61話 里へと行く前の黒幕幼女
これはセンジンの里に到着する前の少し前の話である。アイの作戦がどのような話であったか? 物凄い適当極まる作戦であるのだが……。
天幕の中でアイたちが集まって、作戦会議をしていた。メンバーはマコト、ガイ、ランカだけだが。
「チートを使いまくる?」
マコトがフヨフヨと宙を浮きながら驚きの声をあげるのを、アイはコクリと頷く。
それも当然であろう。アイは今まではチートを隠れるように使用してきたのに、センジンの里では使用しまくると宣言したのだから。
「センジンの里は、普通に攻略すると攻略サイトが必要になるレベルじゃないかと思うでつ」
なんだか面倒くさい匂いがするんだよ。俺の勘がそう言ってる。時間をかけたくないのだが。既に王都を10日も離れているし、帰還を考えれば一ヶ月は留守にするだろうし。
今回は地味に旅行してきたのだ。なぜかは理由がある。荷物を積んだ馬車は格納できないし、帰りも一緒にいたという実績が欲しい。ちなみにリバーシは途中の街で全部売れました。今頃はコピー品が出回っているかもね。
「あ〜、あれでしょ? こちら蛇! 敵拠点へと侵入する! とか言うの」
ランカが腕を振り上げて、なにかの真似をするが、それはサイボーグになった人じゃね?
「お前よく知ってるな。あれは結構古いゲームですぜ?」
ガイがツッコミを入れるが、今のランカは15歳だが……うん、なんでもないです、ランカさん。
「小さい頃に家族がやってたんだよ。えっと、なにかを使用して隠れたような」
「ワーワーワーワー! それから先は禁句だぜ、あいつが降りちまう! 禁止〜、禁止だからな〜」
なぜかマコトがあたふたと慌てるがなんだろう? まぁ、特に気にしなくて良いか。それより話を戻さないとな。
「なんかね、幻視しちゃうんでつ。普通に里へと入ったら囲まれて捕縛されてたり、あたちが人質になったりして、ミアの父さんが助けに来たり、ケインの辛い過去が判明したり、ガイがあたちを庇って死んだり」
「あ〜、すっごいありそうな話なんだぜ。そうしてレジスタンスと合流してお使いクエストとかやったりな。たしかに時間がかかりそうだぜ」
「ねぇ、今変な展開がありやせんでした? ねぇ、親分?」
お前は不死だから良いでしょ、とガイの抗議はスルーして話を続ける。
「なので、時間をかけたくないんでつ。王都にギュンターを置いてまつが、彼は防衛には強い。でも商人との取引には弱い。逐一報告は受けていまつが、報告だけではわからないことがありまつからね」
「それじゃあ、どうやって攻略するの? 僕をアイたんが操って里を破壊する?」
ランカよ、俺は破壊魔じゃないよ? 蜂の巣じゃないんだよ? 俺にも常識はあるんだ。
「ここは女神様的解放作戦でいきまつ」
「女神様的? なにそれ?」
「有名な話でつ。ミュータントに支配されていた地区を女神様が解放した際に使用した手法。じゃんじゃん食べ物を皆に配って、ミュータントボスを倒す。信頼関係も結ばれて簡単に地区も解放できる」
ちっこい人差し指をフリフリ振って、得意気に語る。俺の言いたいことわかってくれた?
「なるほど、ボスを王様に見立てて、住民を支配されている人間と見ると。たしかに話に聞く限り悲惨な暮らしをセンジンの里の人間はしていそうだもんな。でもチートを使って良いのか?」
「マコト、それが今回の肝なんでつ。センジンの里は隔離されていまつ。あたちのチートが広まる可能性は極めて低い。なので、フルに作物の手を使いまつ。山と米や野菜をあげましょう、オニギリが良いでつね、バーンと配りましょ、配りましょったら、配りましょ」
「それでランカが王様を倒すわけですかい?」
ガイが最終確認をしてくるが少し違う。センジンの里は月光のもたらす物のアンダーカバーになってもらいたい。まぁ、妖精の国との交渉が上手く行けば大々的に、駄目なら小規模で。
「王様は残しまつ。あたちに感謝するように仕組みまつよ。里に強大な敵が現れた時に守れる人が欲しいでつし、里を守るために誰かを配属させるほど、人材は豊富じゃないでつしね」
話を聞く限り、里の者のために動く王様らしい。傭兵団の方が儲かっていたのに、貧乏な里へと帰ってきたらしいし。辣腕を振りかざして、それまでの戦士階級の何人かを追い出したらしいが、それも里の者のためだったんだろう。
ニコリと小首を傾げて、花咲くような笑みにて黒幕幼女は作戦内容を告げるのであった。
そうして、話は現在に戻る。要は食べ物配ってボスを懲らしめるだけの適当な作戦でした。
決闘が終わった次の日。ルノスの屋敷内で黒幕幼女はルノスたちから話を聞いていた。
なんの話かというと
「間違いない。我も若い頃少し見に行ったのだ。花咲き乱れる園に多くの妖精がいた。魔法で酷い目にあったがな」
「やはりそうなのでつね。聞く話によると100万のタイタン王国の兵士をあっさりと撃退したとか」
「あくまでも伝説だが。その話は肩にいる妖精の方が詳しいんじゃないか?」
ルノスが俺の肩に乗るマコトを見て、戸惑うように言うが、マコトは似非妖精だから。こいつは妖精の皮をかぶったアホだから。
「あたしは別の妖精の国から来たから、その話は知らないんだぜ」
翅を羽ばたかせて告げる妖精に、なるほどねとルノスたちは納得する。妖精の恐ろしさをよく知っている様子であるが、里の後ろへとあるのならば当り前だろう。
「良いでつね。あたちは妖精国という独立国家にして、他の国から干渉されない、しかも小さく支配欲もない国に注目しまちた。かの国と月光は同盟を結びたいのでつ」
椅子に深く凭れかかって、フフフとボスらしい姿を見せちゃう幼女。毎回やるがこのシチュエーションは最高だねと、フンフンと笑顔で椅子をぎぃぎぃ揺らしていたので、ルノスたちには謎めいたボスに見えたに違いない。きっとそうだ、ご機嫌で椅子を揺らしている幼女にしか見えないなんてあるわけがない。
「妖精の……同盟を成されてどうなさるので?」
ベイスというルノスの副官が尋ねてくるので、鷹揚に頷く。眠そうじゃないよ。頷いているんだよ。
「この里を通って交易をしまつ。里は大きくなる可能性を伴いまつので、大工さんも手配しておきましょ」
俺には構想がある。それ即ち作物チートなり。妖精が話を聞いてくれれば良いんだけど……。
タイタン王国の貴族が手を出せずに、それでいて交易はしたい相手。妖精国はピッタリだ。
期待しているぜマコト。同じ妖精だよね? 背中にチャックなんかついてないよな?
チラリとフヨフヨ羽ばたくマコトを見る。あたしの国では、大人気の女優でさ、もうお金も使い切れない程あって、ファンが常に出待ちをしていて困ったもんだったぜ、とか話している。
うん、あんまり期待はできない。期待はできないけど、頼りにするしかない。大丈夫かなぁ。
不安でいっぱいの幼女である。自分の力で解決できない時は不安なのだ。いや、マコトだからかもしれない。いつまで話を捏造しているんだろう。ルノスたちもフンフンと頷かない!
「朝ご飯だニャ〜」
ミアが話は終わったのかなと、てこてこと部屋に入ってきた。お盆には木の器に盛られたご飯が大盛りで入っている。
早くも米食に慣れてしまった模様。順応が早すぎる獣人たちだ。野菜炒めも皿に乗せられている。味付けは塩だけだけど。
「おう、待ってたぞ。早速頂こう」
ニヤリと牙を剥き出しにして、ルノスがスプーンで米をかっこむ。野菜炒めを少し口に入れておかずにすると、またもや米を食いまくる。あっという間に空っぽになって木の器をミアに突き出す。
「うむ、美味い! お代わり!」
見るとミアも食べ終えていた。は〜いと機嫌良く自分の器も持って台所に戻っていく。ん〜、なんというか平和だ。ミアは里を逃げ出したヒロインじゃなかったっけ? そんなイベントがなかったかのように仲が良い。
イベントスキップをして、ストーリーを破壊したであろう幼女は自覚なくその様子を眺めていたので、たちが悪かった。
要は腹いっぱいになれば、問題ないのだろう。
「親分……この飯はお粥みたいなんですが? 紛れもなくお粥なんですが? 醤油か味噌貰えません?」
「調味料は駄目でつよ。さすがに目立ちすぎまつ。というか、ガイはどんだけ舌が肥えてるんでつか! 米を炊くのは難しいから仕方ないでしょ」
昨日は幼女が先生として張り付いていたから、ちゃんと炊けたのだ。そしてルノスたちはお粥でも気にしない模様。ガツガツ食べてます。
それにしてもガイはどこのガイ原だよ、まったくもー。
「アイたん、これ貰うね」
ランカの手が伸びてきて、俺の皿の横にある物を少し取る。そうしてハグハグとお粥を食べる。
「あれ? ランカさん、それはなんでやすか? その黄色いのとか」
「野菜炒めでつね。どっからどう見ても野菜炒めでつ」
俺は空気を読んで、皆と同じ食べ物を食べるんだよ。なにか変?
「沢庵漬けじゃないですか! 幼女は嫌いですよね、こういうの」
サッと沢庵漬けをかっさらうガイ。なかなかやるようになったなガイよ。
成長したねと頷いて、そっとお粥を口に含む。まぁ、なかなか美味しいよ、元々お粥は塩が少しに高菜が少し入ってるぐらいだからな。うん、味があって美味しい。
「あ〜、お粥だと食べるの大変だぜ」
マコトが宙にういて、手を伸ばしてお粥を自作の超ちっこいスプーンでよそおうとしているけど、お粥の中に落ちるのは禁止だからな。
もう一口食べると、ほんのり甘くてホッとする。たまには朝粥も良いね。鰹節をエキスにして食べてみたいなぁ、美味しいんかな? 及第粥も食べてみたい。
海に行く必要があるけど、鰹節なんて作れないよなぁ、と梅干しを口にして、酸っぱいと顔を顰める幼女だった。
「あれれ? あっしの目の錯覚かな? なんだか色々親分だけ、ご飯の友があるように見えますけど、あれれ?」
ガイよ、気のせいだ。
その頃のギュンター。
「アイ様はいらっしゃらないのですか、ギュンター様?」
「うむ、シル殿。姫は現在他国に行っておる。しばらく戻らん」
「そうなんですか……兄がお会いしたいと言っておりまして。それなら仕方ないですわね。ところで何をしに他国へ?」
「それは月光の機密事項だ。話す訳には行かないな」
ギュンターは疲れながらもシルの問いを躱していた。この少女はなにか儲け話があるのではと、あれやこれや尋ねてくるので、相手にするととても疲れるのだ。
「ギュンター様、家具部門の方たちがいらっしゃいました」
部屋がノックされて、了承するとマーサが入ってきて報告してくる。
内心でホッとしつつ、まだ会議があるのかと嘆息してしまう。
「悪いがシル殿。これから会議なのだ、今日はこれまでとしよう」
「わかりましたわ。ですが、兄がお会いしたいと煩くて……。また次に相談しに参りますわね」
ペコリと頭を下げて、微笑みを浮かべながら帰るシルをマーサが見送る。
ギュンターは肩をぐるぐると回してからボヤく。
「文官が必要だな。しかし文官となればこの地に精通していなければならぬ。う〜む、現地の人間を雇う必要があるか……」
難しい問題だ。姫はどうなさるつもりだろうとかんがえながら、お疲れの聖騎士は次の会議に向かうのであった。