263話 迷宮探索者な黒幕幼女
空を浮遊する巨大なる街であり、要塞でもある空中要塞クリームパンケーキ。世界で唯一の空中要塞は生クリームてんこ盛りのパンケーキに見えるので、そう決まった。女神様が命名しました。美味しそうなので、幼女もグッドなお名前でつ。
現在は月光団員のみが搭乗しており、城内お掃除中である。
その中で魔帝国に潜入した幼女たち一行もお掃除に参加していた。身バレしないように、慎重に魔帝国で拠点づくりをしているので暇だとも言う。
「現在、月光商会を名乗る商隊は22、陽光帝国から潜入した個人の行商人は100以上。魔帝国はどれがスパイか調査をしているところでしょー」
通路を歩きながら、ブンブンはたきを振りながら、てこてこと歩く幼女は小柄な身体を傾けて、クフフとほくそ笑んじゃう。
ダツたちを大量に潜入させたのだ。誰が月光商会の工作員かバレないように。今頃、魔帝国の情報部は慌てているに違いない。まぁ、全員が工作員なんだけどね。
そしてその工作員一行に幼女たちはいない。商会の人間ではなく、解放農奴のフリをして入りこんだのである。父親役はガイ。甲斐性なしで、奥さんに逃げられたので、新天地でやり直そうと魔帝国帝都にやって来たおっさんである。
娘役にランカ、リン、アイ。貧乏ながらも健気におっさんを支える娘役だ。新婚のあっしがそんな役はできねえと悲痛の抗議をしてきたが、仕方ないだろ。ライトキャストという奴であるからして。
と言う訳で、ほそぼそと仕事を探す幼女たちは草鞋売りをしたり、怪しげな雑貨屋を乗っ取ったりして、今のところ目立った行動はとっていない。たぶん。
仕事を探すフリをしながら、街を練り歩く草鞋売りのガイは置いておいて、幼女たちは暇潰しに空中要塞を観光兼掃除に来たのであった。冬になるし、魔帝国帝都では取り敢えず引きこもる予定なので。
と言う訳で、幼女たち一行は空中要塞の地下迷宮を掃除しに訪れていた。
地下迷宮とはなんぞやと、この空中要塞を手に入れた際に調査をしていたら見つかったので不思議に思ったのだが、なんか宝箱もあると報告を受けたので掃除に来たのだ。掃除以外の意図はないよ。
「落とし穴の先にはいなずまのけんがあるかもでつからね。落とし穴系のトラップはちゃんと底を確認しまつよ。落とし穴の横壁もでつ。隠し扉があるかもでつし」
最近のトラップは凝っているんだよと、疑り深い幼女は周りのメンツへと告げておく。
「へいっ! お任せくだせえ!」
なぜか置いてきたはずの勇者が元気よく挨拶をしてきたが。
「ふふふ。あっしを置いていこうとしても無駄ですぜ。この世にはパーティーテレポートというパーティーに合流することができる魔法があるんでさ」
指に挟んだカードをキラリと光らせて、ドヤ顔になるガイ。カードの表面には星4パーティーテレポートと書いてある。なるほどね。
「ザーンから買い取ったんでさ。多少ボッタクリでしたが。使い切りですし」
「さよけ」
「パーティーテレポートも使い道ないもんな。格安で仕入れることができたんだぜ」
アイの髪の毛からぴょこんと飛び出したマコトがフフンとドヤ顔で胸を張る。たしかにパーティーテレポートって、昔やってたネトゲーでも途中で実装されたけど、あまり役には立たなかった。パーティーという名のとおり、だいたい冒険時には一緒にいるのだから。
それはともかくとして、ザーンはカード商人になっているなぁと苦笑しつつ、ダンジョンを進む。カードを作りすぎてマコトは破産しないように祈っておくよ。これが本当のカード破産。なんちて。
「もう冬だなぁ、なんだか寒いんだぜ」
「気のせいでつよ、マコト」
サッと目を背ける幼女であった。もう冬になるもんね、寒いはずだよ。
カチャカチャと足音をたてつつ、地下迷宮を進む。一応ハタキでペチペチ床を叩きながら。
「ねぇ、親分? その1メートルハタキじゃ、罠を見つけることはできないと思うんですが? なぜかあっしが先頭なんですが?」
幼女が凛々しい表情で罠がないかなとハタキを使っているのがわかったらしい。さすがは勇者。偉い。でも、少し違うんだな。
チッチッチッと、ちっこくて細い人差し指をフリフリ振って教えてあげる。
「お掃除中なんでつ。幼女がお掃除をお手伝いする姿でつね」
気ままな幼女は、だいたいこんな感じなんだよねと、アイはフムンと平坦なる胸を張っちゃう。幼女はハタキを振るだけでお掃除したことになるのだ。
「ん、よくわかってる。それが幼女の正しいお掃除」
「無邪気にハタキを振るアイたんの横顔ゲット」
ケモ娘ズも深く同意をしてくるから、アイの言っていることに間違いはない。幼女嘘はたまにしかつかない。
えぇ〜と、味方がここにはいないと思い、助けを求めるためにギュンター爺さんへと視線を向ける勇者であったが、反対にジロリと睨まれてしまう
「操糸で罠を探っているのはミエミエだ。いちいちコントをしないといけないのか、お前は」
お爺さんのツッコミのとおり、ほとんど透明の糸が僅かにキラリと輝き、行く先に放たれていた。
助けを一蹴されたのみならず、自分が密かにやっていた行動を指摘されて、ガイは顔を赤らめてしまう。モザイク編集処理決定の表情である。
「最近親分と遊んでなかったもんで。つい」
確信犯でもあった勇者であった。
はぁ〜、とお爺さんが額に手をあてて疲れたように嘆息するが、勇者なんてそんなもんだよ。勇者ヨシヒなんちゃらさんも、いつもコントしかしてなかったでしょ。
あの深夜ドラマは楽しかったなと思いながら、ガイの操糸で罠を探索しつつ進む。追放コントはやっていることがバレたから無理だな。
ぽてぽてと進む一行であるが、意外な展開になっていた。
「創造神に逆らうものに死を」
太った巨体を鎧に包み、背中に小さな天使の羽根を生やしたハルバード持ちが通路にいたのだ。あまつさえ、ドスドスと足音を荒げながら近づいてくる。
大きく振りかぶって、ブンと風斬り音を起こしながら力強い一撃を繰り出してくる天使。
「説明しよう。あれの名前はデカ天使、平均ステータス120、ちからがとてもとても高い。力天使の中でも面倒くさいレベルのタフな体力を持っているんだぜ。武術スキルは槍、斧が5。もういらないよな」
「こいつのちから、ヤバすぎですよ!」
イフリートの腕輪を斧へと変えて、デカ天使の一撃を受け止めるガイであるが、床に足はめり込むように、石床に大きくヒビが入った。
受け止められたデカ天使はハルバードを引き戻し小刻みに上下からのコンボを繰り出す。
「ちっ、意外と速い!」
ガイも負けじと、迫る一撃に斧を合わせて受け流す。ガキンと重々しい金属音が響き、ハルバードはその軌道をずらされる。
「槍天使も来たんだぜ! 平均ステータス100、特筆するようなスキルはない!」
パタパタと翅を動かしながら、アイの肩に乗っているマコトは嬉しそうに言う。まともな説明ができて嬉しそうだ。
たしかにマコトが気づいたとおりに、奥からヒョロヒョロと案山子か、枯れ木のように細く、死人のような青白い顔色の槍持ちが数人駆けてきていた。デカ天使と同じく小さな羽根を生やしている。
「創造神に逆らう者に死を」
肉迫してくると強い踏み込みで、デカ天使と戦うガイへと突きを繰り出す槍天使。
「ムンッ!」
間に入り込み、気合の声をあげてギュンターが盾にて槍を受け止める。的確に繰り出される突きの一撃は、ギュンターの巧みに動かす盾に防がれて、辺りに強く金属がぶつかった音が響く。
「こやつら、普通に強いですぞ、姫!」
敵の動きから警戒をするギュンター。ステータスは低いが槍さばきは達人だ。ステップを踏むように足を動かしながら、迷うような素振りを見せずに、疾風の速さで連続突きを繰り出してくる槍天使。
スキルレベルの差はあるが、それでも連携された槍天使たちの攻撃はギュンターをして警戒に値する者たちらしい。
「たぶん、こいつらの持っている武具もかなりのもんですぜ、パイルダーアーイ!」
デカ天使と戦いながら、早くも幼女に助けを求めて泣き言を叫ぶ勇気ある者。
既に武器は赤竜の斧へと切り替えており、何度かデカ天使の身体に当てているが、怯むことなく敵は攻撃を続けていた。たしかに強いとわかる。
「適刀流 蝶の舞」
リンが槍天使たちの中へとふわりと蝶のように降り立つと、ゆらゆらと刀を動かす。刀の一撃を警戒した槍天使たちはギュンターへの攻撃をやめて、リンから間合いを取るべく、後ろへとジャンプするように飛び退るが、床へと着地すると同時にぐらりと倒れ込む。
その身体に、刀から発生させた衝撃波を受けたのだ。しかし、態勢を崩されただけであり、再び立ち上がろうとする。
たが、そんな大きな隙を見逃すアイたちではない。杖を手に魔法を発動させていた。
「フレイムランス」
「フレイムランス」
「マコトパーンチ」
最後の攻撃は全く意味がなかったが、アイとランカの持つ杖から高熱で空気を揺らめかせる炎の槍が複数生み出されて飛んでいく。
槍天使たちは未だ立ち上がることもできずにまともに受けてしまい、その身体を燃やされて灰へと変わってゆくのであった。
「うおおぉ! 斧技 ドラゴンブレイク!」
タフすぎるデカ天使に手を焼いた勇者が無駄に最高レベルの技を使う。竜の鱗を砕きその肉体を切り裂く斧技。炎のように揺らめかせる赤いオーラに覆われた赤竜の斧はデカ天使の鎧を砕き、身体を縦へと断ち切る。
「こいつ、固えし、倒れないしで面倒くさすぎますぜ」
「たしかにそうでつね。ただ、もうおかわりがやってきまちたけど」
疲れたように斧を杖代わりにして、よりかかりながら、勇者は息を吐く。だが、疲れを癒やす時間はなさそう。
なにしろ、デカ天使が通路の奥からやってきたので。
そうして、しばらくは天使たちを倒しまくり、アイたち一行は奥へと進んだ。
「……おかしいと思ってまちた。なんで天使たちの生き残りがこんなにいるのかと考えていたんでつよ」
気になってたんだよな。ルシフェルは出し惜しみをせずに天使たちを投入してきたはず。それなのにデカ天使たちを残すなんておかしいと思ったのだが、答えはあった。
「これはなんだろうな? テキストフレーバーがないんだぜ?」
「天使たちの彫刻が彫られている時点で天界の門のように見えまつが……」
迷宮奥には巨大な白い門が広間の中心に鎮座していた。10メートルぐらいの大きさを持つ門は、天使たちが神を敬うという、天の光に天使たちが集っている、よくある感じの神々しい彫刻が彫られていた。
しかもテキストフレーバーがないとマコトが戸惑っているということは、想定外のものなのだろう。
その分厚い扉は細く開いてもいて、その先は広間の反対側のはずなのに、暗い雲が天を覆う不吉そうな荒れ地が見えた。
「なんにせよ、冒険者っぽいでつね、先に進みましょー」
これを放置しておくとヤバい感じがするので、やめましょうと慎重な言葉を吐く勇者の背中を押しながら黒幕幼女たちは中に入るのであった。