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黒幕幼女の異世界ゲーム  作者: バッド
1章 プロローグなんだぜ

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5話 ゲームプレイヤーな幼女

 ゲーム筐体に飛び込むようにドアを開けて入り込んだアイは初めて見るゲーム筐体の中身を素早く確認する。内装は暗く240度画面。パネルが浮くように椅子の前面に配置してあり、レバーとボタン、フッドペダルが備え付けられているのが見える。


 ゲーム画面はまだ開始していないので、真っ暗だが薄明かりの中でコイン投入口が確認できた。


 アイはソファみたいにふかふかの椅子へと、ていっと飛び乗ってちっこいおててにコインを握る。キラリと光る金色のコインには金髪ツインテールの美しい少女が彫られており、ニッコリと笑顔を浮かべていた。


 ゲームの説明は受けている。たしか……。


「全部脳波リンクシステムでちたね!」


 レバーやボタン、フッドペダルは飾りであったりした。声も脳波リンクされているので、キャラに喋らせることができる高性能っぷりだ。ちなみに操作中はガイの自我は封印されて、様子を見ることだけができる仕様。


 まぁ、そもそも人間を操作するのにレバーやボタンでは無理があるからだけど。


「コイン投入で〜つ!」


 1日に9枚しか使えないコインを、えいやっと勢いよく投入する。


 ちゃららら〜と格闘ゲームみたいなBGMが流れて、キャラを選んでくださいと表示される。無論キャラはやられ役の山賊キャラっぽいガイしかいない。


 脳波リンクシステムだけど、なんとなくレバーを操作して、ガイを選びボタンを押す。


 その瞬間に自身に情報が流れ込む。格闘、斧の技術、そしてガイの操作の仕方。これならば完全に使いこなせる。自身のプレイヤースキルとは関係なしに。一体感を感じ、それに加えて自身の経験もフィードバックされるのだ。


「さてさて、それじゃゲーム開始といきまつか」


 悪戯っ子はニヤリと笑いレバーを押し倒すのであった。




 陰から陰へと忍び寄り、見つけた獲物を氷球で覆い殺して食べる恐ろしい森の魔物、シャドウアライグマは戸惑っていた。


 最初は奇襲に成功したと喜んだ。人間が無防備にゴブリンを食べていたのだ。どんな動物も食事中は周りへと注意が疎かになる。そのそばには子供もいて、喰いがいがあると氷球に覆われて慌てる人間を見てほくそ笑んだ。


 口元を覆う氷を壊したみたいだがまだ氷球は放てる魔力はある。連続で氷球を撃ち、頭と手を封じれば終わりだと考えていたのだが、急に暴れるのを止めてピタリと静止したのだ。


 まだまだ敵の余力は残っているはずと注意をする。子供がなにかの箱に入ると、箱ごと消え去ったのも気になる。


 用心深いことで生き残ってきたシャドウアライグマは、人間に近寄ろうと足をそろりと前へと1歩踏み出したと同時に。


「なるほど、こうなるわけか」


 人間から声が聞こえて、その気配が変わった。先程とは比べ物にならない強者の威圧感を放ち、その頭を覆う氷をあっさりとなにもしていないのに砕く。


 キラキラと氷の破片が飛び散る中で、まるで人が変わったような雰囲気を出す男は獣のような笑みを浮かべるのであった。




 黒いアライグマが怯えて後退るのを、ガイの身体を操るアイはニヤリと笑った。まるでガイになってるように一体感を感じる。


 幼女に操られるなんて、素晴らしいと紳士が列を作って俺も俺もとお願いしてくるかもしれないシステム。ゲーム筐体。感覚も少しだがフィードバックされているので、痛みがないことを利用した攻撃も受けることはない。


 そして身体に流れ込む万能感をアイは感じていた。これなら目の前の敵を倒せるだろう。


 モニターには5時間のタイマーが現れるので、さっさと倒して止めるか、次のアクションを取るべきだ。


 肩にマコトが乗るのを感じながら、アイは魔法の斧を握る。既にガイとなっているアイはアライグマを睨む。


「パワーゲインが3倍になったんだ。悪いが俺の勝ちだ」


 ガイの口から発せられるのはアイの言葉だが、どうやらゲームキャラを通すと、ゲームキャラの口調に変わる模様。そしてセリフネタが古いアイである。

 

 アライグマは生み出していた氷球を放ってくる。敢えて動かずにその攻撃を受けるアイ。先程までなら氷に覆われてしまうのだろうが……。


「はぁっ!」


 気合の一言で氷は砕けて舞い散る。ステータスが3倍となったので強力になったレジストにより、その力を氷は無くしたのだ。だが、氷は消えることはなく細かい破片となって舞い散るのを見て、ふむんとアイは肩に乗るマコトへと確認する。


「これ魔法だよな? 消えないで残るのか?」


「あぁ、現象としては残るけど、その点は微妙だぜ。元々存在する氷とか炎を操れば、そのまんま残る。けど、今みたいな氷を生み出す場合はすぐに溶けて消えちまうぜ。炎も同じで延焼しないですぐに消えちまうんだ。たとえ油に炎を入れてもな。魔法不思議現象ってやつなんだぜ。例外はクリエイト系魔法だけだな。あれは物を創造する魔法だからな。滅多に使い手はいないはずだけど」


「なるほど、遠慮なく魔法を使えるわけか」


 魔法って便利だねと納得しながら、アライグマを倒すことにする。一応確認したいことは確認できたわけだし。


 ガイのでかい図体を操作する。ドンッと地面を破裂させたように土を巻き上げて、アイは飛び上がり、太い木の幹へと足をつける。ドンッドンッと鈍い音をたてながら、アイは木の幹を踏み込みで抉り、空中をジグザクに移動する。


 まるで猿のようなその動きにアライグマはついていけず、キョロキョロと空を見上げて、撃ち落とそうと氷球を次々と放つ。


 だが、ぎりぎりで氷球はアイの横を通り過ぎて当たることはない。焦るアライグマがまたも後退るのを見て、アイは狙い目だとニヤリと笑う。ガイの身体の笑みなので凶悪だ。捕まってもおかしくない。でも捕まっても大丈夫。ガイが捕まるだけなので。


 陰に潜り込もうとするのを見てとり、魔力を斧に漲らせる。


「斧技 トマホーク」


 魔法の斧は赤い光に包まれて、アイが筋肉ではちきれんばかりの腕をふるう。斧は空中で激しく回転して、それを見たアライグマは陰に飛び込むが、トマホークは不可思議なる魔法の技である。


 その軌道はあり得ない軌道で曲がり陰へと命中するのであった。


 陰へと命中した瞬間にアライグマが飛び出てくる。その身体には斧がめり込み、激しく血を吹き出していた。


「リターン」


 斧を引き戻し手元に戻す。


「いっけー! ハイパワーアックス斬りだ〜!」


「マコト、耳元で叫ぶな! ネタが古い!」

 

 両手に斧を掴み、大きく振りかぶりアイは勢いよく空から舞い降りて、苦しむアライグマの首を両断する。血を吹き出して、よろりと倒れ伏すのを、スタンと足を地につけてアイは見下ろすのであった。


「自動修復」


 呟くと、斧が輝き血糊が消えて元に戻る。


「お、影術スキル1、氷球を覚えたぜ。氷球はスキルレベルの無い特殊因子だな。クマ素材は手に入らなかったみたいだぜ」


 マコトがすぐにドロップに気づく。


「ほうほう、ちょっと待って」


 筐体内に意識を戻して、ステータスボードを見ると、たしかにマコトの言うとおりのアイテムが入っていた。消耗しない知識因子だ。バンザーイと、ちっこいおててを掲げて喜んじゃう。


 影術レベル1は1メートル範囲内の影から影へと移動できる。ダメージを与えるには魔法の武器ではないといけない。


 氷球は最大50センチの氷球を生み出して敵をその中に封印する。


「ん〜、影術は森のような場所じゃないと、このスキルレベルだと使えないでつね。氷球は対人に使えそう」


 幼女はソファに寄りかかり、さてととレバーを握り直す。すぐに意識はガイの身体に移り、マコトへと斧を肩にかけながら言う。


「さて、コインを投入したし、このまま駆けるぞ。4時間は遊ぶから」


「お、ノリノリだな。それじゃ遊ぶとするか。出発だぜ!」


 山賊幼女はニヤリと笑って、森の中へと駆けていくのであった。




 3時間後………


「ガーイ! 死ぬんじゃないでつ、ガーイ!」


 幼女は地に横たわる山賊の手を握り、泣き叫んで……はいなかったが、とりあえず叫んでいた。


 ガイは血だらけになり、力無くぷるぷると震えて倒れている。その身体は傷ついており、血だらけであった。身体のそこかしこに刺し傷や切り傷、殴られた痕も見える。


 周囲にはゴブリンの死体が大量に転がっており、原始的な木の家が見えるが、壊れたり燃えたりしていた。この光景を見るだけで激戦があったとわかる。


「お、親分。あっしは役に立ちましたか? ゴフッゴフッ」


 血を吐きながら、弱々しい声で尋ねるガイへとアイはコクコクと悲しげに……悲しげではなく興味深く頷く。


「あぁ、役に立ったでつ。ゲームキャラも血を吐いたり、急所へのダメージがはいるんでつね。これ死体はどうなるんでつか?」


「死体は任意で消せるぜ。粒子になって消えたら怪しまれちゃうからな。だけど、一週間で自動で消えちゃうし、薬や武器の素材にも死体はできないから気をつけないと加工した武器や薬はなんの効果もないということになるから、注意しないとだぜ。ちなみにデフォルトで持っている魔法の武器とかも消えちゃうからな」


 マコトの回答によく考えられているなぁと、アイは感心しちゃう。女神様もゲーマーなのだろうか? これじゃ裏技は使いようがない。


「次に生まれる時も親分の部下として生まれて、きた、いです」


 パタンと手が力を無くして落ちるので、ポイッと放って立ちあがろうとすると、再びガイが目をカッと見開く。


「そこはわかったと答えてくだせえ! 絶対に蘇らせてくだせえよ? ここまでこき使ったんですから! お願いですぜ? ガクッ」


 コントみたいな倒れ方をして、遂にガイは息を引き取った。さらばガイ、ありがとうガイ、君のお陰だ勇者ガイ。


 アイとマコトは空にキランと浮かぶガイの幻影に敬礼をする。幻影のガイは笑顔だが、実際はきっと泣き叫んでいたに違いない。


「ちょっとやりすぎまちたね」


「そうだぜ。無理しすぎだぜ」


「ヒットポイントは1残れば良いと思っていたんでつよ。出血ダメージとか部位破壊ダメージがあるんでつね。べんきょーになりまちた」


「酷えぜ」


 ゴブリンの集落を襲ったアイたち。ワラワラと現れるゴブリンとホブゴブリン、そしてゴブリンシャーマンにゴブリンリーダーを苦労して倒したのだ。たぶん敵はどんな攻撃を受けても動きが変わらなかったガイをゾンビかなにかだと思ったに違いない。


 敵にも味方にも容赦ない幼女であった。


「だけど、大量に素材が手に入りまちた。それに貯め込んだ通貨っぽい物も」


 ステータスボードに映るのは大量の素材。


 消耗素材、ゴブリン✕57、ホブゴブリン✕2、知識因子、剣術2、火魔法2(ファイアアロー、エンチャントファイア)、回復魔法2(ヒール、アンチドーテ)である。


 通貨は銅貨に銀貨が大量にジャラジャラとあった。人骨も大量にあったので、なにが起こったかは推測できる。残念ながら金貨はなかった。


「魔法は相手が覚えている魔法しか手に入らないぜ」


「了解。技も同じでつよね? スキル2を大量に取れば技が増えまつか?」


「レベル2までのならな。だけど拙い技術で多くの技を使える人は他人に怪しまれるぜ?」


「そこは使いようでつね……。他にもステータスの上げ方や、あたちのスキル習得の方法も聞きたいでつが」


 ひまわりの咲くような笑顔で幼女は元気に宣言しちゃう。


「そろそろ近場の村とかを探しましょー!」


「おー! 腹も減ったしな!」


 てこてこと、その場を離れる二人であった。放置されたガイの死体が後ろで粒子となって消えていった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] かつて、ダイゴウジガイ、というキャラの濃い割に早々に死んだ男が居りまして。 [一言] くたびれたおっさんと違って、マスクデータの好感度とか全く気にしないんですね。 マスクデータが絶対…
[一言] ダン○インw
[一言] ガイ、お前は役に立つイイヤツだったぞ。 また、会える日までさらば。
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