34話 バージョンアップする黒幕幼女
「消耗素材、人2、人1(特性︰風は捉えられず)、知識因子、剣術4、片手剣4、弓術3、槍術3を手に入れたぜ! それとあいつからバージョンアップのお知らせだぜ!」
マコトの声に、お昼寝をしていて、もう少しで夕方になる頃合いにアイは跳ね起きた。バージョンアップ? 不具合修正のパッチではなくて、バージョンアップ?
傷だらけの身体はお昼寝により、ぷにぷにつやつやな身体に戻り、幼女はバージョンアップの言葉に目を輝かせた。バージョンアップ、なんと心地良い言葉だろうか。
からくり士のバージョンアップがついに来た。人形のパワーアップだね、夢にまで見たよ。格闘でなくて、人形のパワーアップが欲しかったのだ。
わーいと、幼女は跳ね起きて小躍りするが、ゲーム筐体スキルはからくり士ではない。なんのゲームと勘違いしているのかわからない。たぶんおっさんが昔にやったネットゲームだろう。
「まずは、ドローンの改良。最初につけたスキルをレベルアップできる。とは言っても、知識因子にあるスキルレベル内だけど。初期の量産型もこれで使わなくなるとかないぜ。ただし、消耗因子を一つのスキルのレベルを変えるのに素材を10使う。それと、キャラ作成時にスキルレベルを任意に変更して与えることができる。ドローンも全員剣術4とかだと、他人に怪しまれるからな」
自我のないキャラはドローン呼びにすることに決めたマコトである。見た目が人間だし、ちょっと罪悪感が湧くので、俺も賛成。幼女は傷つきやすい繊細な心の持ち主なのだ。反論は認めません。
「あと、自我のあるキャラは死ななくても身体を変えることができるようになったぜ。このままだと、死なない初期キャラが使われなくなるからな。ちなみに下取りとかないぜ」
「それは本当ですかい? やったー!」
包帯でぐるぐる巻きのミイラが側で話を聞いて小躍りする。幼女の小躍りとは違ってむさ苦しい。
まぁ、ヘラヘラ男の攻撃により、ガイは深く神経を傷つけられて、ヒールでは治しきれなかったので、どうしようかと思っていたから助かる。下取りがあれば良かったけど、そこまで贅沢は言うまい。
ガイが下取りされると戻ってこない感じがするしね。
「以上、バージョンアップのお知らせだぜ」
マコトがニパッと笑い、翅を広がせてクルリとポーズする。なるほど、地味に痒いところに手が届くバージョンアップだ。パワーアップ系でないのは残念だったけど。
「それじゃ、見ていて痛々しいでつし、さっさと新ぼでぃにしましょー。今回はガイは頑張ったし」
「ありがとうございやす。ついにあっしも二枚目なモテモテに」
ウグゥと男泣きするガイ。新しい身体になりたい心が不純すぎる。
「まぁ、あたちに任せなさーい!」
平坦な胸をドーンと叩いて、自信ありげな笑みになるアイ。
古来よりこのようなセリフを宣う人には、まったく任せることはできないとわかっていたが、幼女に頼るしかないので、不安混じりにガイは頷くのであった。
しばらくして、光が舞い新たなる身体を得たガイが顕現する。
新たなるガイはこんな感じ。人にサブをオークウォーリア、ステータスアップにゴブリン100を使った逸品だ。
ガイ
職業︰山賊マークツー汎用タイプ
体力︰300
魔力︰300
ちから︰50
ぼうぎょ︰50
すばやさ︰50
特性︰呪い、精神攻撃、寄生無効、怪力
スキル︰格闘2、斧術2、剣術4、片手剣4、弓術3、槍術3、盾術3、鎧術3、火魔法2、回復魔法2、騎乗術3、気配察知2、気配潜伏2、鍛冶3
装備︰魔法の斧 魔法の片手剣、魔法の短槍、魔法の弓矢、魔法のワンド、魔法の鎚、魔法の胸当て、魔法のシールドガントレット、魔法のからくり馬 自動修復、自動帰還
「逸品だじゃねぇですよ? あっしのスキル、混沌過ぎないですか? 山賊マークツー? しかも汎用タイプって悪意を感じやす。なんだかやられキャラの匂いがしますぜ」
「補正はないでつが、サマル的キャラとして活躍できまつ。補正はないでつが。あ、小悪党に見られる補正がありまちたね」
「ギュンター爺さんより総合力は上だと思うぜ。一対一だと負けると思うけど」
ガイの抗議に慰める優しい幼女たち。使い勝手は良いと思うんだ。雑魚刈りとかに使うキャラの立場である。
「それにしても、武具が多い。手に入れたスキルに対応する物が全部つくのですな」
床に散らばる武具を見て、感心するようにギュンターが言う。たしかにかなりの多さだ。魔法の武具だし。からくり馬だけはいないが、召喚タイプみたい。
「威力は銅と同じだけどな。そこは仕方ないぜ?」
「武具を作ってはくれなかったんですね、親分?」
見た目の立派さと違いしょぼい武具にがっかりするガイが尋ねてくるので、素直にコクリと幼女は頷く。
「物が物だから、考えて使いたいのでつ。汎用機に付けるのはもったいないので」
「たしかにあっしが言うのもなんですが、もったいないとは思いやす。専用武器には専用スキルとか欲しいですよね。この場合は氷系のスキル持ち」
あっさりともったいないと答えるアイにガイも同意する。自分だと宝の持ち腐れになるし、やっぱり専用機に専用武器だよなと、ゲーム脳っぽく考えてもいた。
「ギュンターも剣術4、鎧、盾3にしときまちた。ゴブリン素材30使って。ステータスに似合ったスキルでしょ」
「剣術スキルが上がったから、聖剣技も4になったぜ! 使い道ないだろうけど」
これでギュンターも立派な聖騎士である。やっぱりスキルレベル2だと、格好つかないと思っていたし。
「はっ、ありがとうございます、姫!」
ギュンターが跪き、感動の面持ちで見てくるので、アイはちっこいおててをふりふりと振って、良い良いと寛容な主君を演じちゃう。
良かったなと、ガイはその様子をなぜか上から目線で見たあとに思う。これで俺もモテモテ街道一直線、ハーレムが作れるかなと。余裕綽々な山賊ガイである。
なにしろ二枚目なのだ。二枚目、なんと響きの良い言葉だ。あの人は残念な二枚目ねと、たまに女性が変人な二枚目とかを見て陰口を叩くが、二枚目なら残念でも良いのだ。残念な三枚目だと、女性は見てみぬふりするんだぞ、こんちくしょう。
ガイは昔から女性関係は関係というほどの相手はいなかったなと苦々しく思いながら、それも今日までだと含み笑いをする。
「ぐふふ、この節くれだった指! 丸太のような腕! もじゃもじゃの髭! 小太りに見える大柄な筋肉質の体躯! 変わってねぇー!」
うおー、と頭を抱えて地団駄を踏み悔しがるガイ。素晴らしいノリツッコミである。さすがは新型と言えよう。ノリツッコミ能力が搭載された新型は嫌かもしれない。
「どーして、あっしは二枚目な姿にしてくれなかったんですかい? どーして?」
アイに涙目で迫るガイ。真面目に悲しんでいると気づき、アイは残念な様子を見せて答える。ちょっと可哀想なので。
「一応二枚目な顔にしてやりまちた。で、職業山賊にしたら、その顔になりまちた」
「隠し特性が小悪党化だから、仕方ないんだぜ!」
マコトがなぜそうなったのかを教えてくれて
「そんな〜。変形機能もついていないし……」
マジかよと、ガイは床に突っ伏してシクシクと泣く。変形機能もついていないしと、がっかりする山賊であった。変形機能の方がガイにとっては、重要だったのかもしれないので、実に厨二病な男である。
なんにせよ、ちょっと危険な戦いを切り抜けて、黒幕幼女は安堵する。倒した騎士たちは魔物に殺られたように思われないかなぁ、まぁ、無理だよなと思いながら。
日が落ちようとする中で、森林内で騎士たちが数十人集まり難しい表情をさせていた。眼前にはマントで隠された死体が何体も横たわっている。
「見つけた時には既に死んでいました。皆は頭を砕かれており、絶命していたのはひと目でわかったそうです。恐らくはハイオークなどに殺されたと思われます」
部下の報告を聞いて、デルタソーナは難しい顔で腕を組む。ハイオークは強敵だが、副団長が負ける相手ではない。不意打ちを受けたのだろうか?
「仕事をサボり、常に遊んでいる方ではあったが……。腕はたしかだったわ。不意打ちを受けたとはいえ、あっさりと殺される人かしら?」
「周囲を調べましたところ、オークの上位種の死体がそこかしこに転がっていました。あれらと戦ったのではないかと」
そうなのかしらと、デルタソーナは迷う。たしかに状況を見るとそんな感じだ。しかし、殴打で殺されているように見えるが、違和感がある。
上位種が現れないことを不自然に思い、副団長を含めて精鋭が森林内に向かったのだが、なぜか副団長たちだけ帰還してこなかったので、心配になり探索に向かったのだが、まさか殺されていたとは思いもよらなかった。
この危険な森林内で、副団長が不意打ちを受けるほど間抜けだったのか? あり得ない。それなれば強敵がいた? わからない。
「あ〜、くそっ、くそっ! そういうことかよ!」
副団長の死体を発見した報告を受けて、一緒に見に来た団長が副団長の死体に屈み込み、怒声をあげる。
「どうしたのですか、団長?」
なにか見つけたのかと聞くデルタソーナをちらりと見て、ため息を吐いて団長はかぶりを振った。
「なんでもない。儂の運が今年は最悪なだけだ! 死体を回収し、丁重に持ち帰るぞ。魔法使いに保存の魔法をかけてもらえ!」
「はっ! 了解しました!」
敬礼をして、部下がマントに包んだ死体を持ち帰るのを眺めていると、団長がこちらへと近づき小声で話しかけてきた。
「あいつはムスペル家の者に殺されたんだ。魔物じゃねぇな」
「はぁっ? なぜ」
予想外の話に思わず声をあげるが、じろりと団長に睨まれて口を噤む。なぜ、こんな森林内にムスペル家が?
「奴はこんな森林の中なのに濡れていた。魔法によって殺されたんだ。しかも魔法を防ぐ護符をまるで役に立たないかのように、首から引きちぎり手に持ってな」
「魔法のダメージを軽減する護符を捨てる訳は……なるほど意味がないとのメッセージですか。だからムスペル家」
「武の名門シルフル侯爵家があいつの実家だ。魔法のムスペル家は今派閥の力を失っているからな。ライバル派閥の騎士団副団長のあいつはさぞ邪魔だったんだろうよ」
「上位種がいなければ、調査に向かう可能性が高い。副団長はうってつけの能力を持っていましたし。そこまで計画されていたのですね」
宮廷の勢力争いは今や戦争みたいなものになっているのかと、そこまで謀略に長けるムスペル家にゾッとする。自分は中立を保ちたいが……。
「まさか騎士団にちょっかいをかけるとはな……黙っておけよ? これはヤバイ情報だ」
「なら、私に教えなければ良かったではありませんか」
非難の声をあげるデルタソーナに、片手をあげて団長は帰還に入り
「俺たちも油断ができないからな。有能な奴に死んでもらったら困るんだ」
カラカラと笑い立ち去るのだった。
武と魔。両方の貴族がぶつかる日が来るかもしれないと思い、背筋に嫌な汗をかきながらデルタソーナも帰還するのであった。