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黒幕幼女の異世界ゲーム  作者: バッド
1章 プロローグなんだぜ
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6話 幼女は王都に入り込む

 タイタン王国の門前に立ち、門番は人々の流れを暇そうに眺めていた。怪しい人間は尋問する役目があるのだが、そのやる気のない目を見れば、そんなことをするつもりがないことが、他人にはわかるだろう。


 安い賃金でそんなことを門番はしたくない。というか、怪しい人間の基準がわからない。


 それにそんな役目は貴族門の門番からだ。あそこからは通行するのに通行証も必要になるし。門番も鍛えられた騎士様であり、王都の門番である兵士の自分とは力が違う。


 王都の門番は危険な魔物が現れたら門を閉めて時間稼ぎをするのが、主な役目である。そんなことが起きないように祈るが、王都でさえ、たまに凶悪な魔物が流れてくることがあるので、運悪くその時に門番のシフトに入っていないことを祈るしかない。


 さすがにその時に敵前逃亡したら、かなりの金を積まなくては罪は免れないし、そもそも金があったら門番などしていない。


 まぁ、それでも滅多にないことだし、職があるだけマシだ。スラムの連中みたいにはなりたくない。


 正門を通り過ぎる人々の中でボロボロの服を着て、裸足で通過していく奴を見ていつもそう思う。あいつらは森へと食べれる物を探しに行っているが……。平原近くの森の浅い層にはそんな物はない。とっくに取られ尽くして奥へと行けば、今度は魔物の餌になるだけである。


 実際に朝出掛けていき、夕方に帰ってくる奴が少なくなっているのを何回か気づいたことがある。


 だからなんだと、特に気にすることもないとあくびをして、少し怪しい奴を見かけた。


 山賊のような毛皮の服を着込み、切れ味鋭そうな斧と剣を腰につけている大柄な男。まぁ、そんな奴もいるので特に気にはならなかったが、その隣でてこてこと歩く幼女が気になった。


 見たことの無い服装だった。ローブだろうか? 上半身のみローブ?を着込みフードを被っている。ズボンはなんの布地かわからない。上等そうで、隣の男が連れて行く子供には見えない。


「こんなでかい街が近くにあったんでつね」


「森を突き抜けて来たんで、反対側に来ちまったんですよ」


 言葉遣いはともかく、その流暢な言語は王族や貴族、魔法使いが使う言葉であった。純粋な共通語ってやつだった。


 とすると、偽装しているが貴族? それか権力争いで破れたか、他の国の落ちぶれた貴族の落胤か……。山賊のような男もそう見ると、騎士っぽい。


 これは怪しいと門番は確信して


 通り過ぎる二人をそのまま傍観した。どちらにしても面倒事に繋がる。危ういことには首を突っ込まない方が良い。


 そうして門番は再びあくび混じりに立ち番を続けるのであった。




 ノシノシと自信に満ち溢れる態度で隣を歩くガイを見て、ふむんとアイは頷いた。


「キャラは消耗素材1でステータスを上げられるのかぁ。あたちのステータスを上げるのは消耗素材100が必要だけど」


 あれからマコトに聞きながら、キャラ作成をアイはした。とりあえずガイは続投ということで、ゴブリン✕50を使い、ちから、ぼうぎょ30すばやさ20に上げて、剣術2、火魔法2を覚えさせた新たなるガイを作成したのである。


 ガイマークツーである。本人はガイでお願いしますとお願いしてきたけど。


 回復魔法はというと


「知識因子を消費させれば、あたちも覚えられるのでつね」


 アイ自身が覚えた。回復魔法でキャラを回復させるぐらいなら、そのまま使い捨てにしよう作戦である。それを聞いたガイの絶望的な表情が印象的でした。


 とりあえず自分が死んでは終わりであり、ピンチの時にキャラが側にいるかはわからないから、自身が覚えたのだ。


 ちなみにガイに覚えさせたあとに、回復魔法をアイが覚えても、知識因子から消えたら、ガイのスキルもその時に消えると説明を受けていた。回復魔法をまた手に入れないと、アイが覚えたスキルはキャラに与えられないらしい。


 これでゲームキャラ作成はばっちりなのかな? でも、自我のある2体目は創ってない。まだ、わかっていないこともあるに違いない。


「それよりもこの都市でっかいでつ」


 キョロキョロとお上りさんのように辺りを見回す。興味津々で周りを見る幼女の姿は可愛らしい。中身はおっさんだが。


 都市は石を積まれた30メートルぐらいの分厚い外壁に守られていた。さらに奥にも2つの内壁があり、中心に武骨な城が建っていた。たぶん貴族街と城を守る壁だろう。


 家々が立ち並び、石畳が道に続く。大勢の人々や馬車が行き交っており、意外にもガラス窓が所々の家々で使われている。


 道の端に排水口が見えるので下水道があるのだろう。と、すると上水道もあるのだろうか。馬車を牽く馬は馬糞をもりもりと出していないので、道はゴミや汚れは多少目につくが綺麗なものだ。外へとゴミやらを中世のヨーロッパみたいに捨てる家も無い様子。


「正しいファンタジー世界でつね」


「あぁ、あたしもそれは警戒していたが安心したぜ」


 アイとマコトは仲良く胸を撫で下ろす。これこそファンタジー。魔法とかで上下水道を操っているのかなぁ。それならロマンが溢れちゃうね。


「それよりもそろそろ夕方になりやすぜ親分。宿はどうしやすか?」


 ガイが聞いてくるので、アイはどうしようかと迷って周りを見渡す。文字が読めない人間は多いはず。筆記を平民に広げるには条件がある。即ち子供が働かないでも大丈夫な豊かな生活だ。国で寺子屋みたいなのを作っても、結局は裕福な家の子供達だけが通うことになるのだ。


 アイの目には子供が働いている姿も見える。薪を重そうに運ぶ子供。水を汲んで来たのか水瓶を持って家に入っていく子供と。


 そしてなによりも、店の看板がわかりやすかった。絵しか書いておらず、文字が書かれていない。文字が書いてないのは無意味だと店主が理解しているからだ。


「あのぅ……お宿をお探しですか?」


 こんなふうに声をかけてくるガイドもいるしね。常に貧困層がいる街はこのようなガイドが地球でもいたのであるからして。


 振り返ると、8歳ぐらいの子供がアイに声をかけてきていた。気弱そうな表情で見てくるので同情心が普通の人なら湧くだろうが……。


「なかなか使えそうなガイドでつね。雇いましょう。この街のことも教えてください」


 フスンと息を吐いてアイは胸を張って得意げに言った。


「なんで使えるって、わかるんだ?」


 マコトの言葉に同様にガイも不思議そうにしているのを、ちらりと横目で見てガイへと答える。マコトだと見えない相手に話す幼女になっちゃうので。まぁ、幼女ならまだ不思議ちゃん扱いで、セーフかなぁ? 


「まず一つ。周りのガイドはガイを恐れて声をかけてこない。なにしろ武装していまつ。試し斬りで斬ってきそうな悪人ヅラなので当たり前でつが。それなのに声をかけてきまちた」


 傷ついた表情になるガイだが、山賊が涙目になっても同情心は沸かないのが世界の真実なのだ。幼女にならば同情を買うこと確実だけどね。


「次はあたちに声をかけたことでつ。ガイがさり気なくあたちを守る立ち位置になってることに気づいて、あたちの方が偉いと声をかけてきたこと」


「えっと、貴女が偉そうにしていたからなんだけど……あっ、ごめんなさい!」


「すいやせん、親分。あとでさり気なく守る立ち位置なやり方を教えてくだせえ」


 傷ついた表情になるアイ。なぜに格好をつけて名探偵アイになっていたのに、真実を言っちゃうの? 幼女なあたちは涙目になりますよ? 涙腺も緩いのでつよ? 幼女なので。くそう幼女の身体め。あと、ガイはあとでお仕置きだ。


 明後日の方向を向いて、こほんと咳をして幼女は誤魔化しちゃう。


「なんでもいいでつ。こいつは使える奴なのでつよ」


 口を尖らせて地団駄を踏み言い切る幼女。どうやら開き直った模様。幼女は開き直ることも得意なのだ。どんどん幼女の社会的地位を落とすおっさんである。精神年齢が着々と下がっているのは間違いない。


「とりあえず……宿屋を教えてもらいまつ。食事が美味しくてそこそこの値段のところがきぼーでつね」


「それなら銀貨1枚で泊まれる所があるよ! えっと、ありますよ」


 急に元気になった子供を見てアイもマコトもガイも苦笑する。これが素でおとなしそうなのは演技なのだろうことがわかった。


「ん〜、良心的ながらもう少し高いところでもいいでつよ?」


 ゴブリンの集落では大量の通貨があったのだ。銀貨も300枚はあった。銅貨は1万枚ぐらい。どれほどの人間がやられたのかがわかる。っと、そうだった。確かめないと


「それなら銀貨2枚で」


「待ったでつ。この銀貨と銅貨はこの都市で使えまつか?」


 手で制して通貨を見せると、不思議そうに通貨を眺めながらコクリと頷く。たぶんこの都市から出たことが無いから他の通貨を見たことがないに違いない反応に安堵する。問題はなさそうだ。


「えっと、続けて良い? 銀貨2枚のところがあるんだ! 毎日干し草を変えているから清潔だよ!」


 うん、そうだね。干し草をね。なるほど。ちくせう、やはりハードな異世界だこれ。幼女は清潔のレベルが時代によって、世界によって違うことを痛感した。できればライトな異世界で普通のベッドが標準装備が良かったです。なんでライトな異世界じゃないんだー!


 落ち込むアイに少女は話を続ける。


「両替所に先に行く? 国の経営している所なら手数料2割、民間はピンキリかな」


 その予想外の言葉にピクリと眉を動かして反応する。


 おっと、どうやらこちらが通貨を見せたのを正確に理解していた模様。見誤っていたが、これ程頭が良いなら情報収集にちょうど良い。たぶん通貨を交換する必要があるか確認してきたと思ったのだろう。まさか使えるかどうかもわかっていなかったとは思うまい。


「銀貨2枚のところが貴女の紹介できる限界なんでつね。わかりまちた。そこにしますが条件が一つ。ご飯を奢りますので食べながらこの都市の通貨のレートや他に色々教えてください」


 ちっこい指をフリフリ振って、謎めいた雰囲気を出そうとするアイだが、おっさんならば謎めいて通報されただろうが、幼女だと背伸びしているようにしか悲しいかな見えなかった。そして地球で通報されたことを思い出して、おっさんはますます悲しくなった。


「やったー! もちろん受けるよ! 私の名前はララ、貴女の名前は?」


 飛び上がって喜ぶ少女が自己紹介をしてきたので、ニコリとアイは可憐に微笑み挨拶を返す。


「あたちの名前はアイでつ。よろちくお願いちまつ」


「俺の名前はガイです。よろしくな嬢ちゃん」


「まさかのご飯奢りなんて幸運だったよ。ありがとうねアイちゃん。こっちについてきて!」


 ララはスキップをしながら移動を始めるので、幼女は似合わないとそろそろ気づいても良いだろうに気づかずに肩をすくめて自分ではクールだと思いながら歩き始める。


「あの少女……スラムの子供でつよね? それにしては頭が良い……」


 裸足のララを眺めながら呟くようにアイは言って


「たった今あたしはあいつに頼み込んでバージョンアップされたぞ! 念話スキル距離無限大を手に入れたからハブるなよな! これでマコトと電話と考えれば念話が繋がるからな! ハブるなよな! お前にも念話スキルつけてもらったから! あたしと作成したゲームキャラ限定通信で」


「女神様に頼みこみまちたか。早い対応でつね。王都では話せないと気づきまちたね?」


 耳元で焦ったようにマコトが大声をあげながら伝えてくるので、念話スキルは助かるねと、宿屋に到着するまでに作戦を練ろうと考える幼女であった。

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] (≧∀≦)しれっと山賊勇者復活!前回のラストで光の粒子になったから唖然としたけど良かった、しかし死の記憶は残ってんのね… [気になる点] あんだけゴブリンが蔓延った地域のすぐ近くが王都、こ…
[一言] ガイさん復活はや! この調子で死を重ねつつガイ百式へと進化して欲しいものです。金色でつ。
[一言] 門番って賄賂を渡したら通してくれるテンプレキャラだと思ってる。 この怪しい人に一切関わらずに傍観してくれる門番は賢くて良い人…。 人間の替わりに番犬を雇った方が役に立つだろうなってたまに…
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