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黒幕幼女の異世界ゲーム  作者: バッド
3章 屋敷を直すんだぜ
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27話 大儲けな黒幕幼女

 春うらら、隣の人は何する人ぞ。たしかこんな俳句があったような気がするなぁと、可愛らしい幼女はてこてこと街の中を歩いていた。


 貴族との戦いから1か月経過していた。もしかしたら、魔法とか、意外なところに目撃者がいて、見かけは幼女、頭はおっさんなアイは、真実はいつもひとつ! と犯人だとバレて捕まえに来る奴らがいるかもと様子を窺っていたのだ。


 探偵役と犯人役が正反対な黒幕幼女だった。


 もう1か月過ぎたから大丈夫でしょうと、安心して初めてのおでかけをしているのである。2か月に渡り異世界にいたのに、スラム街以外は草原や森林で魔物とキャッキャッと戯れていただけなのだ。


 悲しい生活をしていたおっさんである。幼女だからおうちの周りでしか遊べなかったのと、うるうるオメメで誤魔化そうとする寂しい生活を誤魔化す幼女であったり。


 雑踏の中を歩きながら、1歩下がってついてくるマーサへと話しかけるべく顔を向ける。


「あたちの支配地域の人口が6000人……。そこから推測するに、スラム街の人口密度を考えると5%、4つスラム街はありまつから、24000、総人口は50万、行商人や傭兵など住居を持たない連中もいれるともう少し多いでつ。これは予想以上でちたね」


「私にはアイ様の計算方法がよくわかりませんが……この王都はそれだけの人口なんですね」


 やはりこの幼女は頭が良い。教養のある自分でも、今の計算方法はわからなかったのでマーサは感心する。


 アイはフフンと得意気に胸を張る。ぶっちゃけ適当だから本当かどうかはわからない。空き家でスカスカのスラム街でも6000人いたのだ。そこから平民の住居を見て、人口密度からこの都市の大きさを計算しただけだ。


 だが、大きく離れてはいまい。と、するとかなりの規模の都市だ。やはり上下水道があるのが大きい。


 交易の要衝であり、穀倉地帯を持っており、なおかつ神器の都市だからだ。


 中世レベルで55万とは驚くべき人口である。広大な王都はなるほど反乱軍では打ち破れない強大な都市であった。


「そんなに多くの人が住んでいるから、予想以上の儲けになったのでつ」


 ご機嫌に小さい手足をぶんぶんと振りながら、幼女は雑踏の中を歩き回り、ガイ、ギュンター、マーサ、ララが後に続く。


 怪しい集団ではある。鎧をつけていないとはいえ、騎士然としたギュンター、召使いらしきマーサとララ、そして騎士に捕まった山賊ガイ。ガイだけ扱いが変なような気がするが、外見って大切だよねとの言葉で終わるでしょう。


「まさか、金貨1600枚にもなるとは思わなかったぜ。草鞋大人気だな」


 おっと、マコトも忘れていた。目立たぬように姿を隠してはいるが。


「そうでつね。木靴って高かったんでつね」


「草鞋が安いのです。姫。安すぎるので、これだけ流行ったのですよ」


 ギュンターの言葉に頷きで返す。


「草鞋1つ銅貨5枚。5日から10日で使えなくなるから、1か月で銅貨15枚から30枚は草鞋に使いまつ。半年で銀貨2枚にも満たないのに、木靴は質が悪いのでも銀貨3枚、半年程度で使えなくなるのに」


 木靴もたしかに革靴と比べると安い。革靴は金貨が必要だし。しかし、草鞋の相手ではないのだ。


「それと、銅貨5枚ってのがインパクトを与えてますぜ。皆は酒代で1つ買えちまう草鞋を気軽に買えますしね」


 うんうんとアイはガイの言葉に同意する。それにどこでも気軽に買えるのが良い。100人の数を数えれる人間を選抜して、王都のあちこちで商売させている。


 草鞋1個銅貨5枚、製作者に1個銅貨2枚、商人には10個売って銅貨1枚、残りはアイの懐行き。今のところ、月産60万足。藁はもちろん足りなくなったので、草刈りを100人ばかり雇い、鎌代もアイが出して、ダツシリーズの護衛兼狩人の元に草を刈らしてスラム街に運びこんでいた。


 しかも完売御礼、笹もってこい状態。今や道を歩く人の半分は草鞋を履いている。木靴屋は歯噛みをしているが、如何せん草鞋を売る商人の数が違う。嫌がらせしようにも、相手が多すぎて対処が難しい中で草鞋は燎原の炎のように広がっていった。


 需要はザッと120万足はまだあるだろう。即ち……。


「他のスラム街の土地の権利書も手に入れまちたし、人々の仕事はできまちたね」


 他のスラム街が支配下に入っても、なんとかできると幼女はクフフとちっこいおててを口にあててほくそ笑む。悪戯が成功しちゃったと喜ぶようにしか見えなかったが。


「数を数えれるようになりなさいと、夫を煽る奥さんもいましたぜ、あんた、隣の奥さんが言ってたの、私の夫は数を覚えて、今や草鞋売りなのよ、おほほって。そんなことを言うなよ、お前さん、俺だって時そばって話で数を覚えようとしているんだよ」


 蕎麦を食べるフリをして、おどける落語家ガイ。時そばというチョイスがまたセンスが良い。噺家になった方が大成できそうな男である。


「数は力……姫の商売のセンス、さすがです」


「今や、あたちの支配地域には金がありまつ。このまま行けば、その金を当て込んで、酒場ができて、店ができまつ。スラム街は正常に戻り、それを見た他のスラム街の連中も頭を下げてくるはず」


「他のスラム街は支配が1本化されていませんし、私たちの真似はできません。ダツ様たちのような兵士もいませんし、これで栄えさすというアイ様の望みが叶いますね」


 マーサは未来に希望ができたと、尊敬の眼差しをしてくるが正常になる前にやることがある。役人に気づかれる前にね。


 てくてくと歩く中で、木靴屋を通りかかると、声を張り上げて客の呼び込みを懸命にしている。職人たちが暇そうに座っており、棚に並ぶ木靴は売れる気配はない。


 これが半年も続けば、潰れる木靴屋、職にあぶれる職人が生まれるに違いない。


「木靴屋さん、かわいそーでつ。潰れるのを見るのも忍びないですし、もう少ししたら買収してあげましょー」


 うるうるオメメで可哀相と、売れない在庫を抱えている木靴屋を眺める。可哀相だから、職人と合わせて丸ごと買収してあげる。俺は優しい幼女なのだ。


 周りに格安ライバル店を作り、潰しておきながら助けの手を差し出すフリをするダークな企業の社長がここにいた。これぞダークファンタジー。意味合いが違うかもしれない。


 元ウォーカー団長のおっさんパワー大活躍である。幼女の姿を悪用することに関しては追随を許さないだろう。


「木靴屋かぁ、職人丸ごとなら使い道は色々あるよな」


 マコトがさすがはアイだぜと、社長の辣腕に感心しちゃう。これなら目立たぬように資産を増やしていけるはず。


「酒場、商店もできれば月光配下にやらせたいでつし、木靴が売れなくなったことにより、材木をダブらせている業者もいるはず。ダブった材木は格安で買い取って、酒問屋の伝手も探して……」


 散歩をしているのに、仕事を忘れられない幼女であった。ぶつぶつと呟きながら歩くのを見て、ララが仕方ないなぁと手を繋いできた。


 にっこりと笑って、アイを見て指を振る。


「今日は王都散策でしょ? 月光の仕事は後回しにしよ〜よ。ほら、あそこに食べ物屋の屋台があるよ」


 指差す先には屋台があり、でかい肉を焼いたものを売っていた。うん、あんまり食べたくない……。ララには悪いけど、焼いたものを売っているのだ。冷めているだろうし……でも、これも異世界社会勉強か。


 ララの笑顔に癒やされつつ、屋台へと行くと店主が気づきニカリと愛想よく笑う。


「へいらっしゃい! 銅貨10枚でウサギの焼き肉が食べれるよ、お嬢さん!」


「5個くださいな!」


 ララが財布からお金を取り出そうとするので、アイはガイへと視線を向ける。以心伝心、ガイはわかりやしたと頷き


「4個でいいですぜ、親分は幼女なんで半分も食いませんし」


「代わりに金を払えって視線でつ!」


 まったく伝わってなかった。さすがは以心伝心な二人である。


 ていっ、とガイの脚を細っこい足で蹴る。ちょっと、ここは俺が奢るところでしょと。


「いでっ、そうならそうと言ってくだせえ。道理で散策に行く前に金貨30枚もくれると思いやした」


「こーさいひ! 交際費でつ。マーサは大金を持っていたら危ないし、ギュンターは護衛。あとはガイしかいないでしょ!」


 まったく、まったくもぉと唇を尖らせるアイに、テヘへとガイは恥ずかしそうに頭をかいて、銀貨を取り出して店主に渡す。


 ありがとうございます! と店主は緊張で身体を強張らせながら、葉っぱに肉を包んでララに手渡す。どうやら護衛と聞いて、貴族のお忍びか大店の娘と思ったのだろう。見たこともない服を着込んでいるし。


 今日の服はワンピース。ひらひらとピンクのシンプルな服が幼女に似合っています。


「はい、アイちゃん」


「手づかみでつか。たしかに串を作るのは意外と大変……。ここにも商売のネタが……」


 硬く筋張っている塩気の薄い肉を頬張りながら、またもや商売を考える中身がおっさんな幼女である。串を削ったら売れるかなぁと周りを見渡すが、意外と肉を扱う屋台はない。


 まぁ、そりゃそうか。肉は高いしね。果物屋が中心なのは当たり前だ。串削りは保留かな。


「あぁ〜、そろそろお祭りが始まっても良いのになぁ。今年は遅い感じがするよ」


 ララが口いっぱいに肉を頬張りながら、言ってくる内容にお祭り? と疑問に思う。祭りをこの時期に? 種まきが終わった時期らしいけど、収穫を祈る祭りかな?


「騎士団のパレードです。毎年若芽が生えるこの時期に周囲の魔物を大規模に間引きをして、パレードをするのです。その観光者をあてこみ、屋台がたくさん開き、商人も市を開きます」


 ふ〜んと、マーサの伝える内容になるほどと思う。魔物がはびこるこの世界では農家を守るために騎士団が動くのだ。平民への良い宣伝にもなり、一石二鳥というわけ。


 食べ物がなければ飢えるのは貴族も同じだし、そこまで貴族は考えなしではない様子。もしくは、王族か。


「いつもならゴブリンの集落を潰してまわり、高らかに平穏が訪れたと、騎士団長様がパレードで宣言するんだよ」


「……ヘェー、ソウナンダ」


 ……ゴブリンの集落をね。なるほど、冬から春にかけて増えたゴブリンを騎士団が倒す。たぶん減りすぎない程度に。鉄の鎧で身を包む騎士団にとってはゴブリンなど相手にならないはず。


 そして平民たちにとっては脅威だ。ゴブリンの集落を殲滅した騎士団は尊敬されるのは間違いない。上手くできたプロパガンダだこと。


 ……今年は無理だろうけど。ゴブリンの集落はもう見つからないはずだし。草を刈るのにも邪魔なので、徹底的にゴブリンを狩りました。おかげでゴブリンは影も見えなくなり、素材が72も手に入りました。


「まだかなぁ、パレードは凄いんだよ。ピカピカの鎧を着た騎士団の騎士様たちと、馬車に乗る魔法使い様たちがかっこよいの」


「それは楽しみでつね。あたちも楽しみにしまつ」


 さて、ゴブリンが狩れない騎士団は代わりに何を狩りに行くのかなと疑問に思いつつも、黒幕幼女は街の散策を続けるのであった。

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[良い点] 消耗品で短期間で買い替えがいるから何時までも売り続けられるのが商売として良いですな! [気になる点] 果物屋があるなら酸っぱくて安く売られてるような果物と塩を合わせれば塩レモン的な味付けの…
[良い点] おおー!草鞋売買は絶好調ですな(^.^)何より十日で履き潰れるのが最高ですね、顧客層がいつまでも買い支えてくれるんですから。 [気になる点] 藁は黒幕幼女が陸稲をゴブリン跡地にせっせこ繁殖…
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