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黒幕幼女の異世界ゲーム  作者: バッド
22章 黒幕のいる世界なんだぜ

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298/311

298話 魔法皇帝と取引する勇者

 大陸横断鉄道列車が作られる1年半前の話となる。


 アイがトート神との戦いで行方不明となってから数日後、ガイたちはアイの意志を継ぎ、世界支配を進めていた。


「え〜っ。ですからっすね。急な話で対応できないといいますか、情勢に対するですね、貴族たちへの根回しも必要でして、善処はしたいところなので、検討をする予定ではあるっす」


 揉み手をしながら腰を低くして、ペラペラと喋るのはウルゴス15世皇帝。魔帝国の会議室にて、ウルゴス皇帝は目の前に座る髭もじゃに腰を低くして平身低頭していた。


 こいつ、どっかの政治家みたいだなと思いながら、皇帝って政治家と気づいて嘆息をガイはした。なんか皇帝って、政治と無縁というか、独裁体制をとって命令するだけのイメージがあったので。


「悪いんっすけど、こっちは当主様が行方不明になるほどの苦労をして、デミウルゴスを倒したんでやす。あんたとの取引は成立。依頼料を払って貰わないと困るんですぜ」


 なぜか紙やすりで、強襲揚陸艦の模型をゴシゴシと磨きながら髭もじゃはオウオウとオットセイの真似をしながら顔を顰めて告げる。皇帝に威圧するチンピラに見えます。


 本当は爪磨きで爪を擦って、フーッと息を磨いた爪に吹きかけながら威圧したかった小悪党ガイ。しかしながら爪切りもなかったので仕方ないので、模型を磨くことにしたのだ。


 なんで爪磨き? と他人がそれを聞いたら不思議に思うだろうが、よくあるイベントだ。借金とりとかがソファに座ってそんな行動をとること。一度やってみたかった勇者であるのだ。似合いすぎているので、あとでオットセイの真似を一芸として確立できるかもしれない。


「ですが、奴隷は所有者の物です。当然全ての奴隷を解放せよと陛下が命令をしても、誰も従わないでしょう」


 皇帝の隣に座るドーガが恐る恐る口を挟んでくる。そうなのだ。月光商会はトート神を倒した代価として、犯罪奴隷以外の全ての奴隷解放をするように迫っているのである。


「魔帝国では奴隷制度は当たり前の法っす。それを止めたらどれだけの混乱が起きるか想像もつかないっす」


 っす、と繰り返す皇帝だが、そのとおりではあるかもしれない。農奴はもちろん鉱山にも奴隷は使われている。解放したら賃金を払わなくてはならなくなる。それに住居もボロ小屋ではなくて、普通の宿舎を用意しないといけない。奴隷だって、一文なしで解放されても困るだけだろうし。


 言っていることはわかる。農奴とはまた違うのが奴隷なのであるからして。


「……魔帝国の奴隷は帝国人口の8%。しかも年々その数は増えていっている。このままでは金の巡りが悪くなり、国には成り立たないと思うが? 経済活動に致命的ダメージを受けるだろう。陽光帝国、タイタン王国の開かれた経済圏に負けて、滅亡する未来しかないと思うのだが? それとも貴族と奴隷たちだけの国にするおつもりか?」


 ガイの隣に座る老齢の騎士ギュンターが眼光を鋭くする。相変わらず頭の切れる老騎士の言葉にドーガ宰相もウルゴス皇帝も、他の大臣たちも押し黙ってしまう。


 財政難なのは理解しており、現状を理解しているが、他国の者から指摘されるのはまた意味合いが違う。


「ククク……。その状況を解決する方法を提案するでつよ……ククク……」


 ギュンターとは反対側に座っていた黒尽くめの背丈が2メートルを超える者が含み笑いと共に口を開く。顔は仮面で覆われており、何者なのかはわからない。含み笑いは不気味な声音と言いたいが、ぴよぴよとひよこが鳴くような可愛らしいところが、その姿に似合っていないので残念だ。


「この資料を見てくだしゃい」


 のっぽの不気味かもしれない正体不明の者がパチリと指を鳴らすと、それぞれ参加している者たちの前に紙束が忽然と出現した。


「この資料を見てくだしゃい。これはでつね……そのでつね……もうちょい左、もうちょい右に戻してくだしゃい」


 資料を手に取り説明をしようとする謎の人物だが、その手はフラフラとして、テーブルに置かれた資料を取れない。まるで目隠しされているような2人羽織をしているような感じだ。


「目隠しの上に、アイさんが乗っているから動きにくいんですよ」


「あと3センチでつ。左じゃなくて、みーぎ!」


 何やら謎の人物は独り言を呟く。意思疎通ができない模様。


 しばらく頑張ったが結局取れないので、上半身が分離して、うんせと降り立ち、資料を下半身に手渡す。そうして、よじよじと下半身に登って合体する。分離できる謎の人物らしい。


「あの〜アイ様は行方不明になったんすよね?」


「うむ。我々も懸命に探したがほとぼりが冷めるまで見つからないことにしたのだ」


 平然と答える老騎士をジト目で見ながら、文章になっていないようなセリフだなぁとウルゴスたちは呆れるが言いたいことはわかった。神の使徒として目立つことはしたくないらしい。


 決戦の様子はわからないが、空が突如として夜になったこと。巨大な隕石が落ちてきて死を覚悟したが、白き光の柱が隕石を押し返して消したこと、などなどを直に見ている。


 それがどんな意味を持つかよほど鈍くなければ、ある程度情報を掴んでいる者で理解しないものはいなかった。早くも神の使徒への感謝をして、使徒を寄越してくれた神の名を月光商会の面々に尋ねている高位貴族もいるのだ。信仰する気満々である。


 宗教は盲目的なところがあるとウルゴスは理解している。しかもあの隕石と暖かさを感じさせる白き光を見た者の中には狂信的な者たちも出るであろう。


 なので、行方不明になったと、神界に使徒は戻ったと噂を流すのには反対をするつもりはない。いや、率先して賛成をするつもりだ。政治に宗教はいらないのであるからして。


 なのでウルゴスたちは、謎の人物として扱うことにした。謎の人物にタスキをあげますよと見知らぬ少女がてこてこと近づき、「なぞのじんぶつにごう」と書かれたタスキを渡していたが、見ていない。きっと幻と思っておくことにした。


 そういう訳でなぞのじんぶつにごうの置いた資料を見ることにした。大臣たちを含めて、しばらくペラペラとページを捲る音のみとなり、読み進み顔を顰めてしまう。


「これは本気で言っているんすか?」


 読み終えたウルゴス皇帝は顔をあげて、ガイへと信じられないと言う表情をしながら尋ねる。それだけ信じられない内容が書いてあったのだ。


「本気でやす。ただで解放するのが嫌なら、相場の値段で買い取りやすよ。それで良いんですよね? 一人あたり金貨10枚が平均的金額のはず。もちろん金貨ではなくて物との交換でも問題ないですよ」


「莫大な金額となりますぞ! 魔帝国の奴隷全てなどと!」


 大臣たちも信じられないと顔を歪めて、隣と話し合い騒然となる。その資料にはウルゴスの言うとおりに、魔帝国の全ての奴隷を買い占めると書いてあった。


「魔帝国の名を、本当の名前、トート帝国に戻したのを機に奴隷制を廃止。全ての奴隷を月光商会が買い占める。これで全て解決でつ。ククク………」


 さり気なく国名も変えることを要求しちゃう。魔帝国って、本来はトート帝国だったらしい。シンに教えてもらいまちた。


「その奴隷はどうするんでしょうか? その場で働かせるのですか?」


 ドーガの問いかけに、そんなわけないでしょと首を横に振る。


「陽光帝国が全て引き取りまつ。ククク……。貴族たちは膨大は金貨を手に入れるんでつから、それで地元民から労働力を集めるんでつね。かなり格差が広がっていて、働きたくても働けない国民が大量にいるのでつから、ククク……」


 集めた税金を魔法にばかり金をかけていたから、金が下層まで回っていなかったのだ。そのために仕事がなくてその日暮しの者たちが大勢いる。その者たちを手に入れた金貨で雇えば良い。


 その場合、宿舎やら農具、食料品、それらを運搬する者と、多くの仕事が生まれるだろう。短期的には大変なことになるだろうが、格安で資材や食料品を月光商会が販売するから、中、長期的には良い計画だ。


「ククク……あたちの計画は完璧でつ、ククク……」


 とりあえずクククと語尾につければ、怪しいなぞのじんぶつにごうになるよねと、黒尽くめの者は言う。アホっぽさを隠せない者であった。


「それでも断ると言うなら仕方ないでつね。あと数年待てばこの国は崩壊しちゃうでしょーから、それまで待ちまつよ。戦争をするまでもありましぇん。隣の国が数年でどれぐらい発展するか、指を咥えて見ていてくだしゃい」


 暑いから、もう仮面はいらないやと外しちゃう幼女が言う言葉にウルゴスは腕を組み考える。たしかに短期的にはかなりの混乱が起きるだろう。内乱も視野に入れなくてはいけない。それだけ貴族たちからの反発は大きいと予想をする。予想というか確定した未来にも思える。


 大臣たちを見渡すが、積極的に反対する者は既にいなかった。有能な者たちだ。この帝国が滅亡の瀬戸際にあると理解しているのだ。


 恐らくは神の使徒の言うとおり……。この話を蹴ると経済成長に置いて、月光商会が絡む陽光帝国とタイタン王国とこのままでは大きく引き離される。そして貧乏な魔帝国は不満が限界を超えて内乱が起こり滅びる。


 どちらをとっても内乱が起きるならば、帝国が滅亡しない可能性の高い方を取るしかない。月光商会の言うとおりにするしかないだろう。


 大きく息を吸い込み、背筋を伸ばす。


「では月光商会の取引に乗ることに致しましょう。すまぬ、皆の者。苦労をかけると思うが、余を支えて欲しい」


 軽薄な口調をやめて、強い決意を籠めた瞳で大臣たちへと告げる。これから先どれほどの苦労があるか、予想もできないだろうから。


 ドーガ宰相たちは椅子から立ち上がり、深々とウルゴス皇帝へと頭を下げてその言葉に応える。


「我らは皆、陛下へと忠誠を誓うものです。あらゆる万難を排しましょうぞ」


「うむ……。では、月光商会のガイ殿。余の意思は固まった! 奴隷制度は廃止とし、国名をトート帝国へと変える。ウルゴス・トート一世の名に置いて、ここに宣言するものとする!」


 その姿はまさしく皇帝であった。威厳とカリスマ性が目に見えるような立派さで先程の軽薄な皇帝はどこにもいなかった。


 へへーっと威厳に弱い髭もじゃが平伏していたので、謎キックを入れておく。


 なんにせよ、奴隷制度はなくなった。これにより、小国もあとに続き、奴隷制度のデメリットが周辺国家に伝えられて、数年で大陸全土で廃止されるのであった。




「内乱が起きた時は傭兵を雇いたいのでよろしくっす」


 あっという間にウルゴスは元に戻ったけど。

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― 新着の感想 ―
[一言] 謎の人物1号、一体何者なんだ… そしてガイさんの一貫して変わらない小者感に安堵。
[一言] ククク……作者さんの作品は戦いと戦いの合間のこう言う話が大好きなので番外編楽しみです。ククク……
[良い点] 大して問題起きなかったか。ニューな作品じゃ行方不明なっちゃったし心配だったけど。 [一言] くくく……って読み辛いなw
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