251話 タイタンニア対大魔導幼女
アスタロトを倒してから、しばらく後に周辺の悪魔の軍団は全滅した。対空砲に撃ち落とされるか、ランカの魔法にて撃ち落とされるか。どちらにしても、結果は同じであり、数万の軍は戦艦一隻と、金色の狐人の大魔導に敗れたのである。
街から少し離れての戦闘であったが、暗闇の中に輝く黄金の粒子に照らされて、まるでライトアップされたツリーのように目立ちまくっていた武蔵撫子の姿は多くの人が見つめていた。
その勇姿は見たことも聞いたこともない空飛ぶ船であることからも、人々の脳裏に焼き付き、新たなる神話を作るのは確実である。
「神の船に勝利よ、あれ!」
「ありがとうございます、神様!」
「見たか、悪魔め!」
「今、月光クッキー教に入ると毎月3割引でお菓子が買えるらしいぞ」
最後の発言者の言葉に、何それ、俺も入るよと人々が怪しいおっさんの配る布教パンフを貰っていたりもしたが、勝利の歓声は途切れることはなかった。
ブリッジの艦長は怒っていたけど。
「耐久力がコキュートスや、エアプレッシャー、ダイヤモンドダストで物凄く減ったんだし! 味方からのフレンドリファイアが一番ダメージ受けたんだし! 魔法使いすぎ」
キシャーと、口から怒りのブレスを吐きそうなほどお怒りの巫女である。嘘だ! とか言ってナタで攻撃をしてくるかもしれないほどのお怒りを見せていた。
「仕方ないんだよ〜。魔力が漲って仕方なかったから。もう魔法を撃ちまくりたい気分だったんだ〜」
反省の色なく、ケロリとした表情でジェット燃料をトモの燃える怒りの心に焼べるランカ。
「みんみんゼミの泣く頃にの女の子ばりにトモは怒ってるんだし。みーんみーん」
トモが手足を伸ばして、みーんみーんと鳴き始めるが、題名が違うよと、そのアホな様子を見てアイはため息をついた。
「だから突撃するのはやめた方が良かったんでつよ。ランカはトリガーハッピーなのでつ。今までは魔法を一気に使って魔力が尽きるパターンだったので目立ちましぇんでちたが。壊れなければ良いよねの精神で普通に仲間の戦車ごと機銃掃射するタイプなんでつから」
「早く言ってよ、アイ! 知ってたら、突撃なんかしなかったんだし!」
うわーん、ミンミンミンと鳴き始めるセミな巫女の抗議をスルーして、ドロップアイテムを確認するが、もはや山ほどあるので確認できない。というか、知識因子が全くない。やはり、知識因子は頭打ちな模様。
魔団長の持つ魔法があったはずだが、ドロップの中にはなかったのでないことに決まった。幼女的になかったことになりました。
「それよりも、敵の空中要塞に着陸して」
「やだし! もうこれ以上、トモの戦艦が傷つくのはやなんだし!」
戦うための兵器なのに、傷つくのは嫌な艦長の言がこれである。涙目なので仕方ないなぁと嘆息しつつ、レバーを握る。
「ランカ、ソロソロゲームの時間でつよ」
「ほいほい。さすがに敵のゴーレムは厳しいかもだから任せるよ」
ランカのウインクに、アイはにっこりとスマイルを向けて、金色のコインを投入するのであった。
「大魔導マコトいっきまーす!」
「出てこなければやられなかったのに、でつ」
ノリノリな様子でマコトが片手を掲げて、幼女もどこかの新人類のようにセリフを口にするのであった。
戦艦から、一条の流星となって大魔導アイは黄金の尻尾をフリフリ振り、空を駆けて空中要塞に辿り着いた。意外なことに迎撃要員は出てこなく、城へと降り立つがシンと静かなものである。
「不気味なほど静かだよね〜。悪魔たちはどこに行ったのかな?」
暗闇の中で城の庭園へと降り立って周りを見るが誰もいない。枯れた木々や捻じくれた植物が庭園を支配している。不気味なモニュメントはないが、ラスボスの城のように見えて、少しだけ怖い。
「最強の武器とかありまつかね?」
「賢者の石はラスボス戦に必須なんだぜ」
怖いので幼女的には、宝箱がないかなと期待しながら、いや、恐る恐るてこてこと進む。妖精ドローンによるアイテム探しも良いかもと考えていたが、少し離れた場所に佇むゴーレムが見えるので王城を探索する必要はなさそうだねと、がっかりしちゃう。
植え込みが道を塞ぐのならば、飛んで超えれば良いし、扉があるなら壊して進めば良い。ゲームとは違って、障害物に行く手を阻まれることなどないのだからして。
やれやれだぜと、テンプレセリフを幼女は口にしようとしたが、出てきたセリフは違っていた。
「グラビティバリア」
高重力のバリアを張ったと同時に闇色のビームが大魔導アイへと激突した。静寂が支配していた庭園を漆黒の光が轟音と共に過ぎてゆく。ビームが通り過ぎたあとには、土埃が舞い上がり、ガラス状に抉られた地面だけが残ったかのようにみえた。
庭園が舞い上がった砂埃でなにも見えない中で、少女ののんびりとした声が聞こえてくる。
「お城が消えちゃうと思うんだよね。手加減して欲しいんだけど、無理なのかなぁ?」
全長100メートル。プテラノドン型なので屈むような姿勢をとっているが、それでも全高30メートルはあるだろうタイタンニアに向けてランカは言う。
「やってくれたな、凡人如きが! 私の崇高なる思想もわからぬものが! よくもメギドの黒光を破壊するとは!」
どうやら一撃しか撃てなかった超大型砲がメギドの黒光と呼ぶらしい。タイタンニアの目を赤く光らせて、大きく口を開けて怒気を露わにしてきた。
「だいたいコロニーを使ったレーザーは一発限りと決まっているんだよ〜。残念だったね」
「なんか、玩具でありまちたね、ああいうロボット」
コックピットで、幼女はああいう玩具が欲しいかもとワクワクしちゃう。さすがに無理だとマコトが呆れているが、幼女は玩具が好きなのだ。
「黙れっ! こうなれば、タイタンニアにて殲滅してやるっ!」
「勝負といきまつか!」
タイタンニアが起動し始めて、地面がグラグラと揺れる。巨大なだけはある。動いただけで空中要塞が傾く。庭園の木々が倒れていき、怪しげな石像や柱が倒れていった。
「ランカ、フォックス出撃しまーつ!」
「君の戦いがこの惑星の趨勢を決める、健闘を祈るんだぜ」
タイタンニアが空中へと飛び立つのを見て、アイもムフフと悪戯そうな笑みを浮かべて、ランカへと意識を同化させる。
どうやら、サタンとの決戦のお時間らしい。
空を飛ぶだけで、暴風を巻き起こしてタイタンニアが飛ぶ。それに対して、大魔導アイも追いかけるが、まるでプテラノドン対アリのように大きさに違いがある。
「行けっ! タイタンニアドローン!」
大きく翼を広げながらタイタンニアが飛行しつつ、小さな土塊をいくつも生み出す。普段は仄かにしか見えない魔力だが、凝縮されて触れるだけでも悪い影響が出そうな強い力を放っていた。強大な力を持つ土塊はすぐに巨大化していく。
瞬時に土塊はタイタンニアそっくりな100メートルぐらいの体躯を持つゴーレムへと変わる。その数は6体。
「フハハハハ」
「フハハハハ」
「フハハハハ」
「フハハハハ」
「フハハハハ」
「フハハハハ」
「フハハハハ」
タイタンニアが哄笑すると、ぷちタイタンニアからも同様に哄笑をする。意外なことに、その全てが同じサタンの声である。
「驚いたか? タイタンの神器にて私と同じ人格をドローンにも乗せているのだ。すなわち全員が私であり、私は全員でもある」
空中にバラけながら、タイタンニアはホバリングをして、アイへと向きなおり、身構えてきた。
「喰らうがいいっ! アトミックミサイル!」
プテラノドンの指を向けてくるタイタンニア。その指は砲口となっており、ミサイルが撃ち出された。ミサイルが。
噴煙と共に撃ち出されたミサイルを前に、ふぁんたじ〜すぎて泣けてくるなと思いながら、杖を掲げて大魔導アイは目を細めて、魔力を集中させ口を開く。
その瞳を金色に変えて、黄金の粒子を放ちながら魔法を唱える。
「大魔法 プラズマビット!」
杖の少し先の空中にてプラズマの球体がいくつも生まれて、弾けるように紫電を走らせながら飛ぶ。曲線を複雑に描きながら、アトミックミサイルへとプラズマビットは命中して、弾けていく。迎撃されたアトミックミサイルは小爆発を起こし、空中にて消えてゆく。
「説明しようっ! 名称はすき焼き丼! 平均ステータスは1000。素早さが話にならないほど低い。特性アトミック兵器を搭載しているモビルアー、ではなくゴーレムだな! その他は……マスキングされて不明だな。Gフィールド搭載の最新型だぜ」
「丼以外、名前が欠片もあってないでつよ! というか、アトミック兵器はひどすぎまつ!」
「作っていたら、すき焼きが食べたくなったらしいんだぜ」
「サタンって、すき焼き好きなんでつね」
もう名前の話は終わらせておく。サタンのネーミングセンスがないことだけわかったよ。そういうことにしておこう。
「業火に身を焼かれよっ! メギドの炎よ!」
7体全てが凶悪な炎を口から吐く。輝く灼熱の炎が向かってくるので、高速飛行にてアイは回避しようとする。ギリギリを回避しようとするが、近づいただけで熱気を感じたので、大きく間合いをとりながら杖を向ける。
「ダイヤモンドダスト」
アイは回避しながら氷の波動を放ち、周囲を凍らせながらタイタンニアへと突き進む。炎はダイヤモンドダストによりかき消えて、そのあとには雪吹き荒れる零下の世界が残る。
巨体であるタイタンニアは、アリのような小さなランカの動きについていけなくなり、お互いの攻撃が当たり同士討ちになるのを恐れて動きが鈍い。
「んん? 味方が多すぎて反対に行動が制限されていない?」
「意外な弱点だな! 大型機動兵器は集中運用には合わないんだな」
実にアホっぽい結果である。まぁ、実際に実戦で検証しなければわからないことなのだろうけど。
「うぬぅ、ならば隠し腕展開! 剣技 6連阿修羅斬り!」
サタンは悔しそうに唸り、プテラノドンの胴体から新たに腕を4本出して、計6本の手から爪を伸ばして、アイを斬り裂こうと接近してくるが
「ゴハ」
「ゴハ」
「ゴハ」
「ゴハ」
「ゴハ」
「ゴハ」
「ゴハ」
全員同じように接近してきたので、お互いの腕が当たり、身体を斬り裂き同士討ちとなってしまう。接近戦はもっとも駄目な案だった模様。完全に同じ頭脳、同じ考えの仲間はまったく役に立たないことが証明された瞬間であった。
ふらつきながら態勢を立て直そうとするすき焼き丼の姿を見て、半眼となって杖を掲げる。
「連続魔。魔力全消費 大魔法 サイキックヒュドラ」
杖から半透明の空間を歪ませる7頭の首を生やすヒュドラが生まれ、それぞれがすき焼き丼へと襲いかかる。自爆ダメージを受けたすき焼き丼は回避することもできずに食われてしまう。
サイキックでできたヒュドラに噛まれたすき焼き丼は、哀れその機体を軋ませて、火花を散らして砕け爆発するのであった。
「なんだかなぁ〜………。なんだかなぁ〜……」
魔力ポーションを取り出した、クピクピと飲みながら大魔導アイは勝利するが、これ全然勝利した感じがしないんだけど。
「やったか?」
マコトがアホなフラグを立てようとするが、さすがに倒しただろと答えようとして、その気配に気づく。
「やれやれ……。予想外だ……。この力は神との決戦まで隠しておくはずだったんだけどね」
大爆発による爆煙の中で、余裕そうな男の声が聞こえてきたのだ。
どうやら変身するボスだったらしいと、アイはため息をついちゃう。
爆煙が風で薄れて消えていく中で、銀の翼を10枚生やす天使が現れた。