表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒幕幼女の異世界ゲーム  作者: バッド
5章 スラム街をなくすんだぜ
49/311

49話 支配地を見て回る黒幕幼女

 てこてことアイは新たに手に入れたスラム街を散策していた。古くからあるスラム街だから、なにか違うのかな? 観光名所でもあるかしらんと、わくわくしながら。


 だが、他の地域となにも変わらなかったので、頬をぷくっと膨らませてつまらないと思っていた。いったいなにをスラム街に求めていたのか不明な幼女である。


 ゲームみたいに、怪しげなゲートとか、モニュメントがあるかと期待していたのだ。だって、ふぁんたじーなんだもん。なにかあると思うでしょ。ふつー。


 ふつーの定義がゲーム基準な幼女がここにいた。


「あれが支部長様よ」

「あのごついのがか」

「いや、あの影の薄い小悪党じゃなくて、その隣」

「あの狐人がか」

「いや、幼女の方らしい」

「なんにせよ、新たなボスは素晴らしい方だ」


 昨日までスラム街で腹を減らしていた住人たちが、炊き出しのシチューを食べながらこちらを物珍しそうに見て話している。


 マコト、ガイ、ギュンター、ランカを連れて歩く幼女の可愛らしい姿を見つめてきていた。フンフンと鼻を鳴らしながらちっこい手足をぶんぶんと振りながら歩くその姿は愛らしい。


 口いっぱいにシチューを入れて、食べ終わるとまた炊き出しの列に並ぶので、しっかりとしていると思いながら、彼らに幼女スマイルを向ける。


「炊き出しは一日一回でつ。でもたーくさんありまつし、あとでお仕事を斡旋するので、安心してください。いつもニコニコ月光支部をよろしくでつ」


 可愛らしいそのスマイルに人々は顔を緩ませ、炊き出しがあることと、仕事を斡旋してくれることに嬉しく思い、コクコクと頷き、笑顔を浮かべるのであった。


「なんだか、言い回しがブラック企業の求人募集みたいだぜ」


「マコト、一言多いでつ」


 いらんことを言うマコトへと素早く切り返す。草鞋作りに壁の建設、他にもたくさんの仕事を作る予定なのだ。


「あはは。アイたんは相変わらずだなぁ、仕事がたくさんあるのは良いことだよね」


 クスクスと狐人のランカが笑う。そのとおりだろ、仕事があるのは良いことだ、しかもマトモな仕事を斡旋するのだから、俺はもしかして彼らにとって女神様かな?


 新たな女神なら、タスキにめがみと書いて肩にかけないといけないなと、女神の加護を受けているおっさんは思ったりしていたので、着実に女神の加護はおっさんを侵食している可能性が高い。


 スラム街は昨日とうってかわって、賑やかな様子を見せている。満足げに幼女はその光景を見てから、ギュンターへと顔を向ける。


「全員揃っていまつか?」


「はい、姫。北西スラム街のボスの生き残りたちが」


「うむ、それではいきましょー。このスラム街の人たちは他と違う職種の方々だし」


 きっと使える奴らがいるだろう。王都の裏側ゲットだぜ、と幼女はフンフンと鼻息荒くてってこと歩いて行くのであった。




 昨日のボス屋敷は、今日は幼女の屋敷となっている。相変わらずオンボロ屋敷である。綺麗な屋敷にするという考えはなかったのかな?


 大勢の人たちが広間に集まっている。人相の悪い男たちや、うらぶれているが、そこそこ美しい女性たち。ここの元ボスたちだ。


 跪き顔を俯けてる中を、トテトテと幼女が歩く。むふーむふーと鼻息荒くこれこそ黒幕だねと。でもよく考えたら裏世界のボスに見えないかなぁ? まぁ、表世界を支配するには基盤が必要だ、今はこれで良いだろう。


 椅子が用意されているので、んしょんしょと登る。この椅子、脚が高くない? 幼女には厳しいだろ。


「月光支部長のアイでつ。おもてをあげー」


 どこかの殿様のようなことを言う幼女。バカ殿様ごっこ遊びをしているように見えるが、本物である。


 元ボスたちは恐る恐る顔をあげて、マジで幼女だよと驚くが、横でギュンターが睨みつけるので、慌てて表情を隠す。


 ガイも同じように睨みつけているが、チンピラが因縁を吹っ掛けているようにしか見えないからやめろ。


「この地区はあたちの支配下となりまちた。異議のある者は前へ。ガイとの一騎打ちをさせてあげまつ」


 ええっ、あっしですかい、と驚くガイ。こいつらには負けないでしょ、なんでそこで後退るわけ?


 元ボスたちは顔を俯けて、誰も文句は言わないので、うんうんと幼女は満足する。


「では、とりあえずの月光の掟を。仲間を裏切るなと、悪さをするな、でつ。とはいえ、悪さをするなは難しい話でつから、頭に入れておくだけで良いでつ。ちなみに月光を裏切る場合は、人質をとられたり、脅迫されている以外は許しません。どうしても裏切らないといけない理由がある場合は一言相談してくださいね」


 ニッコリとひまわりの花のような可愛らしい笑みで告げるアイにボスたちは戸惑いながら頷く。もっと上納金とか、色々話があると思っていたのだ。


「あたちの斡旋する仕事を皆にはやって貰いまつが、強制ではありません。自分でなにか仕事を考えたらやってもらって良いでつ。あたちは自由を大事にしているので」


 とは言いつつも、それができたらスラム街にはいない。これから先はわからないけどね。


「では、盗賊団の人たち以外はそれで良しとしまつ。さて、盗賊団のボスは貴方でつか?」


 ホッと安堵の息を吐く元ボスたちの中で、ビクリと体を震わす平凡そうな男が一人。


「へい、お、俺が盗賊団の生き残りを一応纏めています。ほとんどの奴らは、その死んじまったんで」


「でしょうね。貴方はボスが連れて逃げなかった程度の幹部。なにをしていたんでつか?」


 一応聞いてはいるが、尋ねておく。


「商店などの下見をして、中の様子を親分、いえ、元親分に伝えました。泥棒の準備役ってところで……えへへ」


「その際の成功率は? 泥棒をした時の」


「七割って、ところですかね? 前情報と違う時もありやしたから」


 卑屈そうに笑う男。あんまり良い待遇ではなかったのだろう。まぁ、下見役とはたしかにそんな良い待遇を貰えなかったんだろう。だが、俺はこういう人を探していたのだよ。


 キランと目が輝いたのをランカが気づいて苦笑するが、良いんだよ、これはパフォーマンスを伴うイベントなんだぜ。


「つまらない仕事でつね」


「へ、へい。まったくそのとおりで……」


 同調する男へと手をフリフリと振って、椅子から、とやっと飛び降りる。


「違いまつ。つまらない仕事を有能な人へと任せていたということでつ」


「へ?」


 トテトテと近づいていて、戸惑う男の手をちっこいおててで握って、真面目な表情を作って告げる。


「泥棒に入る際の情報収集は大変だったはず。それをできるほどの人を泥棒の手伝いで使っていたのは、元ボスが馬鹿だったからでつ。あたちはそんな使い方をしません。情報収集が上手な貴方には違う仕事を任せたいと思いまつ」


「俺がゆうのう? 有能なんですか?」


 驚く男へと、小首を僅かに傾げて、幼女スマイルで言う。

 

「有能でつ。貴方には王都の様々な情報を集めて貰いたいんでつ。情報屋とかも知り合いにいるなら、金を払うので雇用をすると誘い月光の部下にしてほしいのでつ。情報が常に月光に入るように。貴方は情報部副部長として、ガイ部長の元で」


 ギュンターへと目を向けると、小袋を手渡してくれるので、そのまま男へと手渡す。


「これは情報を集める際のお金でつ。足りなければ遠慮なく申し出てくださいね?」


 男は小袋を覗き見て、驚愕で目を見張る。小袋にはぎっしりと金貨が詰まっていたのだ。


 ゴクリとつばを飲み込み、男は金貨をもう一度見る。こんなに金を貰えるとは思わなかった、今までのボスなら金貨1枚が良いところで、それも商会の下っ端や、少し偉い幹部へと渡すことで消えてしまっていた。泥棒が成功しても、報酬は銀貨数枚であり、命を賭けないのだから当り前だと、蔑まれてきたのだ。


 幼女へと、いや、支部長へと顔を向けて、その目に涙が浮かぶ。そんな俺を有能と言い、厚遇を約束してくれる方に


「お、お任せください! このイスパーが必ず支部長のお役に立つ情報を集めて参ります!」


 感動の面持ちで、床へと平伏して忠誠を誓うのであった。


 周りの連中も、支部長の太っ腹に感心して、好意的な視線となる。幼女のお腹はイカっ腹だけどね。


 フハハハ、これで情報を集める素地はできたぜ。貴族の情報は集めるのが難しいだろうけど、情報がないよりマシである。


 内心では、平坦なる胸を張って、高笑いをしちゃう幼女である。こういうイベントは大事なのだからして。皆の好意もあがり、忠誠度も上がるのだ。謁見イベントサイコー。


 もちろんこれだけで忠誠度が100になるとは考えていないけどね。環境を良くしてあげて、厚遇すれば自然に忠誠度は上がるだろう。


 スラム街は拠点としては最低だ。なにも施設はないし、産出するものもない。治安も悪いし、人々の生活は劣悪だ。マイナススタートもいいところだが、良いところが一つだけある。


 その環境をなんとかすれば、人々の好感度は爆上げするのだ。スラム街の人間という仲間意識も強くなる。かなり難しいが、成していけそうな手応えを感じている。


 今回のイベントも少しは噂になるだろうし、月光の基盤も着々とでき始めているのだ。他にもなにか感動的なサブイベントないかなぁ。


 計算ずくで行動する嫌な幼女がここにいた。そろそろ取り憑いているおっさんを浄化しないといけないかもしれない。


「えっと、あっしが情報部の部長ですかい?」


「そうでつ。サマル的な能力に、だいたいの敵は倒せる武力、目端も効くし逃げ足も速い。そして幹部には見えない小悪党っぷり。完璧でつ」


「最後はたんなる悪口に聞こえますぜ!」


 戸惑うガイの質問に答えてあげる。山賊の特性を活かせる良い仕事だ。まさか小悪党に見える能力が役に立つ日がくるとは、俺も思わんかった。


「ガイよ、良かったな。遊撃隊を持つ貴様なら相応しいぞ」


「よっ、ジェームズ、ガイ! 格好良いよ」


「すげーな、ヒロインと出会い放題だな、ガイ」


 ギュンターの爺さんと、ランカが褒めてマコトもパチパチと拍手をすると、ガイは照れながら、手を振る。


「あっしが情報部の部長ですかい。そう言われるとあっしにピッタリかも」


 どうやらやる気になった模様。顎に手をそえて、なぜか歯を剥き出しにする。


「あっしのことはこれからジェームズガイと呼んでくだせえ。ふふふ、ヒロインと出会い放題……ハッ! スミスにあっし専用のスパイ道具を作ってもらわねぇと。親分少し失礼します!」


 たんぽぽの綿毛のように、軽く調子に乗る男である。ドタバタと足音荒く部屋を出ていった。スーツも買わねぇとと呟いているが、この世界にはスーツはないぞ、ガイよ。


 なんだかアホっぽい空気が漂ってきたぜと、幼女は嫌な汗をかくが、まぁ、次にいこうっと。


「情報部の土台作りはガイと話し合ってくださいねイスパー」


 多少呆れた様子でガイを眺めていたイスパーが素直に頷くので、とりあえず情報部作成は任せる。


「では、次はイメーネさんのとこの娼婦さんたちの話でつ。良いでつか?」


「はい、支部長。なんでも聞いてくださいな」


 エルフの美女イメーネが笑顔で頷くので、もう一つイベントがあったねと、黒幕幼女は微笑むのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 山賊で小悪党なジェームズ・ガイ、これは多分女神様には受けるのではないでしょうか。 世間的には大赤字間違いないでつね…
[一言] イスパーさん、書き間違えてごめんなさい(>_<)
[良い点] 桶狭間で1番手柄を情報方とした第六天魔王様のような、はぐれぷにぷに支部長幼女(^.^)ナイスカリスマ。 [気になる点] パイスーさんはこれからいろいろ大変かも…(上司がガイなのはラッキーな…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ