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黒幕幼女の異世界ゲーム  作者: バッド
4章 騎士団と遊ぶんだぜ
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31話 騎士団の騎士少女

 上品な内装なれど、剣が壁に交差されて掲げられていて、鋼の鎧が部屋の隅に置かれている。毛足の短い絨毯が敷かれており、本棚には羊皮紙が詰まっている。質実剛健を感じさせる部屋に2人の男女がいた。


 女性の方、タイタン騎士団第二隊長のデルタソーナは自分の上司たるタイタン騎士の騎士団長オノベン・バーソードを眺めてため息を気づかれないようにつく。


 直立不動で背筋を伸ばして、頑丈なアイアンツリーで作られた高価な机の上で頭を抱えている禿げたおっさんを疲れたように見る。


「では、鋼のルランは注文を受けていないと言い張っているのか?」


「はい、言い張っているというか、帰ってきた者の話では、やはり注文に行った者たちはバッカス王国に到着もしていないとのことです」


 真面目な表情で伝えると、バンと机を叩き団長は立ち上がり怒鳴る。


「金貨1200枚、金板20枚の前金の大金。修理を頼んだ鋼の武具、オーダーメイドでの私の鎧! すべてどこに行ったんだ!」


「だから、下級騎士20名では荷が重いと忠告しましたが?」


「上級騎士は武具の注文のために遠方のバッカスまでいきたくないとゴネたんだ! 畜生め! 魔物に殺られたか! 儂の金が……」


 怒鳴ったが、どうにもならないと悟りヘナヘナと椅子へと戻るオノベン団長。大金を注ぎ込み注文をしたのだ。はるばる遠くの鍛冶と炎のバッカス王国に。かの国は鍛冶の腕が良いこともあるが、その意匠も素晴らしい。


 春の遠征前に、遠征と言ってもすぐそばに住むゴブリンを退治しに行くだけだが、パレードで目立つように団長は3ヶ月前に頼んだのだ。戻らぬ者たちに嫌な予感をしつつ、残りの金を持った者たちが完成したと思われる武具を取りに行ったら、そんな注文は受けていないと言われて帰ってきたのである。


 通常はたしかに下級騎士たちだけでも大丈夫な任務であったのだが、強力な魔物に出会ってしまったに違いない。よくある不運な話だった。


「くそっ! くそっ! 軍費が……」


「予定していた武具が届かない以上、軍費として賄えませんよ?」


「わかっておる! くそっ、儂の金……今回の遠征で余る予算で補えるか?」


 呟く内容はここ最近で行う魔物の間引きの話だ。毎年恒例であるパレード後の魔物の間引き。


 実戦慣れもできるし国民へとアピールにもなりちょうど良い。それに平民たちへと僅かに屋台を開くための金をだし、お祭り騒ぎにして騎士団を人気者にしたのは、この団長のアイデアである。


 金勘定が上手く、頭も良い。ゴブリン如きを大袈裟に退治して、浮いた遠征費を騎士団で分けて、もちろん自分が多めの取り分でだが、危険も少ないこの遠征に騎士団からも宮廷魔法使いからも評判が良かった。


 剣の腕は団長に相応しいのだから、もっと強力な魔物を間引きしても良いと思うのだが、命の危険がある魔物とは戦うつもりは毛頭ないらしい。強力な魔物を倒せば、もっと交易路は安全となり、王都は栄えるのだが……。


「それが団長。やはりゴブリンは王都周辺にはまったくおりません。いても騎士団の功績にならない少数だと報告を受けています」


「今年は儂の不運だけは絶好調という訳だな。ゴブリンを食う強力な魔物がでたか?」


 忌々しそうに言うが、すぐになぜゴブリンがいなくなったかの予想を立ててくるところに、この男の有能さを感じられると思いながら、デルタソーナは首を横に振り否定する。


「いえ、滅ぼされた集落をいくつか見つけておりますが、すべて斬り殺されていたようだと。しかも切れ味から武技を使われたあとがあるそうです」


「と、すると腕の良い戦士か。なぜそんな人間がゴブリンを倒す? 目的はなんだ?」


「わかりません。戦闘狂な騎士か、自分の腕を試したい貴族のボンボンですかね?」


 ゴブリンを倒しても、実入りもなく良いことはない。しかも数で押すなら楽な相手だが、少数では足を掬われることもある敵だ。倒すとしたら、それぐらいしか理由が浮かばない。


 とんとんと苛立ちを示すように指でデスクを叩きながら団長は考え込む。


「意味がわからんな……。そんなことをするのはたしかにそんな奴らか。意外とレトーヤ坊やだったのかもしれんな。貴族の誇りを地に落として、実家の勢力を落として、今や王宮は大混乱。素晴らしい坊やだったな」


「貴族の足の引っ張り合いはどうでも良いです。で、遠征はどうしますか? 王宮までパレードをするのに、ゴブリン10体程度の退治では困りますよ」


「わかっておる! ……仕方あるまい。今年は森の中層の魔物をおびき寄せる。好戦的なオークかトロール、アラクネーあたりだな、見栄えが良いのであれば、グランドベアーだが、あいつはやばいから、戦いたくないな。毒消しポーションを多めに頼め。今年は遠征費は手元に残らんな……。畜生!」


「わかりました。ポーションを揃えておきます。ではサボっている副団長を探して準備をいたしましょう」


 敬礼をして、また頭を抱える団長に呆れながら、デルタソーナは部屋を退出するのであった。




 数日後、平民への屋台代の受け渡しも終わり、デルタソーナは団長率いる騎士団と共にパレードをして練り歩いていた。第二隊の隊長デルタソーナもパレードに参加する。


 王宮にて遠征の挨拶を終えて、貴族街を練り歩き、平民区へと入る。大勢の平民たちの間を馬に乗って歩く。大勢の民たちの歓声は心地良い。これを受ければ貴族主義などと貴族は口にしなくなるのではと思うが。


 弱き者たちを守る騎士としての教えを思い出す。父上は常に口を酸っぱくして、そんな教えを私たちに伝えてきたが、武門を尊ぶフラムレッド伯爵家の長男は領地経営で忙しく、本来は騎士団に入る次男は貴族主義に染まり、王都の邸宅で遊び呆けている。


 だからこそ結婚予定であった次女の私が騎士団に入ることになったのだが、元来の性分か騎士団は自分にピッタリであった。燃えるような赤毛を短くして、18歳ながら第二隊長だ。


 まぁ、伯爵の次女であるし、貴族としての格と優れた血による身体能力もものを言っているのではあるが。


 そんなデルタソーナは平民区を通り過ぎる中で、うん? と気になる者を見つける。なんだあいつは?


「どうかしましたか、隊長?」


 副隊長のミーコレが不思議そうな表情で馬を寄せてくる。緑髪を短めにした一見可愛らしい少女だが、水魔法を扱う剣士で気が利き頼りになる。副隊長に相応しい身体能力もある。


 というか、第二隊は半分が女性だが。女性騎士は珍しくもないがここまで多いのも珍しい。人気取りに団長がわざと揃えたのである。


「あぁ、あの屋根に立っている者を見れるか?」


 視力を強化してミーコレはデルタソーナが指差す屋根へと目を向ける。そうして、やはり戸惑いの表情となって首を傾げた。そうなるよな、やっぱり。


「あれは……騎士ですね。なぜ平民区のしかも屋根に?」


 指差す先には立派な体格の老人が立っていた。眼光は鋭くこちらを眺めている。その様子を見て、騎士だと推測する。だが、なぜ平民区のしかも屋根に? しかも……見た覚えのない騎士だ。


「他国の騎士でしょうか? 老いているようですし、ノンビリと旅でもしているとか?」


「いや、あの立ち位置を見ろ。隣に座る子供を守っているように見える」


 私が指差すのを見たのか、幼女と子供が嬉しそうに手をぶんぶんと振ってきていた。ふむ、子供たちが手を振る、か。


「この距離で手を振るとは、あの子供たちはこちらが見えている。貴族のお忍びか?」


 黒髪の幼女の方が目を見張るほど可愛らしい。汚れも見えない不思議な服装をしており、老騎士はその子供を守っているようであった。


「そうかもしれませんね。他国の方でしょう」


 それもそうかと、納得する。王都はこの周辺の国々の中で一番大きい。観光にくる酔狂な人間が危険を気にせずに来ることは多い。腕の良い騎士が護衛にいれば、安全度も上がるし。


「まぁ、平民区にいる人間もいるか」


 それきり頭から老騎士を消して、デルタソーナは馬を進めるのであった。




 王都から出発して数日後、いつもなら帰り道にいる私たちだが、今回は違う。魔物を引き寄せて退治するために大規模な陣をいくつも作っている。


 方円陣を作り、敵へと備える。現れる敵を安全にグレートウォールの陣を作り倒すためだ。


 駐屯地から離れて、緊張で顔を強張らせる重装騎士、タワーシールドを構えて、後ろに槍兵と槍騎兵。魔法使いがさらに後ろに控える。オークたちの重い一撃を防ぎ、槍を突き騎馬の突撃で倒す。


 安全な戦い方で面白味がないが、だからこそ命の危険が少ない。


「よし、やれ! 敵を呼び寄せよ!」


 小太りに見えるが筋肉でその身体ができている団長が周囲へと響き渡る大声をあげる。


 その声を合図に騎士たちが盾を鳴らし始める。ガンガンと辺りに響き渡り、かなりの騒音を周りに伝える。好戦的な敵ならば、すぐにおびき寄せられるだろう。


 うるさい音に顔を顰めながら、しばらく待機をしていると、ぶぉぉと豚の鳴く声が聞こえて、ドスドスと多くの音がして、森林が揺れて次々と魔物が現れる。その数は百程度。


 猪の皮に包まれた二本足の魔物。オークである。雑食ではあるが人間など食べない癖に、縄張りに入る人間たちは血眼になって殺しに来るうえに、縄張り意識が広いので街道にも姿を現す厄介者。ちなみに筋肉質で筋張っていて、とてもまずい。


 毛皮に覆われたその身体は騎士でなければ傷つけることも難しく、手に持つ棍棒は多少穂先を鋭くしており、筋肉でできた腕での攻撃はしばしば鉄の鎧を凹ませる。


 凹ませるといえば、ダメージはないと思えるが兜を凹ませれば中の頭がどうなるかは想像つくし、凹む程の威力なら胴体に受けてもその衝撃は酷いことになる。


 用意の整った騎士団相手でなければだが。


「盾技 ビッグシールド!」


 前列の騎士たちが盾技を使い光の城壁を作り出す。オークは知恵はあるがそこまで頭は良くない。興奮して目を血走るオークたちは気にせずにガンガンと光の壁を壊さんと叩きつけてくるが、鉄の塊のようなタワーシールドと盾技ビッグシールドによりビクともしない。


「槍隊 攻撃開始!」


 その様子を見た団長が指示を出し、私も周りへと攻撃開始の合図を出す。重装騎士の後ろに位置する騎士が槍に魔力を籠め始める。


「槍技 チャージ!」


 溜めた力を解放して、鋭い光の槍をオークへと騎士たちは一斉に突き刺す。


「ぶもぉぉぉ!」


 繰り出した必殺の槍技によりオークたちが倒れていく。チャージは力を籠める時間が隙となるがその分威力が高いのだ。オークの毛皮をいとも簡単に貫き倒していく。


「騎馬隊、突撃開始!」


 多少の知恵があるオークが、死んで行く仲間たちを見て慌てて踵を返して森林へと戻っていく。


 それを見逃す訳はなく、バトルウォーホースに乗る騎馬隊が追撃して倒していくのであった。



 そのような戦いを数回繰り返して、辺りが血の臭いが渦巻く戦場跡に変わったあとに、私は一息つき兜を脱ぐ。


「むぅ、ゴブリン相手でなくとも、普通に戦えるじゃないか。これなら来年もオークが良いな」


「何人か騎士が怪我を負ったから、団長は来年ゴブリンが繁殖するのを期待すると思いますよ」


 私の言葉にミーコレがクスリと笑うが、たしかにそのとおりだろう。つまらないが、オーク相手でもゴブリン相手でも堅実な戦いなので面白味がないので同じことか。


 英雄物語のようにはいかないなと、残念に思うが少し変だと気づく。


「上位種を見たか、ミーコレ? オークが危険なのは上位種が出てきてからなんだが」


「そういえば見ませんでしたね? ここらへんではいないのでは?」


「間引きもしていないのにか? 変だな……たまたま偶然か?」


 その後、数日間オークを狩ったが上位種は姿を見せることは不思議なことになかった。安全な戦いではあったが、不自然なことに皆は頭を傾げて、数人が斥候に向かうことになる程に。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 本日もお疲れ様です(○´ω`○)ノ エムブ○マーとしては、老齢の聖騎士がぎんのやりを持っていないのはあり得ませんw なお、F○的には山賊のクラスチェンジ先に勇者はなかったはず・・・憐れガ…
[一言] ゴブリンキングの次はオークキング、お約束ですね!
[一言] やっぱり身体能力が高い人は貴族に間違われるんですね。 血筋が関係してるのかな、爵位が上がるほど力が強くなるのだろうか。
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