244話 レスキュー隊な黒幕幼女
サタンが城を砕いて逃げた時間に戻る。その頃、幼女はなにをしていたかというと、レスキュー隊をしていた。
真夜中に起きた悪魔の災厄に人々は右往左往していた。
その中でアイは王都にて、崩れたお城の前にいた。神様が建造したかなりの硬度を持つ城であったが、地下からの突き上げにより、割れるように砕けていた。
細かく砕けていないのが幸いか。だが、生き埋めになった者たちはいるので、死者を出さないように急いで救助をしなければなるまい。
大勢の人々が懸命に瓦礫を撤去しており、そこに幼女も混じってお手伝いをしていた。というか、今からやる。
幼女は緊急事態だと、フンスと息を吐き、ちっこいおててを掲げる。
「蛇さん軍団ゴー」
「こちらスネーク、潜入ミッションを開始する、だぜ」
マコトが軍服を着て、葉巻型チョコを齧る。気分は大佐な模様。
大量の蛇を呼び出し、侵入開始と瓦礫の隙間に入れていく。蛇の小さな細長い身体は瓦礫の中を進むのにちょうど良く、生存者を素早く見つけられる。気配察知スキルもつけているので、短時間で調査を終えることができるのだ。
ニョロンニョロと中に進ませていくと、瓦礫の隙間に奇跡的に人々が大勢いることがわかった。本当に奇跡的なことに、瓦礫と瓦礫が合わさって、小さな空間を作り上げていた。
そういった空間が大量にある。恐らくはサキイカを裂くみたいに縦に城が砕かれたのが良かったのだ。なんだか、物凄い不自然な感じもするけど。
だって細かく割れたところもあったのだが、木材で支えられていたのだ。うん、意味がわかりません。どこから木材が現れたのでしょうか。神の奇跡かな?
死者はいなさそうな感じもするが、怪我人は多数。調度品に頭をぶつけたり、小さな瓦礫が頭に当たったり、イチャイチャしすぎでしょと、どこかの髭もじゃの頭に金タライが当たったりと、多くの人々が怪我をしていた。
見つけるたびにテレポートでその隙間に移動して、怪我人と共にまたテレポートで脱出する。魔力がすぐに尽きちゃうので、魔力ポーションをクピクピと飲みながら。
幼女は24時間戦えないが、それでも頑張っていた。その姿に周りの人々は感動して見ていた。幼い歳で人々を救うアイの姿に。
「なんて良い子なんだ」
「聖幼女ね」
「頭を撫でて良いかしら」
人々が幼女を褒め称えるので、ムフンと息を吐いて胸を張って嬉しそうにしちゃう。幼女は褒められるのが大好きなのだからして。
レスキューアイは、人々を救いまくり、怪我人を癒やしまわって数時間。もはや、真夜中となり、王都に静けさが戻り始めた中で、アイは身体をよろめかせる。
ムフンムフンと鼻息荒く、皆を救わなきゃと頑張っていた幼女であったが、遂に力尽き倒れてしまうのであった。
「うぅ、もう眠いのでつ」
「ゆっくり休むんだぜ。アイは頑張ったよ」
倒れてしまったアイが手を差し出すと、慈愛の表情でマコトが手を合わせる。たぶん慈愛の表情。クシャミを我慢しているわけではない。なにしろ自称名女優な妖精なのだからして。
「そうでつか……あたちはもう休んでいいんでつね?」
「あぁ、大丈夫なんだぜ」
なんか小芝居を始める二人。テンプレの感動シーンをしたい模様。
「そうだ、休んでくれ」
「さようなら、聖幼女」
「また会おうな」
周りにいた人々がその様子を見ながら貰い泣きして、なにやら意味のわからない空間を作り出していた。
なので、遠慮なく幼女はスヤスヤと寝ちゃって、ギュンター爺さんが孫娘のように運んでいくのであった。
もう真夜中であったので、幼女には限界だったのだ。夜遅くまで起きられない幼女なので仕方ない。
後日、聖幼女の献身という話が作られてもいた。最後は妖精に看取られて死んじゃう悲しい話とかなんとか。女神様がその儚い最後を悲しんで天使にして救うんだと。
このマッチポ……悲しい出来事で、月光クッキーの信者が増えました。
翌日、元気いっぱいになった幼女はドッチナー侯爵家に呼ばれた。王家が仮宿として泊まっていたりする。
侯爵家の屋敷は立派なもので、王家の一族、護衛の近衛騎士団が泊まっても余裕があった。
常とは違い、庭には天幕が張られており、多くの騎士たちが行き交っているのが、戦時となったことを如実に示している。
その侯爵家へと、新型装甲馬車で訪問しまちた。ノルベエたちが尻尾をフリフリ振って、可愛らしい。アイもこんにちはと、窓から乗り出して、ニパッと笑顔でおててを振ってご挨拶。
いつもなら、そんな幼女スマイルを見たら、手を振り返してくれるのがパターンだが、騎士たちは表情を固くして会釈をしてくるのみだった。
「やれやれ。余裕がなさそうでつね。彼らは寝たのでつかね?」
「頼りにしていた神器が無くなり、王権の象徴であった王城も崩れました。余裕どころか、王国滅亡まで想像できますゆえ」
ソファに沈み込むように座る幼女へと、反対側に座るギュンター爺さんが答えてくる。
たしかに悪魔に神器を奪われて、たぶんその力を使い攻めてくるつもりに違いない。これは大ピンチである。しかも……。
「神器の攻撃を無効化するとは、サタンは物凄い技術を開発したものでつね」
感心しちゃうよ。これならば神器頼りの人間たちを滅ぼせる。
「これは画期的な開発だと、銀の女神がうれし」
「神器の攻撃を無効化するとは、サタンは物凄い技術を開発したものでつね」
「………」
素早く口を挟んでおく。サタンって凄いよね。それと幼女の攻撃を無効化するアイフィールドはいらないと告げておくよ。
「どうやら先手をうちたいようでつが……。上手くはいかないと思いまつ」
お庭を見ながら、アイはポツリと呟く。
庭に待機している騎士団の掲げる旗の中に、ムスペル家、ブレド家の紋章が描かれている物がはためいていた。
物々しい警備の中で案内された侯爵家の応接室。かなりの広さの部屋に入ると、大勢の人々が既に集まっていた。
この間あったばかりの王様は疲れ切った顔をしながらも、ギラギラと目を輝かし戦意に溢れている。
「よくぞいらした、アイ姫。急な呼びたてになり申し訳ない。先だっての城の者たちを救ってくれたことに感謝を。ただ、今はその褒賞を出すことは申し訳ないができぬ状況だ」
ソファに座る王、壁際に立つ苛立ちを隠さない第二王子シグルド。第一王子シグムントの姿は見えない。
ドッチナー侯爵にその夫人ビアーラ。ジャミトン公爵に、厳しい目つきの武人といった男もいる。最後の男はブレド家の者かな?
「気にしないでくだしゃい。悪魔が現れて大変な状況でつからね。皆で力を合わせる時でつもんね!」
幼女はググッとちっこい拳を固めて、フンフンと息を吐く。こんな大変な状況だ。おやつの時間がきても、我慢して話に加わるよ。
「すまぬな。この状況では駆け引きはできぬ。サタンという悪魔はタイタンの神器を奪い逃走した。これは考えうる限り最悪なことだ。我が国だけではなく、世界にとってな」
「タイタンの神器。どんな力を持っていたのでつか?」
地形変化系神器とは聞いているけど。どんな力を持っているのかは聞いたことがないんだよね。
アイの言葉に隠しだてをしてもマイナスにしかならないと考えた王は素直に語る。
「タイタンの神器は地下に嵌め込まれている。……いや、もはや過去形になるな。その力は大地から無敵のゴーレムを無数に作り出し、そのゴーレムから強力な神の光を放つ。控えめに言っても最強だ。土がゴーレムに変化するのだからな」
「地形……地面をゴーレムに変えるのでつか……。それは凄い凄いでつね」
「ゴーレムを操作するには膨大な魔力が必要となる。それを神器は軽々とカバーしていた。その神器自体を力の源とするあの鳥のようなゴーレム……神器も通用しないとなれば、もはや止めることは不可能だ」
深刻そうな表情で王様は告げてくるが、たしかにそのとおり。あのゴーレム、マトモじゃない。この間の試作型竜を思い出すに、世界を滅ぼせる力を軽く持っていそうです。
女神様、あぁ、女神様。どこかの邪神にお仕置きをしてくだしゃい。
「ふむ……では姫を呼びたてた理由とは、その話とどう繋がるのかな?」
お爺さんが鋭い眼光にて、話に加わる。だいたいの話の流れは予想できるけどね。
「サタンとやらは神器を手にしてすぐに逃走した。あまつさえ、時間稼ぎに軍団長を使おうとした。それは姫たちに倒されてはいたが」
王様が視線を横に向けると、ジャミトン公爵が苦々しい表情になる。騙されて手のひらで道化のように踊っていたのであるから、またもや失策となってしまったのだから。
隣のブレド家の当主らしき男もジャミトンと同じ表情だ。
「時間稼ぎをするということは、タイタンの神器を取り付けるのに時間が必要に違いあるまい。……たとえ違っている可能性はあっても、総力を持って戦わなければならないことに変わりはない」
意を決したように、タイタン王は椅子から立ち上がり、深く頭を下げてきた。
「頼むっ。このままでは相手との力に差があるのも明らか。月光商会、ひいては陽光帝国の力を貸して欲しい。条件は……。余の印璽を渡そう」
白金に煌めく印璽を懐から取り出して、テーブルに置く。マジかよとアイは内心で驚いた。ギュンター爺さんも表情を驚きに変えている。
周りの面々はというと、驚いてはいなかった。既に根回しは終わっているのは明らかだった。
不完全なタイタンニアと戦い、その危険性を理解したらしい。印璽を渡すと言うことは、国を売り渡すのと同意義になるのに、それ以上にタイタンニアを恐ろしいと、人類滅亡が迫っていると王様は判断したのだ。
この王様は賢王だとアイは感心した。貴族主義の腐った国なんだと思っていたが、どうやら王様はまともな感覚を持っていたらしい。
同じような立場になって、同じように印璽を渡すことができる王様がどれぐらいいるだろうか? 前世でも世界が崩壊する前の政治家たちは利権と保身しか考えていなかった。
なら、俺もそれに相応しい態度をとらなければならない。
なので、背を伸ばして真面目な表情で答える。
「わかりまちた。本国にある戦艦と騎士団を借りてきまつ。悪魔退治の専門家の聖騎士団も合わせて従軍させまつ」
「おぉ! それはありがたい。では、すぐに軍の編成の相談を」
戦艦? と疑問に思ったが、それ以上に頼りになるだろう月光商会の本国からの救援に王様は喜びの表情となる。
そうして、すぐに軍の編成について相談をしようとするが
「もーしわけないでつが、今頃フラムレッド領都に敵の軍勢が迫っていると思いまつので、先行させてもらいまつ」
キリリと真剣な表情で告げる。
「しかし先行とは危険な役割でありますぞ?」
王様は俺が先走ったと考えて、ギュンター爺さんに視線を向けるが、黙すのみで止める様子をギュンター爺さんは見せない。
「大丈夫でつ。あたちの母国の軍勢は恐ろしく強いのでつ」
可愛くウインクをパチリとして
「きっとびっくりしちゃいまつから」
と、悪戯そうにクフフと黒幕幼女は微笑むのであった。
サタンとの決戦はすぐである。