40話 門のボスと戦う黒幕幼女
死の都市の一画。巨人の谷に続く門のすぐ近くで、この数日間戦いの音が響き渡っていた。
「ギュンター、じゃんじゃん敵を倒しまくれ! マコト、門のボスは動いていない? ガイ、突撃、突撃〜!」
幼女がちょろちょろと物陰から物陰に移動しながら叫ぶ。辺りにはゾンビやらスケルトンが迫り来るが、
ミス! しかし幼女をお触りすることはできなかった!
ミス! しかし幼女をお触りすることはできなかった!
ミス! しかし幼女をお触りすることはできなかった!
と、敵の攻撃を回避しまくっていた。小柄な体躯をひねり、壁を蹴り、屋根によじ登り、浮遊を使いフヨフヨと。はぐれぷにぷに幼女の力をフルに使っていた。当たってもダメージは入らないが、捕まえられたら、後ろから迫る敵に殺られちゃうのだ。
手に鋭く黄色い液体で濡らす爪を伸ばして、小走りでゾンビの間から迫り来る敵。
「グールだぜ! 平均ステータス10、麻痺毒がある爪を持っているから気をつけろよな! それとボスはまだ動いていないから、生命感知の範囲から外れていると思うぜ」
「ダメージが入るのがあたちだけとは面倒な敵でつね」
攻撃もあまり効かないが、それでも幼女のお肌を傷つけるので油断できない。爪のダメージを入れると60はぼうぎょが必要なのだろうと予測している。60までステータスを上げるのは無理だ。
「スクランブルスレイプニルアタァークッ!」
「ガイ様! その使い方は間違っています! 保険が効きませんよ〜」
勇者ガイがスレイプニルを敵へと突撃させて、脱出する。スレイプニルが悲鳴をあげながらゾンビたちを吹き飛ばす。
「うじゃうじゃとうるさい奴らだ! 立ち去れっ!」
剣を振り盾で敵を殴りながらギュンターが次々とゾンビたちを浄化させていく。数が少なくなったところでアイが小枝を振り回す。
「ぷいぷいっ! フリーズストーム」
ネタが古い幼女の魔法で後ろに控えるアンデッドメーカーを凍らせて倒すのであった。中のおっさんの歳がわかるかも。
周りの敵がいなくなったのを確認してから、皆は疲れてへたり込む。ゼーゼーと息を荒げて、水筒からゴクゴクと水を飲む。
「ふぃー。疲れまちたが、これで周辺の敵は倒しまちたか?」
「そうだな、門前の敵は全滅させたぜ、また中心地区から流れ込み始めたけど」
マコトが空から敵を確認して教えてくれる。
「門の前にボスなんて、ゲームですぜ、まったく」
「ですが、戦う準備はできましたな、姫」
ガイとギュンターのいうとおりだと頷き、ステータスをポチポチ押して確認する。
「人3357、骨4962、骨弓589、霊57……かなり溜まったし、あたちのステータスを上昇。骨を5000使用、骨弓を500使用して、ちからを15上げて30に、ぼうぎょを10上げて35に、すばやさを30上げて50にしまつ」
すばやさは装備でフォローできないので、すばやさ重視である。
自分の中の力が大幅に上がったのをアイは感じて、むふふと微笑んじゃう。これだけの速さなら敵の攻撃もなんとかできるはず。
「五日間もひたすら倒しまくってきたけど、全然中心区は減ってないなぁ。というか、早くしないとまたアンデッドで埋め尽くされるぜ」
「う〜ん、たぶん城にアンデッドを大量に産み出すボスがいるんでつよ。なんだかこれ以上倒しまくると、超強いモンスターが来そうな予感もするし、門のボスを倒しに行きましょー」
ゲームっぽいエリアだけど、アホでもなければ敵のボスは異変に気づくだろう。経験値稼ぎもここまでだ。
「というか、まさか門の前にボスがいるとはなぁ。予想外だったぜ」
後ろ手にしながら、マコトがフヨフヨ浮いて言う。たしかに門の前にボスがいるとは思わなかった。一時間で門へと移動したのだが、ジャラジャラした貴金属を身に着けた装飾の派手なローブのスケルトンが横に二匹の鎧に身を包んだスケルトンと共に門を守っていたのだ。
なので、ゲームっぽく周りの敵を倒して、リンクしないようにしてからボス戦に挑もうとした幼女たちである。
敵が次々と現れるので、かなりの数を倒したけど。門の前には強敵っぽい3匹以外にも200程のゾンビたちが見える。
壁の角に隠れて幼女は攻撃タイミングをはかりながら、少し不思議に思う。
「なぁ、マコト? これぐらいなら騎士団なら楽勝じゃない? ステータス的に」
装備を整えた騎士団なら、ゾンビやスケルトンは相手ではない。レイスは少し厄介だけど。
「いや、この死の都市は城から流れ込んでいる呪いの瘴気に覆われているからな、聖水で身体を護らないと、普通の人は歩く毎にヒットポイントが1減るぜ。しかもたぶん」
「ゾンビたちを相手にしていたら聖水の効果は消えるし、軍で来れば中心区の高レベルモンスターが反応すると。なるほどねぇ」
というか、どこまでゲームっぽいエリアなの? ここはゲーム世界? ゲーム世界なの? 呪いの無効化がなければヤバかった。そしてマコトは問いかけないと教えてくれないサポートキャラなの?
「よし、先制攻撃開始! 特技 真理より優れしものはなし! からからほいっ! フリーズストーム!」
ゲームでこのような戦闘はやってきたのだ。恐れることはない。氷雪が嵐となり、ボスを覆い隠す。
「よし、狼とガイとで雑魚殲滅!」
ピンとコインを弾いて、ちっこいおててに握りしめ、幼女はニヤリと犬歯を見せて微笑む。
「ゲームの始まりでつ」
門前の氷雪の嵐が消え去った後に、アンデッドらしくダメージを感じさせないボスたちへと、一息でギュンターは飛翔して肉薄する。バサリとローブを翻して、剣を振り上げるその姿は存在するだけで、周囲を威圧させていた。
「聖剣技 浄化の剣!」
剣が白く輝き、聖なる力を感じさせる一撃。聖剣技第二レベルの武技である。単体攻撃の悪魔、不死系へと特効の技、初めて使う力だ。
既にギュンターぼでぃに意識を移しているアイ。先制から一気呵成に倒すつもりな幼女なのだ。必殺技を使うのは最初なのだ。トドメに使うのはトドメ技なのだ。
ガスンと敵ボスの肩に袈裟斬りに入った聖剣であるが、肩も砕けずに多少揺らがせただけであった。
「この敵の名はダークビショップだぜ! ステータスちから120ぼうぎょ50すばやさ10だな! ヒットポイントは1800、かなりの高さだぜ!」
「そんなにヒットポイントが高いのか! と、するとこいつらもなのだな」
ダークビショップが羽虫を払うように、その手に持つ禍々しい装飾の杖を振るう。トンッと後ろに下がる騎士アイの前を力任せに振るわれた杖が風を巻き起こしすぎていく。
すぐに両隣にいる鎧を着たスケルトンが両手剣を振るおうと構える。だが、敵が剣を振るう前にアイは横薙ぎに魔力を込めて剣を振るう。
「聖剣技 ホーリースラッシュ」
ソードスラッシュの聖剣技版、ホーリースラッシュ。白き聖なる光により剣身が伸びる。すぐさまアイは横薙ぎに3匹の敵を薙ぎ払う、がやはり怯みもせずに鎧騎士が剣を振るってくる。
「鎧技 ハードアーマー、盾技 ビッグシールド!」
ぼうぎょ技を使い、鎧を硬くし、盾にて敵の両手剣を受け止める。ギシリと盾に剣が命中するが、盾を壊すほどの攻撃力はなく、敵の攻撃を無効化する。
「アンデッドナイトだぜ、平均ステータス70、ぼうぎょがかなりの高さで、すばやさはとてもとても低いぜ。ヒットポイントは1500だな!」
「なら、聖騎士の特性をフルに使わせてもらう!」
アンデッドナイトの横へと通り過ぎて、その際にペタリと触って聖なる炎に覆わせる。ジグザグに地を蹴り、ダークビショップと残りのアンデッドナイトも触っていく。
「継続ダメージ。ザッとゾンビを倒した際の浄化速度を考えると、1秒で3ダメージ、数分逃げ回ればっと、やはりすぐに消えるか!」
炎は抵抗されたのか、すぐに掻き消えてしまう。だが充分だ。
「聖騎士はタンク職、時間稼ぎならば儂の得意技よ!」
隙ありと、盾を構えながらペタリと触り、剣を振るう。再び燃え盛るアンデッドたち。聖騎士チートすぎるだろ。
どうやらアンデッドナイトは剣術が低いらしく、簡単にいなすことができるのだが
「ライトニング」
ダークビショップからの魔法が放たれる。その骨のみの指を騎士アイに向けると、紫電を放ち一条の雷光が撃ってくる。
身体がピリッとするが、ヒットポイントは20しか減っていない。
「ここはダークビショップ狙いで倒す!」
アンデッドナイトの攻撃はたいしたことがない。見掛け倒しの魔物らしい。ならば、ダークビショップだけを狙う。
アイが気合を入れて、ダークビショップへと間合いを詰める。ダークビショップは再びライトニングを放ってくるが、怯まずに連続でその胴体に剣を叩き込む。
「アンデッドナイトが呪技 死の瞳を使った、しかしアイには効かなかった。アンデッドナイトが呪技 死の瞳を使った。しかしアイには効かなかった」
マコトが棒読みっぽく呟く。なるほど、アンデッドナイトはヤバイ敵だったのね。雑魚だとかいってごめんなさい。剣がメインウェポンではなかったのか。
そしてマコトがゲームログ化している。暇なんだな、こんにゃろー。
だが、好都合。格上っぽいけど、倒しちゃうぜ。
青き鎧を着込み、聖なる炎を宿す騎士はどんどんダークビショップへと剣を叩き込み、常に継続ダメージを入れるために、タッチしていく。
「サンダーストーム」
怯まないところが、アンデッドの嫌なところだ。詠唱を止められないし……詠唱?
雷の嵐に覆われて、さらにダメージを負いながらも、気づいたことがある。あいつは詠唱してなくない?
ビシビシとダメージは入るが、まだまだギュンターは余裕だ。合計ダメージは50も受けていない。モニターに映るギュンターも余裕な表情だ。
「無詠唱スキルだぜ! 瞬間発動スキルはないみたいだな」
「マコト! それはフラグだ!」
思わずマコトの言葉にツッコむ。駄目だってそれは!
マコトの言葉がフラグとなったのか、このままだと倒されると考えたのか、ダークビショップの身体が黒く輝く。
「特技 連続魔」
ダークビショップの技に口元が引き攣る。その魔法は駄目だって!
「あ〜、連続魔は瞬間魔法発動、10秒間魔力の続く限りに」
「くっ、その前に倒す!」
気まずそうに頬をポリポリかく妖精を横目に、騎士アイも一気に倒すことに決める。たぶん全段当たるとギュンターぼでぃは破壊される。足を強く踏み込み、ダークビショップの胴体を横薙ぎにして、切り返して肩を袈裟斬りに入れる。
ダークビショップは昏き目を輝かせて、瞬間発動にて最大魔法を放ってくる。
「サンダーブレード」
天空から巨大な雷の剣が落ちてきて、ギュンターの身体を焼く。高ステータスの聖騎士のぼうぎょにより、抵抗は成功するがダメージは入ってしまう。47のヒットポイントが削られる。
「うぉぉぉぉ!」
怯まずに騎士アイも止まらずに剣を振るう。
「サンダーブレード」
「サンダーブレード」
「サンダーブレード」
「サンダーブレード」
「サンダーブレード」
ダークビショップの身体にヒビが入り、ボロボロとその身体は崩れてきていたが、それでも間に合わないかと歯を食いしばる。
「サンダーアロー」
「サンダーアロー」
が、次の魔法はしょぼかった。ダメージが3しか入らない雷の矢であった。
ニヤリと騎士アイは凄味を見せる笑いで、剣を大上段に構えて魔力をためる。
「そうか、魔力が尽きたのだな。あれだけ強力な魔法を撃ち続ければ当然でもある、か」
完全に魔力が尽きたのか、ダークビショップは杖を振るってくる。火傷だらけの身体であるが、それでも動きに淀みはなく、騎士アイはあっさりと盾で受け流し
「聖剣技 浄化の剣!」
態勢の崩れたダークビショップの首に聖なる一撃を叩き込み、トドメを刺す。そうして、ボロボロと灰になって門のボスは消えていく。
素早く残りのアンデッドナイトを倒そうと振り向くが、サンダーブレードの余波を受けて、もはや焼け焦げた塊となっていた。フレンドリーファイアを気にしないボスキャラだったのねと、ホーリースラッシュで倒しておく。
「すまないな。ゲーム操作中は決してダメージの積み重ねで動きが鈍ることはないのだ」
そう呟いて、アイは剣を仕舞う。普通の人間ならサンダーブレードの連発で痛みで怯み、火傷に苦しみ、意識は途絶え倒れていただろう。ゲームキャラならではの能力に助けられた。ギュンターは歯を食いしばり、痛みに耐えているが激痛が走っているはず。ガイなら泡を吹いて気絶しているレベルだ。
既に残りの敵は片付いている。
「とりあえずギュンターは格納。新ぼでぃへ切り替えよう。門を潜り抜けてから態勢を立て直しまつ」
やれやれと疲れ切ったガイを連れて、ギュンターを格納して死の都市を脱出する黒幕幼女であった。