223話 コンテニューをする黒幕幼女
ヨルムンガンドに頭を齧られた少女が血を流して倒れるのをガイアは冷ややかに眺める。
「随分強い魔力を感じたのだが……見掛け倒しであったか」
一瞬、自らと同レベルの魔力を発したとガイアは思い、警戒をしたが最初の一撃にて倒したので拍子抜けであった。あれは将軍級を明らかに上回っていた。倒すのが困難であろうとも予測していたが、ヨルムンガンドの方が上手であった。
隠蔽を得意とするヨルムンガンドが天井を移動していたことに気づかず、少女の頭をあっさりと噛みちぎったのだから。
ヨルムンガンドはさすが神々に封印されるほどの蛇である。その威力は高い身体能力を持っていただろう少女をあっさりと倒せるほどだが
「なぜ倒したのだ? 操ればそれなりの戦力になったであろうに」
なぜ力が増したのかはわからないが神器を持っていたのだろうとガイアは推測して、ヨルムンガンドへと問いただす。その口調には不可解なことに先程まであったヨルムンガンドへの敬意は見られない。
同格かそれ以下として、ガイアはヨルムンガンドへと話しかけていた。
「あれは新たなる神の使徒です。増大した力を見たときに、その正体に気づきました」
ヨルムンガンドの予想外の言葉に顔を顰めるガイア。地に倒れた少女の遺体を一瞥してヨルムンガンドへと視線を戻す。
「新たなる神? 神を尽く滅した?」
「そのとおりです。私は神々の力で封印されていたことにより、神々と繋がっていました。そのリンクが切れました。最後に感じたのは神々が新たなる神と戦闘をしており、力尽きたということ。強大なる力を新たな神からは感じました。それと同種です」
「……ふむ、それは聞き捨てならんな。と、すると噂される老騎士も、今捕らえようとしている男もその全てが新たなる神の使徒?」
顎に手をあて、厳しい表情となりガイアはまずいことになったと舌打ちする。まだ新たなる神と戦うのは早い。
「時期尚早だな。今の状態では新たなる神には勝てない可能性が高い。我らに自身を倒せる力を与えてくる愚かな神だが、まだ少し私の力は及ばないだろう。少なくとも後数年は時間が欲しい」
かなりの力を蓄えた。旧神の馬鹿な技によって。しかしながら、それでも確実に新たなる神を倒すには時間が足りない。
「他の者たちと連合を組むしかないでしょう。最優先は神殺し。新たなる神を倒した後に、最終的に神に誰がなるかを決めればよろしいのでは?」
「たしかにな。こうして使徒を送り込んでくるということは、我らの動きに気づいたのだろう。デミウルゴスとサタンに連絡をつけるとするか。誰か足の速い者を選ぶ。誰が良いか……」
ガイアは自身と同様の力ある者たちに連絡をつけようと考え込む。忌々しいが仕方あるまい。プライドだけでは勝てぬ戦いなのだから。確実性が欲しい。
「その手紙には、新たなる神の使徒に敵わなかったと書いた方が良いでしょう。盆栽程度では外の世界の力を知らなかったとつけ加えて」
涼やかな少女の声が考え込むガイアへとかけられてきたので、その声の元へと顔をあげて視線を向ける。
「ほう……頭が無くなったはずだが……。貴様は不死者か? いや、不死者特有の死の臭いがせん。いったいどういうカラクリだ?」
ガイアの向けた視線の先にはたった今倒したはずの少女が立っていた。血で汚れてもおらず、傷一つない綺麗な肌を見せながら。
凍りつくような眼差しで。
「枯れてゆく盆栽にカラクリを告げても意味がないでしょう。迂闊でした。その全てがボスの姿を指し示していたのに、私は疑問に思いませんでしたので」
冷静に平然とした様子を見せて、迂闊と言葉を口にしながら、特に悔やむこともなく、その少女はガイアを見つめながら言葉を紡ぐ。
「初めましてユグドラシル。根が腐りゆく堕ちたる精霊王よ」
ゆっくりとした口調で、ガイアへとそう呟き、綺麗な会釈をしてくるのだった。
コックピット内でアイは自分の迂闊さに驚いていた。今までこんなミスはしたことがなかったのにしてしまった。裏を読むのが得意な自分がまさか与えられた情報を疑いもせずに信じるとは。
「ん〜。たしかに少し変だな? 精神が身体に引っ張られ始めたのか? それか加護が強いのか、両方か」
マコトが珍しく頭を傾げて不思議そうにする。それだけ驚きだったのだろう。俺がまったく気づかなかったことに。マコトは気づいていたんだな、ちくしょうめ。
ガイアへと話しかけながら答えを確認する。
「最初の時点で、なんで蛇が木魔法を使うのかと疑問を持ったのに、それの意味するところを深く考えませんでした。ユグドラシルに張られた罠や森林を蠢く木の魔物たち。答えは簡単、植物の王たるユグドラシルが黒幕だったんですね」
新生リンの鋭い声音に、ガイアはニヤリと口元を曲げる。
「そのとおりだ。坩堝昇華の法を知っているか? 馬鹿で愚かな神々が行った技だ。私は死が確実なその法にて世界が歪められた際に生き延びようとした。他の精霊王は坩堝昇華が終わればまた力が回復すると、精霊力の塊であり、それほど力を失わないために気楽に思っていたが、私は実体がある身だ。回復する前に法が終わった後に襲いくる瘴気により枯れるのは明らかであった」
クククとガイアは醜悪な笑みを浮かべて話を続ける。両手をあげて、得意顔になり自身がとった方法を。
「どうすれば良いと思う? 私は考えた。セフィロトのように生命を司るわけでもない私は瘴気に耐えうる術はない。しかし……反対に瘴気を栄養分として生きる存在となれば良いのではないか? そう考えた私はエルフを集めた。魔力豊富な生命体であり、瘴気を産み出す素を!」
「エルフには知恵なき豊かなる樹と勘違いをさせて、少しずつその存在を変えたのですね。ヨルムンガンドもとっくに解放して眷属にしていましたか」
笑みを浮かべて親切なお人好しを演じて、裏ではほくそ笑み搾取をしていた詐欺師だったわけだ。エルフも気づかなかった。ヨルムンガンドの存在も役に立っていたに違いない。悪を封じる聖なる木というポジションもとっていたからな。
「貴方に拍手を。ここまで練られた作戦であったとは感心しました。そして貴方に慰めを。ここで死ぬのは貴方が不運だったわけではない。全て読まれていたのだと告げておきます」
刀を中段に構えて、真剣な表情へと侍アイは変える。今度こそ油断はしない。連コインしてコンテニューだ。幼女はまだまだコインを持っているのだ。
気の毒には思う。どうやら本当に世界支配を狙っていたらしい。神への道は容易くないと言うことだ。
どこかの女神様は気づいていたのだろうと推測する。馬鹿げた話だ。最初の時点で気づいていないとおかしかった。宿り木を前にユグドラシルが無防備? そんな訳はないのだから。
「ふむふむ……君は神の使徒ではどれぐらいの階位にいるのだ? 見る限り最高の階位と思うのだが? 君を使徒とした神との力の差はそれほどでもあるまい?」
「……滑稽ですね。貴方はまるで道化のようです。自分を基準に考えるから見誤る。私はたしかに最強を目指していますが、その頂きは遥か彼方。最強の道は見果てぬほど遠く、私の目指す先はいまだ見えないというのに」
こちらを見抜いているとでも言うように、余裕を見せながらガイアが問うてくるので、感情の籠もらない声を出す。
哀れなる神ごっこ遊びをするユグドラシルへと伝える。視界の隅でヨルムンガンドが再び姿を消していくのを見ながら。
その言葉を誰が言ったのか。リンか、それともアイか、大穴でマコトか。マコトではないのは確実だろう。マコトは饅頭を齧りながらお茶を飲んでおり既に観客となっているし。
侍少女の言葉に、ガイアは多少の苛つきと怒りを宿しながら身構えてくる。先程と同じく槍を見せるように構えてきた。
「盲信が主の力を大きく見せているとも気づかない愚かな使徒よ。貴様を倒して新たなる神との試金石にさせてもらう」
「良いでしょう。バッター交代、メンバーチェンジです。貴方の手品を楽しく見させてもらいます」
侍アイも刀を再度中段に身構えて応える。
新型はちがうのだ。こんな感じ。
リン
職業︰侍+
体力︰1200
魔力︰1100
ちから︰190
ぼうぎょ︰170
すばやさ︰200
特性︰呪い、精神攻撃、寄生無効、風は捉えられず(回避率大幅アップ、すばやさ+10)、浮遊、身軽、刀攻撃大強化、魔法威力小強化、適刀流使い手、姉神の加護 (姉神と口調が同じになる。厨二病力がアップ。高速思考)、だんちょーの幼妻 (見かけの幼さ大幅アップ)、???
スキル︰火魔法6、雷魔法5、水魔法8、風魔法8、土魔法3、木魔法3、回復魔法5、重力魔法5、闇魔法3、召喚魔法1、支援魔法3、影術3、騎乗術3、鍛冶3、セージ2、無詠唱、魔法操作
装備︰天叢雲:ちから+500水属性、剣聖の羽織:ぼうぎょ+380全耐性大アップ、ポニー、自動修復、自動帰還
天叢雲はアクアオリハルコンとオリハルコン4個、10個のアダマンタイトを昇華して融合した物を使用して作成。剣聖の羽織は300個のミスリルを昇華、赤竜の鱗3、赤竜の骨3を使用した。なぜ羽織になるかは不明である。ゲーム仕様だからこんなもんであろう。
ぶっちゃけ、断トツにパワーアップしたのだ。魔法も現時点での最高を揃えた。以上。
……武術系統が一切取れなくなっていた。気配察知系統も。もしかしなくても、リンの元の能力に依存するとか言う感じだ。特性に???があるけど、そういうことだろう、と思う。
多分ね。たぶん……タブン……。
「さて、神への挑戦状を使用したガイアさん。貴方の槍さばきを見せてもらいましょう。神へと挑戦できるのか、本当にその力があるのかを見せてもらいます」
「良いだ、ろ、う?」
刀を身構えたまま侍少女は動かない。微動だにせず、ガイアを見つめていたので、ガイアは魔法にて牽制をしつつヨルムンガンドに攻撃をさせようとしたが
少女の横にドサリと落ちてきたものを見て言葉を失う。ドサリドサリと落ちてきたのはヨルムンガンドであった。
巨大な体躯に竜を上回る強靭な鱗を持つヨルムンガンドが輪切りとなって落ちてきたのだ。
なにが起こったのかと、目を見張る。いつの間に攻撃をしたのかと。あっさりとヨルムンガンドを倒すとはと。
ガイアの様子を眠そうな瞳に深き光を宿して見つめて、侍少女は告げる。
「私の舞が見えなければそこでおしまいです。驚くだけで、案山子のように立つのみならば神への挑戦券は捨てた方が良いでしょう」
その言葉に、一瞬恐怖を宿して顔を歪めるが、ガイアはすぐに不敵な嗤いへと変える。
「私のペットを倒したぐらいで、得意になってもらっては困る。坩堝昇華の法にて神をも超える力を手にした精霊王の力を見せよう」
「ポップコーンでも食べながら眺めていればよいのでしょうか。拍手の期待はしないでくださいね」
ガイアがその身体から強烈な魔力を発するが、そよ風のように受け流しながら侍少女は微かに笑みを浮かべて余裕を見せるのであった。