282話 学園には金儲けのネタが多いと黒幕幼女はご機嫌になる
グスグスと泣く幼女、ごちゃい。あたちは害の無い幼女でつ。ガイはきっと離れのボロ校舎で含み笑いをしていまつ、と最近は幼女パワーに圧されていたおっさんが復活し始めているアイは、冬の寒さの中でオヤジギャグを内心で呟いていた。
「なにが起こったのか、話してご覧なさい? エリザベートちゃんが聞いてあげるから」
なにやら縦ロールの金髪お嬢様が戸惑いながら聞いてくるので、コクリと頷きここで何が起こったのか詳細を騙ることにする。
「エリザベートちゃんって、おねーちゃんのことでつか? その髪はどうやって巻いているんでつか? くるくる縦ロール綺麗でつ」
違った。騙る前に己の興味を口にする幼女であった。だって、この文明レベルの低い異世界で縦ロールだよ? パーマネントなんて簡単にできないはず。
「ふふっ。良いところに気づきましたわね。これは神器アプロディーテの髪巻きを使用しているの。オーホッホッホッ」
「神器でつか! しゅごーいっ。おねーちゃんは神器の力で綺麗なんでつね!」
しゅごいしゅごいと、ちっこいおててでパチパチと拍手しちゃう。髪巻きの神器とは凄い。髪を操る能力なのかな? その場合、ヤンデレになって声使い2にやられる可能性あるけど。
「おほほほほほほほほ! わかってますわねっ。そうですの、凄いですの。なのに、皆は髪巻きの神器と知ると馬鹿にするのよ。気に入ったわ、貴女お名前は?」
スタイルバインバインのお胸を反らしながら、ご機嫌になって、高笑いをする少女に、ニコリと無邪気な笑みを魅せる。
「あたちは愛媛の蜜柑問屋、アイと言いまつ。この這いつくばっているカメラマンが姉のランカ」
おさげをフリフリと揺らして、愛らしさ抜群の幼女はペコリと頭を下げる。幼女は挨拶ができる良い子なのだ。
「蜜柑? まぁ、お店をしているのね。わたくしの名前はエリザベート・ガーリー。ガーリー公爵家の長女よ」
「公爵しゃま! しゅごーい、エリザベートしゃん、しゅごーい! 髪巻きの神器見てみたいでつ」
髪巻きの神器。武具の神器などよりも遥かに金儲けの匂いがするぜ。できればその神器ください。
きゃあと、おめめを輝かせて、そんけーの眼差しでエリザベートを見つめちゃう。初めて欲しいと思った神器が現れたかも。
「目がドルマークになっているんだぜ」
「きっと光の加減で見えるだけでつよ」
マコトの呆れるような声に否定をしておく。幼女がそんな目をするわけないだろ。美容院が異世界で作れるかも。
世の女性は食費を減らしても、美容院には金をかけるのだと、内心でそろばんを幼女はていていと弾いていたり。
「おーほほほほ! 良いわ。平民とはいえ神器の素晴らしさがわかっているようですし、招待しますわね。オーホホホ」
頬をに手を添えて、高笑いをしながらあっさりと招待してくれるエリザベートなので、どれだけ髪巻きの神器が馬鹿にされていたのかわかります。そして縦ロールを続けていることから、その髪巻きをエリザベートがどれほど気に入っているかも。
「アイさん。この少女の名前はエリザベート・ガーリー。ガーリー公爵家の長女にして、一人娘。平均ステータスは72。魔力が高く、魔法操作も人間にしては鍛えてますね。特性流れを見抜く瞳という魔眼持ち。魔力の流れを見抜く力です」
突如として目の前にモニターが表れて、シンがキリリとした表情で説明を始めたので、少し驚いちゃう。え、なんでシンが説明を?
「なんでお前が説明役になってるんだよ! さてはあたしの役どころを強奪するつもりだな!」
ウキャーと、猿のように喚きながらマコトが怒鳴る。本気で怒っている模様で、手をぶんぶん振って、顔を怒気で真っ赤にしていた。まぁ、気持ちはわかる。
「マコトさん。私の本能がアイさんのサポートをしろと叫んでいるのです。なので、これからは私にサポートはお任せください。暇ですし」
「暇だからだろっ! 駄目なんだぜ、サポートはあたしだって決まっているんだからな」
「わかりました。では早いもの勝ちということで」
しれっと答えるシンに、ますますヒートアップするマコト。二人はぎゃあぎゃあとうるさく喚くが、聞こえるのはアイとランカのみ。
なので、二人をスルーしてエリザベートと話を再開する。もう慣れたよ、こんな展開。それよりも金儲けだ。
ここに来た当初の目的を幼女はんしょんしょと記憶箱に押し込んで、商売を考えちゃう。魔法のことについて知りたい? セージスキルのレベルを上げればいいや。
「ご招待ありがとうございまつ。それじゃ、いつにするか決めたいと思うんでつが」
そうね、いつがいいかしらとエリザベートが考え始めたが、二人が仲良くキャッキャッと話しているのに、不粋な男が割り込んできた。
「いやいやいや、待ち給えよ。今は竜牙兵がなぜ倒されたか調べるんじゃないのかい?」
2枚目でキラキラと爽やかそうな男であったが、なんだか演技っぽくて胡散臭い。
「骨のおじちゃんはあたちを殴ったら、バラバラになりまちた。たぶんカルシウム不足でつね。脆かったんでつ」
出会った時に竜牙兵とは珍しいと近寄ったのだ。ハードな異世界にお決まりの魔法生物だったので、感動して触ろうともしたのだ。
観光気分で触ろうとしたら、カチャカチャ動き始めて、殴ってきたのだ。そうしてバラバラになりまちた。シミターとバックラーを手に持っていたような気がするけど気のせい気のせい。
カルシウム? とエリザベートたちが首を傾げるので、まだこの世界にそんな概念はないかと、言い直す。
「経年劣化でつね。野ざらしになっていたので、脆くなっていたんでつよ」
きっぱりと確信した表情で適当なことを言いのける幼女。その断言する姿に、人々は経年劣化かぁと話し始めた。うんうん、経年劣化なんだよ。
「そんなはずは……魔法生物だぞ? 経年劣化なんてあるのか?」
「もしかちて、1年に1回ぐらいしか動いてなかったんではないでつか? もう限界だったんでつよ」
「たしかに……去年も紛れ込んできた平民を斬ろうと少し動いただけだから、もう限界だったのか……」
「骨でつしね。今後は使う時以外は備品箱に仕舞っておくといいでつよ。精密機械でつしね」
「……そうなのかぁ。教師に伝えておくとしよう」
わかったよと、2枚目の男子は頷いて、周りの面々も経年劣化ということで納得し始めた。幸い教師はいないっぽいので誤魔化せそうだ。5体全て経年劣化で壊れたなんてあるわけ無いと、しかも魔法生物が壊れるなんてありえないと、普通はおかしく思うが、それ以上に幼女が竜牙兵に襲いかかられて、死を免れた理由がわからないので、無理矢理納得した模様。
「しかし竜の牙なんて、なかなか手に入らないぞ。これどうすれば良いんだ?」
「用務員を雇えば良いんじゃないでつか? 用務員に憧れている人を知ってまつ!」
ただいまマラソン中のおっさんのことだろうか。幼女は用務員に憧れていると決めつけた。魔法学校の用務員とかも、なんか主人公っぽくて気にいると思いまつ。
「用務員ってなに?」
エリザベートが不思議そうに聞いてくるので、え? と反対にアイは戸惑う。用務員という単語がないのか。
「……あとで説明しまつよ。ところで、そろそろ移動していいでつか? あたちは骨のおじちゃんに襲われたので、ひろーこんばいなのでつ」
あら、それもそうねとエリザベートは頷いて、周囲に散らばる骨を片付けるように、そばにいた事務員に命令をして、アイたちを休憩室に案内してくれるのであった。
休憩室も暖かであった。ソファもあって、壁際には召使いっぽい人たちが待機している。
なぜ召使いっぽいという表現かというと、服が普通なのだ。そこそこ上等だけだね。
それはエリザベートたちも同様。ドレスのような裾の長いひらひらとした服装であり、学園なのに制服ではない。
召使いがテーブルに置くのは、ホットワインだし。幼女にホットワインを出すんじゃない。
これは凄いと、幼女はご機嫌で硬いソファに座りながら足をパタパタさせちゃう。なにが凄いかっていうと、何もかもだ。この少しの間だけでも、売れる商品が思いつく。
「まずはジャージでつね」
「ジャージ?」
対面に座ったエリザベートが疑問の表情となるので、うんと頷く。
「制服とジャージ。あたちは愛媛の蜜柑問屋でつが、なんでも取り扱ってまつ。まずはジャージ」
「アイたん、正体がばれちゃうよ? ふ〜っ」
耳元に口を近づけてランカが囁いてくる。どさくさ紛れに息も吹きかけてくるので、ペチンと軽くはたいて、真剣な表情で返す。
「正体がバレる可能性を考えて商売を控えるなんて、できましぇん! あたちはたとえ正体がバレようとも商売をしまつ!」
なんだか主人公っぽいかっこよい叫びだが、金儲けをしたいだけである。最近はどうかしていたのだ。戦争やら、バトルやら、探索やら。俺がしたいのは商売なのだ。黒幕幼女は経済支配を目指します。
「うぉーっ」
興奮しすぎて、床に寝転びコロンコロンと転がっちゃう。幼女のその姿にドン引きするエリザベートがランカへと問いかけるような視線を向けようとするが、諦めたような呆れたようなため息をつく。
「アイたん、サイコー」
なにせ、その隣でコロンコロンと寝っ転がり、ランカが幼女を激写してたので。段々変態度がアップする狐っ娘である。
「とりあえず購買を使わせてくだしゃい! 色々売りまつよ? あ、生徒会長とかにお願いしないと駄目でつかね?」
何事もなかったかのように立ち上がり、服の埃をはたきつつ、ふんすふんすと鼻息荒くエリザベートに近寄る。幼女でなければ、完全にアウトなアイである。おっさんの時にこんなことをしていれば、確実に追い出されていたので、幼女は本当にお得である。幼女でもぎりぎりアウトな感じがするが。
だが、アイはつくづく異世界であると感じる答えをエリザベートはした。
コテンと首を傾げて不思議そうに。
「購買ってなんですの? 生徒会長って、学園長のことですか?」
ポカンと口を開けて、アイは返ってきた答えに呆然としてしまった。え? 購買ないの? 生徒会長というか、生徒会もないの?
「んと……。エリザベートしゃんたちは、ご飯とか、教科書とかどうちてますか?」
「? ご飯は夜に家で食べますわ。教科書は自分たちで用意するか、なかったら召使いに命令して取りに行かせますわね」
「なるほどなるほど。わかりまちた。……学校生活がつまんなさそーなことが! 色々な学食に、購買で買ったお菓子を授業中にこっそりと食べたり、制服をカスタマイズして、オシャレを限られた環境で目指したり、そんな本来の学園生活がここにはありましぇんね!」
ドドーンと、ちっこい人差し指をエリザベートに向けて宣言する。本来の学校生活は学びの場? そんな学校生活は許さないと、堕落の化身な黒幕幼女はふんすと宣言するのであった。