65話 妖精女王と黒幕幼女
妖精の国。それは地球でも幾度となく小説やアニメで題材とされたもの。妖精界は花咲き乱れ、食べ物に困らず、無邪気な妖精が住んでいる。小説によって違うが大体はそのような設定で描かれるものだ。
妖精の国。実際に存在した場合、働かなくて良いでござると、遊び呆けたらどうなるかというと、各人が趣味に走り文明度が偏って高かった。魔法のレベルは高く身体能力も騎士など相手にならない。筆記やら何やらも教師役がやりたい妖精が教えているので、外とは一線を画す国であった。
とはいえ、妖精たちはそれをもって、何かを成す、世界を支配するということはない。だって趣味なのだ。なにかを覚えることが趣味の人間に、その知識で何をするのと問うと、え? 覚えるだけだよと答えるのが趣味人である。
いや、オタクだろ。オタクの国だろと、ようやく離れた妖精たちを見て、涙をグシグシとちっこいおててで拭いながら幼女は愚痴っていた。マジで食われるかと思いました。
「やれやれ、妖精さんたちがこんなにいるとは思いませんでちた」
好奇心旺盛な妖精たちだ。このパターンは予測して然るべきであった。漫画とかでも主人公が妖精たちに集られるシーンがたまにあるけど、数十人だ。主人公も、やめてくれよぉ〜と言うが、笑いながら楽しそうにしていた。
数万人だと、もはやキモい以外に感想はない。トラウマになりそうだから、精神攻撃無効で助かったよ。
「いや〜、僕もびっくりしちゃった。魔法で撃退しようと思っちゃたし」
手櫛で乱れた狐耳と尻尾を直しつつ、ランカも苦笑を隠せない。脳天気なランカでもきつかったみたい。なるほど、普通の人間が妖精の国に行ったら精神を壊すはずだぜ。
「それよりもガイはどこなんだぜ? 見えないけど」
唯一被害を受けなかったマコトがキョロキョロと周りを見渡して尋ねてくるので、指を城の外に向ける。
「助けてくだせぇ〜。なんでいつもあっしばかり酷い目に〜」
ミスリルツリーゴーレムの頭にちょこんと置かれている勇者が悲鳴をあげていた。外に捨てるのは面倒くさいよねと、ゴーレムの頭に捨てられたらしい。ガイのステータスなら楽勝で降りられるでしょ。
「失礼しました。妖精の国マグ・メルが始まりの女王ティターニアが謝罪しますわ。カリカリ」
「お母様! 始まりの女王だったんですか? もしかして数千歳? カリカリ」
「違うわよっ! そう言った方がかっこいいし箔がつくでしょ? 私はまだまだ若いわよ! カリカリ」
「お〜、さすがはお母様! その心、感服します。カリカリ」
ティターニア何世だかと、その娘セフィがコントを始めた。うん、なんでセフィが厨二病だったのかわかっちゃった。
そして何をカリカリ齧っているのかというと
「あまーい!」
「この白いの大好きになっちゃった」
「ねーねー、幼女ちゃん、もっとほしー」
急遽危機を脱出するために、加工を用いて角砂糖を作りあげて、鳩にエサをあげるように妖精たちへと配ったのだ。妖精サイズの大きさに角砂糖は抑えられて、あまり砂糖は消費していないから良かったけども。
予想通り、蜂蜜しか甘味のないこの世界で砂糖は大人気であった。妖精たちはおとなしく角砂糖を……お喋りをしながら驚いた顔で夢中になって、角砂糖を食べていた。
「あ〜、ティターニア。あたちは月光という世界を跨ぐ組織の王都タイタンに配属されている支部長のアイでつ。こんにちは!」
グダグダだけど、とりあえずアイはペコリと頭を下げて、ニパッと笑顔で愛らしさを見せてご挨拶。サイコーに可愛いよアイたん、とかランカがカメラで撮影していたがスルー。というか、カメラを透明化していないぞ。
「ようこそ妖精の国マグ・メルの我が城へ。玄関前ですが。マグ・メルの月光支部長ティターニアは王都タイタンの支部長アイを歓迎しますわ」
実は未だに玄関前でした。だって数万人の妖精がいるし。そしてなぜかティターニアは月光支部長になっていた。
「ええっ! お母様は月光の支部長だったんですか?」
「えぇ、さっきなったの。世界を跨ぐ組織なんてかっこいいじゃない。この幼女たち、過去視の魔法と精神読解、センスライを使っても、全然通じなかったし。魔力は弱いのに無効化されて、なぜか神様の匂いがするしね」
ティターニアの飄々としたセリフにギクリとしちゃう。アホに見えても、さすがは妖精女王。いつの間にか魔法を唱えていたらしい。その力は伊達ではないなと痛感した。それ以上にそれらの魔法が通じないという収穫が得られたと、嬉しく思っちゃうけど。
「妖精女王ティターニア。こいつの平均ステータスは……内緒にしとくぜ! アイの髪が金色に変身できる頃に教えることにする。ヒントは竜を退治するゲームの裏ボスだな!」
「ああ、お前が大魔王を倒せよってツッコミを入れられる奴ね。アホみたいに強かった里の長でつか」
怒りを背負わないと、ティターニアには敵わない模様。セフィもアホみたいに強かったが、それを遥かに上回るのか……。
「異世界あるあるでやすね。倒せない神や悪魔とかいった感じですか」
「きゃー、髭もじゃが降りてきたわ!」
「共人なのに凄ーい! 今度はお城の天辺に運んでみましょ」
「なんか楽しくなってきたね」
ゴーレムから降りてきたガイ。再び妖精たちが群がり、諦めきった表情でまたもやフヨフヨと運ばれて行くのだった。頑張れよガイ。
「たしかにガイの言うとおりだね。僕もこの妖精には敵わない匂いを感じるよ」
「まぁ、戦いに来たわけではないでつしね。で、マグ・メルの支部長ティターニア。後で支部長の印章は渡しまつが、今回はお願いがあってきまちた」
さり気なく新たなる支部長ゲットだぜ。ようやく月光も支部長が増えたよ。おっさんはチャンスを逃さないのだ。ヘッドハンティング成功と記憶を捏造しておく。
しっかり者の幼女の言葉に、ティターニアはキョトンとしたが嬉しそうな表情へと変えて、フフフと妖しく笑いながら頷く。
「同じ月光支部長としてできることなら。何なのでしょうか?」
「かっこいいイベントにしたいので、謁見の間に行きませんか?」
神秘的な姿を演じるティターニアへと、空気を読まない王女が口を挟み、それもそうだねと、主要メンバーだけ移動するのであった。
謁見の間は凄いの一言であった。光り輝くクリスタルが陽光を集めて玉座を照らすように配置されているし、全体的に緑がかった木の壁や床なのに、その光沢は美しく大理石のようだ。
柱には意匠がたくさん彫られている。ミニチュアな妖精が無邪気に寝ていたり、倒れるように寝ていたり、食べ物を持ちながら寝ていたり……。意匠を彫る職人がなにを求めていたかわかっちゃった。これだからオタクは……無理していたな。
そして玉座にはティターニアは座らずに横にある人間用のテーブルに乗っていた。玉座は陽光が集まりすぎて、座るととても眩しいらしい。さすがはオタクが作る城だ。居住性無視で見栄え優先だった模様。
「ふふふ、人間をこの謁見の間にお連れするのは初めてです。で、アイはこの妖精の国マグ・メルになにを求めに?」
「あ、それはでつね」
「わかっていますわ。フフフ」
アイが妖精の国に求めれるものを伝えようとしたら、ティターニアは口を挟み妖しく笑う。というか、妖しく笑いすぎだろ。キャラを作りたくて、特徴を出そうとして頑張るのは良いけど。
演技が過剰すぎて、この子厨二病ねとバレるパターンである。腕に包帯を巻いたり、眼帯をつけないだけ良いけど。
あと、妖精には妖しい微笑みは全然似合わない。
「アイ、生命の実を取りに来たのですね? それとも妖精樹ですか? ミスリルツリーやアイアンツリーもこの国にはたくさんありますからね。フフフ。お見通しです。フフフ」
「なにそれ? ふぁんたじーなアイテムぽいでつね」
「お母様、そろそろフフフ笑うのウザいです」
幼女はその響きにワクワクしちゃう。もう凄いレアなアイテムの可能性がするセリフなんだもの。あと、セフィは容赦なさ過ぎ。
「……むー。ティターニアはお冠になりますよ? それじゃ、アイは妖精の国になにしに? 観光?」
頬を膨らませて拗ねながら、コテンと首を傾げるティターニア。妖精に似合いすぎの愛らしさである。
「それはでつね。妖精の国から交易で手に入れたことにして欲しい物があるのでつよ。この国は他の国の干渉を受けないんでつよね? フフフ」
「アイたんの妖しい笑みも似合わなくて背伸びしてる感じがして可愛いね!」
どうやら幼女の仲間にも容赦のない娘がいた模様。俺が妖しく微笑んだのを、ニヤニヤ笑いでツッコミをしてきた。やはり幼女だと妖しい微笑みは駄目なのね。
「妖精の国から手に入れたことにする、とは? あぁ、貴女が出したこの白いのですか? 私の国も買い取りますよ? 生命の実なんかいかが?」
「お母様! 生命の実は一年に一個しか実を作らない特別な物! そんな気軽に言わないでくださいっ!」
「良いじゃない。あの食べ物も品物鑑定の魔法をうけつけなかったわ。とすると、神様の食べ物なのよ」
セフィがティターニアの言葉に驚き、こちらを見てくる。うん、たしかに神様の食べ物だね。そして思った以上にティターニアは抜け目がない。妖精でなかったら、最大限の警戒する相手になっていたぜ。
「アイたんのスキルは最強の女神様の贈り物だからね。言い得て妙だ〜」
自慢げにランカが言葉を返す。最強? とセフィが目を輝かすが見ないふりで、話を進める。セフィの相手はマコトに任せた。
「他では手に入らないことは間違いないでつね。生命の実は興味津々でつが、今はこれを売ることにしたいのでつ。妖精の国から手に入れたことにして」
パチクリと下手くそなウインクで、幼女は食糧倉庫からコロコロと品物を取り出す。
おっさんが下手くそなウインクをしたら、見て見ぬふりをされるだろうが、幼女なので愛らしさ抜群であった。地球ではパチリとウインクしたら、相手になにを企んでいると警戒された記憶があるおっさんなのだが、常に演技が入るのは元オタクなので仕方ない。異世界に来て、厨二病とオタク度がアップもしていたり。
「これは……羊毛ですか? それとこのプニプニしたのは?」
ティターニアとセフィは不思議そうに、羊毛と勘違いした物とプニプニしたものを触る。やっぱりこれは異世界にないらしい。あるとしても、危険極まりないこの世界。採取は無理なのだろう。
「これは大量にあたちなら手に入り、その使い道はたーくさんありまつ。妖精の国から手に入れたことにしていいでつか?」
両手を掲げて、バンザーイと無邪気な笑顔で伝えると
「月光の目的は何なのでしょうか? それによって返答は決まりますが」
興味深い表情でこちらを試すようにティターニアは尋ねてくる。その瞳は真剣で、なるほど叡智ある妖精女王だと感じるが気にしない。
「月光は世界を表、裏の両方を支配するために活動する組織でつ。やり甲斐のある仕事だと思いまつよ、ティターニア支部長?」
「世界支配……そんなことをする組織とは……とっても楽しそうですねアイ支部長? 詳しい話を教えて貰いますか?」
クスリと笑う妖精女王に、それじゃ教えまつねと黒幕幼女は語り始めるのであった。