は順調にアラクネを駆除しているらしいぜ。蜘蛛人素材21ゲットだぜ」


「作り直す際に、皆につけたい特性でつね。順調でなによりでつが、アラクネちょっと多過ぎない? 蜘蛛と同じように何千匹も増えている訳? それだと怖いんでつけど。スタンビートでつよ、ドラムをじゃんじゃん叩いて敵が大群で行進していきそう」


「ん? 何言ってるんだ? 魔物のほとんどは自らの魔力を使って増えるんだぜ?」


 せっかくスタンビートとスタンピードを上手く掛け合わせたジョークをアイが言ったのに、マコトはスルーして言ってくる。


 なにかツッコんでよと思いながら……うんんん?


「はぁ? 魔物は子供いないわけ? 魔力で増えるん?」


「あぁ、竜やグリフォンなどの幻獣は生物の繁殖方法で増えるけど、魔物は自然発生に近いんだぜ。今までゴブリンやオークに子供を見たか? アラクネはちっこい老婆の姿で現れるのか? そんなわけないんだぜ」


「マジか……。そうか、だから巨人の谷でもマウンテンビーの蜂の巣に蜂の子がいなかったんでつね! え? 魔物って、もしかして似非生命体? なんで神様はそんなものを……魔力のせい? テンプレだけど」


 マコトのあっけらかんとした答えに驚く。たしかにゴブリンたちの集落に子供はいなかった。というか、雄しかいなかった。人間を苗床にしている様子もなかったと思ってたけど、ゲームみたいにポップしていたのかよ。そういや、紙ゲームでも、子供のゴブリンが現れた! とかなかったわ。


「月が満ちる満月の時に、空気中の特殊な魔力と、自分が最大魔力となった魔物たちは繁殖というか、分裂するんだぜ。自分の魔力が黒く固まって新たなる魔物が産まれる。魔力の物。即ち似非生命体だな。空気中の繁殖できる魔力は満月だけしか産み出されないから、増えるのは制限されているけど」


「なんでそんなことを神様はしたわけ? 意味がわからないなぁ」


 思わず首を傾げてしまう。だとすると魔物の全滅は無理である。いくら少なくしても増え続けるのだから。……な〜るほど、この世界は人類が栄えることができない仕組みになっているわけだ。


「これなぁ、神様たちに広がっている世界ツクール、あれにデフォルトで入っていたらしいんだよ。理由は不明。新人神様はまず世界ツクールで世界を創ってみて、魔物の存在に頭を悩ますらしいぜ。かと言って人間を強くしすぎたら、繁殖力を無くしちゃうらしいし」


「こんなところで世界の深淵を覗いちゃいましたね。あたちはピンときまちたよ。世界の崩壊を防ぎ、かつ神様自身は働かなくて良いシステムなんでつよ、きっと。なんとなく浄化が絡んでいるのではと、あたちの小説の知識から思いまつ」


「それ、あいつも同じことを言ってたな。でもデメリットが大きすぎるから、大抵の神様はシステムごと初期化して、自分のオリジナルの世界を創世するんだと。世界をやり直すってやつ」


「さよけ」


 よくあるシム系ゲームのあるあるだ。そういえば、地球の世界崩壊時は女神様はいなかったような話を聞いた。なるほど、魔物がいない場合は、ゾンビ溢れる世界になっちゃう訳か。それを人工的に造られた女神様が救ってくれた訳か。女神様、世界を救ってくれてありがとう。


 新たなる女神様への信仰を深めちゃうアイである。まさかゲーム感覚で女神様が遊んでいるなんて欠片も思わない。知らないことで幸せになることもあるのだ。


「というか、こういう情報って凄いイベントとかで知ることができるんじゃないの? ボスっぽい奴が、ククク、この世界の真実を教えてやろうとか言って」


 世間話で語る内容じゃないよね? 俺はもう少しふぁんたじーを味わっても良いと思うの。ストーリーイベントがまったくない感じがするよ。


「ククク、この世界の真実を教えてやろう」


「そ~言うの良いから。……まぁ、GMが常にそばにいるようなもんだし、しょうがないか」


 マコトが俳優に相応しい大根な演技を始めたので諦める。スキップしまくってきた弊害。幼女はイベントを味わえないのだった。


 地球でも若い頃にやっていたゲームで、面倒くさいと攻略サイトを見ながら進めてしまい、まったく記憶に残らなかったゲームが多々ある。ゲーム開発者が泣いて良い遊び方であったが、レベル上げとかやりこみ要素の方が楽しかった時代があるのです。


「なんにせよ、ますます魔物への情けが消えてなくなる情報ありがとでつ。ところで、アラクネ多くない? また素材を18もドロップしたよ。知識因子はないでつが、元々もってない、か」


 そういうことにしておいたほうが、幼女の精神的に楽なのでそうします。知識因子はアホなアラクネはもっていない。それに決めておく。


「姫、近隣のアラクネの討伐が終了しましたことを報告致します」


「閣下! ルーラ隊から報告致します! 敵の総数127匹の撃破に成功。しかし奴らは妙です。まるで素人のような戦いぶりで、連携もとらずに個々で攻めてくるのみ。我々の相手ではありませんでした」


 ギュンターが冷静な表情で、ルーラが褒めて褒めてと興奮気味にモニター越しに報告してくる。


「素人のような戦いは魔物だからでしょう。問題は数です。奴らの数はこちらの想定以上ですな。これが斥候ならば、かなりバーン男爵領はまずいですぞ」


 たしかに想定以上の数だ。街に来たアラクネは殲滅した。今日は数匹いれば良いと考えていたのに、大群が森林に潜んでいて、急遽乱戦となってしまったのだ。


「たしかに、もう契約数を超えてしまいまちたね。アラクネの集落。しかも大規模な物ができているに違いないでしょー」


「契約数を僅か一日で達成してしまいましたがどうしますか、閣下?」


 ルーラが尋ねてくるが、返答は決まっている。経験値稼ぎができそうな場所を見逃すゲーマーはいないのだ。


「サービスということにして、もちろん戦いは継続しまつ。ルーラ、敵の拠点を探してください。充分に気をつけて」


「はっ! ルーラ隊は敵、拠点の探索に向かいます。必ずや良いご報告を致します」


 敬礼をビシリとして、ルーラが通信を切る。……あれ、そばに誰もいないよな? 通信をしているのがバレバレなんだけど。ルーラって少し抜けているから心配だ。


 それと、ランカがまったく報告してこないのも心配だ。あいつ、魔法を撃ちまくってハイになってるんじゃないだろうな。


 とはいえ、実験にちょうど良さそうな敵だ。俺ってラッキー。


「久しぶりとなりまつが、ゲームの時間でつ」


「お、決め台詞がでたんだぜ」


 金色のコインをピンと弾き、黒幕幼女は久しぶりのゲームをするのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 神様ツクールのデフォルト設定でスライムみたいに増える魔物セットされてるのは(笑)他の神様に対する嫌がらせじゃなかろうか。 [一言] どこにでも居て噂を広めているくたびれたおっさん!まさか降…
[気になる点] >ノリノリで両手を掲げてマコトがその口に入り込む。 くさそう……
[気になる点] アラクネサイズならスパイダーシルク取るの容易だろうし糸は結構確保できそう 現実だとスパイダーシルクは量の確保がネック(共食い&自分で食べる)で実用化できないだけみたいだし [一言] 奇…
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