250話 大魔導の力を見せちゃう黒幕幼女
白銀の装甲を輝かせて、ピーヒョロロと鳴きそうな弩級戦艦武蔵撫子が空を征く。空中要塞に向けて武蔵撫子は最高火力である超重力砲を船首から撃ち放った。無色のエネルギー砲は空間を押し曲げて、途中にいる悪魔の軍勢を吹き飛ばし、空中要塞の超大型砲へと命中する。
空中要塞の超大型砲はその重力に耐えかねて、分厚い金属の塊であったはずであるが、あっさりとネジ曲がりめちゃくちゃとなって、破片となって地上へと落ちていった。
哀れ、試射の一撃で破壊されてしまった超大型砲であった。空母信濃が進水直後に沈められたように、何もできずに終わってしまった模様。
「やっぱり護衛艦って、必要だと思いまつよ」
コックピットに移動した幼女は大きく外郭を削られた空中要塞を見ながらウンウンと頷く。
「シールド艦隊は必要だったよな。大和が単艦で突撃してきたようなもんなんだぜ」
肩の上に乗るマコトも両手を合わせて、ナームーと唱えていた。巨額の資金と資源をかけてゴミとなる。戦争ではよくある話だ。
「グラビティカノン一斉発射するんだし!」
トモの掛け声にて、甲板に設置されている3連装グラビティカノン12門が悪魔の軍勢へとその巨大な砲口を狙い定める。
すぐに轟音と共に敵を押しつぶす高重力のエネルギー波が放たれて、悪魔たちの軍勢を引き裂きながら通過していく。
抵抗すら許さずに、敵は高重力に捕らわれて身体を押し潰されて倒される。恐らくは上級であろう悪魔たちだが、戦艦砲の相手ではなかった。
さすがの威力。戦艦の名前は伊達ではないが……。
「駄目でつね。やっぱり戦艦は艦隊戦以外は拠点制圧や、施設破壊のみにしか使えましぇんか」
幼女は敵の動きを観察してがっかりとしちゃう。
「まぁ、戦艦砲じゃ、小さな敵は倒せないよな」
マコトの言うとおりであった。航空戦にて戦艦がいらなくなったように、悪魔たちは最初の一撃こそ砲撃を受けたが、2撃目からは射線上から退避してしまった。陣形こそ崩れたが、もう一斉射撃は通じない模様。
「むきー! トモの戦艦砲から逃げたら駄目なんだし! じゃんじゃん撃つんだし!」
モニターに映る悪魔たちの動きを見て、一見大和撫子に見える清楚風の少女は地団駄を踏んでお猿さんになっていた。
ムキームキーと悔しがり、さらなる砲撃を命令するその姿は紛れもなくアホな艦長であった。
「気持ちはわかりまつ。あたちも戦艦サイキョーと思って建造したら、次の面は駆逐艦のみとか言われて悔しかった思い出がありまつね」
しかも戦艦は戦艦でも、結局高速戦艦が一番重宝したりするのだ。大艦巨砲主義でゲームはいいじゃん。あのゲームはロマンが足りなかったよ、ロマンが。
「こうなれば対空砲で倒すんだし。カトンボなんか対空ビームバルカンの相手じゃないんだし!」
アホなウッキー艦長は頭にきたのか、突撃を敢行しようと艦を動かそうとする。
「駄目でつよ。そんなことをしたら戦艦といえども撃沈されちゃいまつ」
「大丈夫なんだし。戦艦が咆哮しちゃうゲームだとビームバルカンが実装されたら航空機は雑魚になったんだし」
ウッキーと抗弁するトモ。たしかにあのゲームはロマンがあった。擬人化されるゲームより好きだった。波動砲もあったしね。
「良いんじゃないかな、アイたん。対空砲から抜けてくる敵を僕が倒せば良いと思うしさ〜」
新型の杖、宝石を削り出して作られたかのような奇跡の杖をくるりと回転させてランカが言ってくる。
「撮れ高も良いぜ! 単艦で悪魔たちの群れの中に突撃。甲板の上で一人戦う美少女大魔導! かっこいいんだぜ」
ノリノリでマコトも賛成するし……。久しぶりの活躍の機会に狐耳をピコピコと、尻尾をぶんぶん振るランカに仕方ないなぁと苦笑しちゃう。なんだかんだ言って、アイは仲間に甘いのだ。船体がガッツリ傷ついても文句を後で言うなよな。
悪魔たちは大混乱に陥っていた。なにしろ意気揚々と悪魔の力を見せつけてやると出陣したら、敵の街の上に巨大な銀のトンビが現れて、ピーヒョロロと鳴いたのだ。
なんだあれはと不思議に思ったが、すぐにわかった。空間が歪み恐ろしい威力のエネルギー波が飛来してきて、自分たちが無敵だと思っていたジュピターの超大型砲メギドの黒光を破壊したのだから。
それだけでは終わらずに、甲板に設置されている巨大砲を連射してきて、軍勢は大打撃を受けてしまった。
「あのトンビ、突撃してくるぞ! 各分隊ごとに散開せよ。敵の射線に入らないように移動しながら攻撃を開始せよっ!」
悪魔王ルシファーの部下である魔団長アスタロトが周囲に指示を出していく。
「ベルゼブブに蝿の魔法を使わせろ! ……ベルゼブブはどこにいった?」
「はっ! 先頭にいたのでベルゼブブ様は敵の砲撃をまともに受けて死にました」
「役に立たない奴めっ! このような時こそ、あいつの魔法が役に立つというのに! 仕方あるまい、行動を開始せよっ!」
歯噛みしながらアスタロトはトンビに向かう。ねじ曲がった角を生やし、つるりとした黒い革を持ち、獣のような体躯である悪魔の中でも、語られている姿通りの悪魔アスタロトはコウモリの翼を大きく広げて、部下を率いる。
トンビは戦艦砲が当たらないと理解して、こちらへと突撃をしてくるのでその傲慢さを鼻で笑い、対抗すべく魔力を集中させていく。
「愚かなっ! たかだか巨大トンビ一羽で我らを止められるか! フレアッ」
自身の持つ最大炎魔法を使い、太陽のような火球を撃ち出す。まだかなり離れているが、あれ程の大きさなので外しようがないと確信して。
だが、トンビの側面から小さなエネルギー波が無数に撃ち出されて、フレアは撃ち落とされ消えてしまう。
足の速い悪魔たちはその攻撃に殺られて、次々と墜落していく。
「チッ。小型砲もあったのか。だが、これだけの数を全て倒せるかな?」
まるでハリネズミのように対空砲にて弾幕を張るトンビだが、それでも穴はある。そして悪魔たちは恐れを知らぬ。
敵を睥睨して、アスタロトは部下と共に敵の穴を探して、突撃を仕掛けようとするのであった。
「じゃんじゃんくるね〜」
甲板に立ち、風に金の如き美しい髪の毛を煽られながらランカは呑気に言う。
周囲は悪魔たちで埋め尽くされて、対空バルカンにて近づく奴らを迎撃していた。
倒しても倒しても迫ってくるが。
「やっぱり大艦巨砲主義は駄目なんでつかね?」
コックピットでプラプラと足を振りながら幼女もその数にうんざりしちゃう。倒しきれていないので、やっぱり時代は戦闘機なのかなぁと思っちゃう。
「大丈夫なんだし! まだまだ魔力は持つし、耐久力もヨユーなんだし」
「ここで撤退を選ばずに最後に撃沈して、空中要塞に不時着までが良いと思うんだぜ」
ウヒヒとほくそ笑むマコト。どうやら感動シーンがほしい模様。そろそろ妖精から悪魔に転職できる可能性あり。
「良くないんだし! ほらほら漏れてきたんだし! 任せたよっ」
「はいはーい。アイたん、まだ手を出さなくて良いからね」
コックピットにいるアイへとパチリとウインクしてくるので、ニコリと微笑みを返す。そりゃ、新型となったのだから、力を振るいたいに決まっている。一番団員の中で強化が遅かったしね。
悪魔たちの中でも、防御に優れているサイに翼が生えたやつや4枚のコウモリの羽を持つ素早い奴が対空砲をものともせずに突撃してきていた。
甲板に一人で佇む魔法使い然とした少女に気づき、悪魔たちは魔力を集め
「魔技 ハリケーンホーン」
「魔技 グランドフォール」
それぞれが魔技を使用して、ランカへと向けて突撃をしてきた。サイの魔物は鼻先に生える角を闇の魔力で覆い、4枚のコウモリの羽を持つ悪魔は、ギラリと光る刃のような鋭さを持つ翼へと変えて滑空してくる。
「説明しようっ! サイ槍魔人とカッターデビルだ! どちらも戦闘悪魔族の中でも上級の奴らだぜ! 平均ステータスは87だな」
「よゆーだよ〜。前と今では僕の力は大きく変わっているからね〜」
のんびりとした口調でマコトへと答えながら、薄く冷笑を浮かべて杖を掲げるランカ。
「魔法使いの力は加算形式の増え方じゃなく、乗算なんだよ」
そう答えながら、杖に魔力を集めていく。その魔力は金色に輝き、その瞳は金色に変化する。
「黄金の力!」
マコトがなぜか驚き、幼女は乗算ってなんだっけともじもじする。幼女は数学は商売に使えるレベルまでで良いと考えているので、忘れちゃったのだ。
「大魔法 サイキックブリッツ!」
魔力を純粋なる力へと変えて、無色透明の念動弾へと変える。そうして、迫る悪魔たちへと狙い撃つ。
空間を捻じ曲げて、一瞬のうちに敵の元へとサイキックブリッツは飛んでいき、その身体に命中する。
対空砲に耐えるほどのタフネスさを持つサイ槍魔人と、いかなる攻撃も回避できるほどの空間機動を持つカッターデビルは、命中したサイキックブリッツに身体を捻じ曲げられて、ブラックホールに飲み込まれるように中心へと吸い込まれて消滅するのであった。
その光景を見ていた他の悪魔たちは動揺する。攻撃速度もその威力も圧倒的であったからだ。
「怯むなっ! あれだけの威力の魔法だ。魔力消費は膨大なはず。一斉にかかるのだ」
対空砲の弾幕をくぐり抜けてきた悪魔の一人。やられ役のような指示を出すアスタロト。ちょっと腰がひけてもいた。その指示を聞き、悪魔たちは顔を見合わせて逡巡するが、すぐに雄叫びをあげて突撃してきた。
「甘い甘い。 これからが真髄だよ。ダイヤモンドダスト」
氷の粒がランカの杖から生み出されて、一瞬のうちに辺りをブリザードに変えて、凍らせていく。ランカを倒そうと押し包むように迫ってきた悪魔たちは身体を凍らせて、飛ぶことができずに動きが鈍くなり甲板に降り立つ。
「何という魔法! だが、この筆頭魔団長アスタロトが」
身体を凍らせながらも、アスタロトが闇の炎を生み出して対抗をしようとしてくるが
「氷の舞台は用意されたよ〜。なので大魔法 コキュートス!」
ランカはさらに魔力を籠めて杖を振り下ろす。一瞬のうちに氷の波動が波紋のように広がる。
その波動が通り過ぎたあとには、戦う音が消えてなくなった。あれ程の戦闘音は消えてなくなり、静寂のみが支配して、生きて立つ者はランカのみ。
周囲の悪魔たちは氷像となっていた。対抗するどころか、なにが起こったのかもわからずに。そのままかき氷のようにサラサラと崩れて消滅するのであった。
杖を肩にかけて、フフンと息を吐いてランカは悪魔たちをあっさりと倒した。その魔力は圧倒的であり、さすがは新型と言いたいところだが……。
「ステータス以上の魔法威力があったように見えまつ……それにいつもの銀色の粒子ではないでつよ?」
いつもの銀色の粒子ではない。女神様が使う黄金の粒子だ。そして、銀色の粒子よりも遥かに強力な力を感じた。
「……あれはあいつの眷属の加護なんだぜ。ステータス欄からマスキングされているな……。狐絡みだな! リンは姉神が加護をしているから、強くなったランカの加護をすることにしたんだな! ちゃっかりしているんだぜ、あの狐!」
幼女がコテンと首を傾げると、妖精がへんてこな顔に唇を尖らせる。なんだろう?
気になるがもっと気になることがある。
「キャー! ギャーギャー! トモの大切な船体が凍ったし! なんでそんな魔法を使うんだし! 敵の攻撃よりも酷いダメージを受けたんだし!」
どこかの艦長が凍った甲板を見て騒いでいたので。さて、どういう言い訳をしようかな?




