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黒幕幼女の異世界ゲーム  作者: バッド
3章 屋敷を直すんだぜ
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29話 おうちの壁を直す黒幕幼女

 トンテンカンテンと街中でトンカチを振るう音が響き、人々が大勢歩き回っていた。ワイワイガヤガヤと騒がしく人々が石を運んだり、板を立てかけたりと、忙しく働いている。


 汗水垂らして働く人々をおさげを尻尾のように振りながら、機嫌良さそうに可愛らしい幼女が眺めていた。むふふと、どんどん修復されていく様子にご満悦だった。


「これで屋敷の壁は直せますな、姫」


 ギュンターが声をかけてくるので、アイは嬉しそうに微笑む。幼女の微笑みは太陽のようで暖かく通りすがる人々も癒やされちゃう。


「やはりあたちは天才でつ。この間のイベントの選択肢はパーフェクトでちた」


 フハハと高笑いをしちゃう。幼女が胸を張って高笑いする姿は愛らしい。おっさんが高笑いをすれば、周りの好感度はだだ下がりであったろう。


「あのおばさんはなかなか使えたな。まさか大工の知り合いを紹介してくれるなんてな」


 マコトが肩の上で翅をパタパタさせながら言ってくるのを頷きで返す。服を買った際に知り合いに職人がいないのか確認したら、大工を紹介してくれたのである。


 やったぜとアイはパチンと手を打って喜んだのであった。


 なので、大工に自分の屋敷の壁を直すようにお願いしたのだ。


「親分! あっしもそこでのんびりと眺めるポジションが相応しいと思うんですが? なぜあっしだけ人夫?!」


 一人では運べない大きさの石を軽々と運びながら、今日は日雇い人夫なガイが叫ぶがスルーする。だって、ガイに相応しい仕事だと思うんです。ぜひ棟梁さん、こき使ってください。


「アイ様のおかげで、俺たちもまともな仕事に」

「さすがは支部長」

「頑張りましょう兄貴」


 最後の発言者がガイへと声をかけており、渋々ガイは仕事に戻る。皆はスラム街の人間である。棟梁に雇うようにお願いをしたのだ。今月の稼ぎはすべてこれで消えました。


 チェーン展開をする大手企業みたいに稼いだ金を次の行動にすべてつぎ込む黒幕幼女であった。


 その数は200人、1日銀貨1枚で雇いました。来月の稼ぎもあてこんで注ぎ込んじゃってるのだ。修復費用を棟梁に支払って財布の中はカツカツです。


 もしも草鞋が売れなかなったらやばい感じなのだが、月光と言う列車は止まることがないのだ。ブレーキの壊れた列車かもしれない。誰もアイを止めようとしないし。暴走特急列車月光ブレーキ無しに出発でーす。


 もちろん棟梁は常に雇っている職人連中も連れてきている。金貨1000枚が費用なり。日雇い人夫も入れて1600枚。それでも来月に予定通りの利益が草鞋売りで手に入れば大丈夫。大丈夫だよね?


「いやぁ、よく働く奴らで助かりますぞ。これだけの人数なら2か月、いや、1か月でアイ殿の屋敷の壁は修復できます。屋敷の壁……?」


 こちらへと汗を拭きながら暑苦しい棟梁のおっさんが、自分の発言に首をひねりながらやってくる。スラム街に入るのは嫌だが、スラム街に入らないぎりぎりの境界なら仕事をやってくれると仕事を引き受けてくれたのだ。


 大勢の労働者を用意した破格の仕事であったのも良かったかもしれない。俺の200人はこの先も様々な建築などに使う予定だから、こちらも経験を積ませられてありがたい。


「本当にここに壁を作って良かったんですか? いや、法的には問題ないとわかりやすが」


 ガイの親戚のようなごつい顔を戸惑いに変える棟梁。ちょっとまずいんじゃと言葉に含みが入っている。


「大丈夫でつ。こっちには土地の権利書があるんでつよ! 壁を直すのにどこか不思議なところがありまつか?」


 ブンブンと手を振って、幼女は法的に問題ないと訴える。大金払っているのだと。


「だよな。問題ないですよね……」


 自信なさ気な棟梁である。その視線の先にはアイの屋敷の壁を直す人々の姿。3メートル程度の石壁を作っていき、大きな木製で鉄の補強をされた扉を設置させている。


「屋敷の定義を社長に聞きたいぜ、これは街壁って言うと思うんだぜ」


 呆れた様子のマコト。アイが主張する自分の屋敷。それはスラム街全体を指し示していた。スラム街と平民街の境界を壁で囲う工事をさせている黒幕幼女であった。


 あたちのおうちでつ。なので壁で囲んでも良いでつよねと、うるうるとオメメに涙をためて訴える幼女がそこにはいた。


「壁が終わったらドロボー避けの見張り台も建てまつ。そうしたら、いよいよ内部の屋敷に手をつけまつ。まともな家に直しませんと」


 未だに自分の屋敷もオンボロだが、雨漏りもしちゃうけど、優先事項があるのだよ。


「目をつけられないと思うか?」


「……正直わからないでつ。スラム街は皆が目を背ける場所。なにをしても大丈夫……とは思わないでつが、それでもスラム街が正常化したと、徴税官に来られても困りまつからね。賭けとしましょー」


 マコトの言葉に答える。この展望は甘いとは思うが、俺が正常化させたスラム街に、税が取れると何もしない奴が来るのは許せないのだ。なので、壁で囲っちゃう。定期的な収入もできたし。


「こんなことをする人間が出てくるとは、誰も思わないですし、スラム街を壁で囲えば中の様子も確認できません。大丈夫かと思われます」


 恭しく頭を下げるマーサの言葉を聞いて、それは楽観的すぎるねとは思うが……。月光を拡大させるには動き続けるしかない。リスクは甘んじて受け入れよう。


「あ〜、アイ殿? これから先も貴方様はスラム街を建て直して、いえ、お屋敷を直していくのであれば、このンゾイが仕事を請け負いますぞ」


 コホンコホンと咳をして、棟梁がこちらへと提案をしてくる。


「スラム街に壁など正気ではないと断ってきたと覚えているぞ。最初に仕事を頼みに行った時とはだいぶ話が違うなンゾイ」


 騎士のお爺さんが鋭い眼光を棟梁に向けて皮肉げに睨む。さらにゴホンゴホンと咳しながら誤魔化すように棟梁は媚びた笑いを見せる。


「いや、ここまでスラム街を統率しているとは、いや、なされているとは思いませんで。俺は良い仕事をしますぜ」


 棟梁は最初は正気かと思ったのだ。スラム街に壁など作れるわけがない。支配しているボス連中が妨害しにくるに決まっていると。どこの貴族がこんなアホなことを考えたんだと思っていたが、まさかの幼女であんぐりと口を開けてしまった。


 貴族の幼女の我が儘かと思ったのだが、護衛もつくし人足も法外な人数を用意すると言われたので、渋々とそこまで言うのならと引き受けたのだ。


 驚きであった。スラム街の人間を人足として用意して、スラム街自体も誰も妨害してこない様子を見て。妨害どころか、差し入れを持ってきてくれる余裕さも見せてくるスラム街の血色の良い顔の女性を見て、この地はスラム街ではなくなったようだと思ったのだった。


 ならば、これから先も支配者然としたこの幼女はこのスラム街を建て直していく。とすれば、膨大な仕事が待っている。しかも人足付きで。これを逃すことは商人としても失格であると。


「壁が完成したら、あとの仕事のお話をしましょー。来月になったらのお楽しみということで」


「へい。それでは仕事に戻らせて頂きます」


 頭を下げて、棟梁も仕事に戻っていく。ふむ、とアイは顎に手をあてて考え込む。


「お金もなくなりまちたし、来月まで動くことはできないんでつよね。入る金が多くなっても、同じぐらい出る金も多い……ふぁんたじーの欠片も見当たらない感じ……」


 資本として仕舞ってあるゴブリンキングを倒した際に手に入れたお金は使いたくない。だとすると、身動きできない。狩りにでも行こうかなぁ。


 地道だけど、少しでもお金が手に入り、お肉も入ってくるのだ。幼女もパワーアップしたし、浅い層なら大丈夫でしょ。


 ゲーム筐体でのキャラ操作だけではなく、自分の力も試したい幼女である。よし、ギュンターを護衛に行こうかなと、決めたアイが行動しようとした時


「お〜い、アイちゃ〜ん。騎士団が出発のパレードを行うみたいだよ〜。一緒に見に行く?」


 と、ララが叫びながら駆けてくるのが目に入る。息せき切って、ニュースニュースと。


 ふむ、と可愛らしい眉をピクリと動かして、アイはそのニュースに興味を持つ。騎士団ねぇ。ようやく動き始めたわけね。


「もちろん見に行きまつ。屋台も出ているんでつか?」


「あ〜、屋台は騎士団が帰って来たらなんだ。出発は皆で見送るだけ」


「それは残念でつが、帰ってきてからのお楽しみにしておきましょー。それじゃ、あたちも見に行きまつ!」


 さてさて、なにを倒しに行くのかな? それに戦いの専門家の力も見てみたい。この間の貴族たちはステータスも高いし、騎士たちは鍛えられてもいたが、実戦経験が足りない奴らであった。


「実戦経験が豊富な騎士団……。ギュンター、ララいきまつよ〜」


「はっ!」


「騎士団って、凄い格好良いよ!」


「お、あたしももちろん見に行くぜ!」


 マーサのお見送りを受けながら、とてちたと小さい手足を振って、アイはパレードを見に向かうのであった。あっしも見に行きたいですという声がどこからか聞こえてきたような気がしたが、仕事中でしょ、後で日本酒を差し入れてあげます。




「よっ、ほっ、たっ」


 リズムよくアイは小柄な体躯を上手く使い、ていていと壁を蹴りながら、建ち並ぶ家の屋根へと飛び乗る。周りにも大勢の人々が屋根に登っているのが目に入る。パレードが目的なのだ。


「アイちゃん速いよ〜」


 スタンスタンと壁を蹴りながら、ララもついてくる。貴族の血が入っているララにとっては楽なことなのだ。ギュンターも見かけによらず軽やかな動きで屋根へと登ってきた。


「ふむ、騎士団は恐れられていても、尊敬もされているのでつね」


 まぁ、娯楽が少ない世界だしね。それでも道の端に並び、家々の窓から覗き、屋根の上から人々は楽しそうに眺めている。


「今年は数日で魔物退治は終わりじゃないらしい」

「そりゃ、なんでだ?」

「ゴブリンではなく大物を倒しに行くんだと」

「そういや、今年はゴブリンがいないぞ」


 人々の話が高ステータスの聴力で聞き取れる。やっぱり大物を退治しに行くのか。ゴブリンが今やここらへんじゃ絶滅危惧種なのだ。その代わりに鹿やうさぎが随分増えた。狩っても狩っても現れるんだよね。助かってはいるけど、この世界の鹿やうさぎの繁殖力が気になります。ネズミ算なの? ネズミ算式なの?


 草も気になるところだ。刈っても刈っても一週間後には元に戻っているような?


 ゴブリンの繁殖力、それらの腹を満たすための草食動物の繁殖力、さらに草食動物が食べる草木……。この異世界、ゴブリンが食物連鎖に混ざっているから、やばい繁殖力なのかも。


 ふぁんたじーだなぁと、考察をしていたら、ワァッと歓声が聞こえてきた。見ると軍馬に乗った騎士たちがお揃いのプレートメイルを着込み、整然と闊歩してきていた。鎧が陽射しを返して輝き格好良い。


「おぉ〜! たしかに格好良いでつ。後ろの馬車は魔法使いたちでつか」


 威容を見せつける騎士団を見て感動する。なにかこういうのって異世界ぽいと。世知辛い生活の光景しか見てこなかったんで。


「騎士は1000人。魔法使いは10人、さらに後ろには輜重隊が200。だいたいそんな感じですな」


「軍隊を動かすには、莫大なお金がかかりまつからね。まともな軍隊を持ってはいると」


 実戦慣れしていない雑魚な騎士団を期待していたけど無理そう。そりゃ、魔物が蠢くこの異世界で騎士団が実戦慣れしていない訳がないか。


「なにを倒しに行くか楽しみでつね」


 騎士団が苦戦する相手なら良いんだけどと、黒幕幼女は通り過ぎる騎士団を眺めるのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] お金や素材が足りないなー、お、こんな所に騎士団が!で何人か刈られそうだなあ(笑)
[一言] ララちゃんも地味に高スペックなんですね。 貴族でこれだと王族はかなりやばいんでしょうか。
[良い点] ぬう、アジトは後回しで総構えたる街壁に投資とは(._.)しかも自分とこの構成員にお手当が着くナイス循環経済、幹部のガイも率先して働いているんでケインたち舎弟のやる気もウナギ登りですよ。 […
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