271話 カンストする黒幕幼女
空に四人の天使たちが浮いていた。セラフィムと呼ばれる4天使たちだ。異常なる強大な力を持つ4天使たちは機械のような無表情で口を開く。
「我はウリエル」
「我はラファエル」
「我はミカエル」
「我はサルエルモンキー」
天使たちでも最上級と呼ばれる萌える天使たちである。6枚の翼を生やし、2つの頭を持ち、なぜか頭と身体を羽を2枚ずつ使い隠している。隠すぐらいなら、服を着れば良いんじゃないかなとか、恥ずかしいという感情は禁忌だから、アダムたちは追放されたんじゃとか色々思うところがあるが、微妙に違う宗教なのだろう。
「ウッキー」
最後のセラフィムが猿だし。
「創造主に逆らう者に死を」
「創造主に逆らう者に死を」
「創造主に逆らう者に死を」
「ウッキーキーキー」
一匹だけ猿語だし。
毛むくじゃらの猿である。毛皮なんだから、頭と身体を翼で隠す必要ねーだろとツッコみたい。
「うちの髭もじゃと一対一で戦わせて、どちらがシンの毛むくじゃらか決めましょう」
「いやいや、きゅーこさん? あっしは毛むくじゃら王はサルエルに譲りますぜ。勝てそうにないし」
オホホと扇子で顔を隠しからかうきゅーこに、髭もじゃが不戦敗を言う。おっさんは第六感を働かせたらしい。武具を身に着けていないセラフィムたち。無防備でひ弱そうに見えるのだが……。
「それは残念でありんすね。セラフィムは平均ステータス356。格闘術9、火水土風雷、支援、聖魔法が9レベルのスキル持ちなだけの者なのですが。特性最高天使により物理魔法状態異常大耐性なので、戦えば面白かったのですが」
「パイルダー、アーーーイ!」
ずんちゃっちゃちゃ〜といい歳なのに、踊り始めるおっさん勇者。絶対に戦いたくないでござると幼女召喚の踊りをドタバタとしていた。
「後ろの者たちも面倒そうですな」
苦笑いをするギュンターの言うとおり、セラフィムたちの後ろにも天使たちの軍がいた。3つの頭を持つ巨漢や、車輪の中心に頭だけがあるやつ。二足歩行の鰐に、体中に口があり牙のゾロリと生えた奴とかロボットみたいな奴。
異形の天使たち勢揃いである。
「ん、本当に天使たちなのか疑うレベル。この天使たち悪魔?」
さしものリンも少し動揺をしている。それだけ数が多く、一匹一匹が強大な力を感じさせてくるので。
「能天使や智天使、大天使でありんすね。平均ステータスは255。どうやら神殿前の最後の敵だと思いますよ」
「こいつら、ずっと神殿前で待機してたんでつね」
アイは疲れたようにきゅーちゃんへと言う。見る限り100はくだらない。こんなに待っていなくても良かったんだけど。
現在アイたちはこの数日間地道に敵を倒しながら進み、ようやく山頂へと辿り着いたところである。
もはや武器素材には暫く困るまい。素材もたくさんあるので、超強力なキャラたちも作れるだろう。封印されているのでキャラクリエイトできないけど。
「一気に倒しちゃって、アイたんは大丈夫?」
心配してランカが俺を見てくるが、たしかにきつそうだと思う。だが、もう一踏ん張りだ。神殿にはどうやら仲間が囚われているみたいだし、一応できるだけ早く助けないといけない。
毎食集りにくる仲間だけど。誰か囚われのお姫様の定義を教えて下さい。
「ここで倒して、一休みでつ。アイハブコントロール!」
コインをちっこい指で弾くとゲーム筐体を出現させて、中に素早く飛び込む。
モニターに映るキャラの中で、選択するキャラはもちろん決まっている。
「ゴーランカ! レディファイッでつ」
レバーを握りしめて、操る仲間はランカである。なんだかんだ言っても、やはり魔法使いサイキョーなのだ。
ランカぼでぃへと意識を同化させると、杖を握りしめて魔法を発動させる。
「大魔法 超集中 超範囲 ディメンションコフィン!」
膨大な魔力が杖に渦巻き、視覚化された魔法陣が杖の先端で回転して、周囲全ての天使たちを対象とした。
瞬時に構築された空間魔法は、天使たちを断絶された空間内に閉じ込める。そのまま空間は小さくなっていき、潰していくが、
「ラララァ」
「ラララァ」
「ラララァ」
「ウッキー」
セラフィムたちの聖歌により、一部は解除され霧散する。
だが、そんなことは予想通りなのだ。既に作戦をたてていたので、迷いを見せずに、皆は行動する。
「ゆけっ! シールドビットよ」
渋い声にてギュンターは言いながら、シールドビットを操る。小さな六角形の空を飛ぶビットはセラフィムたちの口へと迫っていく。
セラフィムは4体。一匹猿だが他は同じような背格好だ。頭が2つあり、大口を開けて聖歌を歌っているので、見事にホールインワンとなる。
「盾技 シールドバッシュ!」
盾を構えながら、ギュンターが基本の武技を使う。口に入った盾がシールドバッシュをするとどうなるか? 答え、激しい衝撃波が口内で起こり、爆発したような威力を与える、である。
バンと大きな音をたてて、セラフィムたちの頭は激しく揺れる。その衝撃でふらつくセラフィムたちへと、斧を大きく振り上げてガイが迫っていく。
「斧技 大木断」
振りかぶる赤竜の斧が赤きオーラに包まれて、巨人すらも倒せるだろう大きさになっていく。巨大化した斧をはちきれんばかりに筋肉を膨張させて、ぐるりと横へと薙ぐ勇者。
豪風と共に斧がセラフィムたちを断ち切ろうと迫っていき、ふらつくセラフィムたちは回避できないと思われたが、最高天使の階級は伊達ではなかった。
ふらつきながらも、口内から血を吹き出すことも、顎が砕かれることもなかった頑丈なるセラフィムたちは、手を翳す。
銀の粒子がその手に集まり、芸術品として飾られてもおかしくない見事な意匠の大盾が創り出されて、それぞれがガイの一撃を受け止めてしまう。
「ちっ! クッキーを食べておくべきでやした!」
赤き光の斧が通り過ぎてゆき、盾にて受け止めたセラフィムたちは僅かに後ろに圧されるのみ。その結果に舌打ちするガイであったが、まだパーティーの攻撃は続いていた。
「適刀流 流しそう麺の舞!」
ザーザーと流れる流し素麺のように、リンがセラフィムたちの後ろに周り込み、素早くその間を縫うように通り過ぎてゆきながら、舞うようにひらひらと軽やかに神速の剣撃を振るっていく。
超高ステータスと超高レベルの武術スキルを持つセラフィムたちは、しかして態勢を崩されてノックバックをされたにもかかわらず、刀に合わせるように、いつの間にか生み出した銀の小手に覆われた手を突き出して弾いていく。
通常の魔物ならば即死級の威力のリンの神速の攻撃も軽い金属音と共に弾かれてしまい、傷を負わせることができなかった。
「ふぉぉぉ! セラフィムと言われるだけはある。リンの技に合わせられるなんて驚き!」
リンは驚きで目を見張る。今のリンの技は自身の鍛えた技であり、パッケージされたスキルのオートマチックな技ではないのだ。
まさかこんなにも簡単に防がれるのは予想外であった。が、それでも問題はない。
「全ての世界は凍りつき、あらゆる存在は停止する。根源たる力を使い、今ここに氷の世界を顕現せん」
朗々とランカ、いや、大魔導アイの歌うような詠唱の声が響く。アイを中心に金色の粒子が現れて、嵐のように吹き荒れる。
セラフィムたちが、物質化する程の魔力にようやく気づき対応しようとするが、既に遅い。
「ホホホ、妾の隠蔽術、なかなかサプライズをするのには使えるでしょう?」
高らかにきゅーこが尻尾をご機嫌にフリフリしながら笑う。セラフィムたちに気づかれないように、魔力を集中しているアイを隠蔽していたのだ。どこかの妖精とは比較にならない性能のちび狐である。
戻って来ても、居場所があるのかどこかの元サポート妖精は焦っても良いだろう。
「10の魔法を束ね、一つの大魔法へと変えん! 連続魔一極集中〜アイスレイーンッ!」
そして幼女は厨二病になっていた。加護が強すぎて格好いい詠唱をしなくちゃと幼女の思考に支配されたのである。
杖の先端から、小さな小さな雪がポツリと生み出される。ぽつりぽつりとその雪は生まれていくが、ダイヤモンドダストやブリザードと違い、ゆっくりと周りを散っていく。
見た目は、今までの魔法よりも弱いように一見は見えた。初歩の魔法のように、多少の寒さを相手に与えるだけだろう、儚げな雪粒は、されど残った天使たちに触れると同時に一瞬のうちにその身を凍りつかせた。
「ラララァ」
聖歌で魔法構成を破壊しようとするセラフィムたちであるが、その声はシャーベットの如く具現化して地へと落ちてゆく。音すらも凍らせてゆく超魔法にセラフィムたちは瞠目し、自身を結界で覆う。
銀色の丸い障壁がセラフィムたちを覆い、アイスレインからその身を守るが、その行動は完全なる無防備となっていることも示していた。
「これで終いだな。騎士剣奥義 栄光の剣」
セラフィムへとギュンターたちが飛び込むように肉薄して、手に持つ剣に奥義を重ねると光の剣を作り出す。
パリンと月光煎餅を口の中で砕き飲み込むと、鋭い眼光にてセラフィムを睨みつけ、閃光の一撃を大上段から振り下ろす。
アイスレインを防いだ障壁にぶつかると、お互いの力により、火花が散り拮抗する。
「ぬうおぉぉぉ!」
だがギュンターは歯を食いしばり、無理矢理障壁を切り裂いていく。ジワジワと障壁に光の剣は食い込み始め、半ばまで切り込むとパリンとガラスのように砕け散り、その一撃はセラフィムの身体を唐竹割りにするのであった。
「うおりぁぉぁぁ! ドラゴンブレイク、ドラゴンブレイク、ドラゴンブレイク!」
奥義を持たないどこかの勇者は土木工事で杭打ちでもするかの如く、ドカンドカンと自身の必殺技を連打して、汗だくになってなんとか障壁をぶち破る。
「適刀流 鯛の兜割り」
鯛の硬い頭は前歯の間に包丁を入れるとストンと切れるんだよと、リンが障壁の間をストンと切り裂き、あっさりとセラフィム2体を切り裂く。
セラフィムたちは防御専念を宣言していたように、なにもできずに倒されるのであった。
なんだか勇者だけ倒し方が雑魚っぽくて、いじけていたが、とりあえずセラフィムを倒してアイは安堵をした。
「これでセラフィムは倒しまちたね。コイン一枚で勝てて良かったでつ」
ホッとひと安心する幼女。なんだか身体に満ちる力がカンストしたような気が……全然しないけど。
「本当に倒したのでありんすか? それならばお見事としか言えませんが」
からかうように言うきゅーこの言葉にピクリと身体を震わして、倒したセラフィムたちを焦って観察する。
「そういえば、一匹だけ変なセラ……フィ……厶が……」
倒した死体を見て言葉を失っちゃう。ゴクリとつばを飲み込んで、冷や汗が流れる。
「あ〜! このセラフィムたち全部猿ですぜ! 親分まさかこれ……」
「しまった! おかしいと思いながらも全力で戦ってしまいまちた……」
倒したはずのセラフィムたちは全て猿の死体へと変わっていたのだ。孫悟空かよ、分身の術で俺たちを化かしていたのか!
ケラケラと腹を抱えて、可笑しそうに笑うきゅーこ。どうやら性悪狐だった模様。最初からわかっていまちたね!
「我らセラフィム。敵を侮ることはせぬ」
空間の狭間から抜け出すように、先程と同じ姿のセラフィムが今度は猿を混ぜないで現れて告げてきた。
「うぅ、これは連コインの出番でつね。幼女の連コインパワーを見せてあげまつ!」
ガイたちが身構える中で、残りのコインを手にして、本物のセラフィムたちと戦う黒幕幼女たちであった。