249話 天空要塞と戦う黒幕幼女
死の都市の中心にある城。その城内にある大広間。その場所には複雑な魔術文字からなる精緻な魔法陣が複数描かれている。
魔法陣は脈動しており、闇の粒子を噴き出している。辺りには瘴気が漂い、闇の力が満ちていた。
その魔法陣の周囲には悪魔たちが立っており、手を掲げ闇の粒子を操っている。
「闇の粒子は充填率5%まで落ちております」
「現在、主砲各ブロックに故障発生」
「街へと命中せず。仰角が高すぎた模様です」
様々な報告が入る中で、中心の魔法陣に玉座が配置されており、そこにはルシファーが座って余裕の笑みを浮かべていた。
「メギドの魔光は予定の出力は確保できたみたいだね。今回はたんなる試射だ。命中しなくても良い」
天空要塞ジュピター。ルシファーが密かに自分の都市を改造して作り上げた拠点である。街ごと浮かべるという革新的な魔法付与を行い空中要塞へと変えたのだ。
そして、この空中要塞の最強兵器メギドの魔光をたった今撃ったところである。空中要塞前面。本来であるならば地下に位置する場所に超大型の砲が備え付けられており、その砲から放ったのだ。
街を一撃で焼き尽くす黑光を放つ超大型砲。その火力管制をこのコントロールルームにて操作している。
「ふふ。天才たる私でしか成しえぬだろうね。邪神も想定外だろう。まさかタイタンニアをエネルギー源として使うとは考えもしなかっただろう」
ルシファーが呟くとおり、メギドの黑光はタイタンニアの力をエネルギーとしている。ルシファーはタイタンニアを手に入れてから、日々このゴーレムをどう使用するか考えていた。
そうして思いついたのが、単体で扱うのではなく、エネルギー源として使用することであった。
「瘴気が降り注ぐだけでも、魔物は活性化され強くなる。反対に人間たちはじわじわと毒でも受けたかのように弱っていくだろう。我ながら天才すぎる発想だな」
クククと笑い、魔法を唱える。街の様子や、現在の軍の展開を確認したかったのだ。
「千里眼」
遠見の魔法を唱えて、周辺を探ろうとしたルシファーであるが、違和感に顔を顰めてその場から、ルシファーらしからぬ焦りを見せて離れる。
その瞬間に爆発が広間を襲う。爆炎が吹き荒れて、悪魔たちが燃え、混乱が襲った。
「く。監視系を防ぐための魔法が用意されていたか。小癪な!」
まさか人間たちにそんな防衛網を構築することができるとはと舌打ちする。広間を見渡すと炎に巻かれた悪魔たちはその火を消している。
この広間にいるのは上級悪魔以上。あの程度の炎ではビクともしない耐久力ある者たちばかりだ。
しかし悪魔が無事だったと喜ぶこともできなかった。床に描かれている魔法陣が傷ついている……。
「迂闊であったか。これでは修復に時間がかかってしまう」
予定と変わってしまった。これではメギドの黒光はしばらくは使えない。
自らの招いてしまった結果に顔を顰めてため息をつくが、致し方ない。
「軍を進軍させたまえ! 悪魔たちの力を見せつけようではないか!」
メギドの黒光が一時的に使えなくなったが、悪魔たちはほぼ無傷で残っている。魔団長たちが何人か殺られてしまったが。
とりあえずは、あの街を攻撃して神の使徒たちを倒しておくべきだろう。
全ての悪魔たちは羽を持っている。この空中要塞から飛び立つのに、まったく問題はないと指示を出した。
それがルシファーの二番目の失敗であったのだが。
モニターに映し出される空中要塞を見て、幼女はぷるぷると恐怖で怖がっていた。まさか、悪魔があのような兵器を用意しているとは予想もしていなかった。
「怖い怖いでつ。おそろしーでつ。あれ、ルシファーを倒したら手に入れることできまつかね?」
玩具が欲しいんでつと、ぷるぷる震えて床に寝っ転がり、駄々っ子モードになりながら、テレポートしてきたマコトへと問いかける。手に入らないなんて返答がきたら、ギャン泣きしちゃう。
「無傷で手に入れるのは難しいんじゃねーか?」
「たしかに魅力溢れる超大型砲は最低でも破壊しておかないとまずいでつからね。でも、他には武装なさそうでつよ?」
対空砲とか高角砲とかないと思うんだ。たぶん。
「あの空中要塞は浮遊の魔法付与で浮いているようだからなぁ。白兵戦で敵を倒せば、ギリ大丈夫かもだぜ」
「おし、その言葉を待っていまちた! 気合いれまつよ」
ぴょいんとうさぎみたいに飛び上がり、ムフフと楽しげな表情になる。あんな玩具が欲しかったのだ。
「それは良いんだけど、その要塞から悪魔がわらわらと現れているんだし? かなりの数なんだし?」
二人の話を見ていた少女が声をかけてくるので、モニターへと再度オメメを向けると、たしかに空を埋め尽くさんと数万の悪魔たちがコウモリの羽を羽ばたかせて要塞内から現れていた。
あれだけ悪魔が隠れていたのかと感心しつつ、椅子に座る少女へと顔を振り向かせる。
「予想以上でつが、それでもこの戦艦なら対応できると思いまつよ」
コテンと首を傾けて告げると、巫女服姿の少女はフフフと笑みを浮かべて肘掛けに肘をつきながら足を組む。
「もちろんだし。この武蔵撫子なら楽勝なんだし」
親指をたてて、得意げに言うのは水無月トモ。弩級戦艦武蔵撫子の艦長の少女である。
「それじゃ、ドッカンと倒しちゃいましょー」
幼女も親指をたてて、ムフフと笑う。
そう。アイは現在、武蔵撫子の艦内にいるのであった。
ブリッジには大勢の自立型ゴーレムが椅子に座り、オペレーターをしている。艦長席にはトモが座って足をプラプラさせている。
「悪魔たちの軍を砲でなぎ倒すか、敵の超大型砲を破壊するか、どちらかしか超重力砲は放てないと思うし? クールタイムを考えると、そうなると思うんだし?」
トモがモニターを見つめながら聞いてくるが、たしかにそうかもしれない。超重力砲のクールタイムは長い。一時間のクールタイムを必要とするのだからして。どちらかを攻撃すれば、片方を倒すのは間に合わないに違いない。
「悪魔の軍勢………。あの軍勢を倒すより、敵の超大型砲を破壊するのに注力しましょー。あの黒光を街に撃たれたらおしまいでつし」
「まぁ、妥当なところね。悪魔の軍勢は主砲でなぎ倒していくしかないんだし」
トモもアイの意見に同意する。悪魔たちならば数を減らせば良いだろう。その力もたった今手に入れた。
ステータスボードをポチポチ押して設定を素早くする。今は時間の勝負なのだからして。
「うん……こんなものでしょー。かなりのパワーアップになりまちた」
地面にミスリルのたまごを置いて、満足げに頷きながら、おててを掲げて身体をクネクネさせて踊りだす。
妖精も面白そうだと、一緒に踊りだす。
「でんがらでんがら、和菓子が食べたい」
「どんがらどんがら金鍔きぼう」
二人して卵の周りで踊り、ハイポーズ。
「来たれ、大魔導ランカ!」
「来たれ、大魔導ランカ!」
遂にセリフが揃ったよと、ハイタッチをして喜んじゃう。これまでの練習の成果がでたのだと。
アホな二人は放置して、空中に魔法陣が青い光にて描かれて、ランカが目を瞑った状態で現れる。
「キャー。アイたんのえっち!」
なぜかバスタブに入っている状態で。照れているように見せて嬉しそうなので、常に覗かれている未来の嫁に変えられた某アニメの少女とは違う模様。
「コントをしている暇はないのでつよ、ランカ。身体に変なところはありましぇんか?」
ちょっと切羽詰まっているのだ。遊んでいる暇はない。もふもふにしないとねと、濡れている尻尾をフキフキする時間はありまつ。
「ノリ悪いんだから〜。ん〜、でも大丈夫ぽい。問題なく闘えるよ〜」
服を着るランカの言葉に頼もしさを感じて、尻尾を拭いてあげる。幼女は優しいのだ。
新型ランカはこんな感じ。
ランカ
狐人
職業︰大魔導+
体力︰600
魔力︰2800
ちから︰200
ぼうぎょ︰90
すばやさ︰80
特性︰呪い、精神攻撃、寄生無効、連続魔、浮遊、魔法威力超強化、魔力超集中、悪戯狐神の加護
スキル︰大魔法8、火魔法6、雷魔法5、水魔法8、風魔法8、土魔法3、重力魔法5、回復魔法5、支援魔法3、闇魔法3、影術5、気配察知5、無詠唱、魔法操作
装備︰奇跡の杖(攻撃力+600(魔法威力大強化、魔力消費大幅減))、精霊王のローブ(防御力+150、対物魔+、常時エレメントシールド展開)、自動修復、自動帰還
装備はいつものオリハルコンにアダマンタイト、ミスリルを大量に錬金にて昇華したあとに作りました。なにしろ中央連合を倒した際に山と手に入ったのであるからして。もはや素材には困っていない幼女なのだ。
問題は知識因子が頭打ちなところなのだが、敵が持っていないから仕方ない。超高性能の装備となったと言えよう。エレメントシールドは魔装と同じである程度のダメージを肩代わりする魔法だ。破られた場合、クールタイムが必要であるが自動的に展開されるので、魔法使いにちょうど良い。
ランカの職業は大魔導となり、特性に魔法威力超強化。そしてクリティカル率大幅アップの魔力超集中がついた。
特筆するところは大魔法。これは手持ちの魔法をスキルレベル以下なら自由に融合させて発動させる魔法らしい。いわゆる複合魔法のことだ。
これで他の魔法使いとは、一線を画す存在とランカはなった。魔力も大幅アップしたので殲滅力も大幅アップ。月光団員の中で、火力では最高となったのだ。高レベルの魔法使いには誰も敵わないのであるからして。
これならば悪魔たちのをなぎ倒すことが可能だと確信して、トモへと振り返る。
「トモしゃん。敵の超大型砲へと攻撃スタンバイでつ!」
「了解っ! 敵超大型砲へとロックオンするんだし!」
「リョウカイ」
「ターゲットロック」
「超重力砲スタンバイ」
ゴーレムたちが次々と報告をしてくるのを聞き、トモは椅子から立ちあがり、人差し指を掲げる。
「待ってました! それじゃステルス解除。目標に向けて超重力砲、発射するんだし! ドドーンと倒しちゃうんだし!」
その掛け声を受けて、今まで空間の歪みに潜伏していた武蔵撫子が姿を現す。
街の高空上にいた武蔵撫子。さっきの黒光は命中する寸前で焦ったのは秘密な武蔵撫子の船首が輝き始める。船首は神々しさを感じさせる銀色の粒子を生み出して集めていく。
モニターに充填率が表示されるが、あっという間に100%になるのを確認して
「あたちがやっぱり撃ちまつ」
「トモが撃つんだし。艦長なんだし」
「間をとって、主人公のあたしに任せるんだぜ」
机が割れて現れた銃型スイッチに幼女たちが群がって争っていた。こんな面白そうなスイッチを押す。というか引き金を引くなんてマロンでしょと争って、お互い引き金に手を伸ばして
「あ」
「い」
「う」
知らない間に引き金が引かれ、超重力砲は発射された。
空間を揺るがし、嵐の如き突風を巻き起こしながら、空中要塞の超大型砲へと命中し、大爆発を起こすのであった。