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黒幕幼女の異世界ゲーム  作者: バッド
6章 妖精の国に行くんだぜ
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67話 センジンの里へと戻る黒幕幼女

 今日も天気が良いとセンジンの里の長代理ルノスは青空を見て思う。里を一望できる長の屋敷に未だに住んでいるが、人々の様子はあまり変わらないように見える。


 しかし、よくよく見ると少し今までと違っていた。里の者たちは腹をすかせた様子を見せずに働いて……。


「あまり働いていないな。いや、今までもこうだったか?」


 狩りに行ける人間は少ないし、畑は小さい。あまりやることがないので、働いていない奴が多かったかもと首を傾げてしまう。


「腹が満たされて、働かないのが目立ち始めたというところですな。このままでは遊び呆ける者たちになりますぞ」


 声をかけられた方向へと顔を向けて、やっぱりそうだったかと苦笑しつつルノスは顎に手を当てる。


「だがそうはなるまいよ、ベイス。……未だに我はよくわからん感じだが」


「そうですな。意味不明な決闘と、それに続く食糧の配給しか私らは受けていませんから」


 意味不明。たしかに意味不明であれよあれよといううちに負けてしまい、月光配下となってしまった。なぜこんなことになったのだろうと、考えてみてもまったくわからなかった。


 アイがそれを聞けば、脳筋でアホだからでしょ、と答えるだろうけど。幼女は自分で仕掛けたことでも容赦しないのだ。責任者なら、秘書を通してくれと答えるぐらいじゃないとねと思っているので。


 脳筋でアホな獣王ルノスは、もう少し深く考えてみるかと、珍しく頭を使おうとして


「朝ご飯の時間ですニャー。今回は上手く炊けたニャー」


 ミアが大声で走り回っているのを耳にして、よく炊けたとは素晴らしいと、頭を切り替えて朝ご飯を食べに猫まっしぐらと向かうのであった。獅子だけど。


 屋敷に戻り、ケインたちと共に上手く炊けた白米を頬張る。皆が平和な空気の中で、のんびりと朝ご飯を食べていく。少し前なら考えられない空気だ。


「やはり白米というのは美味いな。おかわり!」


「了解だニャ」


 喉を通る感触がパンと違い食べていると実感できて、ルノスはこの白米というものを気に入っていた。おかわりを待つ間にケインへと顔を向ける。


「ケイン。いつ頃アイ様たちは戻るんだ? 妖精の国に行ってかれこれ一週間近い。マコト様がいるから大丈夫だと思うが」


「俺も戻りがいつになるか聞いてないです。ですが、そろそろかと」


「この里はなにもない場所だからな。白米も野菜も想像以上に減りが早い。食べているだけでは駄目になるし、補充も少し早くして欲しいのだ」


「どんだけ他人任せなのニャ。ルノスはよく傭兵団をやっていたニャ」


 ルノスの他人任せの言葉にミアが呆れて、ケインが俺はこんな奴に追い出されたのかと頭を抱える。


「ふっ、我はただ武器を振るうのみ。金勘定はベイスに任せていた。傭兵団の団長は力を持ち、戦場で生き残る術を持っておれば良いのだ。そして我の直感はアイ様たちを頼ってみようと言っている」


 まったく悪びれる様子はなく、筋肉で覆われた胸を張るルノス。言っていることは間違いではないが、こんなのを相手にして苦労していたのかとミアたちはため息をつく。


 他人任せの方が上手くいくのだと言い張るアホ王。たしかに獅子はそうかもしれない。外敵を倒すのは王の役目。他はすべて雌に任せるのが獅子なので。


 でも現実で人間がそれをやるのはどうなんだろうと、ドン引きするミアたちの微妙な雰囲気の中で、カンカンと見張り台の鐘が鳴り響いてきた。


「幼女様たちが帰って来たぞ〜」


 どうやら妖精の国から帰って来たらしい。しかし幼女て。他に言いようがなかったのか。まぁ、たしかに幼女だしなぁと、ルノスたちは出迎えに向かうのであった。





 ガラガラと車輪の音をたてて、お尻が痛いなぁとアイは思いながら里へと帰還した。幼女のお肌はプニプニなのだ。


 センジンの里から出て8日後である。意外と時間がかかってしまったのだ。なぜならば


「ここが私たちが守る場所ですか」


 頭の上に座る妖精セフィが声をかけてきて、俺は頷く。


「ここを妖精国との交易地点にしておきまつ。魔物ひしめく森林の中にあるセンジンの里はちょうど良いカモフラージュとなってくれるでしょー」


「この里も忙しくなりますぜ。人間の欲は限りないでやすから」


「とりあえず幼女が作る倉庫に許可された者以外は入れなければよろしいのでしょう? そのようなのは私たちが得意とするところです」


 フンスと鼻を鳴らし、セフィが胸を張る。たしかに罠など繊細な方法は妖精の得意技だろう。


「泥棒を捕まえたら、角砂糖一袋だって」

「早く泥棒こないかな」

「まだ倉庫を建ててもいないよ」

「髭もじゃー、泥棒役やらない?」


 幼女の頭に乗って妖精たちが不穏なことを言うが、冤罪はだめだからね?


 この妖精たちは大丈夫かなぁと、不安に思いながら里に入ると、獣人の皆が出迎えてくれる。皆は後ろでダツが運ぶ荷物を満載している馬車へと興味津々で視線を送りながら。


「どーもどーも。月光支部長アイ、ただいま帰還しまちた!」


 ちっこいおててを振りながら、ぴょんぴょんと馬車の上で飛び跳ねて入る。幼女は目立ちたがりやなところもあるのだ。そうでなければ、ある意味目立つ黒幕にはなりたがらない。


「どーもどーも。妖精の国マグ・メルが第一王女にして、月光騎士団南部方面団長のセフィです。どーもどーも」


 もちろんセフィもそのノリに乗っかってきた。


「月光騎士団でーす」

「これからは私たちに任せてね〜」

「幼女ちゃん角砂糖ちょーだい」


 最後の発言者が角砂糖をどさくさ紛れに強請ってきたが、お給料日はまだでしょと、断っておく。


 そして、セフィたち妖精が100人程現れて、アイと同じように笑顔で手を振る。その光景を見て、ルノスたちは驚きざわめく。近くに妖精の国があっても妖精を見かけることは稀なのに、こんなに大勢が里へと降りてきたことにたいして息を呑む。


「さて、収穫物をお見せしましょー。これからはこの里が交易拠点となり、豊かになっていく予定ですので、それを含めてね」


 パチリとウインクをして幼女は広場へと馬車を進める。ガラガラドシンと音をたてて馬車は広場に到着して、ダツたちが積んである木箱をいくつか取り出して蓋を開ける。


「それはなんだニャ?」


 真っ白な物がぎっしりと木箱に入っているのをミアが不思議そうに尋ねてくる。


「これは綿というものでつ。これをやり方を教えるので、糸や布にして欲しいと思いまつ。きっと飛ぶように売れるでしょー」


「羊毛みたいなもの? でも機織り機も毛糸を紡ぐ糸紬もないけど」


「すべてあたちが用意しまつから安心してください。難しかったら、今度は糸から持ってきまつ」


 かなり難しいのはわかっている。さすがの俺も綿から糸へ変える方法は手探りだ。


「羊毛社会へと殴り込みなんだぜ」


「細かいところから、どんどんアイたんは支配していくよね」


 マコトとランカがビミョーだなと、視線を向けてくるが、チッチッチッとちっこい指を振る。


「羊毛社会に綿はやべー布素材でつ。バンバン売る予定だし」


 このハードな異世界。やはりというか、当たり前だったが綿がない。すべて羊毛や魔物の毛皮で布を織っているのだ。そこへ新たなる布素材は飛ぶように売れるはず。


 元スラム街の人たちにも糸紡ぎや布を織ってもらう。大変な作業だが、作り出す工程が多いので、そこで雇用をまた発生させるのだ。センジンの里の人たちが織るのは南部地域向けも含む。


「それにこの色とりどりな物はなんなのだ? 我は傭兵として世界を旅していたが、それなのにすべて初めて見るものばかりで戸惑っているのだが」


 黒いのや、白いの、黄色のプニプニした物をつついて、ルノスが不思議そうにする。周囲の人たちもこわごわと近づいて眺めていた。


「これはゴムでつ。柔らかさを変えて、車輪にタイヤ。サスペンション代わりのゴムシート、それになんといっても白いのは服に使いまつ。下着も作りまつし」


 仕事はたくさんだ。ありえない程忙しくなるかもね、特にこの里は。


「宿屋に酒場も建てていきまつ。食糧は稼いだお金で購入するようにすればベストでつが、きっと割高になっちゃうでしょー。それも経済が回ると考えれば許容範囲。貿易黒字になりすぎると、他国の妬みを買いますからね」


「わ、我にはわからんが、この里が交易地? そんなに忙しくなるのか?」


 もはや幼女がなにを言っているのかよくわからなくなって、目を白黒させる獣王。諦めてくれ、ここは俺の莫大な稼ぎを齎す交易地にしちゃうのだ。


 王都から離れており、大規模な干渉をされないこの里はうってつけである。あとは田畑が手に入ればいちいち俺が作らなくても良くなるのだけど。


「やってみないとわかりませんが、話の流れから漠然と理解しました。妖精の国からの物を加工して売るのですな? しかもそれには大勢の人間が必要……ルノス様、もはや先程の働いていない人々の生活が一変すると」


 副官のたしかベイスという狼人が口を挟む。なにか問題があったのかな?


「既に我らの状況を見抜いており、このような準備をしていたとは……このベイス感服致しました」


 頭を深々とベイスは下げてくる。うん、意味がわからないけど、なにか良さげな方向になったのを勘違いしたらしい。それなら放置して、意味ありげに微笑んでおこうっと。


「それに蜂蜜も、ゲフッ」


 まだそれは早いぞ、我が部下よ。というわけで、ガイには閃光幼女パンチを叩き込んでおく。蜂蜜はもう少し時期を開けたいのだ。陽光傭兵団に荒稼ぎしてもらうのだ。


「布にゴム……。大変なことになりそうだぁ」


「そこで私たちが妖精国マグ・メルの物を盗まれないように来たマグ・メル月光騎士団。マグ・メルが第一王女セフィです。いつでも盗みに来てください。角砂糖欲しいので」


「最後が本音になっているぜ、セフィ」


 マコトが呆れ口調でツッコミを入れて、セフィが幼女の頭の上でふんぞり返る。今後は妖精たちに荷車を引っ張って来てもらう予定でもあるのだが、盗まれても困るしね。


「なにがなにやら……。我はもう考えるのやめておこう」


「ルノスはもう少し頭を使ったほうが良いでつ。まぁ、布の量産化に伴う時間はもう少し様子を見ながらでつが。確実にできたら売りましょー」


 お前は呂蒙か。でも三日経ってもこいつはアホで勉強をさぼっているのが想像できます。


「とりあえず、これで交易地は問題なく作れるはず。少し様子見してから」


 初めましょーと、笑顔で万歳しながら、遂に異世界チートを使い始めた黒幕幼女である。これならいけるはず。


「まずは理想的なスタートでつが……」


 思わず口籠る。なぜならばいけそうであると思ったその時であった。


「姫、申し訳ありません。少々問題が発生しました」


 ギュンターからの焦った感じの声音で念話が頭に響く。ありゃま、やっぱり問題発生か。まぁ、主人公が本部を留守にすると、事件が発生する。他国へ遠征してると敵が攻めてくる、などなどテンプレだ。ハードな異世界ならあると思ったぜ。


 異世界をゲーム脳基準で考えているおっさんなので、それ程は驚かないアイである。


「了解しまちた。あと数日は帰還に時間はかかりますので、よろしくでつ」


 なにかしらん? 簡単な事件ならいいんだけどと、黒幕幼女は嘆息するのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 綿は無かったかー、この辺りは動物の毛一択だったんですねぇ、彼方此方探せば植物を編んだ原始的なの位はありそうだけど綿にはかないませんでしょうな。 [一言] この世界の植物もスキルで分解とかし…
[一言] まさかのゴムと綿。すっかり甘い食べ物でつね幼女が出すなら甘い物に決まってまつと思い込んでいました。
[良い点] 拠点防衛に妖精による月光騎士団派遣、たしかにセンジンの里で面倒な奴らの行く手を阻めば妖精国はフリーに出来ますもんね(^.^)ノブヤボの委任コマンドですな(民忠よりつまみ食いに神経使いそうで…
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