253話 黄金の月光幼女
衝撃波の音が響いてくることから、戦いが続いていることがわかる。高速で移動する二人はもはや視界に入れることができないために、音のみで人々は判断していた。
ドォンと繰り返し衝撃波が空中に花咲くようにいくつも発生し、時折金と銀の光が混じり合うように飛び交う。未だに戦いは終わらず、この戦いが神々の戦いであると、己の魂が理解をし、空を仰ぎ見るのであった。
ルシフェルは恍惚としていた。滅びし自分が再び降臨し受肉できたのは、我が主の力のおかげだと理解をしていたからだ。
世界に安定を求めた主の期待に応えることができずに、力に溺れ悪魔や龍との戦いに明け暮れてしまった愚かな自分に再びチャンスを与えてくれたのだと。
銀の光から主の力を感じる。あの冷酷なほど全てに対して平等なる主。その視界に入るだけで、自分は幸福を感じた。
きっとこの世界に降臨した意味は、この世界を主の物にせよという意味なのだ。ならばこそ、等しく慈愛の力にてこの世界の生命体に救いを与える。もちろん逆らう者は、死の赦しを与える。
その中でも主以外の神を名乗る愚か者の使徒を赦すことは最優先である。たとえ幼い少女といえど。
「君の力では私には敵わない。創造神にして我が主の力を宿す私にはね」
全ての攻撃を防いでいるにもかかわらず、効かないとわかっていても攻撃を止めない幼女へ優しく伝える。
「そ~でしょ〜か? あたちと貴方の力はあまり差がない。いや、あたちの方がきっと強いでつ!」
黄金の槍を繰り返し突いてきて、不敵な笑みを幼女は浮かべる。そのセリフにルシフェルはフッと鼻で笑う。
「わかっていないようですね。……ならば私の真の姿をお見せしましょう。もはや受肉は終わりました。この偽りの姿も必要ない」
愚かな抵抗を続ける幼女へと告げて、己の身体を加速させ、間合いをとり、翼を畳み身体を包む。
「ルシフェルの真の姿を見て、驚き慄きなさい。この姿を見てね」
そうして、その身体は銀の光を発生させる。太陽のような強く眩しい光を放ちながら、その身体を変化させてゆくのであった。
アイは黄金の翼をはためかせ空に浮きながら、光り輝く銀色の太陽のようなルシフェルを、眩しそうに目を細めて見つめる。
「ルシフェルの真の姿……。ゴーレム退治から、ノーマルルシフェルと戦ったあとに、真の姿ときまちたか」
「タイタンニアはランカで倒しておいて良かったな! 時間制限がきついところだったぜ!」
モニター越しに、フレーフレーとボンボンを振りながら応援するピンチの時は颯爽と逃げたチアガールマコトが言ってくるが、たしかにそのとおりだ。というか、ノーマルでもやばかったんでつけど……。
あんまり真の姿が強くないようにと、お祈りする幼女だが、モニターに新たなるボタンが表示されて、うに? と首を傾げちゃう。
「月光幼女の真の姿に変身するボタン。……使うと魔物素材を全て消費しまつ……。マジでつか」
どうやら女神様も真の姿という能力に憧れた模様。でも、魔物素材全部を使う! ペナルティが厳しすぎる。どれぐらい能力がパワーアップするか記載無いし。
アイはこのボタンを見なかったことにした。あまりにも酷すぎる救済措置であるからして。
このまま頑張ろうと、幼女はムンと手を強く握って、ルシフェルへと視線を戻す。変身中に攻撃したかったが、かなり微妙な間合いのため、邪魔できないぽい。
真の姿になっても、ずる賢いのは変わらないのねと嘆息しつつ見つめる中で、ルシフェルはその変身を終わらせて、身に纏っていた翼を広げる。
「これこそが私の真の姿。神の眷属、ルシフェル・ヴィーナス。光の智天使にて、神の代行者です」
ルシフェル・ヴィーナス。そう名乗った者は、銀に輝く翼を広げ、銀糸のような滑らかそうな艷やかな腰まで伸ばした銀髪を、そのたおやかな白魚のような手でかきあげる。
それだけで銀の粒子が辺りに舞い散る中で、ふわりと慈しみの籠もった笑みを浮かべる。切れ長の瞳に、スッキリとした鼻梁。整った唇。誰もが認める美しさを持った顔立ち。小柄な体躯であるのに、豊満な胸とくびれた腰。美の化身がそこにはいた。
というか、幼気な少女であった。
「これこそが私の真の姿。主により私が創り出された際の姿です」
その姿に、アイはウニュ〜と唇を尖らす。TSしちゃったよ、この天使。いや、元の姿と言っていたから、男の姿が偽りだったのか。ラスボスが少女……。少女でつか、そうでつか。
「まずは5段階の力で相手をしてあげるよ。せめてもの慈悲。神の遣いの力を見るが良い」
「余裕そうでつねっと」
ルシフェルが再び人差し指をスッと突き出してくるので、翼を展開させて、急加速にて攻撃を回避しようとするが
「いたっ!」
光の軌跡が走ったかと思うと、加速していたはずのアイの肩から血が噴き出す。
「リジェネっ!」
たいした威力はないと、継続治癒の魔法をかけて、ルシフェルから、かなりの間合いをとろうとするが、にこやかな笑みにてルシフェルはポツリと呟く。
「加速」
その瞬間、ルシフェルの姿は消えて、アイの目の前に現れる。
「速すぎまつね! 大魔法アクセラレーター!」
ニャロウとコロコロとロールしながら、アイも加速の魔法を使いルシフェルから離れようとする。自らの身体が強化されて、高速ロールにて間合いをとる。目を回さないように気をつけなきゃとも呟く幼女である。
ルシフェルは離れるアイを見ながら、再び人差し指を突き出す。銀の光の輪が生まれ、一条の光がアイを襲う。
光速のビームが放たれたと理解した時には、またもや身体を貫かれてしまう。またもや今度は脚から血が噴き出す。糸のように細いビームなので、一瞬の痛みだけですぐにリジェネで回復するが、これはやばい。
「幼槍技 ブリンクストライカー」
自らを分身させて、アイはルシフェルへと槍を繰り出す。分身すらも強力な風の魔力により物理的なダメージを相手に与えられる技だ。
幾人もの分身と共に、ルシフェルを貫かんと風を巻いて迫るが、その攻撃をルシフェルは穏やかな笑みを崩さずに見ながら言う。
「幼女よ、私の閃きの前には、そんな攻撃は効かないのです」
槍がルシフェルの身体に命中したと思ったが、なんの手応えもなくすり抜けてしまう。まるで古いテレビの映像のように、ノイズがルシフェルの身体を走ったと思ったら、攻撃は回避された。
「無駄ですよ。私の能力。因果逆転の法は結果を持って原因を作るのです」
「回避したという結果が最初にあるということでつか! なんというチートッ」
俺もほしい。ドロップ100%の結果が欲しいとアイは羨ましく思うが、ちょっとこのパターンはやばいかもしれない。アニメや小説でも同じような技を持つキャラは強キャラだった。聖杯を巡るアニメの槍使いを抜かして。あいつ、なんで負けたんだろと今でも不思議です。
「いきますよ、それっ」
ルシフェルが人差し指を連続でピカピカと光らせると、その瞬間にアイは体を貫かれていく。幼女のぷにぷにお肌を傷つけるとは、通報しなくちゃいけないだろう。
異世界のお巡りさんに助けを求めたいところだがいないので仕方ない……。
「幼操糸技 雷龍あやとりの術」
腕輪を糸へと変えて、複雑におててを動かして、龍の形にして雷を纏わせる。本物のような雷を纏った龍が出来上がり、ルシフェルへとそのアギトにて噛みつきをさせようとする。
「これならどうでつか? 永遠に雷の中にいれば回避も何もないでしょー」
あたちはあやとり得意なのでつと、どこかの昼寝好きな子供のようにあやとりにて器用に龍を作ったアイ。
「物凄い効かない予感がするセリフだぜ!」
「マコトはどっちの味方でつか! たしかに言ったあとにあたちも思いまちたけど!」
モニター越しに素早くツッコミを入れてくるマコトへと口を尖らせて文句を言うが、たしかにフラグをたてたようである。なぜならば、ルシフェルは余裕の笑みだからだ。
「力の差をわかっていないようだね。神技 純水天雲竜巻」
ルシフェルの周囲に真っ白な雲が生み出されて、多量の水が混じった竜巻が起こる。雷龍はその嵐を食い破らんと噛み付くが、雷はかき消えて、糸はずたずたに引き裂かれていった。
それどころか、嵐はアイに向かっても来たので、傘を持っていないよと慌てて離れる。その姿を追撃もせずにルシフェルは見逃し、ゆっくりと翼をはためかせて飛んでくる。
「わかったかな? 私と君の力の差が。この差は覆せない。諦めて救済を受け入れなさい。偽神の使徒よ」
「はぁ〜………。ため息をついちゃいまつね。これ以上は戦っても無駄だと理解しまちた」
どうやら、たしかに力の差がありすぎるようである。その言葉にルシフェルは笑みとともに頷いて、手を天へと翳す。
「ようやく理解できたようだね。幼き子供なれば、苦痛なき一撃で終わらせてあげよう。神技 天光」
天に立体型魔法陣が描かれて、その中心から光の槍が現れる。魔法陣がいくつもその槍には描かれており、強大すぎて、震えがきそうな銀光の槍。
それがアイ目掛けて落ちてくる。高速で落ちてくる槍へとアイは手を翳しニヤリと悪戯そうな笑みを浮かべ
「アポート 幼技 イージスの妖精!」
ポフとそのちっこいおててにマコトを喚びだした。
「なぬ? あたしはアイのアイテム扱い?」
チアガールマコトがあわわと動揺する中で、槍が迫るが無敵の障壁がマコトを覆い、その攻撃をあっさりとかき消す。
「むっ? 偽神の眷属か。しかし、次の槍はどうかな? ダイレクトアタック!」
天空の魔法陣から、再び槍が生み出される。それを見て、マコトはあわわと口を開く。
「ダイレクトアタックはまずいんだぜ! 敵のバリアや防御特性を無効化しちゃうんだ!」
「薄々ルシフェルのセリフからおかしいと思ってまちたけど、ゲーム自体の仕様が違う相手でちたか。ていっ!」
スーパーなロボット大戦の能力持ちかと、ツッコミを入れつつ、逃げようとするマコトを掴んで、ピッチャーアイは第一投。
「酷いんだぜ〜!」
ギュインと光の槍に見事マコトはストライク。相殺されて爆発してしまうのであった。サポーターなのに、さっさと逃げるからだろ。アバターを破壊されて、反省してくれ。
俺も反省するし。
すぅと息を吸い、オメメをウルウルさせて叫ぶ。
「マコトォ〜」
「え? 今、自分で投げただろう、君?」
それはそれ、これはこれ。様式美というやつだよ。
「よくもマコトを……あたちは切れちゃいまちた」
ポチリと真の姿になるとかいうボタンを押す。ステータスボードに映る大量の素材があっという間に一覧から消えて、幼女パワーへと変換中……と表示される。
「あれだけあったのに……。死なばもろともなんでつ!」
「ふざけんなよ! 自分の素材が全部なくなるからって、あたしも巻き込んだな!」
モニターに銀髪の少女が怒りの表情で映し出させるが、アイとマコトは一心同体。俺だけ被害を被るなんておかしいだろ。
大丈夫、1日外出券がありますからと、黒服を着た女神様がマコトの肩を後ろから叩いてもいたけど気にしない。その意味がなんのことか、幼女はわからないもん。
それよりも素材を失った怒りと、マコトが殺られた悔しさから、幼女は覚醒するのだ。ちなみに前者の割合が10割でつ。
「こ、これはいったい?」
ルシフェルが驚きの声をあげる。
「気合が130を超えたので、ハイパーモードになったのでつ!」
体を金の粒子で覆い、もちろん髪の毛も眼の色も金色へと変えて、黒幕幼女は覚醒するのであった。