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黒幕幼女の異世界ゲーム  作者: バッド
21章 幼女風学園編なんだぜ
294/311

294話 2つの闇夜

 トート神。様々な小説やアニメに出てくる有名神だ。主役を張るほど目立つことはなく、だいたい助言役か、謀略をする雑魚役、もしくはクエストを与えてくる神である。クエストのヒントがなさすぎだろと、怒ったこともアイはあった。考えることもせずに攻略サイトをすぐに覗きにいったのだが。


 アイとトート、二人が対峙して戦いが始まろうとしていた時、その戦いを人々は知らなかったが、なにかが起こっているのは理解していた。




「おか〜さん、なんか空が夜になっちゃったよ!」


 タイタン王都の月光屋敷で、こっそりとポーラから貰った麩菓子という新作をマユと食べていたララは空を見上げて不安そうに叫んだ。


 最近、急に夜になるという天変地異が多いが、その時は満天の星となり、清らかな感じがして不安感など持たなかった。むしろ安心感を持って昼寝をしたくなるような癒やされる感じであった。


 だが、今日は違った。空は禍々しい雲に覆われた不吉な夜空だ。その空を見上げて、ララは不安に思い母親を呼んでしまった。


「これはなにか大変なことが起きていると思うのですよ。なんとなく危険も感じますし。とりあえずは水を飲まないと喉に詰まる可能性あるのです」


 麩菓子というのはパサパサなので、一本食いは厳しいのです、と呟くマユ。水を〜水を〜と苦しんで、ポーラにお水の入ったコップを手渡されていた。別のことで危機に陥る少女である。


「それに、アイさんたちがこの騒動の中心にいるようなかんじがするのですよ。それなら大丈夫だとマユは思います」


「そうですね。きっとアイたちなら大丈夫」


「大丈夫〜」

「大丈夫〜」

「お水ください〜」


 新たに置いてある麩菓子から、まるで栗から出てくる虫のように、ニョッキリと出てきたセフィたちが信頼感溢れる言葉を紡ぐ。


「あ〜、ポーラの麩菓子にはいってりゅ! 妖精さんたちも美味しい?」


 マユがさすがに妖精さんでも、それは気持ち悪いです、どこかの毛虫と同じですよ、もしかしたら妖精さんの幼体は毛虫なんですかと、ウゲェと顔を顰めるが、優しい心のポーラは感想を求める。


「果物ジュースとセットでないと厳しいですね。これパサパサですよ」


 なりゅほどとメモる勉強家なポーラと、盗み食いをしてもまったく悪びれない妖精たち。


 それはいつもの光景で、背筋を凍らすようなゾクリとする冷たい風が吹いてきても、皆は暖かな笑みでいた。


「あ、あれを見て!」


 アイを信頼している証でもあるのだろう、変わらぬ行動をとるララたちの中で、いつも髭もじゃの頭によじ登る一人の幼女がおててを空に翳して叫ぶ。

 

 その声を聞いて、ララたちは空を見上げて嬉しそうに歓声を上げるのであった。




 不吉なる夜空を陽光帝国の皇帝スノーはテラスに立って見上げていた。スッと目を細めて呟く。


「このような時が来るのではと恐れていましたが、来てしまいましたか」


「陛下っ! これは一体何事なのでしょうか? 民衆たちが騒ぎ始めております」


 転げるように走りながら、スノーの元へと駆けてきた大臣たちが焦りながら聞いてくるので、薄っすらと穏やかな笑みにて返す。


「ん、と、これは邪悪なる神が巻き起こせし、悪意の法。この魔法が発動したということは、世界の危機が迫っているということです」


 すべてを見通すような落ち着いた声音で言うスノー皇帝に皆はゴクリと息を呑む。なにか大変なことが起きたらしい。だが偉大なる皇帝は予測をすでにしていて慌てる様子は見えない。


「邪悪なる神……ならば討伐をしなくてはならないのでは?」


 勝てるかどうかはわからないが、それでも戦わなくてはならないと、陽光帝国を守らねばと皆は真剣な表情で訴えるので、良い人たちを雇えて良かったですと、優しい微笑みを浮かべる。 


「大丈夫です。既に手はうってあります。今、邪悪なる神の前には、牛豚挽き肉800グラム、ソース、パン粉、人参、じゃが芋、お菓子はお釣り内で買って良いです。あれ、これお買い物メモと混じっているよ、千春ちゃん! もしかして今日はハンバーグ!」


 決め顔で告げるスノー皇帝は、なぜか途中でお使いメモの内容を話し始めて、皆は不思議そうに首を傾げてしまう。途中まではかっこよかったのに、なぜ途中からと疑問に思う家臣たちの視線を受けて、ワタワタと慌てるスノー皇帝は誤魔化すように空を指差す。


「とりあえず大丈夫です。あれを見てください」


 指差す先、不吉なる黒い雲にて覆われた闇夜。その空を同じようであり、まったく違う清らかさを感じる闇が広がって、不吉なる空を打ち消していき、黒き雲を吹き散らしていく。


 そうして、空は満天の美しい星々が広がる世界へと変わっていく。月が煌々と地上を照らし、暗闇でも困らない明るさを与えてくる。


 人々はその光景を見て、なぜか安心感を持ち、その優しき光の中で、祈りを捧げるのであった。不思議なことに、神に向かって祈るのではなく、自身の心にある愛へと向けて。




 次元の狭間にて、3人の少女が空に浮き、目の前に広がる闇色の結界を見ていた。世界を丸々覆う果ての見えない広大な結界に顔を顰めていた。


「これはいったいなんなのでしょうか。みたことのないちからをかんじちゃいますが」


「マスター、これは次元結界ですね。どのような者も中に入ることを防ぐ強力極まる結界です」


「発動者は中に籠もっていることが条件となります。引き籠もるにはちょうど良い術ですよ、ご主人様。これを破壊するのは至難の業ですね」


 幼気な少女の呟きに、金髪ツインテールの可愛らしいメイドと、無口でクールな冷たい笑みが似合うと訴える銀髪のメイドが答える。


 その言葉を聞いて、幼気な少女はクワッと目を見開いて、両手を掲げて大きく身体を仰け反って、仰け反りすぎてバク転を披露する。


「な、ナンダッテー。くっ、それならば神剣で真剣に結界を破壊してみます!」


 手の中に神剣と刀身にマジックで書かれている剣を呼び出す少女。大きく振りかぶって結界へと神剣を振り下ろす。


「神剣ダーンよ、この結界を切り裂けー!」


 ていっと結界に叩きつけて、口元をによによと笑みに変えちゃう。ど〜よ、ど〜よ、神剣と真剣とダンボール製だから真剣じゃないという3つを重ねたんだよと、チラチラと二人のメイドに視線を向ける。ツッコんで良いんだよと。


 つまらないオヤジギャグを心底面白いと信じる幼気な少女は今か今かとツッコミを待ち、銀髪メイドが口を開く。


「ああっ! ご主人様っ、結界が壊れそうですよ!」


「えええええええっ! わわわ、補修しないと、セロハンテープを用意して!」


 銀髪メイドが指差す先、ダンボール製の神剣の攻撃なのに壊れそうに揺らぐ結界を見て少女は慌てちゃう。マジかよ、この結界弱すぎない? 豆腐より柔らかいなと、金髪メイドも加わり、ダンボールをペタペタと貼って結界を補修しておく。


 継ぎ接ぎだらけだが、なんとか補修できたので、びっくりしたよと汗を拭いながら、コホンと咳払いをひとつ。


「くっ、なんてきょうりょくなけっかい。わたしのちからにたえるなんて」


 信じられない、アンビリバボーと両手で頬を抑えながら少女は驚く。ていくつーというやつだ。


「この中には器を完成させたあの人がいます、大丈夫でしょうか」


「このままころされればそこまでです。あのひとのねがいはかなわなかった。それだけのことです」


 神は人の願いを叶えることはせずに、ただ少しだけ力を貸すだけなのですと、穏やかでそれでいて残酷さを思わせる笑みを少女は浮べようとした。神っぽいよねと。


 だが、愛らしい少女はそんな表情はできなかったので、百面相をして、メイドたちがそれを眺めてワイワイと撮影会をしましょうと騒ぐことになるのであった。





「フフフフフ、今、外世界からの強力な力を我の結界が防いだことを感じ取ったぞ! 次元結界は予定通りの力を出している! 貴様にもはや神の加護はない! おしまいだ、神の使徒よっ!」


 この幼女を加護している神が次元結界を見て、慌てて破壊をしようとして失敗したのだとトートは感じ取り高笑いをする。もはや負けはない。トートは神であり、神の使徒といえど、相手は人間なのだ。負ける要素はない。


 あとは神の使徒を倒し、その器を利用するだけだと自身の計画の完璧さににやけてウキーと吠える。


 だが、戦艦から降りてきた幼女は負ける気は全くなかった。


「月光モードーッ!」


 幼女が天へとちっこい手を翳すと、空を覆うほどの大きさの魔法陣が白き光によって描かれていき、空を波動が広がっていく。


 瘴気を利用した次元結界の副産物、不吉なる雲を伴う昏き闇夜が消えていき、満天の星が広がる優しい夜へと変わっていき、今にも落ちてきそうな程に近さを感じさせる月が空に浮かぶ。


 アイは魔法陣の中心から放たれる白き光の柱に包まれてその姿を変えていく。


 短い手をソイヤと伸ばして〜


 左足を横に突き出して


 斜めに身体を傾げて〜


 背中に生えた天使の翼を広げて


 はい、ポーズ


「月光幼女天使アイ見参っ! 弱きものを虐げる悪神は許さないっ!」


「女神に変わって、お仕置きだぜ!」


 幼女がビシリと叫び、頭の上の妖精も同じようにポーズをとって名女優に相応しいオリジナリティ溢れるセリフを言う。


 そこには黄金の鎧に見を包み、騎士槍と大盾を構える天使な幼女がいた。その身からは純白の光の粒子が生み出されて、辺りへと広がっていく。


「ガガガッ! 聖なる攻撃に耐性をつけたはずなのに?」

「我らの力が抑えられていくっ!」

「トート様っ、これはいったい?」


 その白き粒子に触れた魔王たちが力が抜けていく感じに苦しみ悶える。トート神が開発した人の魂を外殻として聖なる攻撃を防ぐ技術。それらを受けて弱点がなくなったはずの魔王たちが苦しむ姿にトートは目を見開いて驚き声をあげる。


「こんなはずでは……なぜ耐性を貫けた?」


「当然でつ、トート神よ。あたちの司る力を知らなかったんでつね?」


 フンスと平坦なる胸を張る幼女へとトートは苦々しい表情を向ける。計算と違うと。


「教えてあげましょー。あたちの器の力を……。それはどのような魂も浄化をする力! どんな汚れも1滴すらの染みも許さない、それがあたちの力、アイは世界を救う、でつ!」


 腕を交差させて、雄叫びをあげるがごとく、白き粒子を噴き出して黒幕幼女は告げる。魂の奥底まで浄化をするアイの力の前には小手先の誤魔化しは通じないのだ。


 シン戦を終えて、完成したアイは覚醒していたのである。もはや魔王といえども、猛毒を受けたように力を失うのだ。


「そのような力を?! 計算外、計算外、計算外っ! だが神である我には通用せんっ、魔王たちよ、神の使徒の配下を倒せっ、その間に我が神の使徒を倒すっ!」


 アイから受ける強大な力に、自らの計算が狂ったことを悟りトートは忌々しそうに指示を出す。


「良いだろう、このトート神が自ら貴様を殺してやろうっ、はらわたを食い尽くしてやるわっ!」


「トート神っ! 天使モードのあたちの力を見て思い知るのでつっ!」


 お互いに叫びながら、空中を飛んでいき、地上では魔王軍とガイたち月光商会の商人たちの戦いが始まるのであった。


 幼女が空で戦い、地上では商人が戦う……名称だけだとかなりかっこ悪い戦いである。




「なーなー、あたしは大丈夫だよな? 元の姿にならないよな?」


「もうその身体に置き換わっているので大丈夫ですよ」


 不安がる妖精が女神に何かを尋ねていたりもした。実にどうでも良いことだが。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 次元結界に対するテイクツーというか初めて見たことにする反応(笑) [一言] この世界の始原の神様想像維持破壊全部1レベづつしか持ってなかったのかと思えるレベルの配下というか息子?なトートに…
[一言] 千春ちゃん玉ねぎ忘れてるよ!肉には玉ねぎ、とりあえず玉ねぎ! しかし女神様スパルタだなぁ。信頼してるんでしょうが。
[良い点] 「マスター、これは次元結界ですね。」 デジャブを感じるやりとりw [気になる点] 【なんか空が夜になっちゃたっよ】なっちゃたっよ→なっちゃったよ かと思われます。 【ポーラにお水の入…
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