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黒幕幼女の異世界ゲーム  作者: バッド
4章 騎士団と遊ぶんだぜ
39/311

39話 死の都市内の黒幕幼女

 死の都市から50キロ離れた丘に築かれているフラムレッド侯爵家の砦。死の都市から魔物が出てこないように建てられた武骨なる石の砦。その中でも錬金を駆使し、希少な素材を使用して建てられた高さ50メートルの見張り台。


 見張り番をしている男は定期的に行われている死の都市の状況を確認するために、死の都市のある方向へと目を向ける。


「特技 鷹の目」


 自分の直上100メートル程に視界が移動して、遠くに存在する死の都市を強化された瞳で確認する。遠く離れた場所から相手の様子を見ることができる能力、鷹の目である。固有スキルでも、そこまで希少なスキルではなく、ポピュラーであり、軍で重用されるスキルだ。


 代々、フラムレッドの砦で死の都市を見張っていた男はいつもの風景、ゾンビたちが溢れる死の都市の門が視界に入ると考えていたのだが


「なに? 人がいるな」


 思わず視界に入ってきた内容に呟く。隣でのんびりしていた同僚が、男を見て不思議そうに尋ねる。


「なにがあったか? ゾンビたちが移動して来たか?」


 まぁ、ゾンビたちが移動して来ても、あっさりと倒せるしなと笑う相手へと首を横に振り否定する男。


「いや、門前に人がいてな。珍しいだろ?」


「あぁ、また命知らずの一攫千金を目指す傭兵か。久しぶりだな、三年ぶりか?」


「……それがな、傭兵じゃない。騎士と魔法使いだな、門前のゾンビを全部倒して悠々と中に入って行きやがった。魔法使いが、その、なんだ、ハーフリングかなぁ」


 戸惑いながら、男は自信なさげに答える。魔法使いが幼女に見えたのだ。しかも、共人の。


「……貴族でも子供を死の都市には連れて行かないか。呪いを使う魔物がわんさかいるしな」


「しかし騎士と魔法使いか。英雄伝説みたいに死の都市の支配者を倒しに来たのか? 無謀な試みだと思うがな」


 ハハハと馬鹿にしたように笑う同僚に伝えたら良いか迷う。ゾンビたちが白い炎に覆われていたことを。あの老騎士の固有スキルなのだろうか?


 しばらく迷うが、男は黙っていることに決めた。なんにせよ、危険はなさそうだし問題ないだろうと考えて。


 



 死の都市の中は古びた廃墟に、立派な建物がそこらに混在する混沌とした街並みであった。瓦礫が道路をしばしば塞ぎ、ゾンビたちが徘徊し、どこからか女性の悲鳴が聞こえてくる。


「ファイアアロー!」


 小枝を振りかざし、魔法幼女が炎の矢を生み出し放つ。その先にはゾンビがいるが、そのさらに後ろにいたジャンボゾンビへと飛来していく。三メートル程度の背丈と太った身体を持つジャンボゾンビに炎の矢は突き刺さるが、歩みを変えずにノシノシと近づいてきた。


「追撃! 弓技 パワーアロー!」


 ガイがエンチャントファイアを付与した矢を弓技にて放つ。魔力に覆われた矢は丸太のような大きさとなり、ジャンボゾンビの頭を吹き飛ばす。


「むぅ、あたちのファイアアローでは倒せませんか」


 ジャンボゾンビへとあまりダメージが通らなかったアイは小さな舌で舌打ちをしちゃう。


「スケルトンたちもきたぜ! 後ろからはレイスも!」


 マコトの言葉に身構えるアイ。骨の大群がカシャカシャと軽い音をたてながら現れて、後ろからは半透明の身体を持つ悪霊レイスが空を蛇行しながら飛んでくる。悲痛な生者を憎むレイスが、その朧気な手をこちらへと向けながら迫ってきた。


「スケルトンは平均5、ダメージを与える方法はゾンビと同じ。レイスは力が20、ぼうぎょ0、すばやさ10だぜ! 聖なる武器か魔法しか効かないから気をつけろよな! 攻撃方法は呪いのドレインタッチで吸いつくされたらレイスになるぜ!」


「ガイ! スレイプニルにエンチャントファイアをして、スケルトンの群れに突撃! ギュンターは引き続きゾンビたちを倒していくのでつ! レイスはあたちが倒しまつ!」


 うりゃ、と魔法の短剣を近づくレイスへと向けるアイ。


「オロロロロ〜」


 レイスが不気味なる声をあげて幼女をペタペタ触って闇の力を発動させる。呪いのドレインタッチである。魔法防具や支援魔法がなければ、そのままぼうぎょ貫通で相手のヒットポイントとマジックポイントを吸収する恐ろしい呪い攻撃だ。


「レイスはボーナスモンスターでつね、ていていっ! 幼女にはお触り禁止! 通報しまつよ!」


 短剣を振り回しながら、次々とレイスを斬りつけて倒していく。空中に溶けるように消えていくレイスを見て、むふふと微笑んじゃう。


「そういや、呪い無効だったな。と、するとアイたちって不死系にはデフォルトで相性が良いのかもな、だいたいの不死系は呪いを伴う攻撃だし」


 マコトの言葉どおり、アイたちは呪い無効、精神攻撃も無効だからバンシーの悲鳴すら効かない。操られるのはゲームキャラとしておかしいでしょと、女神様が設定しておいたので、ガイもギュンターもレイスの攻撃は効かない。


「勇者ガイのチャージ! チャージ!」


「フハハハハ! 幻獣スレイプニルの力を見よ! 踏み砕いてくれるわ!」


 スレイプニルを喚び出してガイはスケルトンたちを突撃で砕いている。スレイプニルがハイテンションで叫び、アクセルを吹かしガイはどんどんスケルトンたちを倒していく。そしてスレイプニルよ、君に脚はないでしょ。


 なんだか、なにかのゲームでみたような無双っぷりである。


「ローラーはないんですかね? バイクと合体させるのに」


 ガイが辺りを見回して呟くが、それはデッドなカメラマンライジングだ。


「しかし、こ奴ら、かなりの数ですな」


 ゾンビたちを聖なる炎で焼きながらギュンターが叫ぶ。辺りにはアンデッドの群れで埋め尽くされていた。これ2000はいるんじゃね? しかもおかわりが来ている。


「後方を見るでつ、ゾンビやスケルトンを召喚してる魔物がいるんでつよ!」


 アイは敵の後ろにいるローブを着た杖を持つスケルトンを指差す。スケルトンがなにか詠唱をすると、魔法陣が作り出され、ゾンビが這い出てきていた。


「アンデッドメイカーだぜ! 低位アンデッドをランダムで喚び出すスケルトンだな! 平均ステータス20!」


「そんな奴がいるから、この都市はゾンビが減らないのね。でも、なんで溢れかえらないの?」


「アンデッドメイカーは喚び出すアンデッドにキャパがあるんだ。なんで喚び出したアンデッドが殺られないとキャパが埋まっているから喚び出せないんだ。キャパは100体だな! たぶんそこら中にアンデッドメイカーはいるぜ!」


 なるほどね。そうして死の都市はアンデッドが減らずに攻略できない要塞となっているのね。


 ゲームでないので、リポップしないと思っていたら意外なリポップ場所があったね。死の都市最高。


「って、あんまり最高でもないでつか!」


 ぴょんと幼女は横っ飛びして、立っていた場所から離れる。その後に数本の矢がカツンカツンと石畳を叩く音がした。


「スケルトンアーチャーだ! 平均ステータス8だぜ」


 通路の陰で弓を構えるスケルトンアーチャーが複数、こちらへと狙いを定めている。


 遠距離攻撃もバッチシなのねと俺は苦笑しながら、小鳥のような可愛らしい声音で魔法を唱える。魔力が勿体無いが仕方ない。幼女のぷにぷにお肌はダメージを受けちゃうのだ。


「フリーズストーム!」


 小枝を振り回しながら、手持ちの最強魔法を放つ。アンデッドメイカーも含めた範囲に氷雪の嵐は生み出されて、あっさりと敵を倒していく。


 その後もちょろちょろと隠れんぼしながら、幼女は魔法を放ち敵の後衛を倒していくのであった。


 しばらく経つとようやくお代わりはなくなり、先程の喧騒が嘘のように静かになる。


 皆は汗だくでさすがに疲れている様子を見せていた。特にアーチャーがウザイ。ガイとギュンターは素でダメージを受けないけど、幼女は逃げ回らないと駄目なので。


「戦闘終了だな! 人658、骨741、骨弓87、霊49(特性浮遊)を手に入れたぜ! 他はなしだな」


「……知識因子は期待できないけど、経験値稼ぎにはちょうど良いでつね。こちらの損害は狼2でつか。浮遊の能力は?」


「時速10キロ程で最大10メートルの高さまで飛べるんだぜ」


「んじゃ、一個はあたちが取得っと」


 マコトの戦果の報告にアイは顔を綻ばさせる。これは良い稼ぎ場だ。しばらく籠もっても良い。無敵の戦士を作っちゃうぜ。ん? そういえばキャラにステータスカンストはあるのか?


「パンパカパーン! 1000を超える戦果をあげたので、バージョンアップだぜ! 素材を100使うと+表記になり、ステータスがオール10上がった状態の素材を作れるようになったぜ! あと、キャラは初期能力から10倍までしかステータスは振れないからな。いわゆるカンストってやつだぜ!」


 翅を翻してパタパタと幼女の周りを飛びながら妖精が新たなる力の解放を教えてくれる。完全にゲームのサポートキャラ枠なマコトである。


「あたちの心を読んだ感想ありがとうでつ。溜まった素材を使い切れるシステムに泣きそうな程嬉しいでつが、たしかにちょうど良いでつね」


 マコトは俺の心を読んでいるのかと思ったけど、タイミング的に女神様だろう。ありがたや〜。思わず拝んじゃうぜ。魔物をメインにすれば基本ステータスが高い奴らが作れるが、自我のある魔物は使いにくいだろうから保留だ。今のところは人をメインにしていくしかない。俺は魔王ではなく、黒幕になりたいのだ。


「それよりも親分、重大な問題がありますぜ」


 ガイが汗を拭いながら、スレイプニルから降りて言う。


「門から入って、まだ100メートルしか進んでおりやせん」


「……死の都市サイコー」


 それ以外に感想はない。だって、足を踏み入れた途端に攻めてくるんだもの! 生命感知は透明化や無音化、無臭化の魔法は無意味なのだ。持ってないけど。パーティー移動の時によく感知されて、なし崩しに戦闘になった嫌な思い出があるよ。戦闘中に他のモンスターもリンクするし。


「仕方ないでつね……聖水を使って行きましょー」


 巨大な都市は城を突っ切って行ってたとしても、谷側に到着するまでの距離は軽く十キロを超えている。この都市は広すぎ。そして、城を突っきると高レベルボスモンスター戦に入りそうな予感。なので、大きく迂回していくしかない。


「そうですな、ステータスの高さを利用して、一気に移動するのがよろしいかと」


「ギュンターが警戒しながら30キロを走るとすると、一時間というところでつかね? ……不意打ちが怖いので、人500、骨500を使い、あたちのぼうぎょを10上げときまつ……」


 もったいないけど、必要経費ってやつだ。マスターが一番弱点なのだから。硬くて素早いステータスにするかな? はぐれぷにぷに幼女が現れた! なんちて。紳士たちがこぞって捕まえに来そう。


「聖水高かったんでつよね。これどうやって作るんだろ?」


 1瓶銀貨1枚したのだ。100個買ったから金貨10枚なり。通常は出産時や産まれた子供に振りかけたり、葬式で死者に振りかけたりするらしい。ちなみに怪しまれないように、色々な神殿で買い込んでおいた。素焼きの小さなツボに入っている。


 思考が完全に犯罪者のそれな幼女である。


 ゲーム筐体から取り出して、全員に振りかける。わーいと、水遊びをする幼女に見えるけど、可愛らしいから良いだろう。


「んじゃ、気をつけながらしゅっぱーつ!」


「おー!」


 手を掲げて掛け声をあげる。皆の返事を聞き、ガイにおんぶされて、黒幕幼女は都市を迂回するべく移動したのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ここにもはぐれ幼女が…w
2021/08/20 19:50 退会済み
管理
[一言] さすがおっさん女神はゲーム的にユーザーフレンドリーでつね
[一言] 死の都市なんて特大の地雷を監視するのは当たり前ですよね…でも鷹の目ってそりゃわからんよ。やっぱり秘密主義だと現地の人に詳しく説明を聞けないのが痛いし鷹の目って有名そうだから騎士と推定貴族の頭…
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