241話 軍団長と戦う黒幕幼女
バードック以外の悪魔も同じタイプの悪魔のようである。3メートルは身長があるバードックよりも小柄な2メートル程度の悪魔だ。
「説明しようっ! あれはドッペルゲンガー改バードックだな。平均ステータスは178。特性は変身。どんなものにも変身できるぜ! 武器術、土、闇魔法をレベル6まで使用できる! 他の奴らはドッペルゲンガー、平均ステータスは73だな。こいつらの共通点は魔武具創造。魔力を武具へと一時的に変えて装備することができるんだぜ! 装備がない魔物たちのために創られた新スキルだな! 普通の武具には劣るが、あるだけマシになったぜ」
「最後のスキルいらないでつよね? 悪魔を強化してどうするんでつか? これからの敵が面倒になるだけじゃないでつか?」
思わずツッコミを入れてしまうアイ。武具でステータスの差を埋めるのが人類なのに、敵が持っていたら困るだろ。
「ナイト系の魔物とかいるのに、腰巻きに棍棒なのを悲しんで作られたんだぜ。魔力を使うから、そこまで便利でもないぜ」
「どこの邪神でつか! ゲームをしている訳じゃないんでつよ!」
言い合いをするアイとマコト。だが、敵は待ってはくれなかった。
「魔武具創造! アイアンフィスト!」
手を掲げるバードック。その黒い腕が鉄色になっていく。そうしてこちらへと体を向ける。
「閣下、お下がりを!」
阿鼻叫喚となり、逃げ出そうとする貴族たち。ルーラがそれを放置しながら、幼女を守るために前に出る。
「てめえらは、皆殺しだぁっ! スワンプフィールド!」
腕を地面につけると、膨大な魔力を放つバードック。その闇色のオーラは地面を覆う。その効果はすぐにわかった。地面が泥沼化して、人々の足が沈み始める。腰まで沈み込み、貴族たちは身動きがとれなくなってしまう。
アイたちは、フヨフヨと浮遊を発動させたので問題ないが。もはや浮遊は常識の特性なのだ。どこかの野菜マンの漫画と同じである。
「ふんっ、この程度では効かないのか! だが武器もなく戦えるかな? オラオラッ」
鉄の腕を連続で繰り出してくるので、アイを庇うルーラは腕をクロスさせて防ごうとする。
ドスドスと鈍い音をたてて、ルーラの腕を砕こうとパンチを繰り出すバードックは、顔を狼へと変えて、パカリと大きく開ける。
「魔技 デビルドッグファング!」
そのまま、ルーラの腕を掴み引き寄せて、首元へと齧りつく。凶悪な牙に哀れ少女は首を噛みちぎられて死んでしまうと、その様子を見て貴族たちが悲鳴をあげるが
ガチン
と、閉じられた口から響く音と、硬い感触にバードックは怪訝に思う。
「やってくれましたね。今度は自分の番です」
静かな声音に怒りを纏わせて、ルーラがその頭を掴むと無理矢理剥がす。聖なる炎がバードックを覆いダメージを与える中で、いつの間にか装備していた小手のついた拳で殴る。
ゴスッと狼の顔に凹みができて、バードックは後退る。すぐに聖なる炎は消え去ったので、高位の魔族にはあまり効かないのだろう。
「ちっ! いったいどうやってその装備をしやがった?」
バードックが悔しそうに尋ねる。そう、ルーラはきらめく鎧に身を包んでいた。ギュンターたちも完全装備となっている。
「アポートでつ! 短剣技 首落とし!」
後ろに忍び寄ったアイがバードックの首元に短剣を叩きこもうとするが
「クカカカ! 闇変幻」
首元が霧となり、その攻撃はすり抜けてしまった。なんと、そんな変身がと驚いちゃうアイに、バードックは素早く振り返り、アイアンフィストを繰り出す。
「魔技 ソードフィスト!」
その繰り出す拳が鋭く光る剣へと変わり、アイへと迫ってくる。が、アイもその程度の攻撃にはやられない。
「幼女防御 マコトシールド」
ちっこいおててで盾をつかんで、迫る剣に立ち向かう。
「ジャコーン」
マコトはガッツポーズをとりながら、余裕に水晶のような障壁を作り出し弾き返す。
「剣技 ウィップソードダンス」
チェーンソードを鞭のようにしならせて、バードックを切裂こうとするルーラ。高速で迫るチェーンソードを前に高笑いをしながら、身体を闇へと変えて、すり抜けるバードック。
「変幻 悪魔の独楽〜」
バードックはその身体を独楽へと変えて回転して、空中に舞うようにしているチェーンソードを弾く。そして、そのままルーラも弾き飛ばす。
「なかなかやりまつね、こいつ!」
その変幻ぶりに舌打ちしつつ、アイは倒す方法をかんがえる。
「ウラララ〜って、叫ばないと倒せないかもしれないぜ」
マコトが片手を口にそえて、ウララ〜と叫ぶ。
どこかで見た敵だよと、警戒しちゃう。その場合、なんで勝てたのかわからない叫び技で倒さないといけないかも。
「正攻法でも大丈夫でありますよ!」
回転する独楽へとチェーンソードを再度繰り出し絡めさせて、ルーラはその動きを止める。力を込めて、そのまま空中へと投げて、魔法を発動させる。
「サンダーブレード!」
周囲を照らす雷の剣が生み出されて、バードックへと向かう。高熱の雷の剣が突き刺さり、雷がバードックの身体を走りぬける。
「グッ、やるな! 変幻 ドリルクラッシュ」
独楽から身体を人型へと戻すと、今度は足の先端をドリルに変えて、高速回転しながらルーラへと襲いかかる。
「ビッグシールド!」
盾を構えて、光の障壁を作り防ごうとするルーラであるが顔を顰める。
「むぅ?」
回転するドリルに障壁は砕かれて、さらには盾も砕こうとバードックは止まることをしない。
「妖精技、回転止め!」
回転するドリルにマコトを放り投げるアイ。ガリリと嫌な音がして、その回転は止まる。
「フハハ! 見たか、あたしの活躍を! これは撮れ高バッチリだぜ」
マコトは満足そうに高笑いをしているので、扱いが虐待に見えるが大丈夫な模様。
「けん玉がいないと、その回転は完璧ではなさそうでありますね」
ルーラは止まった足を掴んで、ジャイアントスイングにて、再び上空へと飛ばす。
「ホーリービームっ!」
ジュワっちと、腕をクロスさせて、幼女は聖なる光を放つ。真っ白な神々しい光がバードックを貫き、その身体を焼く。
悪魔に特攻の聖魔法。ステータスに格差はあっても、そのダメージは甚大らしい。
身体が靄のように虚ろになるバードックはそれでも戦意を失うことはしなかった。
「仕方ねぇっ! 大技で吹き飛ばしてやるぜっ!」
魔力を自分の体に巡らせて、再び変幻を開始する。
「変幻 タイガーカノン!」
身体をゴワゴワと変えたと思ったら巨大な戦車砲に変わった。敵の奥義っぽいけど……。
「おかしいでつっ! なんで、戦車砲?」
ふぁんたじ〜だぞ、これ? どこの運営が力を貸しているわけ?
「大丈夫っ! マンモスアタックを使えば2秒で勝てるんだぜ」
「それは古いでつ。最近は善戦してまちたよ!」
マコトと言い合う中で、戦車砲の砲門が光り輝く。
「クハハハハ! 魔技 デビルカノン砲! 魔軍団長の奥義を受けなっ!」
魔力を装填させて、辺りを吹き飛ばさんと、哄笑するバードック。強大な魔力を感知能力のない人間でもわかり、貴族たちは恐怖の叫びをあげる。
が、ルーラはそれを許さなかった。
「ようは砲門を移動させれば良いのでしょう?」
飛び上がり、その砲門にチェーンソードを絡ませて腕を引こうとするルーラ。
だが、ギシリと音がするだけで、その砲門は空中に固定されたように動かなかった。
「そんな弱点は想定済だっ! 闇の魔力により固定化されているんだよっ!」
嘲るバードックだが、余計な一言を言った。自分が有利になると調子に乗る悪役そのままである。
もちろん幼女は聞き逃さなかった。ふわりとちっこいおててに光を纏わせると、辺りへとその腕を振るう。
「聖魔法 サンクチュアリ」
柔らかな黄金の光が広間を包み込み、邪悪なる力をかき消していく。敵の砲台を固定化させていた魔力すらも。
サンクチュアリにより、先程とは全く違う神々しい聖なる光に焼かれて、バードックは身体を震わす。慌てて、砲弾を放とうとするが
「閣下の作ってくれたチャンスを逃しはしませんっ! 聖騎士モードッ」
不敵に笑い特性を使うルーラ。銀の粒子が身体から放たれて、翼が背中から生える。エグザなんちゃらモードスタンバイとか、モニターに表示されたが、聖騎士モードのことだろう。
「鞭技 スパイラルトルネード」
くるりと絡ませたチェーンソードを強く引いて、敵の砲口の先を今度こそ空へと向ける。今のルーラのステータスは2倍。しかもサンクチュアリにより、敵の弱体化が行われたので、今度は移動させることができた。
バードックが放つ闇の砲弾は空へと向かい、敢え無く何も破壊できないまま爆発した。その爆発は奥義というだけあり、物凄い爆発音と衝撃波を放ち、真下の家々の窓を震わす。
たがそれだけであった。そしてバードックは竜巻に巻き込まれたように、空中を猛回転しながら飛んでいくので、慌てて変幻を解く。
「くそっ! 人間如きがここまでの力とは! ここは一旦引くか」
悪魔に逃げることの忌避はない。ブライドよりも命優先だ。翼をはためかせて、逃げようとバードックはする。
「そうはいかないのであります! ここで仕留めておかないと面倒でありますしね」
軍人少女がバードックの後ろから話しかけてくる。慌ててバードックが振り向くと、銀色の翼を生やす少女が浮いていた。
シャランとチェーンソードをしならせて、バードックすら目を見張る力を吹き出すようにしていた。
「英雄級? だが、人間たちにそこまでの力があるわけがねえっ!」
苛立ちながら英雄級と言いながら、バードックへと攻撃してこなかった老騎士を見ると、圧倒的な力を見せて、配下のドッペルゲンガーたちを倒していた。
たしかにあれは英雄級かもしれないが……。こんなにも大勢英雄級がいるわけはない。
「もちろん、自分はそこまでの力を持っていません。これは神の力というものです」
灰色の髪の毛の少女は口元を微かに笑みへと変えて、チェーンソードを直剣へと変えて告げる。
その不敵な態度に苛つきながら、バードックは身構える。この人間を倒さないと逃げることはできなさそうだと理解したのだ。
「神……新参の神なんぞは打ち倒して、我らが主が神となる! 死ねえっ!」
胴体が引き裂かれるように分かれて、その内部から口が現れる。牙がゾロリと生えており、全てを噛み砕けるような力を感じさせてくる。
「魔技 ビッグマウスファング」
ルーラを噛み砕かんと、胴体の口を開き、空中を飛んでくる。迫るバードックを見て、ルーラも身構えて、剣に魔力を籠める。
「星4乱れ雪月花!」
武技を放つと同時に頭からルーラがバードックの口に齧られる……ように見えた。
だが、そこには雪がひらりと舞うだけで、何もいなかった。手応えを感じずに戸惑うバードックの身体を光の輝線が無数に走り、桜花びらが周辺に舞う。
「ご? これほどとは……だが、もう遅い……遅いのだぁっ!」
バードックの体に走った輝線が消えて、身体がずれていく。やられたことを理解しながら、バードックはせせら笑うように最後の言葉を告げながら、粒子となって消えていくのであった。
「ふむ……砂系ではなくて、スニーカーになぜか変身する鰐系の悪魔でしたか」
ルーラは敵の最後を見届けて、ゆっくりと地に降り立つのであった。