248話 神聖騎士のお爺さんは強い
ギュンターはアジールと対峙していた。周囲の兵士たちはその様子を固唾を飲んで見守る……暇もなく続々と現れるスケルトンたちの対処をしていた。
「スケルトンめ、空気を読め!」
「ここは固唾を呑んで戦いを見守るところだろうが」
「スカスカ頭のスケルトンめ、末代までの語り草にするんだぞ」
「私はこの戦いが終わったら結婚するんだ」
最後の発言者だけは、危険なセリフを口にしていたが、愚痴を零しながら戦っていた。英雄の出現で余裕が出てきた兵士たちである。
そんな兵士たちを尻目に、魔軍団長と神聖騎士との戦いは始まった。
「ゆけっ! ボーンソードビット」
先程と同じように、鋭く尖った骨をアルファスケルトンの身体から生み出したアジールは発射させる。骨の剣群は一斉にギュンターを目掛けてその剣先を向けて、襲いかからんと飛来してくる。
「シールドビット展開」
お爺さんは赤竜鱗盾から分裂させた小さな盾を空中に展開させて対抗をする。
「マコトビット展開」
いつの間にか傍らにいたマコトがフンフンと鼻息荒く両手を振りかざしながらへんてこな踊りを踊る。たぶん自分も新人類として、この戦いに加わりたい模様。もちろんマコトにビットはない。脳内でビットを展開する、哀れな頭の妖精である。ある意味新人類には違いない。
白きボーンソードビットと赤きシールドビットがぶつかり合い火花が飛ぶ。ガキンガキンとビット同士がぶつかり合い、激しい攻防が空中にて行われる。
「私のソードビットと互角とは、噂通りの男だな、神聖騎士っ!」
ビット同士の戦いでは埒があかないと悟り、アジールがアルファスケルトンの巨体にて突撃をしてくる。10メートル近い図体の突撃はあらゆるものを吹き飛ばす威力を感じさせてくるが、ギュンターは盾を前に出して迎え撃つ。
「盾技 アンカーシールド」
赤ん坊と大人のような体格差。なのに、ギュンターはその突進を盾にて受け止める。本来なら押し負けるはずであったが、光のアンカーが盾から射出され大地に刺さり楔となったので、身体が固定され押し負けない。
「ムウっ?!」
「スカスカの骨では儂には勝てぬっ」
力を込めて、ギュンターはアジールをシールドバッシュにて吹き飛ばす。盾を突き出して、弾き返したギュンターによろけてしまうアジール。
本来であるならば体格差により押し負けることがないはずのアルファスケルトンであるが、ギュンターの超高ステータスにより押し負けて、ズズンと轟音をたてて膝をついてしまう。
「くっ。魔技 魔力有線ハンドパンチ」
アジールはすぐさま腕をギュンターに突き出す。腕は肘辺りから切り離されて、闇の魔力を噴射させながらギュンターへと飛んでくる。
「聖剣技 2連聖光撃」
自らの体格と同じ大きさの骨の腕が迫るのを、ギュンターは剣に聖光を宿らせて迎撃をする。高速で剣を振るうギュンター。瞬間、聖なる光の軌跡が空中を奔り、アジールの巨腕は粉々になって消滅した。
そのまま倒れ込むように前傾姿勢となり、ギュンターは大きく床を蹴る。その踏み込みで砕ける石床の破片が空中に飛び散る中で、アルファスケルトンの懐に入る。
「聖剣技 ホーリースラッシュ」
新たな聖光を宿し、横薙ぎに剣を振るうギュンターに、慌てるようにアジールはアルファスケルトンの上半身と下半身を分離させて空中に飛び出す。
いかなる金属よりも瘴気により硬度を上げた硬いはずの骨の下半身は、ギュンターの振るう剣にて豆腐のようにやすやすと切り裂かれる。
「まだだ。まだ終わらんよ」
腕を砕かれ、下半身も切り裂かれて消滅させられる中でもアジールは戦意を失わずに頭蓋骨の目の部分に魔力を籠めて、ダークビームを撃ってくる。いったいどこの仮面の男なのだろうか。
「いや、終わりだな悪魔よ。来たれ赤竜の槍よ」
ギュンターも追撃するために、空中へと飛び出し、ビームを盾にて弾きながら剣を仕舞い、その手に槍を呼び寄せる。
そうして、槍に魔力を籠めると、白き清浄のオーラが槍を覆っていく。
「騎士槍技奥義、戦神の槍」
強大なる力を宿した槍を突き出すギュンター。白き光が槍から撃ち出されて、アジールの乗るアルファスケルトンに向かう。
「ヌグゥッ! Sフィールド展開フルパワー」
辺りに存在する瘴気を集め、闇のバリアを展開させるアジール。白き光と闇の光がぶつかり合い、衝撃波を生み出して、周囲に広がる。
デルタソーナたちがその衝撃波でよろめく中で、白き光は消え去り、闇のバリアが残った。
その結果に安堵をしてアジールは哄笑する。
「見たか、このアルファスケルトンの力を! んん? どこに?」
奥義を打ち破られてショックを受けたであろう神聖騎士の姿を探すが、目の前にいたはずの老騎士の姿が見えずに慌てて周りを見渡すアジール。
「なるほど、たいした力だな」
その頭上から老騎士の声がかかる。一口サイズのお煎餅をパリパリと食べながら。
「月光の下に汝に神罰を与えんっ!」
甘い物は少し苦手なのでと、月光クッキーではなくお煎餅にしてもらったギュンターはお煎餅を食べ終えると、槍を投げ捨て剣を抜く。もちろん、お煎餅バージョンも幼女はお土産として売りさばく気満々である。その他に一口チョコとか、マシュマロも売り出すつもりだが、今の戦いには関係ない。
「聖剣技 神罰の一撃!」
剣を掲げるギュンター。その剣に天から神聖なる一条の光が降り注ぐ。
アジールはその光を見て青褪める。あの一撃は受けきれないと悟ったのだ。慌てて頭だけを分離させて逃げようとするが、既に遅かった。
「くらええいっ!」
ギュンターが剣を振り下ろす。振り下ろされた剣撃は巨大な光の柱となってアジールを襲う。Sフィールドはシャボン玉のように弾けて消えて、アルファスケルトンは熱せられたアイスクリームよりも早く溶けていく。
「こんなことが……人間にこんなことがァァァ」
神聖なる光に包まれて、アジールはその身体を焼かれ消滅しながら、信じられないと叫ぶ。断末魔と共に敵の強大さを思い知らされ、悪魔は消え去るのであった。
そうして、ギュンターの放った神聖なる光の一撃はアジールを倒しただけではなく、地上にいるスケルトンたちの中へと到達した。
神聖なる光の波動がスケルトンたちを包む。光の柱を中心に、波のように辺りへと光の波動がスケルトンたちを灰へと変えていく。まるで波しぶきに消えていく砂山のように。
スケルトンたちが消えてゆくのを、光に照らされながら兵士たちは感動共に見ていた。
「あれ程の数のスケルトンたちが……」
「なんと凄まじい」
「これが英雄なのか!」
平原を埋め尽くすように存在していたスケルトンたちは全て灰となり、風により舞い散っていく。
「俺たちの勝利だ!」
「やったやったぞ」
「神聖騎士万歳!」
おぉ、と皆が喜びの声をあげ勝ち鬨をあげる中で、ギュンターはゆっくりと城壁に降りるのであった。
「あぁ〜っ! たくさん素材が手に入ったけど、その中に特性連続魔が複数あるんだぜ」
「ん? なるほど、あの中に連続魔持ちがいたのか。と、するとランカのパワーアップができるのか」
マコトがズラッと並ぶドロップアイテムの一覧を見ながら驚くので、なるほどとお爺さんも驚く。これまで連続魔がなかったので、ランカがパワーアップできなかったのだ。これならばパワーアップに問題はない。
幼女もその頃、ドロップ一覧を見て、イェーイとちっこい身体をフリフリさせて、ダンスをしていた。すぐに自分も連続魔を取得して、キャーと、喜んでいたりした。久しぶりのドロップなので、大喜びの幼女であった。
なんにせよ、敵の第一弾。骨の軍団を撃破したギュンター。ますますその伝説が増えると思われる。どこかの勇者が悔しがるのは確実だ。
デルタソーナたちも、万歳と手をあげて喜んでいた。目の前にギュンター様が降り立つので、キラリと目を輝かしてお疲れ様ですと駆寄ろうと企む。
「お疲れ様です。ギュンター様」
ニコリと微笑みながら、汗をかいておりますとハンカチを取り出して、手渡すことについて成功して、ムフフと満足げになる。
ミコーレが。副官の少女。水色の髪の可愛らしい少女ミコーレが。おずおずと近寄り手渡していた。
デルタソーナではなく。デルタソーナより素早く。
「ミコーレ。……あぁ……ギュンター様お疲れ様でした。救援に感謝を。ミコーレ。部下をまとめて被害状況の確認をよろしく」
怒鳴るわけにもいかずに、口元をピクピクとひくつかせてデルタソーナも遅ればせながら近寄る。さり気なくギュンター様から離そうとも企む。
「今しばらくは混乱が続いておりますし、もう少し落ち着いたらでよろしいと思いますよ、隊長。ギュンター様、どこかお怪我はありませんか?」
いつもは無口な少女はペラペラと口を動かし、デルタソーナの命令をやんわりと拒絶した。この頬が少し赤く染まっているのをデルタソーナは見逃さなかった。
「そうですか、ミコーレ。ここは私に任せてミコーレも休んでくれて良いんですよ?」
「わかりました。ギュンター様、あちらでお休みをしませんか?」
巧みなるミコーレの言葉に、ぐぬぬと悔しそうにするデルタソーナ。どうやら戦いは未だに終わっていないらしい。
だが、睨み合う少女たちの態度にまったく気づかない、孫娘ぐらいの歳の差があるお爺さんなので当たり前なのだが、ギュンターは違和感を感じていた。
「マコト、悪魔たちは倒した中でいなかったか?」
「ん? 西門に隠れていた悪魔たちぐらいだな。あれはザーンの部下たちが倒したんだぜ」
空中に映される倒した敵の一覧を見ながらマコトが答えてくるので、顔を険しくする。
おかしいのだ。悪魔王というからには、大勢の悪魔たちがいなくてはならない。だが、実際はそこまで数がいなかった。
「鷹の目をガイに使わせて、周囲の様子を探らせるか。ガイへと念話を。ムッ?」
どこかに隠れているだろう敵を捜させようと考えたのだが
遠くから放たれたと思われる巨大な黒光が街の上空を通り過ぎていった。
その光に皆は驚き、再びざわめきが巻き起こる。明らかに破壊の光だと感じられたからだ。
「あの光はあそこからか」
超高ステータスを持つギュンターは目を細めて視力を高める。その視線の先、遥か遠方の空に浮く城があった。死の都市にある城である。
「おぉ〜、天空の城なんだぜ」
呑気に手を額の上に翳してマコトが感心の声をあげるが、そのような状況ではない。
「あの城が敵の秘密兵器というわけか」
どうやら今までとは違う敵だと、ギュンターは真剣な表情で呟く。どうやら一筋縄ではいかないらしい。
「姫はどこにいるのだ? 今の一撃が再び放たれたらまずいぞ」
「そうだな。えーとだな、ピピンと来たぜ!」
マコトへと問いかけるが、なぜかなかったはずのアホ毛をピンと立てると目の前から消え去った。
どうやらイベントを感知したらしい。たぶん姫がなにかをしたのだろう。なにかはわからないが、指示があるだろうとギュンターは腕を組み、苦笑をしながら連絡を待つのであった。