41話 死の都市のクリア報酬を確認する黒幕幼女
門を潜り抜けると、またゾンビが現れたので、ガイと狼、アイで倒し尽くして、安全な場所まで移動して一息つく。
「ふぅ〜、疲れたでつ。幼女には辛い戦いでちた」
門から離れた場所は既に峡谷が見ており、グランドキャニオンの谷が広いバージョンみたいな感じ。といっても怪しげな色の草花が繁茂している谷であるが。
「今回の戦闘報酬は、ダークビショップ1(特性連続魔)、アンデッドナイト(特性配下強化)、人54、骨22、知識因子が、雷魔法5、水魔法5、回復魔法4、錬金術士2、無詠唱だな! 武器素材が魔樹の枝、吸魔のジルコニア。以上だぜ! あ、あとドロップしてスキルを手に入れた時なら社長にスキルを取得させれば、知識因子に持っているスキルが上書きされないようにパッチが適用されたぜ」
マコトの報告に少し驚いちゃう。予想以上の戦果だったからだ。それと、細かいけど、そのパッチは助かります。ありがとう女神様。これなら回復魔法を速攻俺が覚えれば、知識因子には前のスキルが残るので。
それにしても、だ。
「ダークビショップの戦果が凄くないでつか? もしかして幼女ボーナス?」
ドロップ率が凄いねと、幼女は目をキラキラと輝かす。ボスボーナスとかもあるのかな? いや、俺のドロップ率の真価がついに発揮されたのだ。フハハハ。
「ダークビショップは18種類の魔法と5つのスキルを持っていたから、当たり前じゃないか?」
「さよけ」
マコトの言葉にキラキラおめめは、どんよりおめめとなっちゃう。
さすがビショップ。様々な魔法やスキルを持っていたのね。あーそーですか。いつもどおりのドロップ率でした。いつもの俺のドロップ率でした〜。
頬をプクッと膨らませて、石ころを蹴りいじける幼女であった。しかもアンデッドナイトの知識因子のドロップが一つもないし。
そうか、魔力の関係でダークビショップは使う魔法を絞っていたのか。そうだよね、色々な魔法を覚えても、戦闘では最強の魔法を使いまくるよね。
「仕方ないでつね。回復魔法は貰っておきまつ。新たな魔法はキュアディジーズとハイヒール、リフレクトウーンズ? なにこれ?」
「敵へと唱えたあとの攻撃を一撃だけ跳ね返す魔法だな。ちなみに抵抗判定があるから、跳ね返らずにそのままダメージを負うこともあるぜ」
「ダークなビショップなだけはありまつね。まぁ、純粋に嬉しいでつ。それと錬金術もゲット。……しょぼい知識が入ってきた……低レベルだし仕方ないか。そんじゃ、ギュンター出てきて〜」
ギュンターを喚び出して、ハイヒールを唱え始める。
「でれでれでれ、ハイヒール!」
適当極まる詠唱でハイヒールを発動させる幼女。
パアッと強く優しい光がギュンターを包み、火傷を痕も残さずに消していく。が、まだ満タンではない。ヒットポイント100程度の回復だ。えいえいっ、と連続で使い完全回復に成功する。
「ハイヒールは欠損や古い傷は直せないけど、それ以外なら神経も治せるぜ。ギュンターの爺さんは完全に治ったな」
「ありがとうございます、姫」
ギュンターが跪き、感謝の言葉を口にするけど、うん、俺のゴリ押しのせいだから、あんまり感謝しないで?
自動修復を発動させて溶けかけていた鎧をギュンターは元に戻す。服も直したいところだが、替えがないなぁ。幼女なら服も下着も靴も全部直せるのに。
「ごめんね、ギュンター。でも、そのまま新ぼでぃに変えちゃおう。余裕あるし」
「良いのですか? もう元に戻りましたが?」
「今回のボス戦のごほーびでつ」
充分に戦えるとギュンター爺さんはアピールするけど、もっと聖騎士らしくなってほしいのだ。あと、服も直したい。もう一度ギュンターを格納して、ステータスボードを開く。
「では、ギュンターを新型に変えまつ!まずは人100を消費して、人+に! アンデッドナイト1をサブのぼうぎょに、骨70を消費、そしてスキルに片手剣4、騎乗術、槍術、弓術すべて3を追加!」
勢いよく、ステータスボードをちっこいおててで、ペシペシ叩いて、アイは叫ぶ。幼女がそんなことをすると、叩いちゃいけませんと、やんわりと怒られるかもしれない。おっさんの場合はパチンコ台を叩かないでくださいと店員さんに怒られて、パチンコ屋を出禁になります。
「ほんだらほんたらどかべがふんた」
幼女の言葉を耳にして、マコトが空に浮きながら、アイの周りをまわって、謎の盆踊りをする。卵ならなにか喚び出すつもり? 古いゲームを知っているなぁ。可愛らしいから、良いけど。
とりあえず、新型ギュンターはこんな感じ
ギュンター
職業︰聖騎士+
体力︰600
魔力︰300
ちから︰60
ぼうぎょ︰100
すばやさ︰50
特性︰呪い、精神攻撃、寄生無効、配下強化
スキル︰礼儀作法2、聖剣技4、格闘技2、剣術4、片手剣4、槍術3、弓術3、鎧術3、盾術3、騎乗術3、回復魔法2、気配察知2
装備︰魔法の片手剣、魔法の鎧、魔法のカイトシールド、魔法の弓矢、魔法の銀の槍、聖獣セイントホース、自動修復、自動帰還
これで、聖騎士らしくなったねと、うんうんと頷き
「新しい特性はないでつが、良い性能でつ」
「全部カンストさせれば良くね? 聖騎士だから、せめてぼうぎょぐらい」
うんうんと頷き満足げに腕を組むアイへとマコトが尋ねてくる。まぁ、せっかく+にしたのに、勿体無い感じはするよね。
「う〜ん、なんというか、特性で人間の能力を見れる奴がいたら、やばいと思ったんでつ。この性能なら、ぎりぎり騎士たちが驚いていた将軍級とかに見られるかなって。200カンストは人外かもしれないので、保留にしておきまつ」
「社長は用心深いなぁ。なるほどなぁ、200でも無敵とは言えないからな。装備もショボいし」
「その件なんでつが、なんで槍だけ銀の槍? 馬も聖獣と書いてありますし」
「聖騎士の爺さんは銀の槍と白馬ですねと、あいつが決めたんだぜ」
あ〜、たしかに炎のエンブレムなゲームならそうだなと苦笑しちゃう。俺はギュンターを使い続けるけどね。
「ずりぃー! ずるいですよ、親分! 職業に格差がありすぎですぜ! あっしも新型が良いです! 二枚目の騎士でお願いします」
ガイが装備の違いに抗議をしてくるが、仕方ないでしょ。聖騎士は優遇されているのだよ。そしてガイはサマルなキャラを目指すから騎士はない。
「セイントホースは平均ステータス30、素早さが高いぜ。それとヒールを使えるんだぜ」
「ほ〜、貴族に目をつけられそうな性能でつね……これは人の目が無いとき以外はヒールは使用禁止で」
その馬を寄越せと言われるかもしれないしね。なんでも用心深く使わないといけないのだよ。
さて、新型に変わったしと
「カモン、ギュンター!」
片手を振りあげて、再度ギュンターを喚び出す。魔法陣が宙に描かれてギュンター爺さんが現れる。
「あんまり見かけは変わらないですね?」
「まぁ、そんなに大幅の変更じゃないでつし、改良というところでつね」
ガイの感想に同意する。バージョンアップなんで、目新しい様子はない。ギュンターも手をわきわきと握っていたが、身体の能力を理解したのか、こちらを見る、
「そうですな。ただ、弓矢が良いと思いますし、銀の槍は鋼の槍の名品と同じ程度、ちからを50上げると知識があります」
「武器の明確なちからがわかったんでつね。それは収穫でちた。ミスリルがどの程度か気になるところでつが、上級騎士は鋼装備なので、どれほど強いか判明しまちたね」
「うへぇ、名品って一般の鋼装備とどれくらい変わるんですかね? 装備を整えれば、あいつらのステータスで強力な魔物と戦えるというわけですかい」
銀の槍の情報から、アイは鋼装備が上級騎士のステータスと同等の能力ではないかと推理する。ミスリルのちからを知りたいが、まぁ、いつか機会はあるだろう。ガイの言うことももっともだ。強力な魔物と戦える装備があるから、人類は国を作ってきたのだろう。
ダメージ計算式を現実では作れない。それでも情報があれば、少しは予想がつくだろう。ミスリルを使えばすぐにわかるけど、次の自我持ちキャラは騎士にするつもりはない。
「さて、では次の自我あるキャラを作りまつ。なぜか性別が女性に固定されているのが、気になりまつけど、凄く気になりまつけど……」
自我があるキャラを作るのだ! 元が誰かは精神衛生上考えてはいけないのだ。だって、幼女になっているからね!
「人100を使用して、人+に。サブをダークビショップ、レイスを使用。骨150を使用してステータスアップ! スキルはこれで、と、完成! 武器として魔樹の枝、吸魔のジルコニア使用!」
躊躇いなく片手を天に掲げて、幼女は魔法陣を描いて可愛らしい声音で叫ぶ。
「来い! 魔法使いランカ! できれば見てみぬふりをしながら!」
さり気なく弱気な幼女であったが、魔法陣が眩く輝き、少女が目を瞑った状態で降り立った。
ランカのステータスはこんな感じ。魔法使いの特性として、魔法威力強化がついている。そして獣人の狐人だ。
ランカ
職業︰魔法使い+
体力︰300
魔力︰700
ちから︰100
ぼうぎょ︰50
すばやさ︰30
特性︰呪い、精神攻撃、寄生無効、連続魔、浮遊、魔法威力強化
スキル︰火魔法2、雷魔法5、水魔法5、回復魔法2、影術1、気配察知2、無詠唱
装備︰吸魔の魔樹の杖、自動修復、自動帰還
金髪のストレートロング。キラキラと金髪が煌めき、ぴょこんと狐耳が生えている勝ち気そうだが美しい顔立ちの15歳ぐらいの美しい少女だ。太腿部分にスリットの入ったちょっと色気のある黒いローブにモフモフ尻尾、魔法使いの三角帽子をかぶった胸が少し残念な魔法使いの美少女である。
瞑っていた目をゆっくりと開けて、ランカは俺へと顔を向ける。
「新たなキャラ、魔法使いランカ、あたちは貴女のプレイヤー、アイでつ、よろしくでつ」
幼女がこんにちはと、挨拶をする。幼女の愛らしい挨拶に、普通の人は頭をナデナデしながら、こんにちはと返すのだが
「僕は魔法使いランカ、よ、よろし……ぶはっ! 本当だ、団長が幼女になっている! アハハハハハハ!」
腹を抱えて、地ベタに転がり爆笑し始めた。ちくせう。ガイとギュンターへ涙目になり、キッと睨むと二人共あらぬ方向へと顔を背けていた。ランカは絶対に隠さないと思っていた。アホだから。
「うっさい! 新たなゲームキャラでしょ? 自我があるキャラでしょ! ほれ、挨拶しろ、挨拶! 挨拶から人の付き合いは始まるのでつよ!」
「相変わらずだなぁ、は〜い、ブフッ、僕の名前はランカ。高火力な職業にしてくれてありがとうアイたん!」
笑いすぎて、涙目になったランカは目を擦りながらパチリとウインクしてくる。アイたん呼ばわりとは、こんにゃろー。
「この僕が来たからには、どんな敵も倒していけるから、安心してね! それにしても、この身体、凄く身体が軽い!」
くるくると回転して、嬉しがるランカ。おぉ、スリットな隙間から絶対領域がと、ガイがチラチラとランカを眺めて、ギュンターが渋い顔になる。
「なぁ、こいつおかしいぞ? 魔法使いの特性に魔法レベルと同じレベルのセージスキルがつくはずなのに、こいつにはない。なんでだ?」
マコトが首を傾げて不思議がる。セージって、たしか物知りになるスキルだったか、なるほど。
アハハハと機嫌良さそうにクルクル回転するランカを見て答える。
「あぁ、全然おかしくないよ。魔法使い職は失敗だったかもしれないでつ。こいつは理論より引き金を弾くのが好きなバトルジャンキーでつから」
まぁ、目立つし、月光の活動をカモフラージュしてくれるだろう。……してくれると良いなぁ。
どことなく不安げな表情を浮かべて、黒幕幼女はため息を吐くのであった。