227話 女王様と黒幕幼女
ディアナ女王は堂々たる様子で、豪奢なソファに座りながら、部屋を眺めていた。天井から吊り下げられている小さなシャンデリアはクリスタルが組み合わせて備え付けられており、煌々と部屋を照らしている。無論、燭台もなく蠟燭が立てられているわけでもなく、クリスタル自体が魔法の光を放っている。
テーブルは金縁で、触ると優しさを感じる柔らかさを感じさせてきた。その上に置かれているワイン瓶からワイングラスに注がれたワインは口に含むと、深く良い香りが口の中に広がり、芳醇だ。
床には足が埋まる程に毛糸は長く複雑な刺繍が敷かれている絨毯の価値を教えてくる。壁に掲げられている絵画も見事なもので、この部屋が途轍もない金額がかけられていることがわかり、その価値の高さから、陽光帝国の力を否が応でも伝えてきていた。
陽光帝国の力を部屋一つで感じとり、ディアナはゆったりと柔らかな綿でできたソファに凭れかかる。
「これではディーアが逆立ちしても勝てぬ。豊かな国だと自負していたが、上には上があるというものだな」
壁際に立つ護衛の騎士へと語りかけて、返事を待たずにワインを一口飲む。
敵国の中で、余裕の笑みを浮かべて、ディアナは微笑むのであった。
しばらくすると、コンコンと扉が叩かれて、許可を出すと文官が顔を出してきた。
「ディアナ女王。謁見はまだですが、なぜ貴女様がこの国に訪れたのか、事情を再度聞きたいとスノー皇帝が仰っております。外交官がここに来ますがよろしいでしょうか?」
深々と頭を下げて尋ねてくる文官に、自慢の金色に輝く長髪をかきあげて、鷹揚に頷く。実はスノー皇帝にはまだ会っていない。忙しいと後回しにされており、事情だけを話してあるのだ。
もったいぶり、こちらとの交渉を有利に運ぼうとしているのは明らかだ。世界の危機だというのに、器の狭い皇帝だと、ディアナは苦々しく思っていたが、政治とはこのようなものなのだろうと諦めてもいた。
なので、何度目か忘れたが、また事情を聞きに来る者へと、同じことを繰り返し話すことになるのだが、怒ることもせずに、ディアナは了承するのであった。
文官はホッとした表情を浮かべて、足早く去って行った。そうして少し経つと、コンコンとまたもやノックがされるので、護衛の騎士が扉を開けて、話を聞きに来た人間を案内しようとするが、その動きがピタリと止まる。
なにかあったのかと、ディアナが目を険しくさせる中で、外から入ってきた者を見て驚く。
「え、と、お邪魔しますね」
水色の髪を持つ気弱そうな美少女がおずおずと、見ただけで強力な力があるとわかる杖を持ち入ってきた。
「失礼する」
続けて、老齢の騎士が年に似合わぬ威圧感を漂わせて、ガチャガチャと金属音をたたせながら入ってくる。蒼きプレートメイルに盾と剣を持ち完全装備だ。無論のこと、その武具も神器だろう強き力を放っている。
陽光帝国で、最高の神器を持つスノーと、最強を謳われる神聖騎士ギュンターが入ってきたのだ。他にお供をつけることもせずに入ってきたことから、内密の事前交渉をするつもりなのだろうと推測し、ソファから立ち上がり歓迎の意を示す。
「これはスノー皇帝。歓迎致します。そちらの方はギュンター卿でよろしいかな?」
笑顔を浮かべ挨拶をして、チラリと騎士へと視線を向ける。
「こんにちは。忙しくてなかなか会えなかったことをお詫びしますね。私はこの国を支配する皇帝スノー・ウィンターと申します」
涼やかな声音でスノー皇帝が軽く会釈をして、こちらへニコリと微笑む。一国を支配するには、弱気そうな少女だ。ディアナも若かったが、この少女は若すぎる。
神器とこの騎士に頼っているのだろうか。それならば都合が良い。
「儂はギュンター。一応この国の客将をしている。そなたから話を聞きたくてな。こうして、やってきたと言うわけだ」
「それは助かる。我はディアナ8世。ディーアを統べる女王をしている。今回は戦争をしている時ではないと告げるためにここに来た」
相手に下に見られないように、ことさら胸を張り堂々と名乗る。これは世界の危機なのだ。しっかりと話を聞いてもらわねばなるまい。
「とりあえず座ったらどうだろう? そこまで長くはならないと思うが、それでも簡単に終わる話ではないと考えるのでな」
そう伝えて、二人に座ることをすすめるが
「いえ、忙しいので、まずは簡単に話を聞いておこうと訪れたのです。謁見の前の事前の根回しというわけですね」
「………そうか。それならば仕方あるまい。では話をしよう。既に話は伝わっていると思うが、魔帝国の使者が新たなる錬金術を伝えに来たのだ。陽光帝国に勝てる術だと言ってな」
私は危機感を持つように伝える。ある日現れた魔帝国の使者は、錬金術を伝えに来た。陽光帝国の強大さに危機感を持ったらしい。陽光帝国への牽制としても、ディーアに力を持って欲しかったのだろう。
「それは小さな宝石であったのだ。その宝石は禍々しくおぞましい力を持った魔宝石であった。生贄を使い、命を捧げれば、強力な魔物を作り出せるという触れ込みでな」
「ん、と、それを使ったのですか? 躊躇いなく?」
「いや、女王としては、そんな方法を許すことはできなかった。だが、五大将軍の一人、マーグが密かに使ってしまったのだ。たしかに物凄い力を持っていた。なにしろ生贄を捧げたら、その者のスキルを宿し、どんどん力を増していったのだから」
あれならば神器使いも倒せるだろうと確信できる。それほど凄まじい力であった。だが、そう都合良くはいかないことも明らかであった。
「すぐに使役できなくなるほどに強くなることは簡単に想像できた。だから、女王として強くなる前に倒そうとしたのだが……魔物が創り出されたと判明した時は遅かった。もはや、手のつけようがなかった。他の五大将軍は殺されて、魔物は暴走をし始めたと言うことだ。我は命からがら、世界の危機を伝えに国を逃れ、そなたたちに会いに来た」
身体を乗り出すようにしながら、世界の危機という語句を強調して話すが、二人ともそこまで驚く様子は見せなかった。話だけではわからないのだと、私は苛つきを覚える。
「話はそれでおしまいだろうか?」
「うむ。ここは休戦協定を結び、共にやつに対峙し戦おうではないか」
やはり話だけではわからないのだろう、一歩踏み出し近づきながら提案をする。
「そうか……では儂らの答えを告げようではないか」
スッと手を掲げて私に手のひらを向けながら老騎士が鋭い眼光を見せる。
「幼魔法 魔法操作 複数指定 ディメンションフレア」
そうして、その手のひらが魔力で光り輝き、女王たちは蒼き壁に覆われて、大爆発が内部で起こるのであった。
コックピット内でアイは半眼で閉じ込められた空間内での圧縮爆破により吹き飛び消滅していくディアナ女王の騎士たちを眺めていた。いや、自称女王か。
「ユグドラシルの時とは違いまつ。もう引っ掛けられないでつよ」
ふぅと、ため息を吐きながら呟く。誰が敵か、情報が正しいのか、考えたのだ。幼女は知恵熱がでちゃうぐらいに考えたのだ。
「よくわかったなぁ。あたしは気づかなかったぜ」
ワンピース型水着を着た妖精が、空中をバタフライで泳ぎながら感心したように言ってくるが、ジト目で返すだけにしておく。
「五大将軍だか、なんだか知りましぇんが、神器を破壊できるようになった魔物が食べたんでしょ? それなのにディアナ女王だけは生きていて五体満足? そんな訳はないのでつ」
ディメンションフレアの効果が薄れて、爆煙が薄れていくと、身体のあちこちを吹き飛ばされた自称ディアナ女王が立っていた。吹き飛ばされ抉られた身体がボコボコと膨れ上がり再生していく。
顔の半分も吹き飛んでおり、埋めるように血管がびっしりと這っている肉塊が膨れ上がり塞いでいった。
「……よくぞ気づいた。気づかなかったと考えていたが甘かったか」
ガリガリと金属を削るような声音で偽女王は不気味に嗤う。それは完全に化け物であった。SAN値チェックが必要かも。
「吸収型なら、強者を吸収しようとしてくると考えたのだ。有象無象を吸収しても仕方ないからな。焦ったであろう? 儂と皇帝が完全装備で現れて」
ギュンターへと意識を移したアイは剣をスラリと抜く。
「隙あらばと考えていたが、読んでいたとはな……。さすがは英雄級だと褒めておこう。私の力を目の当たりにしながら死ぬが良いぞ」
その言葉に不敵に嗤い、敵は僅かに腰を落とすと力み始める。
「頭は良いが、俺を懐に入れたのは間違いだったな。6魔合体マーグの力を見よっ!」
はぁぁと、魔力を放出し始めて、変身をしようとする敵。
「千の冬」
それを見ながら、情け容赦なくスノーは魔法を唱える。一瞬の間に敵へと永久に溶けない氷で創られた千の氷槍が突き刺り、凍りつかせ動きを止める。
「聖剣奥義 ジャッジメントソード」
敵がなんとか脱出しようと藻掻く中、神聖騎士アイは剣を掲げて、神の光を放ちながら叩き込む。
「ま、まて、おかしくないか?」
焦った様子で敵が口早に言うが、振り下ろす剣を止めることはない。
清浄なる光の剣が自称ディアナの脳天から叩き割り、あっさりと倒してしまうのであった。
変身シーンも途中で、敵は浄化の光にて溶かされていく。
「残念ながら、ボスとの戦いは先日やったばかりなのでな。すまぬが今度は騙されぬ」
ヨルムンガンドが犯人だとこの間は思い込まされた。だが実際は違った。残機があったから良かったけど、リンが頭をパクリとやられたからな。慢心はしないことにしたのだ。
「説明しよう! やつの名前はデビルマーグ! 平均ステータス387、様々なスキルを持っていたが、レベル4が最高だな。敵を吸収して、そのスキルを奪うことができるぜ。聖なる力に話にならないほど弱い。………最強たるギュンターと最高の神器を持つスノーを吸収しに来たんだな。…………倒しちゃったけど。つまんね〜! つまんないよ、撮れ高がないじゃん!」
ジタバタと宙で駄々っ子になるマコト。
「さよけ」
冷静に第三者視点で考えると、おかしいことに気づいたんだもん。悪いな。それに聖なる力に弱いんじゃ、どちらにしてもギュンターの相手ではなかったよ。
本当はじわじわと仲間が吸収されていったりするイベントがあったのだろうけど……幼女はスキップが好きなのだ。らんららん。
「ともかくこれで南部も統一できました。お疲れ様です、アイさん」
スノーがパンと両手を合わせて、嬉しそうに言ってくる。ぴょいんとゲーム筐体からアイは出て、ちっこい肩を竦めて見せる。
「デミウルゴスとサタンはしっかりと調査をしてから倒しにいきまつよ。こんなふうにボスが目の前に無防備に来ることはないでしょうから」
それまではのんびりとできるだろう。しばらく王都を放置しちゃったから、戻らないとね。
こうして、ディーアは女王を失い将軍たちがいなくなったことで崩壊して、陽光帝国に降伏した。ディアナ女王は暗殺されたとも言われるが、定かではない。と歴史書には書いておく。
製作者はどこかの妖精であるので、信憑性はゼロかもしれない、