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黒幕幼女の異世界ゲーム  作者: バッド
6章 妖精の国に行くんだぜ
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64話 妖精国の黒幕幼女

 少し小高い丘を越えると、妖精国が一望できた。


「おぉ〜、これは凄いでつ……。想像以上でつね」


「あの樹は寝ていた時の樹を思い出します」


「だねぇ〜。あっちの樹のような神聖さは感じないけど」


 幼女はあまりの美しさに口をポカンと開けた。ガイとランカも感心している。広めの花園があるだけの場所だと考えていたのだが、そうではなかった。


 広大な花園。色とりどりの花咲き乱れ、丘や森林がそこかしこにあり、綺麗な渓流が流れ込んでいる岩地の場所もあれば、平原にキラキラと光る石が川底で輝く美しい川が流れ込んでいる。


 そして中心には黄金に輝く大木が生えていた。王都の城すらもその大きさには敵わない程の大木であった。


「生命の樹セフィロトです。あの樹を守護神として中心に私たちは常に咲き乱れる花園で生きています」


 キリリとした表情でセフィが厳かな雰囲気で語る。


「なるほど、神聖な樹なのでつね」


「そのとおりです。太古において、神から樹の苗木を頂いて以降我らはここにその住処を構えました」


「ほー、それは凄い伝説でつね」


「嘘だよ、適当に旅をしてたら、見つけた樹の力が周囲を常に豊かにするって能力だと見抜いた妖精が、これならもう働かなくても食い物が手に入るねって、食っちゃ寝してたら他の妖精も集まったのが始まり」


「ほー、それは素晴らしい伝説でつね」


 俺の頭を巣にし始めた妖精の一人が真実を教えてくれる。学校で教えてくれるんだよと。


「良いじゃないか! もう少しロマンチックにするべきだ。なんで常に真実を私たちの一族は残しているわけ?」


 涙目のセフィ。こいつ第一王女でしょ? よくそういう捏造を口にできるな。マコトがロマンチックな伝説の方が面白いぜと頷いているがスルー。


 にしても、学校か……。広大な花園や森林、丘に小さな家が見えた。働かなくて良いということだから、その分、他のことに目を向けられるわけね。学校や騎士団、趣味的なものであればあるほど質の高いものになってそう。


「何人ぐらいこの花園には住んでるんでつか?」


「この間、数を数えるのが趣味の妖精が数えたら64000人近いとか言ってました。途中で面倒くさくなって、数えるのをやめたようですが」


「マジでつか。ちょっと妖精国を舐めてまちた。ここは時間の流れが違う土地とかじゃないでつよね?」


 妖精界は時の流れが違うっていうの、結構ポピュラーな伝説なんだよ。


「ん? そんなことはないです。というか、貴女は怖いことを考えるんですね。ですが面白そうです。侵入者にここの時間の流れは違いますと告げたら、どう思うか……フフッ」


 セフィが怖いことを考えるんですねとか言ってきたのに、目をキラキラと輝かせているので、新たなる設定を思いついた模様。好きにしてくれ。


 でもまぁ、一つ気になることがあるんだ。とっても気になること。なので、幼女はちっこいおててを挙手します。


「はい、せんせー。あの木眩しすぎるんでつけど、オンオフ機能ありまつ?」


 黄金の木は光りすぎ。常に光ってるなら住んでる人たちはきつくない? たしかに異世界ふぁんたじーではそういう話もあるけど、実際に暮らすとなるとキツイと思うんだ。


 現実でピカピカ光る木の下で暮らすとなると、目が疲れるし落ち着かない。引っ越しを俺なら考えるね。


 ロマンの欠片も持たない幼女は無慈悲に妖精王女へと告げるが


「まぁ、そのとおりですね。生命の樹を司る精霊セフィロトよ、もう幼女たちはそのお姿を見て感動しました。もしくは眩しいし飽きたので、見た目を戻しても良いかと。麓に住む妖精たちの眩しいんだよといわんばかりの非難の目も気になりますし」


 両手を掲げて、敬っているのか、訪問してきた孫に過剰に応対するお婆ちゃんを宥めているのかわからない言葉をセフィは言う。


 その言葉を聞き遂げたのか、黄金の木はその輝きをなくし、普通……普通の大きさではないが、見た目は普通の木と変わらなくなった。オンオフ機能あるのかよ。


「なんか力を使い果たして、ただの木になった感じだけど、たんに目立ちたがりやなのかな?」


 ゲラゲラとランカがその様子を見て笑いながら言う。たしかにシチュエーション的にはそんな感じ。妖精を守るために力を使い果たした生命の樹とか。内情を知らなければ。


「妖精が小さくて良かったでやすね。コイツラが人間と同じ大きさなら、あっという間に世界を支配できそうですぜ」


「そうだなぁ。あたしも妖精がこれ程の力を持つとは聞いていないぜ。でも当たり前なのかぁ?」


 ガイが妖精たちに、髭もじゃを切っても良い? とか引っ張られて玩具にされながら、畏れるように言って、マコトも苦笑しながら予想外だと口にする。


「あたちの知ってる妖精は悪戯好きで、遊び心満載でつ。でもでつね、よくよく考えると、小さな身体なのにその心を持つには力が必要でつ。ほら、あそこ、学校らしきものがありまつよ」


 遠目にちっこい屋敷とグラウンドがあって、そこで妖精の中でも子供らしき通常の妖精よりももっと小さな身体の妖精が大勢魔法の練習をしていた。


「あれは先生役が趣味な娘が教えています。私たちは基本暇なので、遊びも色々なんです」


「その言葉で理解したぜ。この国の妖精たちが異常に強いんだ。本来は特性による魔法と強力な身体能力しかないから、強いといってもそこまで強くないはずなのに、こいつら暇だから鍛えてるんだ」


「ありゃ、最初から強かったんでつか。努力で強くなったのではなく、さらに強くなったのでつね」


 パチリと指を鳴らして、マコトが言う。その言葉で納得する。なんだ、努力しなくても最初から強いのね。まぁ、そうしないと妖精は簡単に捕まえられるか。


 ……そしてここは食糧を探さなくてもよい場所だから、妖精たちは様々な遊びを取り入れたと。その中で強さを求める人や文化を高める人もいたのだ。しかも趣味だから、どんどんと追究レベルは高くなっていったのだろう。


「あ〜。趣味って最強だよね。遊ぶ種類も知的なレベルのがあるのかぁ。遊び好きな妖精……現実だとこうなっちゃうのかぁ。僕、少し勘違いしてたや」


「そうでやすね。たしかに遊ぶことしかないなら、あっしも知的な遊びを追究しやす。知的勇者ガイですぜ」


 ふぁんたじーを見くびっていたよとランカが苦笑して、ガイは知的な遊びというが、ガイの知的な遊びはチンチロリンやパチンコでしょ。それかナンパ。


「ふふ、驚いたでしょう? やることがないとこうなるんです。ちなみに私は妖精の神秘的なところを追究しています。最強であり、謎の生命体。その名は妖精」


「頭が四つに割れたりしなければ、好きにやってくれだぜ」


 フンスとセフィが胸を張りながら自分の趣味を教えてくれるが、君の趣味は厨二病でしょ。この世界にはそんな言葉はないけど。あと、謎の生命体は語呂が少しキモいから、マコトがセフィの言葉に苦笑するのもわかります。


「全部ミニチュアサイズなのが残念でつね。彫刻とかも凄そうな……。ミニチュアじゃないのもありまつか」


 木の根元に近づくと、巨大な宮殿が目に入ってきた。50メートルは高さがある美しい花と木の宮殿だ。その横に10メートルはある木のゴーレムが数体門番としている。木だと思う。なんだか緑がかっていたり、黒色だったりするけど。


「人間が入れるように昔建物を建てるのが趣味な妖精たちが建てたんです。ほら、せっかく人間が訪問してきたのに、宮殿内に入れないと悲しいでしょう?」


「扉も普通の屋敷レベルで……扉の横にあるちっこい猫の出入り用みたいな扉が妖精用でつか。凝りすぎ」


 人間なんて全然来ないだろうに用意するとはドン引きです。趣味人は求めるレベルが高すぎる。そして、ステータスが高い妖精でも、この巨人な扉を開けるのは面倒らしく、扉横のちっこい猫用扉みたいなところから出入りしていた。


「この扉、何回ぐらい開けたことあるんでつか?」


 凄い気になります。意外と勇者っぽいのが出入りしていたり


「たまにメンテナンスのために開ける以外は一度もないですね。聞いた話だと、遥か昔に英雄が傷つき倒れて」


「一度もないよ。妖精が先導しないとそもそもここに来れないし、はぐれ妖精は妖精国に帰ろうなんて思わないし」


 俺の髪を編み上げながら、妖精が口を挟む。幼女の髪の毛には今や数人の妖精が住んでいる模様。そしてセフィの言葉は確実に信用できないとわかったよ。伝説的話は全て疑った方が良さそう。


「では初の人間の訪問者のために、城扉を開きましょう。ミスリルツリーゴーレムよ、扉を開けよ!」


 その言葉に門番の役目をしていた巨大なゴーレムが扉を開く。ごつい手なのに意外と滑らかに開いていき、中がチラリと覗けて……。


「ぎゃー!」


「ひょえー」


「うひぃ!」


「げげっ!」


 アイ、ガイ、ランカ、マコトは思わず悲鳴をあげてしまう。


 なぜならば……。


「きゃー! 幼女よ!」

「この娘、ぷにぷによ、肌がすべすべよ!」

「共人の子供なんて初めて見たわ」

「狐人の尻尾ももふもふよ!」

「髭もじゃは捨てない?」


 天丼かよと叫びたかったが、その余裕もなかった。初めてこの異世界で心底恐怖を覚えたのかもしれない。


 だって、叫ぶと口の中に入ってきそうなのだ。なにがと問われれば妖精が。


 中には蝗害みたいに大量の妖精たちが待ち構えていたのだ。どうやら城の中で待っていたらしい。数万人の妖精が身体に群がってくるので、耳を手で抑えて、目をつむり口を閉じてしゃがみ込む。


 見目麗しい妖精でもこんなに大量にいれば不気味極まりない。身体にビッシリと妖精が張り付いてきたのだ。食べられるかもと、幼女は涙目となり、狐はあわわと慌てて、山賊は捨てられそうになっていた。


 妖精たちは好き勝手喋りまくり、冷静なのはダツだけである。誰か助けて欲しい。昔のパニック映画の鳥かよと、その気持ち悪さにパニクろうとする幼女であったが


「騒々しい! 静かにしなさい!」


 凛とした声が響き渡る。薄目にチラリと目を開くと、凝った衣装のドレスを着込んだ黄金の王冠を緑のロングヘアーの頭にのせて、王笏を手に持った妖精が奥から現れた。


 その立派な威厳ある姿はこの妖精が女王だと否が応でも理解させられた。その顔には自信が満ちあふれており、佇まいも立派なものである。


 廊下をフヨフヨと浮きながら進んでくる女王の姿を見て、妖精たちは蜘蛛の子を散らすように逃げて……。


 逃げていかなかった。


「なんかティターニアが来たよ」

「王座だと幼女がこれなさそうだから、来たんだよ」

「千里眼の魔法でずっと覗いていたし」

「まだかしら、まだかしらって、呟いていたしね」


 あんまり敬われていないみたい。女王は顔を真っ赤にして地団駄を踏み始めた。


「うるさいうるさいうるさい〜。ティターニアが女王なの! 10年前の女王選手権で妾が勝ったんだから、文句言わないで!」


「さよけ」


 ティターニアの言葉に、妖精ってこんなんばかりなのとジト目になる黒幕幼女であった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ことあるごとにポイされそうになるガイ! [気になる点] 死んでる間おっさんの自宅に保管されてたんですねー、前は外から見えないようになってたけど未来だと木だけは見えるようにとかされてるのかな…
[一言] 寝ていた時の樹って前作の大樹ですよね?魂が眠る場所みたいな役割あったんですね、まさに世界樹!
[一言] 不定期更新とは一体…うごご しかしこの妖精国と交易したら色んな意味でヤバそうですね。 工芸品とかのレベルが飛び抜けてそうです。
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