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黒幕幼女の異世界ゲーム  作者: バッド
7章 貴族に食い込むんだぜ
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74話 貧乏領地に行く黒幕幼女

 ゴロゴロと馬車群が草原を進む。街道を進む中で、すれ違う他の馬車がなんだろうと、不思議そうに車輪を見てくるのが印象的だ。


 なにせ木製には見えない。黒くて衝撃を緩和する車輪。即ちゴム製タイヤである。サスペンションとしてゴムを噛ましているので、揺れも極めて少なく、椅子も綿を詰めてあるのでふかふかだった。乗り心地が今までの馬車とはまったく違う。新時代の幕開けかな?


 地球の馬なら重いよと、牽引するのを嫌がるが、このハードな異世界ではちからのステータスがまったく違う。楽々で引っ張ってくれるのだ。


「楽な旅でつね。本当に楽でつ。お、オークの素材ゲット」


「なんか久しぶりだな。碌に戦闘をしていなかったのと、社長のドロップ運のせいだけど」


 なんとドロップのおまけ付きであるので、幼女はキャッキャッと喜んじゃう。そんな愛らしい幼女に現実を突きつけないでくれ、マコト。


 マコトと頬を引っ張り合う大会をしていると、コンコンと窓が叩かれたので、ギュンターが小窓を開けると、ルーラのキリリとした顔が見えた。


「閣下! ルーラ隊より報告します。我々はオーク分隊と接触。カス団長抜きでこれを撃破しました」


 フンフンと鼻息荒く、狐耳をピコピコ動かしているので、幼女は背伸びをして、狐耳をサワサワ触っちゃう。ルーラへのご褒美です、ご褒美。モフモフサイコー。


「アイたん、触りたければ僕の耳を触れば良いのに〜。あと、ルーラ、さり気なく僕をカス扱いしなかった?」


「ふへへへ。気持ち良いであります。カスはコイコイでは1文です、価値がカスの方がありましたね、すいません」


 デレデレとした表情でルーラは幼女に撫でられて嬉しそうにしながらも、ランカへの悪態をつくことをやめない。凄いぜルーラ。そして、この紳士な性格は女神様が考えたのだろうか。違う感じがするぜ。


 まぁ、美少女だから良いんだけどねと、俺はモフモフをし続けて、ランカが僕の耳もモフモフだよと言うので、両方を撫でる。ふわふわした感触と、少し硬い感触と違って気持ち良い。なんだ、桃源郷はここにあったのか。


「幼女じゃなければヤバイ絵面だったぜ。良かったな社長は幼女で」


 マコトが呆れながら言うが、確かにおっさんならキモいことは間違いない。リア充ではなく、このおっさんめという嫉妬と軽蔑の目で見られてしまうだろう。幼女サイコー。


「あ、それとバーン男爵より、この先に野営できる水場があるとのことです」


 思い出したかのように、ルーラが言ってくるので、ようやく休憩かと安堵する。幼女は飽きっぽいので、馬車に揺られるだけだとつまらないのである。ワーカホリックのおっさんが退屈していただけかもしれない。


「そうでつか。それじゃ休憩といきましょー。ガイ、休憩の準備を……って今回はガイが留守番でちた。ケンイチたちに休憩の指示を出してください、ギュンター」


「はっ! では野営の指示を出します」


 ギュンターが頷き、少し先の水場にてアイたちは野営をするのであった。


 死の都市から北に一日、馬車なら半日の場所にあるロクサード。そこを目指して一行は移動をしていた。




 川が流れて、野営の跡が端々に見える広場にて、ギュンターがダツたちに指示を出して、テキパキと天幕を広げていく。フウグ隊が周りを警戒して、ルーラが視界を防ぐ雑草を斬りながら地形を確認していた。


 幼女は馬たちに近づいて、密かに角砂糖をあげていた。こんなに美味しいの初めてだよと、お馬さんたちはつぶらな瞳を輝かすので、少しだけだよと、懐かれまくって楽しそうにあげていた。幼女とお馬さんたちのハートフルな光景に、皆は癒やされる。


 幼女化が激しいアイに見えるが、これでバーンたちは俺をただの幼女だと思うよねとか思ってはいない。優しい幼女なのだ。常に周りを意識して演技をしているなどと、あるわけがない。


「タンポポの綿毛団長! 少しは働いてください。そこの雑草取りとか」


「え〜? 僕は団長だよ? のんびりとさせてよ〜」


「貴女はのんびりとしすぎです! ほら、そこの雑草取りをしてください!」


「団長が雑草取りって、変じゃない?」


 ルーラがランカに怒っているが、陽光傭兵団の団長は秘密なんだけど……。まぁ、いっか。少しばかり、ほんの少しばかり月光は有名になりすぎたし。ランカは月光の食客ということにしておこうっと。


 ぽてぽてとランカたちへと歩いていく中で、ランカにくすんだ金髪の二枚目な若い男性が近寄ってきた。素朴そうな男性だ。二枚目が素朴そうな雰囲気に隠されているが、俺は騙されないぜ。二枚目は敵だなんて思わない。そんな歳はすぎているのだ。精々髪の毛が薄くなればもっとかっこよくなるよと、祈るだけにしておこう。


 心が狭いおっさんがここにいた。幼女になっても反発心は消えない模様。普通の顔立ちの人にとって、二枚目はとりあえず反発心を持つのだと、幼女の辞書には書いてあるのだ。


 幼女の嫉妬ビームには気づかずに、爽やかな笑みで挨拶をしてきた。


「陽光傭兵団の団長でいらっしゃいましたか。俺の名前……あ、私の名前はバーン・カールマンと申します。今回は私の願いを聞き遂げて頂き感謝の言葉もありません」


「あ〜、いつもの話し方で良いよ? 僕はランカ、よろしくね。それとこれは取引だし気にしないでよ」


 深々と頭を下げるバーンにランカは手をひらひらと振る。その態度にバーンはホッとした表情になり頷く。その顔には陰が見える。


 二枚目の陰りのある表情に、アイの友好度は10下がった。


 とはいえ、遊びはここまでにしておいて、気になっていたことを尋ねることにするアイ。


「ねーねー、バーン男爵は貴族でつよね? 独立心高く王都の介入はなるべく防ぎたい貴族さん。そんな貴族なバーン男爵が助けを求めて王都に来たのに、騎士団は全部放置したんでつか?」


 不思議でつね〜、と可愛らしくニコニコと尋ねる幼女。その内容の鋭さに眉を顰めるが、バーンはランカたちをちらりと見て、一人で納得するように頷く。教育の一環として聞いてごらんとか、ランカたちから幼女が言われたのだろうと予想している様子。


「確かに独立独歩の貴族が王都に助けを求めると、とんでもない代価が必要になるね。お取り潰しもあり得る話さ。特に俺のような貧乏貴族なんか取り潰して、新たに領主を据えようとしてもおかしくない。昨今は男爵の数が増え続けているから」


 苦笑混じりに、バーンは肩を竦めて、アイへと決意の表情を見せる。


「でも領民たちのためだ! 俺は領民たちを救いたいんだ」


「ぎゃー! 目がー、目がー! 灰になりまつ。まぶしー」


 ゴロゴロと幼女は顔を抑えて、地面に転がった。眩しいー。ピカーって、顔が光ったよ! 主人公属性が遂に表れたよ! 大魔王と同じ名前なのに!


 幼女はかっこいい主人公のオーラに100のダメージを受けた!


 黒幕幼女の中の人は、純粋な善意に弱かった。おっさんよ、さようなら。天へと昇天しても良いだろう。


「え〜と、なにかあったのかい?」


「たまにある奇行だから気にしないでよ」


 ゴロゴロと土まみれになるのも構わずに転がる幼女に、バーンは驚いてしまうが、ランカは特に驚きを見せずに答える。利益ガン無視の行動をする人間にアイが弱いと知っているので。


「あっと……だから俺は各騎士団に助けを求めたんだけど、王都防衛騎士団を筆頭にすべての騎士団に断られたんだ。……根回しをしてこいと言われてね。寄り親のフラムレッド伯爵にも頼んだんだけど……今の王都は大変らしいね」


「そのとおりですね。王の直属騎士団すべてが動かないのは異常であります。近々武力衝突があるとの専らの噂でありますよ」


 ルーラが驚くことでもないと、淡々と答える。それぐらいは簡単に手に入る情報なのだから、貴族たちの勢力争いの激しさがわかる。


「なので、俺は傭兵を雇おうと思ったんだけど……。まさか王都一と噂の陽光傭兵団を雇えるとは夢にも思わなかった」


「商会の護衛をちょうどするところだったから。ついでだよ、ついで」


 のほほんとランカが答えて、手をひらひらと振る。


 偶然にもフラムレッド伯爵家の領都に月光の商隊が行くところで、陽光傭兵団はそろそろ贅沢に暮らすのも飽きたと護衛についてくれたのである。偶然って怖いね。


「ついででも助かったよ。でも本当にあんなに安くて良いのかい? もう少しお金を出せるけど?」


「良いよ、それよりも森林の物は木も含めてすべて取り放題で良いのですよね? 自分たちは容赦なく採取していきますよ?」


「あぁ、どうせ魔物が多くて薪取りも碌にできない場所だからね。なんの問題もないよ」


 ルーラがキリリとした表情で確認をとるが、バーンはまったく気にしていない様子で、またもや爽やかな笑顔で頷く。


 言質は取ったし、契約書にも書いて貰った。ならば問題はこちらにはない。バーンよ、若いなぁ。宝の山を目の前にして悔やまないようにね。まぁ、宝の山を見せるつもりはないけど。


「それじゃこちらも問題はないね〜。契約どおり、街を荒らすアラクネを100体倒すまでは頑張らせて貰うよ」


「頼みます。俺と部下の騎士5人じゃアラクネから街を守るのが限界なんだ。頼んだよ」


 そう言って、バーンは自身も天幕を作るために部下のもとへと戻って行くのであった。


 ムフフと、幼女がちっこいおててを口にあてて、ほくそ笑んでいたが、全然気にせずに。




 そうして夜となり、天幕の中にはアイたちが集まっていた。


「予定どおりなら、もうあと一日、ニ日でロクサードに到着しまつ」


 目の前にはマコト、ギュンター、ランカにルーラが揃っている。


「アイたんはどうやって僕たちについてくるの? それらしい設定を考えたの?」


「もちろんでつ。秘策があるのでつよ」


 えっへんと平坦な胸を張り、幼女は得意げに伝える。


「おねーさんたちと、もっと遊びたいと駄々をこねまつ」


 素晴らしいアイデアでしょ? 褒めても良いんだよと、キョロキョロと皆を見渡すと、ルーラとランカがパチパチと拍手をしてくれた。ギュンターは苦笑いをしているが、幼女パワーはこんな時に使うのだよ。


 駄々をこねるのは、幼女の得意な固有スキルなんだよ? 本当だよ?


「姫、今回は魔物を倒し尽くすのですな。戦力増強ですかな?」


 ギュンターが今回の目的を聞いてくるので、頭を振って答える。


「戦力は戦力でも、見方を変えた戦力でつね」


 俺は勘違いをしていたのだ。黒幕のやり方を少し変えようと思う。ふぁんたじーな異世界なのだ。異世界らしくできる方法も選ぼう。


「見方を変えたって、どんなの?」


「それはでつね、このハードな異世界はなにが表で、どれが裏なのかってこと。これが上手く行けば、一気に飛躍できるかも」


「強力な自我持ちを作るのか? 最近は寝床にしかゲーム筐体は使ってなかったからな!」


 ランカが首を傾げて、マコトが嫌なツッコミをしてくる。仕方ないじゃん。敵と戦う理由がなかったのだ。でもやり方を少しばかり変えるよ。今の状態だと、あとはお金を増やすだけで、貴族に支配圏を伸ばせないと思うので。


「まずはアラクネを退治しまくりまつ。話はそれからでつね」


 悪戯が成功しますようにと祈るように、黒幕幼女はフフフと微笑むのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 地球の馬なら重いよと、牽引するのを嫌がるが、このハードな異世界ではちからのステータスがまったく違う。楽々で引っ張ってくれるのだ。 ↑ これ、本当に思う 特に板バネサスなんて馬に牽引できる重さ…
[気になる点] 貴族と会話してて思いましたが、この世界の貴族は権利と権力と見栄と体裁と威厳に、金と命を全力で使ってる感じなんですよね? そんな世界で……しかも貴族が使う言語としてナンタラ共通語っての…
[気になる点] このサスペンションにダンパー部分以外があるかどうか [一言] ゴムタイヤなんてよく作れたなぁ ・・・ひょっとして車輪にゴム板巻いただけとか?
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