表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒幕幼女の異世界ゲーム  作者: バッド
19章 変わりゆく日常なんだぜ
258/311

258話 冒険者ギルド

 冒険者ギルド。この世界で初の職業ギルドである。王都の門番は聞いたことのないそのギルドの扉をくぐった。


 別に門番の仕事を辞めたわけではない。月給金貨8枚は平民では高給取りだ。いや、兵士として考えると、今は微妙な金額となるが……。


 この間、酒場のウエイトレスに振られた原因。月給金貨15枚の月光商会の兵士とお付き合いを始めたのと振られてしまったのであるのだ。


 振る理由は納得できるものであるが、それを口にするデリカシーの無さがわかって、付き合う前で良かったと思ったのだが、なにか副業でもできないかと、冒険者ギルドを覗きに来たのだ。


 断じて受付嬢が美人揃いだから様子を見に来たわけではない。試験に合格して、簡単な仕事を片手間にできるあるばいたーとかいう職業もあると聞いたのだ。ちなみにあるばいたーは身元がしっかりしていないとなれない。


 先程、グラウンドで試験官と戦い、あるばいたーの試験は合格した。騎士たちも懐具合が寂しい者たちもいるらしく、チラホラと顔を覚えている者たちがいたのを確認している。


 冒険者ギルドの内部は別世界のように綺麗であった。床板はピカピカに磨かれており、ソファがたくさん設置されている。柔らかい魔道具の光が部屋を照らしており、壁には紙が大量に貼られており、人々が集まって、それらを物色していた。


 文字を読めない者が多いのか、壁際に立つ小さな子供たちに銅貨を手渡して読んでもらってもいた。文字を読めない者の代わりにお駄賃を貰い読むのだろう。


 受付カウンターには5人の受付嬢が笑みを浮かべている。数人の冒険者がそれぞれの受付に並んでおり、依頼を受注していた。


 たしかに聞いたとおり、皆美人揃いだ。コホンと咳をひとつして、依頼書が貼られている掲示板を見ていく。


 薬草採取から、ゴブリン退治。推奨人数にランクも書いてある。門番のランクはあるばいたーだ。通常のランクはアイアンファイター、ブロンズ、シルバー、ゴールドまであるらしい。ゴールドは光速の拳を繰り出すことができないとなれないらしい。なんのことだろう?


 まぁ、自分には関係ない話だ。ゴブリン退治を選ぶ。一体のゴブリンの牙で銅貨10枚。なかなか良い金額である。それ以外にも、ウィードスネークやウィードスパイダーなどもある。


 それぞれ訓練を積んだ兵士ならば、簡単に倒せる相手だ。もちろん門番も一人で外に出るつもりはない。同僚を数人誘って行く予定だ。外に数人が待機している。


 受付の前に並ぶ。前の者たちが受領していき、自分の番になったので、少し緊張気味に立つ。


 ゴブリン退治を受けたい旨を伝えると、受付嬢はニコリと癒やされる穏やかな笑みを浮かべて、パクリと手元にあるクッキーを食べた。


 ん? と首を傾げる。なぜクッキー?


「お菓子は人類の作り出した最大の文明だと思わないかい?」


 もっしゃもっしゃクッキーを食べながら笑みを崩さずに、リスみたいに頬を膨らませる受付嬢。小柄な体躯で銀髪の少女だ。年若いように見えるが、胸が歳に似合っていない。


「こら、真面目にやりなさい」


 受付嬢の後ろに上司らしい女性が近づき頭を叩く。


「大丈夫。このクエストは受領したよ。もう手続きも終わっている」


 手元にある控えの紙をひらひらと振る少女に、上司は苦笑いをを浮かべた。その様子からいつもこんなことをしているのだと予測する。


 こういう仕事はできるんだが、不真面目そうな態度をとる部下が一番扱いに困るんだよなぁと、自身の経験から上司に同情してしまう。


「あ、先見をしておくから、不意打ちは大丈夫だろうね。あとは貴方に幸運を。ちなみにお菓子の差し入れは大歓迎だ」


 不思議な感じの可愛らしい笑みで、受領証を渡してくる受付嬢だが、その笑みになんとなく神々しさを感じて腰が引けてしまう。この娘は高嶺の花だ。たぶん自分では相手にされないと感覚でわかる。


 列から離れる際に、フェルちゃん、相変わらずで可愛いなと冒険者たちが話すのを聞き流しながら、ゴブリン退治に向かうことにする。


 人気者の受付嬢はパスだ。それよりも掃除をしているギルド員を狙うかな。


 そろそろ結婚をしたいんだよなぁと、欠伸をして暇な休日の小遣い稼ぎに王都の門番は同僚たちと向かうのであった。





 ギルドは盛況とはいかなかったが、それでも賑わっている。アイは執務室で報告書を読みながら、ふんふんと鼻を鳴らし、パタパタとちっこい足をプラプラさせていた。


 傍目にはごっこ遊びをしているようにしか見えなくて可愛らしい。


「はいアイちゃん」


 ララがココアを置いてくれるので、クピリと飲む。甘くてホッとする味に疲れが癒やされる。ココアサイコー。


「お仕事は順調?」


「順調でつね。特に売れているのが、有限の水筒でつ。魔物がたくさん狩られるようになり、冒険者というそこそこ信頼できる護衛ができたことにより、行商人か一気に増えまちたから」


 馬車しか移動手段がない異世界において、水は重要だ。馬はかなりの水を飲むのである。もちろん人も。そのために水場の確保が必須となるのだが、水場には魔物や猛獣も集まる。基本的に危険な場所なのだ。


 もしも水場まで辿り着けない場合も考慮して、馬車には水を入れた樽も積む。かなりの重さになるために、有限の水筒は大人気となった。なにしろ神石と水筒があれば良いのだから。積載量も増えて、腐ることもない。


 それにちょっとしたお金持ちも有限の水筒を改造した有限の蛇口を買っている。これは単に見栄のためだけどね。


「灯りの魔道具が2番目。3番目が冷蔵の魔道具。4番目以降は身体強化や攻撃魔法関連でつ」


「お父さん、大変だぁ。大忙しになっちゃうね」


「ガイはいくらでも仕事をやりますぜと、胸を叩いて自信満々にしてたから大丈夫でつよ」


 あんなことを調子に乗って言わなければ良かったと、後悔の叫びがどこからか聞こえそうな気がするが気のせいと言うことにしておく。


「しかし、使っても使っても、お金増えていくばかりでつね」


 報告書にずらりと並ぶ金貨の枚数。もはや金貨が欲しかった時代では信じられない程の枚数になっている。


 そこら中に投資をしても良いんだけど、遂にインフレに気をつけないといけないレベルとなったのであるからして。


「銀行も欲しいところでつね。インフレを防ぐためにも」


「インフレになると、皆は困っちゃうしな!」


 ドアをすり抜けて、妖精が元気よく入ってきた。パタパタと翅を羽ばたかせてご機嫌な様子。どうやらアバターを取り戻すことに成功したマコトはウキウキと顔を輝かしている。


「ご機嫌で何よりでつ。よく借金を返すことができまちたね?」


「あぁ、泥沼のパチンコに勝ったんだ。銀髪メイドが、風のカーテンのボタンとフェニックスモードのボタンを押し間違えたからな。さすがあたし。幸運の下にいるよな」


「たしかにマコトは幸運はありまつね。幸運があるのに、それ以上にアホだから貯金ができないだけで」


 強運を持っている妖精だなぁと、苦笑しちゃう。巨額の借金もなんだかんだとあっさり返すからな。問題は返すそばから、新たなる借金を負うところだけど。


「今のあたしはセレブだからな。インフレはやめてくれよ? お金の価値が下がっちゃうからな。あたしの持つお金はこの世界の金じゃないけど」


 ウハハハと高笑いをする妖精である。またぞろ貯金を失うアホなことをやるんだろうなと思っちゃうけど。


「おやぶーん! もう魔道具を作るのは嫌ですぜ! 旅に行きやせんか?」


 続いて、ドタバタと足音荒く、泣き顔で勇者が入ってきた。おっさんの泣き顔なので、モザイク必須。


 延々と魔道具を作るのに飽きたというか、さすがに疲れたのだろう。神石魔道具は魔道具自体は数年は持つ耐久性を持つが、今は希少。じゃんじゃん増やして、需要が安定するまで、たくさん作って貰わないといけないんだけど。


「あっしはもはや限界! 限界ですぜ。マーサとの時間がとれないでやんす」


 泣き言を言う新婚勇者。さすがに罪悪感をアイも抱いちゃう。


 まぁ、ガイでなくても、問題はない。ガイの作る永続性魔道具は壊れないし、一生使える物に限定するかな。


「お父さん、魔道具は簡単に作れるけど、毎回女の子がまとわりついてくるから、お母さんの機嫌が悪くなっているんだよね」


「ノーカン! ノーカン! だってモテモテなんですもの! もうモテモテにならなくても良いのに!」


 ギクゥと身体を震わす勇者ガイ。小悪党は現在モテモテハーレム野郎な模様。


「そろそろ旅にでまつかぁ。あたちも夜会やお茶会の招待状ばかり増えていて困ってまつし」


 机の脇に積まれているお手紙の山を見て嘆息しちゃう。ちょっと有名になりすぎた。黒幕として相応しくない。


 ほとぼりを冷ます必要があるだろう。幼女はご近所に知られている程度で良いのだ。


「わかりやした! どこに旅に行きますか? 用意しますぜ! あっしもほとぼりを冷ます必要がありやすから」


 ガバッと顔をあげて、嬉しそうに聞いてくるガイだが、行き先は決まっている。


「もちろん魔帝国でつ。サケトバで国境近くまで移動したあとに、普通の馬車で魔帝国に入国しまつ。ふつーの馬車でつよ」


 普通というところを強調しておく。装甲馬車や、狼はお留守番。


「はぁん? 目立たないように入るんだな? 諸国漫遊のご隠居みたいに」


 先程から邪神を召喚する踊りを踊っていたマコトが聞いてくるので、コクリと頷く。


 こちらのことはもちろん知られているだろうが、監視系を防ぐ特性を持つ幼女だ。人伝にしかその話は聞いていないはず。


 その中で目立つ相手はというと、ギュンター爺さんが筆頭。2番目はリン。小悪党は最低ランクだろう。


「あたちは最近景気が良くなってきて、観光にきた愛媛のみかん商人、アイ。そしてひょっとこガイベエと、お付きのメイドランカとリンとしましょー」


「護衛は誰にするんですかい? ルーラかザーンですか?」


「んとですね、護衛は冒険者を雇いまつ。なので変装をばっちりとしていきまつよ。王都から国境までの飛空艇便に乗るところからスタートでつ」


 ほほうと、ガイとマコトは面白そうな表情になる。それだと、かなり面白そうな旅になる予感だと。


「魔帝国は楽しい魔道具やスクロールがたくさんあるらしいでつし」


 色々とお土産もありそうだ。楽しい旅になると良いなぁと黒幕幼女はワクワクしちゃうのであった。


 お爺さんにはお詫びの銘酒をたくさん渡さないとな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] マコトさん、ゲームは苦手とはいえ創造神の試練に打ち勝ち身体を取り戻す?とかある意味すごい伝説打ち立ててるけどそこまで気にした様子がないのは凄いですなあー。神話によってはそれだけで逸話とか伝…
[気になる点] フェルちゃんって、えっ? 受付嬢を雇う時の面接はどうスルーしたのか?
[一言] マコトが次はどんな無駄遣いをするのか。 魔帝国よりも気になります。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ