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黒幕幼女の異世界ゲーム  作者: バッド
16章 秘境探検隊なんだぜ
221/311

221話 ユグドラシルの内部と黒幕幼女

 ユグドラシル内部は仄かに光り、通路は暗くない。その中を幼女一行は駆けてゆく。


 周囲はもちろん全て生きている木だ。これぞふぁんたじ〜という感じ。地球では見られない不思議な光景。


 これだけ巨大な木ではあるが、内部が空洞になっていても大丈夫というわけではないと思う。ユグドラシルは木々の集まりなのかと考えるが、特にそういう所は見られない。


 一つの木目が通路の木の壁に走っており、一本の木からなっていると分かる。面白いのは壁に蔦や植物が生えていることだ。木でありながら、大地でもある。それがユグドラシルという大樹であった。


「即ち、寄生し放題というわけでつね」


 なぜか内部で働く人々の姿が見えないので、アイ、マコト、ガイ、リンだけが通路を走ってゆく。なぜかというか、人払いの法が使われているんだろうけど。あからさますぎるよな。


「植物としては変ですよね。なんでこんな不思議な特性を持っているんでやしょう?」


 寄生というか普通の植物に見えるから共生をしている植物だ。だがそれならば栄養分を盗られてしまい、枯れちゃうだろうし、ガイの疑問はもっともだ。


「ん〜、リンが考えるにふぁんたじ〜だからだと思う」


「ふぁんたじ〜だからで思考停止したら駄目でつよ。たぶん……魔力が関係していまつ。植物同士で共生ができる理由……光合成ならぬ魔力光合成とかしているんじゃないでつかね?」


 他の栄養分かもしれないが、魔力説を俺はとるよ。生命体が生み出す魔力。それを吸収しているからこそユグドラシルは枯れないんではなかろうか? この説はなかなか良い線いっていると思うよ?


「なるほどなぁ。でもその特性を持っているから、悪意ある寄生体には対抗できないと」


「ん、本来植物が持つ免疫機構を持っていない可能性はあるとリンも思う。あんなふうに」


 マコトが感心して頷き、リンがスッと通路の先を指差す。そこには急速に育つ人の身長ほどもある太さの蔓が育ち始めて、蛇のようにずるずると蠢き通路を塞ごうとしていた。


 そして床や壁に這っていた蔦が伸び始めて、いくつもの人型や獣型に寄り集まっていた。


「蔦が寄り集まると気持ちわるいでつね」


「迎撃しまさ! イフリート顕現、杖の型。魔法操作 複数 フリーズスタチュー!」


 腕輪を杖へと変えてガイが魔法を唱える。蔦の化け物は身体を形成し終わると同時に氷が足元から這い寄るように生み出されて、パキパキと音をたてて凍りついてゆく。


「適刀流 マグネット碁盤斬り!」


 氷の彫像となった魔物の間をスルスルと縫うように走り抜けて、リンが刀を大きく振り上げて、右足を強く踏み込み、通路を塞ぐ蔓へと高速で振り下ろす。


 ズンと鈍い音がして、通路を塞ぐ蔦が綺麗に縦に断ち切られて床に落ちる。切れ込みを入れるだけでも困難だと思われた蔦であったが、リンの見かけによらない豪腕であっという間に切られてしまうのであった。


「悪いでつね。ゲームと違ってギミックで通路を塞いで遠回りに移動させるとか面倒くさいのでスキップさせてもらいまちた」


 開かれた通路をスタタタと抜けながら、ムフンと笑う幼女。破壊不可能なギミック以外に容赦はしないよ。


 ゲームとかなら、小さい段差をなぜか飛び越えられないとか、ちょっとした段差に躓いて死んじゃうとかあるけど、ここは現実なのだ。


「それにしてもリンは見るたびにパワーアップしていまつね? 新型にしなくても良いでつか?」


 元々凄腕の侍少女だ。ステータスを超えた動きをしていても不思議ではない。というか、ステータスを超えているよな?


「駄目。リンもパワーアップする。目指せ戦闘力53万」


 むふーむふーと鼻息荒く、非難の目で顔を近づけるリン。厨二病患者は新たなるぼでぃが必要なのだろう。厨二病的には。最終的には宇宙の帝王をこの娘は目指しているのかな?


 狐耳をピコピコと震わせて、モフモフ尻尾をバサバサと振る美少女リン。可愛らしいので、撫でても良いだろうかと幼女は迷ってしまうよ。


「説明するぜ! 今の蔦はスポイトプラントだ。召喚系植物で、特性として敵に寄生して魔力を奪う。奪った魔力を召喚主に渡す特殊モンスターだぜ。まだ倒してないぞ。ユグドラシル全体に蔦は絡んでいるし」


「本体を倒す必要がありまつね。火炎放射器が必要でつか?」


「フリーズスタチューで倒した魔物は、ウェポンシード。木魔法ウェポンシードで作られた魔物だからドロップはない。ステータスは使い手により変わるけど、さっきのは平均68あったな」


 キラキラと銀の粒子をまき散らしながらマコトが教えてくれるが、ウェポンシード? マジかよ。魔法か、今のは。


「あたちの天敵でつね。ドロップが無いなんて、戦法を変えないといけましぇん」


 倒しても経験値もドロップアイテムも出ないボス戦でありがちな無限に呼び出される雑魚というわけか。最悪だよ。ドロップアイテムを使い、味方を強化する幼女の最悪の敵だ。


「安心するんだぜ。どうせドロップはないんだし」


「ドンドコドロップしまつから! 最近はドロップアイテムの整理で大変でつから!」


 見ている世界観が違うのか、ドロップありすぎだよと叫ぶ幼女である。ガイたちもマコトの言葉に頷いているんじゃない!


 まったく、まったくもぅと、頬を膨らませちゃう。風評被害だよ、デマを流すのは誰な訳と。


 真実から目を逸らすアイに皆は生暖かい視線を向けていたが、通路を走り抜けて、気配察知にて検知した大物へと近づいている一行はホールに辿り着き足を止める。


 丸い空間となっており、かなり広々としたホールの中心に何者かが立っていたのだ。


 エルフの青年が立っており、ゴゴゴと空気を震わせるような立ち方で余裕そうな表情を浮かべていた。


「ようこそ、ユグドラシルの加護が満ち溢れるユグドラシル城へ。僕の名前はカリルヤン」


 フッと手のひらで額を抑えながら言ってくるカリルヤンとか言うエルフ。どう見ても中ボスです。ありがとうございます。


「ふ、あっしの名前はガ、あひゃあー」


 ここはあっしの番だと勇気ある者がメンチを切って肩で風を切りながら前に出て行って


 ガションと床に大穴が開いた。


 もちろん勇者は間抜けな声をあげて床に開いた穴に落ちていった。


「ふ、英雄級がまだいたとは嬉しい誤算だったよ。あの男はユグドラシルの加護にて生まれ変わるだろう」


 ガイの魔力を見抜いたのだろうカリルヤンが口を開く。


 落とし穴に落ちたおっさんを見て、冷ややかに嗤うカリルヤン。罠があるとは思わなかったな。城内に罠とはエルフは性格悪いなぁ。


「ユグドラシルの加護ではなくて、ヨルムンガンドの加護では? 随分と樹木を操る術に長けているみたいでつが」


「くくっ。やはり知っていたのか。そのとおり。偉大なるヨルムンガンド様の加護と言い直そう。それより落ちた男を心配しないのか? あの穴の先には大量のパラサイトシードがあるんだけどね」


 クククとこちらを見下すように、顎を上げて嘲笑うカリルヤン。罠かぁ。罠察知スキルレベルは低いんだなぁ。欲しいスキルの一つだけど、持っている敵がいないんだよな。


 どうにか罠系統のスキルが手に入らないかなと、困り顔になるアイ。勇者のことはまったく心配しない幼女である。妖精も侍少女ももちろん心配しない。


 その様子に片眉をピクリと上げて、疑問の表情となるカリルヤン。なぜ慌てないのかと思っているのだろう。たしかに、普通なら、大丈夫かとか、俺も穴に落ちて助けに行くと主人公なら言うんだろうけど。


「慌てた方が良いよ? もう少ししたら君たちの敵として現れるだろうから」


 ごめん、寄生無効なんだ、俺たち。助けに行かなくても大丈夫な頑丈なおっさんだし。


 チートすぎるキャラな幼女たちである。悪魔に続いて天敵な月光一同であったりした。まったく盛り上がらないことこの上ない。寄生されたとしても容赦なくガイを倒す幼女たちでもあるかもしれないけど。


「……ガイはそこからヨルムンガンドの所まで行ってくだしゃい。あたちたちも先に進むから」


 カリルヤンの言葉を無視して、穴底に落ちてうにょうにょと蔓を伸ばして体中にパラサイトシードを絡まれているガイへと伝えておく。


「気持ち悪っ! 親分、この穴は気持ち悪いですぜ」


 寄生無効が働き、障壁がガイの身体を覆いパラサイトシードの侵入を拒んでいた。寄生無効ならこうなるのか。


「昔のテレビ番組にあった、鰻が大量に入った風呂に入るようなもんでしょ。ガイにピッタリてつ」


 まだ緩かった時代にそんなのがあったんだよ。俺が子供の頃にそんなテレビ番組が結構あったんだよ。お笑い芸人がよく鰻風呂に入ってたんだ。


「うへぇ、あっしじゃモザイクになるだけなのに。ここは美少女の出番だと思ったのに!」


 悲鳴をあげる山賊をちょっと肩をすくめて見せながら通信を切っておく。お笑い芸人として頑張ってくれ。


 カリルヤンが不思議そうな表情となっているが気にしない。


「リン、こいつを倒して先に進みまつよ」


「ん、了解。さっさと倒して奥に行く」


 十フィート棒を用意しなくちゃと思いながらリンへと命じると、侍少女は刀を抜き放ち身構える。


 それを見てカリルヤンは仁王立ちになり、体に力を溜めるように力み始めた。


「なかなか強そうだ。今の僕と同じ程度の力を感じるよ。まぁ、この状態で戦っても良いのだけど、ヨルムンガンド様の加護の力を見せてあげよう。ハァァァ」


 カリルヤンは声を張り上げて力を溜めて、その肉体はどんどん肥大化していく。ボコボコと筋肉が膨れ上がり血管のように体の内部に緑色の蔦が張り巡らされていく。


「適刀流 地震体験衝」


 それを見ながら、リンは冷たい声音で突きを繰り出した。床を蹴り、音速に近い突きを繰り出すと、衝撃波が生み出されて、変身中のカリルヤンに命中しちゃう。


 地震体験衝。震度7を擬似的に体験できる衝撃波だ。昔、地震体験のイベントに参加した某おっさんが、体験したい人はいませんかと司会のお姉さんが尋ねたときに、最前列にいながら体験してみたいのに恥ずかしくて手を上げることなく地震体験ができなかった悲しい記憶から生み出された技。


 由来はともかく、内部へと衝撃波を与えて破壊する剣技である。


「ぐはぁ」


 自身の内部に吹き荒れる衝撃により、パラサイトシードが破壊される苦痛を感じ、カリルヤンは蹲り苦しみ始める。


「変身シーンは最大の弱点。植物男になる前に倒しておく」


 情け容赦ないリン。変身シーンはボーナスイベントと考えている少女であった。


「グググ……卑怯な! だが、私の再生能力を見せてやろう」


「リムーブカース、リフレッシュ」


「あふん」


 まだまだ戦いはこれからだよと嗤うカリルヤンだったが、間髪入れずに幼女が治癒魔法を放っちゃった。変身どころか、寄生から癒やされたカリルヤンは気持ち悪い声をあげて倒れてしまった。蔦へとダメージを与えられてパラサイトシードは倒されたのであった。


 中ボス戦。戦闘なしでイベントを終えたアイである。

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― 新着の感想 ―
[一言] 必殺技の由来がしょぼすぎる…やはりおっさんは害悪(確信
[一言] カリルヤン「パラサイドシードによる触手プレイ・・・閃いた!」 ガイ「うわぁーーーー!!」 カリルヤン「違う、お前じゃない!!」 こんなギャグコミカライズを想像してしまった。 アイはないとし…
[一言] 破壊不能って、どのゲームもだけど、ラスボスより防御力があってなんか凄い説明の高レアな武器でも傷一つつけられない石とか草っていう不思議な現象が起きるんだよね。 しょうがないけど、その石を盾に…
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