257話 冒険者ギルドを作る黒幕幼女
王太子任命のイベントも終わり王都には平穏が戻った。見た目には。見た目には、という意味がどのような意味を持つかというと、月光街は大賑わいということだ。
他の地区も賑わっているが、それを上回る賑わいである。
「商売繁盛で笹持ってコーイ」
と言うやつである。
笹を持ってくると、なにか良いことがあるのだろうかと、幼女は不思議に思っちゃうけど。たぶんなにか良い意味合いがあるんだろうね。パンダあたりが喜んじゃうんじゃないかと予想をしてまつ。
幼女にはわからない不思議はおいておいて、食堂、酒場、洋服店から、雑貨屋まで大賑わいであった。
なぜそんなに忙しいのかというと
「ここが神様の使徒様が住んでいるお屋敷か」
「数年前までは、ここはスラム街だったらしいわよ?」
「そんな嘘には騙されないよ。アハハハ」
と、観光客が大勢来ているからだ。王都の住民もいるが、周囲の都市と繋がる格安駅馬車も開通されて、流通に革命が起きたのである。
飛空艇サケトバを使った定期便も始まっており、人の流通に拍車がかかっている。
今までは観光という概念もなかった異世界。だが、突如として現れた月光商会による観光ツアー。景気がよく、懐が温かい者たちにとっては最高の娯楽であった。
そのため、月光街は観光客で溢れかえっていた。もはやスラム街の貧乏な様子は跡形もない。というか、忙しすぎて文句が出そうな勢いだ。
なにしろ一つの酒場が繁盛すれば、酒屋、食料品店、ウエイトレスの着る服などなど必要になるのだからして。例えを出すのに苦労しない。ウエイトレスの制服はどこかの勇者の趣味のせいだが。
幼女が口を尖らせて、フーフーと息を吹けば桶屋が儲かるのである。
黒幕なのに、有名すぎるのが難点かと思いきや
「神の使徒、マコト参上! お捻りはこのシルクハットにお願いします!」
月光屋敷から出てきた銀髪の少女がシルクハットを片手にくるくると回転しながら突き出してくる。最近うろちょろしている少女で、額に(貸与)と書かれていた。
「神の使徒は幼女と妖精だと聞いているぞ」
「詐欺だな」
「こういう人ってどこにでもいるのね」
「次回からパチンコ編が始まります」
最後の発言者が虚無僧の衣服を置いていったりするが、マコトカッコ貸与品アバターカッコ格安の姿を見て、どこにでもこういうのがいるんだなと、観光客はスルーした。可哀相に思ったのか、お爺さんが銅貨をチャリンと入れてくれたが。
「駄目みたいですね、マコト」
がっくりと膝をつくマコトである。
「くっ! あたしは運営なのになんでこんなに貧乏なんだ」
マコトの髪の毛の合間から、セフィがやれやれと両手をあげて、肩をすくめながら呆れたように言う。
渡る世間は借金とりだけだぜと、口を尖らせるマコトだが、今までのことを考慮すれば、自業自得といえよう。
「しばらくはこの姿だからな〜。地雷麻雀には勝ったけど、借金チャラにはならなかったし」
「マコト。私に女神様を紹介してもらえませんか? 私も人間になりたいです」
「世界を妖怪3兄姉で旅すれば人間になれるかもしれないぜ」
投げやりに答えながら、後ろ手にてこてこと歩き始める。どういう意味ですかと、セフィが尋ねるがスルーをして、太陽の位置を確認する。
「そろそろ冒険者ギルドの開店の時間だな」
「ねーねー。妖怪3兄姉って、どういう意味ですか?」
「そんなことより、冒険者カードを作るぞ。まずは薬草集めからだろ」
そう答えて、一際人だかりの多い場所まで移動するのであった。
多くの人々が集まっている場所。月光街の王都門付近に建てられた3階建ての建物。凝った作りではなく、石作りで頑丈そうな学校程の大きさを持つ建物だ。
ワイワイと人々が騒ぐ中で、建物の前にはテープが張られて、くす玉も用意されている。
その前にはお仕着せを着た可愛らしい幼女他数名が立っている。幼女は楽しげな笑顔でハサミを持って、テープカットの練習をしていた。とやあっ、チョキンチョキン。
「そろそろ時間ですよ、親分」
似合わない貴族服を着て、苦しそうに首周りを気にしながらガイが言ってくるので、コクリと頷き、周りへと体を向ける。
「レディースアンドジェントルマン。本日は冒険者ギルドの開店をご報告しまつ!」
キャッキャッと、フリフリドレスを着て、ぴょんぴょん飛び跳ねながら宣言するアイ。
その無邪気な様子から、完全におっさんは消えたのであろうか。たぶん消えていない。きっとベッドの隙間とかにいるはずだ。
「冒険者ギルドって、なぁに? と頭を傾げちゃう人たちがいると思いまつ」
ウンウンと頷く人たち。とりあえず、兵士みたいなもんらしいが平民でもできる仕事と聞いて集まってきたのだ。
「冒険者ギルドとは、魔物を退治したり、人々の様々な依頼を受けたりする人々をお助けしちゃうギルドでつ。日雇いの口入れ屋さんと同じに見えて、同じではありましぇん」
ひと呼吸おいて周りを見るが、興味津々な様子の人々に安心して話を続ける。
「冒険者ギルドは、訓練学校も兼ねていまつ。文字、武術、魔法。それらを数年間の訓練をする学校でつね。その中で冒険者として合格した人が活躍できるギルドでつ。学校に行かなくても、試験に合格すれば冒険者にはなれまつが」
「それじゃ、冒険者ではなくて騎士とかになった方が良いんじゃねえですかね?」
合いの手を入れるガイにコクリと頷く。そのとおりだ。
「でも騎士になれない。俺、結構強いのに、と思う平民さんがたくさんいると思いまつ。でも兵士になるのもなぁという人、単純に世界を旅したい人々。それらの人々が冒険者になってくれればなぁと考えてまつ」
冒険者ねぇと、人々が顔を見合わせて戸惑う様子を見せるが、そりゃそうだ。いきなり冒険者になってくれと言って、そんな聞いたこともない仕事に就きたい人はいないだろう。
「ちなみに冒険者になったら、最低賃金は月給金貨1枚。歩合制で上手くやればじゃんじゃん稼げまつ。身分保証は月光商会がしまつよ。その代わり毎月決められた依頼数をクリアしないとでつけど。あ、福利厚生はしっかりしてまつので安心してくだしゃい。産休から退職金までばっちりでつから」
だから、狭き門なんでつと、少しだけしょんぼりした顔を見せちゃう。そんな幼女の様子に、慰めないとと考える人もいたが、ようやく冒険者とはなにか人々は理解した。
即ち、月光商会の私設騎士団だと。
いやぁ〜、本当は誰でもなれるライトな異世界小説でよくある冒険者ギルドにしたかったのだが、やっぱ無理だわ、あれ。
最低でも死なないように、かなり困難な試験をクリアしてもらわないと。あと、怪しい人物が入り込まないように、身元もしっかり調査しないとな。現実だとこんなもんだ。
「討伐だけでなく、薬草などの採取や、探索などもありまつ。そして、肝心の冒険者でつが、この腕輪を使って貰いまつ!」
チャララーンと、小さな宝石の嵌められた腕輪を掲げて見せちゃう。
「これこそが新型魔道具。神石を使い魔法を発動できる各種魔法が籠められた腕輪でつ。これは筋力を上げるストレングスが籠められてまつね」
神石。新たなるスキルで作り上げたバッテリーだ。神石を使って作った魔道具を配布するのである。魔力は神石から補うために、今までの魔道具のように大量の魔力は必要ではなく、スクロールと同じように、少ない魔力で魔道具が作れるという凄いものだ。しかも、スクロールと違い、バッテリーである神石を交換すれば、再利用可能。
「この腕輪は簡単に作れる魔道具であるのが長所。そして騎士たちとの力を埋める魔道具でつ。これで、平民と騎士、その力が簡単に埋まるようになりまちた。そして、冒険者はドンドコ偉くもなれまつ。ランク制度をとりまつので」
おぉ〜、とその革新的な魔道具にざわめきが起こる。今まで、騎士との格差は絶対的なものがあるというのに、その差が埋まるのだから。
「基本、魔物を退治したら、冒険者ギルドが買い取りまつ。平民であるからと、騎士の道を諦めた人。世界を旅したい人々に門戸を開く。訓練によって、他の職業も目指せる。それが冒険者ギルドでーつ!」
「今日からしばらくは試験を行いやすぜ! 力が足りなくても、剣の技などに自信がある人、魔力は足りないけど魔法を使えるんだけどと言った人。今ならすぐに冒険者になれやす! ラッキーオープン記念でやす!」
アイとガイ。なにやらどこかの詐欺師な悪徳商法みたいなセールストークをする二人であった。
その言葉に、逞しそうな人や、頭の良さそうな人が歩み出てくるのをみて、うまくいきそうだと安心する。
今は貴族とのステータス差は埋めることはできないが、下級騎士との差は埋まる。下級騎士がこの腕輪を使ってたら意味がないんだけど、それでも平民たちの希望となるだろう。
今までは守られるだけの存在だったのに、戦えるようになるんだからね。
「では、テープカットをしまーす。エイッ」
チョキンとハサミでテープカットをして、万雷の拍手の中で、ハードな異世界に初の冒険者ギルドが開設された。
冒険者ギルドはタイタン王国、陽光帝国に広がり、魔物を倒し、ある程度の治安維持をするギルドになるのである。
あ、もちろん、月光商会の子会社でつから。
まずはゴブリンを倒しに行こうと、試験に合格した、たぶん貴族の血を少し持つ人々が冒険者になって、意気揚々と神石の腕輪をつけて出掛けていく。意外と多くの人々が冒険者になった。
皆が思う通り、私設軍であるのは確かだが、実際の月光軍との違いには気づいていない模様。月光軍は屋敷とかに出入り自由なんだよね。即ち、機密には手が届かない、それなのに軍として使える便利な兵士ということになる。……兵士として扱うつもりはないけど。
「しかも月給金貨1枚。格安でつ」
冒険者ギルドの建物は5階。その最上階にてお行儀悪く窓枠に腰掛けて、足をプラプラさせてアイは出掛けていく冒険者たちを見送る。
「え、と、まぁ、軍はその維持だけでもお金がかかりますからね。傭兵に近く、それでいて傭兵ではない。常に魔物退治をするので、お金も儲かり、基本的に赤字にはならない。こんな素晴らしい職業はありません」
スズーッとお茶を飲みながら、スノーがのんびりとしながら言う。冒険者ギルド開設のゲストとして来たのだ。
「皮肉に聞こえまつが……仕方ないのでつよ。ステータスの格差が埋まったと実感する職業で、お金がかからないものは冒険者しかないのでつから」
窓枠から、とやっと降りててこてことソファに座る。マーサがショートケーキとココアを置いてくれるので、美味しそうとフォークを持ちながら、テーブルに置いてあるゴブリンの牙をツンとつつく。牙は清らかな光に包まれたかと思うと、美しい魔力の籠もった小さな水晶のような石へと変わった。
「これで灯りや水には困らなくなりまつ。大規模な開拓ができまつね。神器に頼らない街づくりができるというものでつ」
「そして、開拓後の街や村に必須な神石を作れる冒険者ギルドは、世界の支配者として力を持つ。アイさんも悪よのぅ」
「いえいえ、お代官様こしょ」
うふふと二人で悪戯そうに笑いあい、チョコケーキも食べたいでつとおかわりをマーサにお願いして、お夕飯が食べれなくなるので駄目ですよと怒られちゃう黒幕幼女であった。