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黒幕幼女の異世界ゲーム  作者: バッド
6章 妖精の国に行くんだぜ
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62話 妖精国への道を進む黒幕幼女

 獣道よりはマシなのだろうか。馬車が2台並んで通れる道が鬱蒼と繁茂する草木と聳え立つ木々の中にあった。未だに道が残っているとは、遥か昔のタイタン王国の本気度がわかるというものだ。かなりの苦労をして道を作り上げたのだろう。雑草が生えないようになにかしてあるっぽい。


「兵どもが夢の跡、でつか。諸行無常でつね」


 馬車の先頭にマコトと共に歩きながらアイは呟く。ぱっちりおめめは、なにか錆びた武具がないかなと調べてもいた。実にセコいが、錆びた武具って、なんとなく期待ができるんだもん。


 意味がない武具と攻略サイトで書いてあっても、捨てられないのだ。ケチではない、なんとなく本能が捨てるなと叫んじゃうのだ。仕方ないよね。


「あ〜、また来た」


 さらに先頭を進んでいるマコトが言うのと同時に、木々からガイが数体襲いかかってきた。違った、毛むくじゃらだけど、違う生命体だ。魔物とも言う。


「ウッキー」


 2メートルはある大柄な猿。オランウータンに似た魔物がマコトに襲いかかる。手に棍棒を持っており、思いきり振り下ろす。


「悪いんだけど、あたしにはいかなる攻撃も効かないんだぜ」


 フッとニヒルに笑うマコト。懸命に棍棒を魔物は振り下ろすが、青い半透明の水晶の壁がマコトの前に現れて、激しく攻撃をしてもまったく効いてはいなかった。


 得意気にする妖精に、なるほどねとアイは感心する。何気にマコトが攻撃を受けるのを見るのは初めてだけど、まったく壁が壊れる様子は見えない。これなら盾に使えるねと非道なことも考えちゃう。よくゲームで不死のイベントキャラを前線で扱き使うのと同じである。攻撃方法がないのが、残念だけど。


「コイツラの名前はウォードモンキー。平均ステータス12、すばやさが少し高いんだぜ」


 余裕を見せるマコト。強者の雰囲気を醸し出すが、ウォードモンキーたちが諦めずにガンガン叩くので顔を顰める。


 そこへダツたちの放った矢が正確にウォードモンキーたちへと降り注ぎ、あっさりと倒れるのであった。


「にしても、結構な魔物とのエンカウント率でつね。これで猿1、狼3も手に入りまちたし」


 素材が結構手に入ったので喜ぶ幼女である。


「ここまでゴブリンやオークも現れたのに、ドロップ率は酷かったけどな」


「あーあー、聞こえなーい。きっと不具合でつ。お詫びのアイテムが運営から貰えると信じてまつ」


 耳を抑えて、現実逃避します。ランダムエンカウントはきっとドロップ率が物凄い悪いのだ、そうに違いない、そうに決まった。


 幼女の中ではランダムエンカウントはドロップ率が悪いことに決まりました。決定事項なので、記憶に書き込んでおきます。


「そうだ! 課金、課金があれば! 多分ノーマルガチャしかしてないからドロップ率が悪いのかも」


 きっとそうだ、課金をするとドロップ率が目に見えて良くなるのだと、新たなる仕様も考える中の人。課金ゲームをやらせてはいけない筆頭である。きっと財布が空になるまで課金をするに違いない。マトモに稼げるような歳にはスマフォゲームが無くなったことをおっさんは喜ぶべきだろう。


「アイたん、ドロップ率アップの方法があったら、僕たちは全力で止めるからね。皆の給与まで使い込みそうだし」


「親分はゲーム運はなかったんでやすね。意外ですぜ」


 ランカとガイの呆れた言葉に小石を蹴って不貞腐れる。運は良くないのだ、だから地道に運に頼らない方法でやってきているでしょ。ゲーム運がないから幼女になったのだ。もう自分の身体で証明してる。


 幼女が不貞腐れるのも可愛いねと、ランカが手を動かすとパシャパシャ音がしたが、深く突っ込むのはやめて気を取り直す。幼女は都合の悪いことを忘れるのが得意なのだ。中のおっさんがそうなのかもしれない。たぶんおっさん。


「ドロップはともかくいつになったら、妖精の国に着くんでつかね? 結構歩いたと思うけど」


 妖精の国は結構近いと聞いていたが、里から出てもう二日目である。野宿は辛いのだ。ゲーム筐体の中で寝ていても辛いのだ。水浴びもできないし、ご飯もしっかりと作れないし。


 頬をプクッと膨らませて、てこてこと幼女はマコトの後ろをついていき、ガイとランカが笑いながらついていき


「そこの丘を越えれば妖精の国ですよ。見知らぬ訪問者たちよ」


 突如として前方から声がかけられて、瞬時に皆は真剣な表情で身構える。


「なにもんだ! って、妖精たちかよ」


「たちの悪い出現をするんだね」


 すぐにガイとランカが武器を身構えてアイを守るために前に出る。なんだかんだ言っても、二人共アイを大事に思っているのがその姿からわかった。


 いつの間にか前方には数十人の手のひらサイズの少女たちが浮かんでいた。皆、透明な蝶々の翅を羽ばたかせて、騎士のようなミニチュアサイズの素材が木に見える胸当てをつけ、槍を構えている。


 その中でも、緑髪ショートヘアの切れ長の目の美しい顔立ちの少女が前に出てくる。他の妖精と違い、見るだけでも強力な魔法を感じさせる意匠の美しい胸当てに、腰にもきらびやかなレイピアを下げていて、小粒なれど綺麗な宝石がいくつもはめられた銀のサークレットに、ネックレスや指輪もつけていた。


 ちょっと今まで出会った者たちとは一線を画す。完全装備の強者がアイの前に現れたのだ。手乗り妖精みたいな小ささだけど。


「私は妖精の国マグ・メルが第一王女セフィ。汝らはなぜ私たちの国に来た? そこの見慣れぬ妖精を先導にして」


 小さい身体なのに、よく通る涼やかな声でセフィが推何してくる。


「おぉ〜! ふぁんたじー! なんというか、初めてかもしれない優しいふぁんたじー!」


 キャー、とアイは飛び跳ねちゃう。だって、今まで殺伐とした異世界しか見てこなかったのだ。妖精サイコー。


「妖精なんて初めて見まちた! こんにちは、妖精さん」


 可愛らしい笑みでペコリと頭を下げてご挨拶である。喜びを全身で表して、幼女の立場を悪用して。幼女パワーで好感度を上げることに躊躇いがないおっさんである。


「ぬ? 人間の子供? このようなところに?」


「おい、妖精ならあたしがいるだろ。こんなに可愛らしい妖精マコトがいるだろ」


 セフィはアイを見て、こんなに危険な場所に幼女がと戸惑い、マコトはウキーと怒っていた。マコトは妖精じゃなくて、キグルミを着た人間だろ。たぶんそうだと思います。


 アホで生活力がなさそうなマコトをスルーして、セフィたちをキラキラおめめで見つめちゃう。


「キャー、子供よ子供」

「妖精の国に遊びに来たの?」

「この娘、プニプニよ、プニプニよ」

「狐もモフモフよ」

「髭もじゃは捨てない?」


 なにか可愛らしい娘がいるわと、シリアスなセフィを置いて、他の妖精たちが群がってきた。楽しいことが大好きな妖精らしい。しかも人間の子供などほとんど見たことがないから大喜びである。


 キャーキャーともみくちゃにされながら、幼女は輝くような笑みとなる。やっぱり異世界はこうじゃないとねと。山賊が数人の妖精に抱えられて、森へと捨てられそうになっているが、幻覚だろう。


 というか、数人でガイを運べるとは……。話に聞いていた強さを誇るらしい。


「ええい! 皆、真面目にやれ! 私も幼女のほっぺをプニプニしたい! じゃなくて侵入者よ、なんのようだ!」


 ムキーと地団駄を踏み悔しがるセフィ。その悔しがる姿はコメディチックではあるが……。この魔物が蔓延る森林で誰も警戒していないことに気づく。こんな小さな身体なのに、外敵を気にしていないのだ。


「あたちたちは、妖精の国と同盟を結びに来た月光の支部長アイでつ。こちらは最強の妖精マコト」


 さらりと挨拶を返すと、キャッキャッと幼女にお触りを繰り返していた妖精たちの動きが止まる。


「あたしは月光最強の妖精マコトだぜ! お前ら同族だろ、よろしくな」


 マコトがビシッと指を突き出して挨拶すると、妖精たちはフヨフヨとセフィの後ろへと戻っていく。なにかまずいことを言っちゃったかな?


 なぜ妖精たちが戻ったのかはセフィを見ればわかる。その身体から噴き出す魔力により、セフィの周りの空気が歪んでいるのだから。


「貴様……妖精族最強だと騙るのか? マコトとやら」


 睨むその姿は物理的に力がありそうで、それを見た皆はたじろぐが、マコトはまったく気がつかないようで、フンスと息を吐いて胸を張る。


「あぁ、あたしは最強なんだぜ。お前らなんて指一本で倒せちゃう強さを持つからな」


「ほぅ、最強とは私のことを言うのだと思っていたのだが。良いだろう、同盟だかなにかは知らないが、話を女王に取り次いでやろうではないか。ただし! 私とマコトが戦いマコトが勝ったらな!」


 セフィはマコトへと指を指して決然とした様子で語る。どうやら自分の力に絶対的自信を持っている模様。


「というか、センジンの里から続いて決闘でつか。脳筋すぎでしょ、皆」


「なんか異世界って、世紀末救世主伝説みたいな世界ですよね。力こそが全てっていうか」


 呆れる幼女に森林に捨てられそうになっていたガイが脱出してきて言う。たしかに異世界って、そんな一面があるわ。まぁ、ここらへんはどこでも同じなのかね。


「良いじゃん、良いじゃん。マコトが勝てば良いんだから。話が早くて僕はさんせー」


「う、ん〜。マコトもやる気そうだしいっか」


 いつの間にかマコトは服装を武闘着へと着替えていた。赤い武闘着で背中に丸い白抜きの中にマコトと書いてある。芸が細かすぎる妖精であった。


「良いぜ! このマコトが相手をしてやるぜ、勝負の方法はそうだな……アイに決めてもらうぜ!」


 チラリとこちらを見て、パチリとウインクをマコトがしてくる。どうやらアイに勝負方法はぶん投げる様子。相変わらずの考えなしである。


「わかりまちた! それではスリリングな勝負方法でよいでつか、セフィ?」


 むふふと人懐っこそうな子犬のような笑みで幼女が告げると、セフィはニヤリと不敵に笑って胸を張るって頷く。


「良いでしょう。いかに不利な勝負方法でも構いませんよ? 私はどんな勝負でも負けることはありませんので」


「さすがは第一王女でつ。それでは勝負方法は」


「勝負方法は?」


 皆が幼女へと視線を集めてくるので、息をたくさん吸い込んで口を開く。


「おはぎデスマッチ! あたちがこの黒い塊を我慢しながら食べ終えるまでに、セフィがマコトを倒したら勝ちでつ! 倒せなかったら、マコトの勝ち〜」


 あ、おはぎってこれねと、あんこに包まれた物。即ちおはぎを食糧倉庫からたくさん取り出す。ついでに机やら椅子も。地球産の木々で鉄を使ってない組み立て式だから、倉庫に机も椅子も木の器も入るのだ。ふふふふ。


 セフィたちはその光景を見て驚いた。なにもないところから次々と物を取り出す幼女に。伝説の無限ズタ袋でも持っているのかと思ったが、そんな様子も見えないからだ。


 そしてそれ以上におはぎの不味そうな様子に怯んだ。


「あたちは頑張ってなるべく早くおはぎを食べまつ。マコト頑張って〜」


 涙目で叫ぶ幼女を見て、マコトのために頑張って見るからに不味そうな食べ物、腐っているかもしれないものを食べようなんて、なんて気高い心の持ち主だとセフィは感動しちゃう。


「良いでしょう。ただしアイの頑張りは無駄。一瞬で戦いは終わります」


 セフィはレイピアを手に持ち、マコトへと自信たっぷりに宣言して、黒幕幼女はこんな物を食べようなんて、俺は偉いよねと内心であくどい笑みを浮かべるのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ナチュラルに妖精から省かれてるマコトには(笑)というか、マコトは攻撃方法無いらしいから最初からチャンピオン防衛戦一択しかありませんな。 [気になる点] 沢山取り出したからお腹いっぱいで最後…
[一言] おはぎ怖い! まさかの勝負方法過ぎてさすがに笑いました。
[一言] おやつ食べながら観戦してるだけじゃん! 言われてみるとオハギの見た目は微妙だ。
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